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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第2章 町へ
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第15話 レアの決意

こんにちは。

良ければ、評価、ブックマークをお願いします。


「レアちゃんの服を揃えるならここだねぇ」


 フリーが案内してくれたのは『パリス』という洋服店だ。


 外壁は真っ白で2ヶ所に大きなガラスがはめられている。この世界にはショーウィンドウのような大きなガラスを作る技術はないようだが、小さなガラスを散りばめた、まるでステンドグラスのようなガラスがお店を色鮮やかで華やかにしていた。


「よし、入るよー」

  

 フリーはズンズンと進んでいき、カランというどこか懐かしい音とともに店に入る。店内は日本の洋服店に負けないほどの品揃で、洋服の形が崩れなくするために木製のハンガーの様な物まである。会計カウンターの隣にはきちんと試着も出来るようにカーテンのような布で隠せるスペースがあった。


「案外充実してんなぁ」


 キョロキョロと店内を見回しながら練り歩く。するとフリーがさっそくレアに似合いそうな服を見つけた。


「これ良いねぇ」


 フリーが出してきたのはゆるふわの白パーカー。レアが着れば男受けしそうだ。


「え、う、うん。着ればいいんだよね?」


 戸惑いながらも言われるがまま渡されたパーカーを持って試着室に入るレア。俺たちはその間も良い服がないか物色する。 

 と、その間にレアの着替えが終わったようだ。


 シャーという音と共にカーテンを開けて現れたレアは、恥ずかしそうに縮こまっている。



「「…………かわいい」」



 男2人の低い声が店内に響いた。かなり気持ち悪かっただろう。


「ああ……なんだい、この守りたい感は」


 フリーが震えながら自分の肩を抱いている。だいぶキモいぞお前。


「でもわかる」


 白のオーバーサイズのパーカーはレアをさらに柔らかく華奢に見せ、女の子らしさがアップしていた。トップクラスの美少女とはこのことか。

 さらにもともと履いていたショートパンツがパーカーで隠れ、まるで…………。


 気付けば隣でフリーがダラダラ鼻血を流していた。


「おい、鼻血」


「これは失敬」


 フリーは下を向いて服の袖で鼻血を拭う。


 次は膝丈くらいのゆるふわ系黄色でノースリーブのワンピースを来てもらった。胴回りにベルトをしてもらい、レアのスタイルの良さがよくわかる。


「ど、どうかな?」


 試着室のカーテンを開けたレアは、女の子らしい服に恥ずかしそうに顔を赤くしている。



「「…………最高」」



 サムズアップが自然と起きた。


 でもノースリーブは少し肌寒そうだ。


「じゃあさ。次はこれなんてどうだ?」


 俺がバッと広げて見せたのは白色のセーター。


「良いけど、普通のセーターじゃないかい?」


「ふん、わかってないなフリー。レア、とりあえずこれ着てくれ」


「う、うん」


 レアは戸惑いながらも試着に入る。


「確かにただのセーターなんだが、それにこれを合わせてみたらわかる」


 俺が出したのは小さめ本革のショルダーバッグ。フリーは首を傾げた。


「ユウ? フリーさん?」


 レアが白色のセーターに薄い水色ロングスカートを履いて出てきた。足元は春っぽいサンダルヒールだ。うん、かなり清楚に見える。


「よし、そこでこのバッグを斜めにかけてくれ」


「これ? わかった」


 俺からバッグを受け取り、肩から斜めにかけるレア。



「ぶばっ…………がっ、かはっ…………!」



 フリーが口から大いに血を吐いた。


「き、君はなんてものを生み出すんだい…………!?」


 お前の身体はどうなってるんだ?


「ふふふ。どうだ。すごいだろう?」


 レアはショルダーバッグを斜めがけすることで、レアの盛り上がる双丘が、強調されていた。


「最高だねぇ。ここが僕の人生のピークかもしれない」


 目を見開いて、目に焼き付けながら言うフリー。


「お前…………それで良いのか?」


 さすがにそれは残念じゃね?


「このバッグ可愛いね! …………て、2人とも何の話してるの?」


 純粋なレアに胸が痛い。


「「いや、別に」」


 そんなこんなでどんどん服を見ていく。レアは恥ずかしがりながらも、俺たちの希望を聞いて全て試着してみてくれた。


「良い買い物だったねぇ」


「人生最高の買い物だなぁ」


 そう言いながら店を出て、俺とフリーは肩を組み空を見上げた。


 結局試着した服はすべて買った。レアは素材が良すぎるため、何でも似合ってしまう。

 何十着も買ったので店員さんもご機嫌で全体で2割も割引してもらった。ちなみに今、レアは買った白色のパーカーにロングスカートを着ている。もちろんお金は俺とフリーが全額負担し、レアには一切払わせていない。


 それから心の友になったフリーは満足気な顔をして途中で別れた。今後、必ずレアの私服姿を見せることを約束した。



◆◆



 俺とレアは一旦荷物を宿屋に置きに帰った。ついでに3日分の宿代を払っておくことは忘れない。


 その後、各自で下着を買いに行き、結局レアも戦闘に使える動きやすい服を追加で買った。アラオザルを出てからかなり経ってしまったが、とにかくこれで衣食住が揃った。


「ふぅ、またここから始めよう……」


 この町の空は高かった。


 宿屋の部屋に戻ると、先ほど買った私服姿のレアが目に入った。


 可愛い……毎日これが見られるなんて眼福だ。


「お疲れ! 遅いよ~」


 レアがベッドに座りながらロングスカートに隠れた脚をバタバタさせている。


「すまんすまん、よしご飯行くか」


「うん!」


 1階に降りると、席は8割くらい埋まっていた。空いているカウンターの席へ2人並んで座る。


 店の喧騒の中、少し大きめの声で言う。


「おっちゃん。アクボアのステーキ2つと蜂蜜酒頼む」


「あいよっ! おっ、嬢ちゃん可愛いねぇ!」


 レアが恥ずかしそうに自分のうなじを手で触っている。


「だろ? さすがわかってんな。おっちゃん!」


 俺らのセンスは間違っていないようだ。


「がははは! あたりめぇよっ! ほれ先に蜂蜜酒だ」


 おっちゃんがすぐにお酒を持ってきてくれた。


「さんきゅ!」


 レアに片方を渡して、向き直る。


「ほんじゃ、今日もいろいろあって大変だったが、まずはお疲れ様!」


 ジョッキを持ってレアのに軽くぶつけた。



「「かんぱーい!」」



 カラァン!


 心地よい音が響く。


「ユウ、可愛い服たくさんありがとうね。全部払ってもらっちゃって」


 レアが自分の着ている服を見ながら申し訳なさそうに言う。


「何言ってんだ。俺たちが出したいって言ったんだからな。いいんだ」


「あはは、ありがとう。大切に着るよ!」


 本当に嬉しそうだ。良かった。


「じゃあ明日こそ武器と防具買おうね!」


「ああ、今日は結局買えなかったしな。でも実際、武器ってどんなのがいいんだ? 俺、その知識が全くないんだ」


 渡されたこの剣以外使ったことがないので、ましてや買い物で武器を選んだことなどない。


「そうだね。例えば私のは結構良いやつでBランクの剣だよ?」


 そう言ってレアは自身の剣を腰から外して前に持ってきた。


「あちゃー、さすがに少しサビがきちゃってるよ」


「まぁ森じゃ、ろくに手入れできなかったからな。といえかなに、武器にもランクがあるのか?」


「そりゃそうだよ! ユウのその剣だってランクがあるはずだよ」


 俺の剣を指差すレア。


「へぇ、そうなのか」


 それは知らなかったな。賢者さん。


【賢者】かしこまりました。


------------------------

鋼の剣

ランク:C+

特殊:なし


〈デリックからもらった剣。大分使い込まれ状態は良くない〉

------------------------


「ほんとだな。C+ランクか」


「なかなか良い剣だね」


「ああ。今までずっと世話になったんだ。でもそろそろ限界だな。よく見れば刃がガタガタだ」


 デリック、ありがとうな。陽気に笑うおっさんの後ろ姿が刀身にうっすらと浮かんで見えた。


『んなこと気にすんな』


 そう言っているように見えた。


 今思えば、あの人から受け継いだものと言えば、この剣くらいしかない。他にあるとすれば、俺の、この命、それだけだ。


 やっとだ。やっと、人間の世界に身を落ち着けることができた。ここからようやく、あんたの夢に向かって動き出せるさ。待ってろよデリック、ミラさん、エル。


 剣を眺める俺が、寂しそうな顔をしていたのか


「それ、大切な剣だったの?」


 レアがチラリと俺の剣を見ながら聞いてきた。


「まぁな。レアに出会う少し前、ある人にもらったんだ。俺を助けてその人は死んじまったけどな」


 もし、それまでのデリックを知ってる人がいれば、どんな人だったのか聞いてみたい。もし、友人や親族が他にいて、言えるならお礼を言いたい。こんな俺を生かしてくれてありがとう、と。


「そんなことが…………」


 レアは目を伏せ、カウンターの木目を見る。肘を付いたままコップの中の氷をカラカラと言わせている。


「私と一緒だね。私もあの時は仲間の3人に、蛇から逃がしてもらったんだ…………」


 そうだよな。俺もレアも、いろんな人に生かされてここにいるんだ。


「ユウ、その人はどんな人だったの?」


「どんな、か…………。あいつは、とにかく陽気で本当の家族みたいだった。俺のことをからかっては馬鹿にして、でも自分の息子のように大切にしてくれた」


「良い人だったんだね」


「ああ。俺は、あの人の夢を代わりに叶えてやりたいんだ。本当の最後、デリックが死ぬ直前、そう約束をした」


「デリック…………? その名前、どこかで…………?」


 ガタン!


「知ってるのか!?」


 思わずレアに詰め寄ってしまった。椅子が倒れ、レアがビクッとなる。


「うううん。思い出せない。気のせいだったのかも」


 レアが目を伏せて首を横に振る。


「そうか…………すまん」


 なにか手掛かりになるかと思ったんだけどな。


「ごめんね?」


 レアが申し訳なさそうに謝った。


「いや、良いんだ」


「その…………それはどんな夢なの?」


 レアが前を向いたまま聞いてくる。


「単純な話だ。平和な世界を作りたい。ただそれだけ。もう誰にもあんな風に死んでほしくないんだ。そして、それはもう俺の夢になりつつある」


 そう、気付けばデリックの夢は俺の夢になっていた。


「そのきっかけとなる地獄を、ある町で見た」


 いかに無謀なことかはわかってる。でもやらないという選択肢は俺にはない。


 レアは、こちらをじっと見て、唐突に言った…………。




「ねえ、その夢。私も手伝ってあげよっか…………?」




 驚きと嬉しさ、そして動揺。


 次第に店内の喧騒が遠くなる…………。


「え、なんで…………?」


 そんなこと、言われるとは思わなかった。


「だってそんなこと、いくらユウだって1人じゃ無理でしょ?」


 当たり前でしょ? と不思議そうに聞いてくるレア。


「いやいや、それはそうだけど…………」


 レアは偶然出会っただけの少女だ。今のパーティだっていつまで組んでいるかわからない。


「い、いやだめだ。そりゃ俺は、レアに来てもらったら嬉しいけど…………そこまでしてもらう義理はない」


 なんだこれ、しどろもどろになってしまう。


「義理なんかじゃないよ」


 レアは優しく答えた。


「これは、デリックが命を捨ててもできなかったことだ。エルやデリックに助けてもらったこの命を、あの人たちのために使うんだ。これは俺なりの恩返しで、仇討ちでもある! これは俺の問題だ!」


「なら私だって、私にだって関係あるよ! 一度ユウに助けられた命だもん! ユウのために使うって決めたの!」


 胸に手を当てて話すレアの目には涙が貯まっていた。


「ダメだ。もっと他のことに使え」


「イヤだ」


 口を尖らせて断るレア。


「イヤだってなぁ……!」


 子供かよ。こんな駄々をこね出すレアは初めてだ。


「私が弱いのはわかってる! だったらユウと一緒に強くなれば問題ないでしょ! 一緒に行かせてよ!」


 レアが真剣な顔で俺の目を見る。




「はぁ…………」




 どうしようか……………………。


 思わず天井を仰いだ。


 元々仲間を作ろうとは考えてなかった。考えようともしていなかった。今思えば、友達や家族を失いたくない、もうエルやデリックのような人を失いたくなかったからかもしれない。


 アラオザルの町を逃げ出してから、夜な夜な魔物に怯えながらも、俺には十分に考える時間かまあった。デリックの心残り。エルの最後の言葉。そしてあの町の最後を見て感じたこと。

 具体的にどうすればいいのか、まだ答えはない。


「ふぅ…………」


 深く深呼吸をした。


 いや、違う。あの時エルやデリック、ミラさんや町の皆を守れなかったのは、俺が弱かったからだ。強くなればいいのか。仲間を守れるくらいに。


「わかった。ありがとうレア」


 その先、言葉に詰まる。


「…………じゃ、じゃあ」


 レアが、じーーーーっと顔を近付けて、俺の次の言葉を待っている。レアは涙目になりながらも、期待を込めた目をしていた。


 いや、そうだな。次こそは大丈夫だ。



「…………これから、よろしく頼む」



 そう言うと、レアはパァッとここ一番の笑顔でニッと親指を立てて言った。



「ん、まかせとけぇええい!!」



 満面の笑みのレアに、俺は苦笑いを返した。


 その晩、俺はこれまでのことを思い返した。湖の側で目覚め、ゴブリンに町を襲われ、エルを失い、そしてデリックも失った。それから森でレアと出会った。

 そもそも俺は誰なんだ? 日本の記憶はあるが、誰かはわからない。一緒に暮らしていた人もいた気がする…………結婚はしていたのか? 兄弟は? 両親は…………?


 やっぱり考えてもわからない。


 疲れた…………。


 この日はそのまま眠りに落ちた。



◆◆



 目が覚めるとレアはまだ眠っていた。くー、くーと寝息が聞こえてくる。鳥のヒナのような寝顔、子供みたいだ…………。

 さぁ今日は朝ごはんを食べたら、ルウさんに紹介してもらった武器屋と防具屋にいこう。


 レアの横顔を眺めていると、ぼんやりと目を開けた。


「んっ、~~!!」


 思いっきり伸びをしたレアは目をこすりながら、


「おはよ~」


「ああ、おはよ」


「お、今日は天気がいいねー。よし、朝ごはん食べたらユウの武器を見に行くよ?」


 もう動けるのかよ。どんだけ寝起きいいんだ…………。


「ああ、というか昨日お金を使いすぎてもう3万コルしかないんだが…………」


「ユウ、バカでしょ。いいよ、昨日は出してもらってるもん。私が出すよ」


 レアがにこっと笑う。


「あれはそういうつもりで払った訳じゃないんだけどなぁ。まぁ足りなかったら貸してくれ」


「しょうがないなぁ」


 頼られたからか、レアは嬉しそうに言った。


 朝ごはんの後、早速武器屋へ向かう。手には昨日のブルーボアの牙がある。


「ユウはどんなのを買うの?」


「そうだなぁ。とりあえずは今と同じくらいの刀身で、普通に使えるなら特にこだわりはない」


「そうだね。いきなり長さや重さが変わると慣れるまで時間かかるしね」


 宿からウネウネと細い路地を20分ほど歩いてお店に到着した。


「ほんとにここなのか?」


 看板すら出ていない、細く薄暗い路地裏にあるこじんまりとしたレンガ造りの建物だ。見上げれば確かに煙突があり、モクモクと煙が出ている。人はいるようだ。


「あのルウさんが間違えるわけないよ」


「だよなぁ」


 扉をノックしてみた。



 コンコン…………。



「…………」


 だが返事がない。


「今日店の方は休みか?」


「どうだろう? ちょっと覗いてみようよ」


「そだな」


「「ごめんくださーい」」


 ギギィと木製の扉が軋み開いた。


 中は薄暗く埃っぽい。明かりは魔石灯1つで、室内だが火を扱うからか、かなり熱い。壁には高そうな剣や槍などの高そうな武器がかけられ、そうでないのは樽にまとめて入れられている。

 どうやら武器屋というのは間違いなさそうだ。奥の扉からはチラチラと赤い光が漏れ、ゴウゴウと炉に風を送る音が聞こえる。隣の部屋は工房になっているのだろう。


「営業はしてるみたいだね」


「そうだな」


 カウンターに置いてあったベルをチリンチリーンと鳴らした。しばらくすれば誰かしら来るだろう。


 賢者さん、ちなみに売り物の武器はどんな感じだ?


【賢者】はい、およそC~Aランクのものが揃っています。


 へぇ、腕は間違いなさそうだな。


 その時、奥にある鉄の扉が開いた。


「ん、誰じゃ? お前ら」


 出てきたのは、白髪でねこ背のヨボヨボのじいさんだった。眉毛が伸びすぎて、目がわからない。だが、よく見ると筋肉もしっかりついている。いかにも職人って感じだ。


「ユウとレアだ。ギルドの紹介で来たんだけど」


 カウンターの反対側でじいさんは椅子に腰かけた。


「…………ユウ?」


 記憶を探るように、斜め上を見ながらじいさんが固まった。



 …………死んだか?



 と思えば動き出した。


「……あぁ、ギルドが近々行くだろうと言っていた冒険者か。ワシはフィリップ、まぁフィルとでも呼んどくれ」


 生きてた。良かった。てかルウさん、話を通しといてくれたのか。ありがたい。


「おう。この牙を使って剣を打ってほしいんだ。ブルーボアだ」


 俺はブルーボアの牙を取り出して、テーブルに置いた。


「おお、珍しいの。ブルーボアか。…………して、おまえさんランクは?」


 フィルがフサフサの白い眉を持ち上げて、じっと見つめてくる。


「Fだ」


「ほぉ、Fランクがブルーボアを討ったと?」


 眉の奥の瞳がいぶかしげに俺を見る。


「ああ、レアとだけどな」

  

 親指でレアを指差した。


「なるほどのぉ…………」


 じいさんが俺をジロジロと観察し出した。そして、ビクッと震えた。



「………………………………何じゃおまえさん、変な魔力をしてるのぉ」



 カウンターに肘を置いて身を乗り出したじいさんの目が俺をとらえていた。


「へ、変な魔力?」


 そう問うと、じいさんは椅子に座り直した。


「ワシの目は、ちと特殊でな。魔力を見ればその人がわかる。例えば、そこのお嬢ちゃんは風魔法が得意じゃろう?」


 占いみたいなものかと思ったが、当たっている。


「そうだよ。すごい! よくわかるね!」


 占いが好きなのか、レアは楽しそうに身を乗り出した。


「本当みたいだな。で、俺の魔力が変なのか?」


「そうじゃ。お主は特殊な存在じゃないかの。さっき、お主を見たとたん、ワシの頭に点在する『複数の世界』が浮かんだんじゃ」


「…………は? ちょ、ちょっと待て! 詳しくわかるか?」


 ふ、複数の世界ってもしかして…………地球か?


「さぁの。お主はギルドマスターでありながら今や生ける伝説『アレック・ギネス』の若い時よりも、遥かに強力で異質な力を持つ。しかし見えたものに関してはワシは何もわからん」


「…………」


 普通に考えて異世界から来た俺という存在が異質でないわけがない。それだけじゃないのか?


「まぁ、未来は自分次第じゃ。どう進むかはお主が決めるんじゃよ」


 そうじいさんは締めくくった。


「…………わかった」


 結局、本当なのか、占いなのか、わからない。


 俺が考えていると、じいさんが聞いてきた。


「それで、用件はなんじゃ?」


「あ、ああ。そうだった。剣を打ってほしいんだ」


「なるほどな。ワシは普段、気に入った者にしか剣を打たんがお主は見所がある。そこの嬢ちゃんもじゃ」


「え? わたしも?」


 レアがキョトンと自分を指差す。


「そうじゃ」


 目を伏せてウンウンと頷くフィル。


「そうなのか? よくわからんが、それじゃ剣を1本頼む」


「任せておけ」


 フィルが腕をまくって、力こぶを見せた。確かに老人とは思えないほどの筋の入った筋肉だ。それに職人としての腕が良いのは並んでる商品を見てもわかる。


「ああ、ありがとう」


 俺がゴソゴソと硬貨を取り出そうとすると、


「代金はいらん」


「え、良いのか?」


「そうじゃ。…………じゃ、じゃが、できれば余った素材を回してもらえるとたすかるのぉ」


 チラチラと俺に目線を送りながら言うフィル。


「ああ、それぐらいでいいなら問題ないぞ」


「おお、そうか。こっちも助かるわい。ワシはこれでも腕は世界トップクラスなんじゃが、なんせもう歳じゃ。死ぬまでに名剣を打ちたいんじゃが、素材がの…………」


 フィルは申し訳なさそうに答えた。


「なるほど…………」


 職人にしかわからない世界だ。


「で、そのブルーボアの牙でどんなのができる?」


 そう聞くと、どこからか取り出したメジャーのようなメモリの付いたヒモでブルーボアの牙を図るフィル。


「そうじゃのう…………少々しょぼいが、短剣1本かナイフ2本と言ったところじゃ」


「うーん。悩むところだな。俺の剣はいつ折れるかわからないから、予備の短剣にしようか」


「ん? 折れそうな剣じゃと?」


「ああ、これなんだが」


 鞘から剣を抜き、カウンターの上にのせてフィルに見せる。よく見ればその刀身はボロボロで刃はギザギザに欠けていた。


「うーん、これは確かに限界じゃのう。研いでどうにかなる段階を越えておる」


 フィルがさまざまな角度に変え、ルーペのようなもので俺の剣を見て言った。


「なんとかならないか? 大切な剣なんだよ」


 フィルはじっくりと時間をかけて剣をにらんでいる。だが、


「ん~、厳しいのお。むしろよくここまでもった方じゃ。剣としてはもう死んでおる。これで斬れるのは、お主の腕があるからじゃよ」


「そうか…………」


 理解はできるが手放したくはない。これはデリックの形見だ。


 俺の表情が暗かったのか、フィルはまた片眉を持ち上げて提案をしてきた。


「…………捨てたくないなら溶かしてインゴットにするのはどうじゃ? いつかそれで別の物を作るんじゃ」


 なるほど。それでデリックの形見を持っていられるのなら…………。


「じゃあそうする」


「了解じゃ。じゃが、お主の武器がなくなるのぉ」


 そう言ってフィルは数秒考え、言った。


「お近づきの印じゃ、ワシの店にあるもの好きなのを1本持ってけ」


「ほんとか!? 太っ腹だなじいさん」


「じいさんじゃない、フィルと呼べ」


 少し真面目な顔でフィルは怒った。


「わ、わかったフィル……」


 立ち上がり鑑定を使いながら店の中を見る。

 すると、細身片刃の剣が目についた。光を反射して刀身が鈍色に光っている。


「フィル、これは?」


「ほお、珍しいもんに目をつけたの。そいつは相手を圧し斬るというより引いて斬ったり、突いたりすることに長けた『刀』という武器じゃ。細いながらも丈夫じゃが、それ相応の腕がないと扱うことが出来ん。好んで使う奴はカイルと、フリーと言ったか、アイツらくらいじゃ」


 この世界にも刀が存在していたとは。今思えば確かにフリーは腰に刀を差してたな。


--------------------

鋼の剣

ランク:A

特殊:なし


〈フィルが打った刀。業物〉

--------------------


「その刀は純度の高い玉鋼で作ったシンプルなものじゃ。材料さえあればもっと上等なものができるぞ」


 鞘から抜いて眺めると、キレイな乱れ刃模様だ。刀身は鏡のように光を反射している。


「気に入った。これがほしい」


「物好きじゃのお。ええぞ。持っていけ。お主なら扱えるじゃろう」


「ありがとう」


「2~3日あれば短剣もできる。そこの嬢ちゃんの武器も素材があれば作ってやるぞ」


「うん、またお願いするね!」


 ブンブンと手を振るレア。


「世話になった。また来る」


 そうしてフィルの武器屋を出た。


 刀は鞘とセットでもらい、腰に差している。なんだろう、やっぱり刀はいい。テンションが上がる。普通に買ったらいくらかかるんだろう。


「ユウ良いなぁ。すごいのもらっちゃって」


 レアも嬉しそうに言う。


「いいだろ?」


 俺も口角が上がる。


「そしたら後は防具だな! 防具は動きやすさ重視で行きたい」


 防具屋目指して歩き出き始めた。


「重たい防具は動きを阻害するからね。どっちかというと防具屋で皆が買うのは…………うーんと、アクセサリーが多いかな?」


 レアは頬に人差し指を当て、考えながら話す。


「アクセサリーを? 冒険者が?」


「うん、盾や鎧はタンク役の人くらいだよ。速度重視の方が効率的だかね」


「なるほど」


「アクセサリーはかさばらないのに、ステータスを上げたり、毒から守ってくれたり色んな効果があってね。アクセサリーじゃないけど、私のブーツも敏捷3パーセントアップが着いてるの!」


 そう言ってレアは片足を上げてブーツを見せてくれた。


「へぇ、いいなぁ。俺もそういうのがほしい」


 と、話しているうちに目的地に到着した。

 この町では珍しい大型の商業施設のようだ。場所も大きな通りに面しており、商品数も多そうだ。

 店内に入ってみると、売場は1階と2階で、3階以上は作業場のようだ。職人は売場に出てこないらしい。壁にはバックラーからタワーシールドのような大きなもの、鎧や甲冑も飾られていた。


 おう、この鎧なかなかの値段だ。


「へぇ思ったより種類があるんだな。うーん」


 どれもやはり防御力重視なのか、鎧に厚みもある分、重量もかなりありそうだ。肩からトゲの生えた黒い鎧とか、かっこ良さそうなんだが高すぎる。小さな家なら建ちそうだ。


 と思っていると、こないだギルドで見かけた小学生高学年くらいの男の子が同じようにヨダレを垂れ流しながら立ち止まって見ていた。


「ガブローシュそれは無理だって! 値札! 値札見て! 高すぎるから!」


 同じパーティの女の子がそう言うと、値札に気付いた男の子は膝から崩れ落ちた。


 哀れ。


「鎧にも惹かれるけど、やっぱり刀に合わせるなら、鎧はいらないなぁ」


 ロマンだけでは買えないのだ。


「なら、靴とかアクセサリーを買っとこうよ。ユウの靴、なんか変だし」


 そう言って俺の靴を指差すレア。


「へ、変?」


 そう言えば靴はこちらに来たときのスニーカーのままだった。


「ああ、変かもなぁ」


 アクセサリーは斜めの台に見やすいように飾られていた。値段と効果が細かに記されている。


「ここのお店はきちんと本物の商品を置いてるので信用があるんだよ。ズルいお店じゃ、効果を盛ってたり、嘘の効果を書いてたりすることがあるからね」


「へぇ。そりゃ悪どいな」


 レアの説明を聞きながら店内に並べられたアクセサリーを物色するも、あまりピンと来るものがない。


「もう欲しいのがあった時でいいんじゃないか?」


 チラリとそう言いながらレアを見ると、じっとにらまれた。


「それはダメだよ! 冒険者はいつどんな危険があるかもわからないから、その時できる一番いいのを装備しておくべきだよ!」


「お、おう。なるほどな、了解」


 レアに促され、敏捷値がわずかに上昇するブーツと同じく敏捷値上昇のブレスレッドを買った。指輪は刀を握るとき気になりそうだから止めた。


 残金は5000コルを切った。また稼がないと…………。


 そこからレアと昼食をとった。


「よし。装備も揃ったことだし、この新しい刀や装備の確認していいか?」


「そだね。じゃ、町の外へ行こう! 私も魔法の練習をするぞー!」


 レアが元気良く俺の手を引っ張って言った。


読んでいただき、ありがとうございました。


※過去話修正済み(2023年9月16日)

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