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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第5章 戦争
146/159

第146話 復活

ええー、非常にお待たせしました。申し訳ありません。

ブックマークや評価をいただいた方、有難うございます。とても励みになり、助かっております。

第146話です。宜しくお願いします。




ーーーー遡ること20秒、俺は焦っていた。




 ギネスが奥の手を使用してもギルガメッシュが生きているという事実。

 そして、その結果ジャベールが死んだかもしれないという事実。



 俺は王都を取り囲む防壁の上で、結界で余波から都を護りながら戦いを見守っていた。 

 焦りからか、胸壁に置いた右手の人差し指がトントンと忙しく石を叩く。


 眼下でギネスが大量の分身を作り出した。数え切れないほどの人数だ。数千人にも及ぶ。でも…………。


 賢者さん…………賢者さん! まだか!


【賢者】あと15秒です!


「15…………っ!」


 分身を出したということは、ギネスは追い詰められている。あれはギルガメッシュを殺すための手段なんかじゃなく、ただの時間稼ぎでしかない。


 あれほど濃縮した時間の中にいるギルガメッシュとギネスに、15秒は長すぎる……! 1秒ですら、今のギルガメッシュはギネスを殺すことができる力がある。


 俺の視界では、ギルガメッシュによってギネスの分身が次々と消されていっている。


 ギネス、耐えてくれ…………!


 あの場にいれないことがもどかしい。イライラがつのり、歯を噛みしめた。

 


 早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く…………!!!!



【ベル】こらえなさい。例えあの男が死んだとしてもね。タイミングを誤れば死ぬのはあなた。そうなればこの国は本当に終わりなのよ。


 わかってる…………!


【賢者】もうすぐです! 


 いつでも飛び出せるように、尖塔の屋根の上へと飛び乗った。そしてギルガメッシュの方向へ身体を向け、足をたわめる。


 大丈夫、まだギネスは生きている。


【賢者】3…………。


    2…………!


    1…………! 外れます!




 パキンッ!




 よしっ!


 俺の指にはめられていた指輪に亀裂が走り、と地面へとゆっくり落ちていく。それは、俺が目で追いかけるにつれ、途中からスローモーションに見え始めた。


 回転しながら、長方形の石が組まれた防壁の地面へと向かう、割れた指輪。陽光が反射したのか、回転に伴い時折目をくらませる金色の光が俺の目を差す。

 

 ゆっくりと、落ちていく。


 落ちる指輪が日陰に入っては、落ちていく。


 そして、尖塔の屋根、灰色の石に当たった。




 キンッ!




 金属製の指輪と床の石が接触した音が、空気中を伝播し俺の鼓膜を揺らす。電気信号が聴覚神経をかけ登り、脳へと伝わったと同時だった。







 ドンッッッッッッッッッッッッッッッッッッ…………!!!!!!!!







 沸き上がる全能感。



 ーーーー行け。



 そう、背中を強く叩かれたような気がした。


 身体の芯の奥底から、何かが吹き出すように存在値が、地中を駆けるマグマのように全身を走っては溢れ出す。それはまるで、ダムが決壊したかのような勢いだ。



 やっと…………やっと、俺は


 



 ーーーー本来の力を取り戻した。





「…………っし!!!!」



 溜めていたふくらはぎの力を解放し、すぐさまギルガメッシュへ向かって地面を蹴る。


 

 バガアアアアァン!!



 尖塔どころか、防壁の一角が地面までガガガガと崩壊した。おかげで速度が落ちたがそれでも以前とは比べ物にならない加速。一瞬の加速に、脳の処理が追い付かず視界が真っ白に なるが、気がつけば見えるようになっていた。


 ダァン…………!


 瞬間移動かと見紛うほどの速度だ。ギルガメッシュの真横に突き刺さる矢のように着地すると、同時にギネスに突き付けられた大剣を…………掴んだ!



 そう、間に合った……止めることが、できた…………!

 


 遅れて俺に気がついたギルガメッシュ。女性のウエストよりも太い首の筋肉が動き、こちらを振り向こうと回転する。

 左手を小指から順に閉じていき、握った拳をフックのように振りかぶる。


「せっ…………!」


 ギルガメッシュの眼球が俺をとらえる前に、腰を捻った拳をギルガメッシュの顔面へめり込ませた。




 ドゴォッッッッッッッッッッ!!!!




 ギルガメッシュの重騎士のようなイメージからは想像していなかったほど、拳に伝わる感触は軽いものだった。


「がっ…………!」


 地面を削り、3回はバウンドしながら飛んでいくギルガメッシュ。


 それを尻目にギネスの方を振り向きながら言った。




「悪い、待たせたな」




 そう言って目をやるとギネスはもうボロボロだった。一見怪我はほとんどないが、生きも絶え絶えなところをみると、何か目には見えないものを激しく消費したように見える。


「……遅いぞ、ユウ」


 力が抜けたギネスは尻餅をつき、俺を見上げてはニへッと笑った。


「すまん。よく持ちこたえてくれた……」


 俺はそう言いながら、ギネスに向かって右手を差し出した。手を握って立たせてやりながら、ついでに神聖魔法で治療をほどこしてやる。


「全く…………何度死ぬかと思ったか」


 ゲンナリした表情で眉を下げるギネス。


「悪かったな。後は任せてくれ」


 俺が戦闘に参加しなかった、いやできなかった理由。

 それは今からちょうど1年前、学園に侵入するためにレオンにステータスを10分の1にする指輪をつけられたことにある。だが指輪が外れた今、俺は以前を遥かに上回る力を得た。

 俺が力を取り戻しギルガメッシュを倒す。それが、王都防衛戦における最後の手段だった。


 その時、俺が殴り飛ばした方向から呑気な声が聴こえた。


「かぁ~効いた…………お前、ただの守備要因じゃなかったのか」


 ギルガメッシュは、両手足を広げて仰向けに倒れたまま、空を見ながらそのまま俺に聞いてきた。


「んなわけあるか。最初に約束したろ、お前を殺すってな」


「かっかっかっか! そうかそうか。今日は親を殺した日の次にツイてる日かもしれんな! これほど優秀な人材に、何人も出会えるとは!」


 笑うギルガメッシュはムクリと上半身を起こし、プッと口から血混じりの唾を吐いた。


「タフな野郎だ」


 身体強化は全くしていなかったが、足で地面を蹴る力に身体のひねりを加えた、満足のゆく打撃だった。少なくとも以前の俺に比べれば数倍の威力があったはず…………なるほど、ジャベールとギネスの2人がかりでも倒せないわけだ。


【賢者】今のうちにユウ様のステータスを表示します。


 ああ。


============================

名前ユウ16歳

種族:人間Lv.4

Lv :87

HP :115000

MP :295000

力 :111100

防御:114500

敏捷:125700

魔力:313000

運 :520


【スキル】

・魔剣術Lv.4→5

・体術Lv.10

・高位探知Lv.8→9

・高位魔力感知Lv.8→9

・魔力支配Lv.8→9

・隠密Lv.10

・解体Lv.5→6

・縮地Lv.8→10

・立体機動Lv.8→10

・千里眼Lv.10

・思考加速Lv.10

・予知眼Lv.10


【魔法】

・炎熱魔法Lv.2

・水魔法Lv.10

・翠嵐魔法Lv.1

・硬晶魔法Lv.3

・破雷魔法Lv.1

・銀氷魔法Lv.1

・超重斥魔法Lv.6

・光魔法Lv.6→7

・神聖魔法Lv.7→8


【耐性】

・混乱耐性Lv.8

・斬撃耐性Lv.9→10

・打撃耐性Lv.10→11

・苦痛耐性Lv.11

・恐怖耐性Lv.10

・死毒耐性Lv.9

・火属性耐性Lv.7

・氷属性耐性Lv.4→7

・雷属性耐性Lv.7→9

・重力属性耐性Lv.9

・精神魔法耐性Lv.10

・風属性耐性Lv.4

・水属性耐性Lv.3 →5

・土属性耐性Lv.4→6

・混沌属性耐性Lv.10


【補助スキル】

・再生Lv.10

・魔力吸収Lv.4→5


【ユニークスキル】

・結界魔法Lv.7→8

・賢者Lv.5→6

・空間把握Lv.7

・空間魔法Lv.3

・悪魔生成Lv.10

・黒龍重骨Lv.4→5

・魔石管理者Lv.2

・魔力増殖炉Lv.1→ 魔力融合炉Lv.1 NEW!!

・⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛


【加護】

・お詫びの品

・ジズの加護


【称号】

・神獣殺し NEW!!

・龍殺し

・悪魔侯爵の主

・SS級ダンジョン踏破者

============================

  


 この1ヶ月間、俺は王都の防御を固めつつ、ギネスとジャベール、そして配下たちを相手にずっと訓練を積んでいた。だからというのもあるが、それでもあの指輪がなければこれほどのレベルアップはなかった。始めこそ指輪をつけたレオンを恨んだが、今は分やって良かったと思える。

 さらに『神獣殺し』なる称号でステータスが大幅にプラスされた。


 しかし魔力ヤバ……………………。


 そして新たなユニークスキル『魔力融合炉』だが、これは『魔力増殖炉』でできた魔力を賢者さんが超重力で圧縮していたところ偶然発現したスキルだ。『魔力増殖炉』は高コストだったのに対し、完全上位互換で低コスト高魔力、そして賢者さんの処理能力も前の10分の1ですむ。おかげで惑星規模の魔法でも使わない限り、俺の魔力量はほぼ無尽蔵となった。


 そうしているうちに、ギネスに肩を叩かれた。


「ユウ、俺はジャベールを助けに行く」


 そう言いながらジャベールの元へフラフラとおぼつかない足元で歩きだしているギネス。俺はその言葉に驚いた。


「お、おい。ジャベールはまだ生きてるのか…………!?」


「あれくらいでくたばる野郎だと思うか?」


 そう言うギネスの金色の瞳に諦めはなかった。ジャベールを信じているようだ。


「わかった」


 あんたが言うなら俺もジャベールを信じよう。


 願いながら、ギネスに濃縮ハイポーションを投げ渡した。パシッと走りながらキャッチし、ギネスの姿は見えなくなった。


「かっかっか。あの消し炭がまだ生きてるわけがないだろう」


 そう言いながらギルガメッシュは太ももについた砂をパンパンと叩いて払いながら歩いて近付いてきた。


「…………言ってろ」


 そう言って拳を構える。


 集中だ。集中しろ。…………俺の長所は魔力量と魔力出力。人の枠を外れた魔力を使用してこそ真価が試されるだろう。



 ーーーー身体強化3%

 


 ギルガメッシュが2メートルほどの距離にまで歩いてくると、そこから拳を振りかぶった。

 同時に俺も動き始めると、意図せず俺とギルガメッシュの弓を引き絞るように振りかぶった拳を構えたフォームは同じだった。




 ゴォオオンッッッッ!!!!!!!!!!!!



 

 俺の拳と、ギルガメッシュの拳が正面から真っ直ぐに衝突した。衝撃が空と地面に向かって弾ける。



 ガッ…………ガァアアアアアアアアアンッッッッッッ!!!!



 一瞬遅れて爆音が戦場を揺らすとともに、空と大地が上下でバカンと割れた。


 拳と拳を正面からぶつけ合ったまま、固まった俺と奴。一瞬の静寂の後、



 ぶしゅううううう!!!!



 ギルガメッシュの前腕が、ビシシッと長く裂けた。


「なっ、俺の方が…………!?」


 2歩よたよたと腕を押さえながら後退するギルガメッシュ。俺はそれを追うように重心を前に傾け、足を踏み出す。俺の攻撃はまだ終わっていない。



 ーーーー身体強化5%



 途端に急加速する俺の身体。透き通る拳。


 自分でも、全身の感覚がなくなったかと思うほど軽くなった。そして、ギルガメッシュを殴り付けた。




 ドムッ…………………………………………ッッッッッッッッオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!




 えげつない威力が大地を揺らす。衝撃波が大気を叩き、透明な半球が放射状に空に光っては広がる。


 俺も速すぎてどこに当てたのかわからなかった。

 ただ、目の前にギルガメッシュの姿はない。気付けば遠くに避難していた帝国兵士たちをなぎ倒して、地面をバウンドしてはシュルシュルと高速で縦回転しながら吹き飛んでいた。



「「「「…………へ?」」」」



 兵士たちは、自分たちの間を吹き飛んで通り抜けたのが大将だったと遅れて気が付いたようだ。ギルガメッシュの姿は兵士に紛れ、見えなくなった。


 どこいった? あれじゃ死なんだろ。


【賢者】上です。


 大剣を振りかぶり落ちてくるギルガメッシュ。ビキビキと青筋が額に走り、怒りが顔面に張り付いている。その大剣はまるでギロチンの刃ように陽光を反射しながら俺の首筋に振り下ろされようとしていた。


 賢者さん、黒刀よろしく。


【賢者】はい。


 空間魔法から柄が現れたのを引っ張ってスルリと抜き取る。


 そして、振り下ろされるギルガメッシュの大剣の軌道上に垂直に置いて、ノールックでガードをした。



 バキィッッ…………ンンンン!!!!



 黒刀と衝突し、俺の方に特に手応えはなかったが、全体に細かくヒビが入って砕ける大剣。キラキラと大小様々な欠片となって、降り注いだ。


「っ…………!」


 俺に殴られ深い青アザを付けたギルガメッシュの表情に驚きが見える。


 不壊の剣でもない限り、俺の黒刀とまともに打ち合うなんて真似、できるわけがない。


「なめすぎだ」


 もう1発、落ちてくるギルガメッシュの土手っ腹に、めり込むように左拳をぶち込んだ。



 ズンッ…………ッッッッンンンン!!!!!!!!



 衝撃がギルガメッシュの腹を貫く…………!


「ごばっ、ああああああああああああ!!」


 目を見開きながら、勢い良く吐血するギルガメッシュ。そのまま地面にうずくまるように沈んだ。


「きっ…………さま……」


 顔をしかめながら右手で地面を掴み、立ち上がろうとするギルガメッシュ。だが動けないようだ。


 若干の弾けたような感触に、あの血の量。そして血の気が失せ始めた顔色。内臓のどこかが傷付いたはずだ。今も体内で出血がブシュブシュと続いているだろう。



「立てよクソゲロ大将」



「かっ、かっか…………やるな。俺にここまで…………」


 もはや死んでいてもおかしくないほどの怪我。だが奴には異常な回復力を持った黒魔力があるはずだ。


「おい、ジャベールに続いてギネス、そして俺だ。さすがに身体もボロボロ。治さなくていいのか?」


 いくらタフだと言えど、ダメージの蓄積は普通ならば限界を超えているはずだ。


「ふん…………」


 ギルガメッシュはまだ鼻で笑った。


【賢者】おそらくですが、身体のダメージすら凌駕するほどのステータスの上昇だと考えられます。


 厄介なスキルだな…………。


 その通りなのか、ギルガメッシュは苦もなく立ち上がった。


「さて、ユウと言ったな。貴様のその急激な強化…………つまり、なんらかのスキルによるもの……だ」


 ギルガメッシュは口の端からアゴにかけて血を垂らしながらそう言った。


 きたか………………賢者さん、頼んだぞ。


【賢者】はい、準備はできています。


「貴様の力は認めるが、頭が足りんようだ。ギネスから俺のことを聞かなかったのか? どうやっても俺には勝てん!」


 ギルガメッシュがそう言って、俺に右手のひらを広げて向けた。



 突然、何か、俺の中に障壁ができたような違和感が現れた。


 そして、



【賢者】ユ……、さま…………。



【賢者】…………た。



【賢者】……、……………………、



 すまん、賢者さん。





ーーーー賢者さんから応答がなくなった。





「かっ、かっかっか!」


 ギルガメッシュは口から血をダラダラと流しながらも勝ちを確信した顔で笑う。


「なにを、した!」


 ギルガメッシュを睨み付けて精一杯腹から叫んだ。


 すると、ベルからイヤな指摘が入る。


【ベル】まったく下手な演技ね。


 うるせぇ。


【ベル】でもま、想定通りかしら。


 まぁな。


「これは、俺のユニークスキルの1つ。敵対した相手の使用頻度の高いユニークスキルを封じられるものだ。さぁ…………弱体化した貴様にまだ俺を殺せる力は残されているか?」


 ギルガメッシュは口元の血を拭いながら言った。


 知ってるつーの。


 とそこで、

 

 シャリン…………。


 いつもの耳をくすぐる鈴の音のような賢者さんの声が帰ってきた。



【賢者】ユウ様、お待たせしました。



 早かったな。さすがだ。


【賢者】表層化させていたダミーのユニークスキルを封印したようです。


【ベル】狙い通りね。でも知ってなきゃ詰んでたかも。


 ああ、ギネスから聞いておいて良かった。


【ベル】だとしても普通はこんなふうに防げないわよ。


 それもそうか。賢者さんのおかげだ。


 そうとは知らないギルガメッシュは、勝ち誇った笑顔で俺の周りを悠々と歩きながら自信満々で話し始めた。


「ユウ、お前は危険だ。ギネスやさっきの憲兵よりもな。この先我々の障害になることは間違いない…………それで、1つ質問だ」

 

 俺の目の前で立ち止まると、向き直り両手を広げるギルガメッシュ。そして言った。



「俺の部下になる気はないか?」



 その目には、傲慢にも慈悲の心すら見える。


「無理だ。よくまだそんなことが言えるな。その足りん脳ミソに指突っ込んでお前がしてきたことを思い出せ」


 それだけは、絶っっっっ対に、あり得ない。数えきれないほどの人がギルガメッシュのために苦しんだ。それはコルトでもワーグナーでも王都でもだ。


「やれやれ…………そうなれば貴様を殺さねばなるまい」


「できるならな」


 あごを上げてギルガメッシュを見下ろした。

 ギルガメッシュは感心したように腕組みをし、上を向いては大口を空けて笑う。


「かっかっか、良い度胸だ」


 とその時


【賢者】ところでユウ様、急成長した魔力の調整したいので、魔法を使っていただけませんか。


 賢者さん……………………。


 余裕ですね? わかったよ。


 魔法か、だったらわかりやすいようにシンプルな魔法にしよう。


 ギルガメッシュを差すように、右手を拳銃の形にして、銃口とした人差し指をまっすぐに向ける。


「ん?」


 俺の動きに片眉を持ち上げ怪訝な表情のギルガメッシュ。避けようとする素振りはない。そもそも俺が魔術士だと思っていないようだ。

 身体強化に使っているのと同じくらいの僅かな魔力を先端に集めて…………口に空気を溜め、破裂音を発声した。 


「ばん!」


 予想以上の反動が腕に伝わる。



 


 バァンッ…………………………………………………………………………ンンンン!!!!





 反動が強すぎて銃口が上にずれてしまった。ギルガメッシュの頭部より1メートルは上を炎の塊が飛んでいくのが微かに見えた。


 外したか。やはり魔力が上がり過ぎて調整がいるな。


【賢者】ありがとうございます。反動の計算結果を修正します。


 どうだ? なんとかなりそうか?


【賢者】はい、問題ありません。


「かっかっか! 魔法か! どんな魔法だろうと、当たらなければ意味がない。それとも、制御ができなくなったか……?」


 ニヤニヤというギルガメッシュ。


 なるほど、ついでにまだ俺のユニークスキルを封じていると思っていることがわかった。


【賢者】魔法を使われますか?


 いや、まだいらない。


「さぁならばそろそろ始めようか」


 ギルガメッシュは自信満々で両腕を肩を回すようにすると、猫背になって両手は軽く握り脱力したように構えた。


 それに合わせ、俺も黒刀を空間魔法に閉まって首を回し、ピョンピョンと軽く跳ねながら手首を回して準備運動をする。


「死ぬなよ?」


 そう言って俺の5メートル手前で大地を蹴ってジャンプしたギルガメッシュ。


 それはこっちのセリフだって。


「さて、アリスたちの礼がまだだったな」


 そう呟いている間に、目の前に迫ってきていたギルガメッシュ。空中で突き出した奴の拳は俺の眉間に叩き込まれようとしていた。


 俺はヒョイッと左に首を傾げて、避ける。


 拳が俺の右耳の下を通過していくーーーー。


 ーーーー驚愕の表情に目を大きくするギルガメッシュの身体が、俺の右横を流れていく。


 すれ違いに合わせ、右手でギルガメッシュの顔面をガシッと掴んだ。親指と中指・薬指で奴のこめかみをしっかりと挟む。



「…………む?」



 メキメキと頭蓋骨が割れそうなほどの力を込めてから、思い切り地面に後頭部から叩きつけた……!





 ドッッッッッッ…………ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンン!!!!!!!!





 地面が砕けて衝撃が逃げないよう、しっかりと大地を結界魔法で強化している。結果、ダメージはまともにギルガメッシュへと入った。


「がっ…………がふっ…………!?」


 ギルガメッシュは、焦点の定まらない目で、口から血を吐き出した。かなりのダメージのようだ。

 俺はさらに意識が朦朧としているギルガメッシュの上に馬乗りになると、両手を握って合わせた拳を頭の上に掲げた。


「さぁ…………こ、れ、はアリスたちの分だ!」


 そう叫びつつ振り下ろす。



 ドゴォォオオオオオオン!!!!



 上からハンマーのごとく振り下ろした拳は、ギルガメッシュのみぞおちを激しくへこまし、身体はくの字に折れ曲がる。


「がっふぉ!」


 吐血と鼻血がギルガメッシュの顔からポンプのように吹き出した。だがこのまま手を止めるわけがない。


「やめっ…………!」


 恐怖を顔に張り付けたギルガメッシュ。ようやく自分が相手にしている者が、自分よりも上の存在だと気付いたようだ。


 俺は再び拳を振り上げた。


「次はブラウン!」


「ぐふっ…………!」


「騎士団長!」


「げぼぉ!」


「マシュー!」


「ルーナ!」


「ブルート!」


「ジーク!」


「フィル!」


「ーー!」


「ーーーー!」


 思い付く限りの名前を叫びながら、何度殴り付けたからわからないほどにボコボコにする。肋骨、胸骨、鎖骨に加え、肺も潰れたはずだ。

 殴ってもギルガメッシュの身体がビクビクと痙攣するだけで動かなくなっていた。


 いい加減くたばったか……。


 マウントポジションを止めて立ち上がって見下ろすと、息をするために血を吐き出すギルガメッシュ。


「でぼっ…………!」


 口から血の泡がゴボゴボと出てきている。


【ベル】まだみたいね。


 そして、ゴロンと横に転がると地面へドボァと血を吐き出した。そして、ドッと肘をついてはフラフラと立ち上がる。


「げふぉっ…………はぁ、はぁ……俺は、強化される」


 嘘だろ? これだけやってまだ立つのか? 素でローグみたいだ。


「なら…………!」


 爪先を前蹴りのようにして腹めがけて蹴りだす。



「……国民の分だ!!!!」



 ドボオッッ、パァン!!



 俺の三日月蹴りがギルガメッシュのレバーに入った。ギルガメッシュの内臓をサッカーボールのように蹴るイメージだ。


「かっ…………はぁ…………!!」


 ギルガメッシュは吹き飛ぶでもなく、その場にドシャリと崩れ落ちた。痛みで声も出ず、腹を抱えたまま動けていない。おそらく今ので肝臓が粉々に破裂し、肺も数ヶ所潰れ、もはや呼吸ができていない。ショック死してもおかしくない。


 だが奴は死なない。


「ちょうどいい。皆が受けた苦しみはこんなものじゃない」


 追撃のため、ギルガメッシュへ10歩の距離にまで近寄っていく。


「はぁ、はぁ、はぁ……こ……これおど、と…………何者、だ。ぃさま…………」


 ギルガメッシュはうつ伏せで地面に顔を埋めたまま、泥々になりながら苦悶の声で言った。


「さぁ? 俺も知りたいくらいだ」


 本当のことだ。


「そう、ぁ…………だが、ぁ」


 そう言うとギルガメッシュの傷口の組織が互いに呼び合い、手を取り合っては結合していく。それはつまり、黒魔力を使用したということだ。さすがにダメージが限界だったのだろう。



 ビシシッ…………!



 上半身から首を登り、右目を取り囲む入れ墨のように黒い血管が走った。それは全身に拡大していく。


「出たな」


 奴に奥の手を出させることに成功した。黒魔力に頼れば頼るほど、神聖魔法が奴に再生不可能で有効なダメージを与えられる。これは奴にとって、まさに『悪手』。


 


 バチッ…………バジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ!!!!




 放電するように黒い雷が周囲に溢れ出し、それらはギルガメッシュが見えなくなるほどだ。



 …………ジジジジジ……………………ズンッッッッ!!!!



 黒い雷は天を突き刺すような勢いで真っ直ぐに空へと伸び、それはまるで空を支える太い柱のようだ。


 2、3秒でその雷がなくなると、舞い上がった白い煙の中から声だけが聴こえてきた。




「ギギギギギ…………ルルル」 



 

 中から現れたのは翼のない4本足の龍だった。


 だが岩龍とも違う。もっと身体はスラリと身軽で、それは龍の頭を持った巨大な狼のようであり、神話にある『麒麟』のようでもある。身体には青緑色の鱗があり、背びれのように尾の先端まで黄金色のたてがみが生え、陽光を反射してキラキラと光っている。額からは1本の1メートルはある角が生え、鼻先から伸びるは、身体よりも長い数メートルの龍のヒゲだ。ユラユラと身体の周りを浮かぶように2本揺らめいている。

 胴体だけで5メートル、尾も同じくらいの長さがあり、先端に近づくにつれ鋭いトゲが密集して生えている。


「人類卒業おめでとさん。正直もう化け物は見飽きたんだが……その前に言葉わかるか?」


 うんざりしながら語りかけると、反応があった。


「……人の枷から解かれることが、力を手に入れる手段の1つだ」


 低い声で牙を見せながら龍が話した。 


 あの死に体だった奴が…………とんでもない再生力だな。


「枷? 人は枷なんかじゃねぇよ……」


【賢者】傷が完全回復しています。ユニークスキルによる強化はなくなりましたが、それを上回るステータスの上昇が見られます。


 なるほど。


 正直、ギルガメッシュがどこまで強くなったのかわからん。だが、それでも全く負ける気がしなかった。


「貴様の寿命はこの瞬間までだ。よく今日まで生きた。誉めてやる」


 そう言って1歩踏み出すと、ギルガメッシュの足元からバキバキと魔力が大地を抉る雷のように弾けた。それはギルガメッシュの圧倒的な自信の表れのようだ。


「どうだか……」


 手を首の後ろに当てながら、パキパキと首の骨を鳴らす。


 このままだとさすがにキツいか。



ーーーー身体強化10%



 魔力が全身の筋肉を駆け巡り、ジンジンと熱を持ちながら染み渡っていく。


 賢者さん、アイギスだして。


【賢者】はい。


 パキンという音と共に目の前にアイギスが下りてきた。


 真っ白なアイギスの柄を手に握ると、ジャンのメガネをかけた顔が刀身に浮かんだような気がして無意識に語りかけていた。



 さぁジャン。存分にやり返さねぇとな。



「なぁ聞いてくれよ。この剣、アイギスはな…………お前が仕掛けたこの戦争のために犠牲になった優男から受け継いだんだ」


 ジャンの死に方…………今思い出しても胸が苦しい。


 俺がそう語りかけてもギルガメッシュは答えず、口をヒクヒクと痙攣させながら無言で後ろ足を1歩前に踏み出した。


「ギルルルル…………!!!!」


 龍形態になったギルガメッシュが後ろ足を曲げて力を溜めている。奴なら1歩で十分に俺に届く距離だ。


 俺たちクラスになれば、自然と地面を魔力で強化している。俺の場合は結界だ。でなれば、脚力が強すぎて踏み込むことすらできない。


 ギルガメッシュが俺に向かって無音で地を蹴った。




 ーー迅く、力強く、そして気高い龍。



 ーー牙から落下し、慣性で後ろに流れていく唾液。



 ーーギルガメッシュの踏み込みで舞い上がる砂。



 ーー風に流れ、揺らめく黄金色のたてがみ。



 ーー王都西門で起きる爆発の火柱が大きく広がっていく。




「全部だ。全部見える」


 音が空気を揺らす瞬間すらも認知できるほど、俺の認識能力と脳の処理が加速している。それは俺のステータスとスキルが上がったことに由来する。全てがスローモーションになる世界で、俺はギルガメッシュに問うた。


「…………知ってるか? お前らの嫌いな神聖魔法もな…………」


 俺はアイギスを右手に持つと、左足を前にして剣を下げて構えながら言った。



「纏えるってことを」



 俺の言葉が届いたのか、目を見開くギルガメッシュ。だがもう止まることはできない。


 刃の周囲に真っ白に輝くモヤを纒い始めるアイギス。それは広がり俺の身体も包んでいく。剣を軽く振れば、濃厚で真っ白な霧のようなモヤが跡筋に残って漂った。


「ギルガメッシュ、お前はやり過ぎた」


 俺は飛びかかってくるギルガメッシュの腹の下へ、滑り込むようにスライディングで入った。と同時に、ズブッと腹へアイギスを突き刺す。まるで絹ごし豆腐のようにすんなりと刃が通った。そして、ズルズルと斬り裂いていく…………!





「はああああああああああああっ!!!!」


 ズズズズ、ズズズズズズ…………シュパンッッッッ…………!!!!





 まるで魚の腹を開くように剣を振り抜いた先、上と下で俺とギルガメッシュは交差した。


 振り返って立ち上がると


「…………ギ、ギィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」


 ひっくり返ってバタンバタンと脚を動かしてはのたうち回るギルガメッシュ。

 

 その左肩から胸、腹と通り、右後ろ足の付け根にまで長く深い斬り傷ができている。ドクドクと血が溢れるどころか、ブリュリュリュと腸が腹圧で吹き出してきた。その臓物ですら、神聖魔法に犯されている。


「がっ…………! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


 傷口は黒魔力で治るどころか、組織が壊死し白い灰のようにボロボロと崩れている。そしてそれは、どんどんと血液に運ばれるように全身へと伝播していく。


 黒魔力にとって、神聖魔法はまさに死毒。


 飛び出した腸も、白い灰のようにカスカスになって崩れていく。


「脆い」


 ギルガメッシュは苦しみと共に、ついには縮み始めると、龍の姿から人の姿に戻っていく。


「もう諦めろ。この国には()がいる」


 俺は呟きながらアイギスをしまった。上を見上げれば度重なる戦闘の余波で吹き飛んだはずの雲が戻ってきていた。

 

 ポツポツと戦場に降り始める小雨。



 さぁ、これで少しはジャンの無念も晴れるだろうか…………。



 兵士たちの汚れを落とし、戦場の血を洗い流してくれる。

 

【ベル】お疲れ様。後は南門のローグを潰せばこの戦争は終わるわね。


 ああ。長かった帝国との因縁も、これで最後だ。


 俺がジャンの笑顔を思い出している間も、ギルガメッシュは苦しんでいた。完全に人の姿に戻ったようだが、奴の肉体の崩壊は止まらない。


 地面に右手の指を突き立てて這いつくばり、左手では胸をかきむしるように押さえて苦しみにもがく。口からはヨダレがダラダラと流れている。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!!」


 もがく、


 もがく、


 もがく…………。




「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ…………!」



 

 苦しみで今度は仰向けになり、背中に頭がくっつきそうなほど、背骨が折れるんじゃないかと思うほど、海老ぞりになって、手のひらを思い切り開いては全力で口を開けている。


「お前は、自分がしてきたことを悔やみながら、できるだけ苦しんで死ね」


 その時、ギルガメッシュは斬り開かれた腹部に手を突っ込んだ。



「はっ、はぁはぁ…………ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ……………………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」



 神聖魔法による連鎖を断つように、ギルガメッシュは神聖魔法に犯された自身の内臓を腹部からズルズル、ズボボボと引きずり出した。そして、ブチブチと引きちぎる。


 引きずり出した勢いで宙へ舞う内臓は、空中で白い灰となった。


「お、おいおい、どんな執念だ…………」


 神聖魔法に犯された内臓ごと、捨てやがった……!!


【賢者】合理的ではあります。

 

【ベル】いえイカれてるわよ…………。


 でも神聖魔法からは逃れたな。


【ベル】無理よ。いくらなんでも死ぬわ。


 だがさすがのギルガメッシュも、もうピクピクと地面に伏せたまままともに起き上がることすらできないようだ。


「終わらせてやろう」


 俺は止めを差すべくアイギスを右手に持ち、ギルガメッシュに近づく。



「かっ、かっ……かっ……ごぶぉ……、ごほっ、ごぉっ!」



 地面に溜まった自身の血にむせながらも笑うギルガメッシュ。


「ぉはや、これ、まで…………」


 そして、黙り込むと




 …………ガギッ、パキン。




 ギルガメッシュの口内から、なにかを噛み砕いた音がした。


「かっかっ…………あの方より、受け取った……純度100%の黒魔力。す、なわち……………………()()()()()そのものだ」


 死に際の戯言かと思えば、聞き流してはいけない言葉が聞こえた。



「混沌…………!?」



 そうか、やはり…………。




 帝国のバックには()()()()()()()!!!!




「ぐ、ぅ、ううっ…………うおおおおお!!」


 俺の考えを遮るように突然声をあげ、丸まっては腹を抱えて苦しみ始めるギルガメッシュ。


 大の男が、いやそれよりこの男が悲鳴を上げるとは、混沌の魔力とはそれほどの代物なのだ。


 そして、




 ビシャン!




 ギルガメッシュの筋肉でデカイ身体が、赤い血飛沫と共に内側から弾けとんだ。


 そして、


「あ、あー…………」


 ギルガメッシュにしては若く、高い声が聴こえた。そこには、先ほどの大男の面影など毛ほどもない。うつ伏せの状態で血まみれの小柄な少年がいた。


 身長は160センチほどで皮膚は褐色をしている。白髪になった短い毛は、どういう原理か炎のようにユラユラと立ち上っている。眼球は、まるで大きめのルビーを埋め込んだように紅い。両手の爪は白く、猫のように鋭く伸びている。

 先ほどのギルガメッシュすら比較にならない凄まじい存在感と、存在としての不気味さ。それは人とも魔物とも違う。


 思わず、警戒心を隠さずに目を細めて見ていた。


【ベル】なんなのあれ、ローグより気持ち悪い。この世の何よりも…………。


【賢者】ユウ様、アレに関して全く情報を持ち合わせておりません。最大限に警戒を。


 ああ。



「かっかっか! 成功だ…………!! 成功したぞ!」



 喜びに震えるように呟くその者はニヤッと肉食動物のような尖った歯を見せると、ゆっくり立ち上がった。ギルガメッシュと同じ話し方だが、声が若く幼くなっている。

 だがそれだけではない。まるで全てが、生き物という括りすら、違うかのようだ。


「お前、ギルガメッシュ……か?」


 そう聞くと俺の問いに答えることなく、興奮した様子で話し続ける。


「感謝するぞユウ!」


「何がだ?」


「俺は生まれ変わった! これが……これが成功の証しだ!」


 姿が変わったギルガメッシュは、前に両手を伸ばすと、ズブッと自分の胸の中央に両手の指を突き刺した。



 ズププッ…………!



「なにを…………」


 いきなり自分を傷付けるギルガメッシュに、何をしたいのか意図が理解できない。


 ギルガメッシュは自分の胸に突き入れた両手をグイッと左右に広げて見せる。


 そこにあったのは…………。



「黒魔力の行き着く先…………魔石を持つ人族、『混沌者』だ」



 ギルガメッシュの、胸を開いた中、心臓のある位置に、こぶし大の艶やかな漆黒の魔石が生まれていた。


「魔石だと…………?」


 本当に人じゃなくなったか…………!?



「さぁさぁさぁああ!! 続きを始めようか…………!」



 新しい種族へと進化したギルガメッシュは、ニチャアと笑った。


読んでいただき有難うございました。


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