第14話 コブロ戦
こんにちは。
読んでくださり、ありがとうございます。14話目です。
宜しくお願いします。
受付横の扉を開け、長い石階段を降りて行くと、地下にだだっ広い空間が現れた。
むき出しの地面は黄土色だが、しっかりと踏み固められ、太い丸い石柱が整然と立っている。部屋は四角形で一辺40メートルくらいだろうか。天井は高く、10メートルはある。ここは冒険者用の訓練や決闘を行うために作られた場所らしい。
中には数人の冒険者がおり、受付嬢まで連れた俺たちを皆なんだなんだと面白がってこちらを見ている。
真ん中にまで歩いていくと、ルウさんが話し始めた。
「ではまずルールを決めて下さい。なお、どのようなルールであれ、相手を殺してしまうと負けです」
「けっ、参ったと言わせればいいんだろ? 腕の2本や3本なくなっても文句言うなよクソガキ」
コブロの発言にゲラゲラと他の冒険者たちは笑う。
「構わない。お前こそその残り僅かな髪の毛がなくなっても文句言うなよ」
冒険者たちの笑い声がさらに大きくなり、コブロの額にピキッと青筋が走る。
「こ、殺す…………!」
「ユウさん、CランクとFランクの決闘になりますが…………本当に宜しいのですか?」
ルウさんは目鼻立ちのハッキリとした顔に眉をひそめて、心配そうに俺に聞いてきた。
「ああ、大丈夫だ」
「ですが! それではあまりにも…………!!」
ルウさんはギルド職員としての立場を踏み越えてまで止めようとしてくれている。登録したばかりの俺を気遣ってのことだろう。本当に優しい人だ。
「いいからいいから。そんなに心配しないでルウさん、ありがとう」
レアが首をすくめてやれやれみたいなリアクションをしている。
「…………分かりました」
ルウさんはため息をついた。
「それでは5分後に開始します。準備をお願いします」
「わかった」
まぁ準備ってするほどのことはないんだが。するとレアが近寄ってきた。
「なんか大変なことになっちゃったね。でもこれは完全に向こうが悪いよね。さすがに私も腹が立ったよ」
レアがむくれている。
「ああ、ちょっとボコにしてくる」
「だね。ユウなら瞬殺だよ」
と、そこにひょっこりフリーが現れた。相変わらず糸目で表情が読みにくいなこいつは。
「ユウ、大丈夫なのかい? コブロはCランクだろう?」
フリーが眉をひそめながら聞いてきた。単純に心配して来てくれたようだ。
「大丈夫大丈夫」
そう答えると、俺の自信に不思議そうだが妙に納得した様子でフリーは答えた。
「あはは、確かに君は意外と…………うん、大丈夫だろうね」
「大丈夫! ユウならぜーーったい、勝てるから!」
レアがグッと手を握って力強く言いきる。
「だな」
「アイツはああやって格下の冒険者にいちゃもんをつけて金をふんだくろうとするんだよねぇ」
フリーは鋭い目付きでコブロを睨む。
背を向けているはずのコブロがビクゥッとなり、キョロキョロと辺りを見回した。
やはりフリーはかなり使える。
「やっぱりそんな手口か」
「そうだよ。あの手口で被害にあった新人の冒険者はけっこういるんだけど、証明が難しい場合にしかやらないからギルドもなかなか取り締まれないみたいで。1回ガツンとやってくれるかい?」
フリーがニヤッと悪い顔をした。
「なんてやつ! なんなら私が相手してやりたいくらいだよ!」
レア、ややこしなるからやめてくれ。
「まかせといてくれ」
「頼んだよー」
俺とフリーは右手の拳をゴツンとぶつけ合った。
案外フリーとは気が合いそうだ。
「おう。あ、そうそう。昨日は宿代助かった。ありがとう。すぐに返すから待っててくれ」
「あれくらい返さなくてもいいよ。今後のよしみに、ねぇ?」
フリーがニコッと言った。
「いや、そうはいかない。借りたものは返す。貸してくれた恩だけでも十分さ」
「そろそろ始めます! 此方へお願いします」
ルウさんが呼び掛けてくれた。
「それじゃあ行ってくる!」
2人のもとを手を上げて去る。
「ユウ、頑張ってね!」
「頑張れ~」
2人から激励の言葉をもらい、位置につくとコブロはニヤニヤしながら腕を組んでこちらを眺めていた。
舞台はちょうどフロアのど真ん中だ。観戦の冒険者は数十人に膨れ上がっていた。上で話を聞いていた奴らが広めたんだろう。
見られてると少しやりにくいが、まぁいいか。
そんな中、ガヤガヤと歯にもの着せぬ周囲の声が聞こえてきた。
ーーーーおい、どっちが勝つ方に賭ける?
「そりゃコブロだろ。相手は昨日冒険者登録したばかりの初心者だぞ?」
「さすがにこれじゃあ賭けにならないな」
「待てよ、ナンバー2が目をかけてるんだぞ?」
「だからってFランクじゃなぁ……」
「だよなぁ」
「いや、俺は決めた! ユウって野郎に賭ける!」
「「はぁ!?」」
「おめぇ、そうやってこないだ10万コル負けたとこじゃねえか!」
「いや、今回は当たる気がするんだ!」
「「「ほんとかよ!?」」」
なんか賭けの対象にされてる…………それでこれだけ観客が来たのか。俺も自分に賭けさせてくれ。
手の内は明かしたくないので今回は剣だけでいくつもりだ。俺の剣術スキルは1つ上がってLv.8になっている。世間的にはすでに達人の域だ。
「てめぇは絶対ぶっ殺す」
自分に賭けようとしない者がいることに怒りが沸いたのか、また機嫌が悪いようだ。
「なにキレてんの? おまえから仕掛けてきたん…………」
「ーーーーはい! それでは構えてください!」
ルウさんがまた始まりそうになった言い合いを遮るように言った。
コブロは両手剣を使うようだ。怒りとは裏腹に左足を前に出し、半身に構え、剣は後ろに引いている。堂に入った構えだ。そして早く殺らせろとばかりに貧乏ゆすりをしている。
剣を構えながら貧乏ゆすりって出来るのか、見た目によらず器用なのか?
俺は右手にデリックにもらった片手剣を持つ。
「それでは…………始め!!」
ルウさんの始めの合図と同時にコブロが動き出した。開始前に小声で詠唱していたのだろう。案外頭が働くようだ。牽制にファイアボールが飛んでくる…………だが
遅い。
確かな熱量を抱えて飛んできたバスケットボール大の炎の玉を首を傾け回避する。
これが不意打ちになるとでも?
コブロは俺が焦りもせずに簡単に避けたことに驚いたようだ。
そんな程度で平静を欠くようじゃ…………うん、これは剣を構えるまでもないかもしれない。できるだけ観客の前で手の内は明かしたくないしな。
剣の構えをとき鞘にしまう。そして観客の一員でもあるかのように次のコブロの攻撃を待った。
「ふっ…………っざけるのも、大概だろおおおお!!」
耳が痛い。ものすごい大声だ。訓練所ないに反響している。
コブロは突進し、思いっきり振りかぶった大剣をそのまま真上から降り下ろしてきた!
「死ぃ……ねぇっ!!」
俺の脳天直撃コースだ。
「おい殺しちゃダメだろっ!」
さっきのファイアボールよりかは速いが、余裕で見えるし避けられる。
半身になって後ろの左足を引くと、あえて紙一重で回避する。
ドガンッ!!
思いっきり振り下ろしたコブロの大剣は、地面を抉った。なかなかの膂力、パワーはありそうだ。
コブロは地面に刺さった剣を持ち上げ、追撃しようとする。
まぁ、こんな隙逃すわけないわな。
俺は降り下ろした状態の剣の柄をコブロの手ごとガッ! と踏みつけた。
「い゛っつ…………て、てめっ!!」
口とは別に、コブロは剣を持ち上げようと力を込めるが、俺が上から踏み押さえているため、ピタリとして動かない。
「このまま剣を首に当てて終わらせようか?」
耳元でこっそりと言った。
「ぐっ…………! くそがあああ!!」
激高したコブロは剣から手を離すと、力づくで俺の靴底の下から片手を引き抜いて、ブンッと素手で殴りかかってきた。
俺は上半身をのけ反らせて拳を避け、後ろに下がる。おかげでコブロは剣が自由になった。
「てめぇごとき、俺様の最強魔法で灰にしてやる!!」
「最強? 魔法?」
コブロが俺から距離をとると、大剣を地面に突き立て呪文を唱え出した。
お、おい正気かこいつ。タイマンで呪文を唱えるとか。仕方ない…………待つか。
何が来るか一応腕を組みながら待ってみるが。
まぁ、大したことないんだろうなぁ…………。
やっと1つの炎の矢がコブロの前に形成された。
「おいクソガキ、魔法も使えん馬鹿め。これで終わると思うなよ? 俺の魔法はここからだ!!」
どうやら俺が魔法が使わないことで、魔法が使えないと思い込んでいるようだ。
コブロが得意気に再び呪文を唱え始め、しばらくしてもう1つ炎の矢が出来た。
なるほど、呪文を重ねていくことで複数の矢を作っていくのか。ただのパワーファイターじゃないって言いたいのかもしれない。
そうして、計4本の矢がコブロの前、横一列に浮かんだ。
「ははは!! 待たせたな!」
自信たっぷりに言い放つ。
「いや、ほんと」
「ほざけ!!」
その言葉と同時に4本の矢が俺めがけて正面からバラバラの軌跡を描きながら飛んできた。
「ひねりのない奴」
勝ちを確信した顔をしているコブロには悪いが、俺のユニークスキル『空間把握』は半径100メートル内を全て視ることが出来る。空間内の全てを認識していると言った方が良いかもしれない。
だからコブロの作った炎の矢が向いている方向、その先にあるもの、空気の流れまで全てが俺の知覚内にある。この状態でどのように矢が飛んでこようが、俺の認識速度と反応速度を越えてこない限り、目をつむっていても避けることができる。
【賢者】ユウ様。少しよろしいですか?
どうした?
【賢者】矢の飛来コースを『空間把握』で得た情報から私の方で計算し、可視化すること出来ますが、いかがしますか?
え、すごい。そんなこと出来んの?
【賢者】はい。ただし、相手がコースを変えられる場合はご注意を。
まぁ、今回はそんな心配は要らないな。お願いするよ。
【賢者】かしこまりました。
すると、空間把握内に白い、淡く光る線が4本表示された。
なるほど、こんな感じか。
「よっ!」
俺は顔面に飛んでくる1本目の矢を首を傾けてかわした。胸のど真ん中に飛んできた2本目は右側に半歩前に出て半身になることで避け、足元に来た3本目は左足を持ち上げてかわした。炎の矢が地面に突き刺さり、地面を焦がす。
大した温度でもないようだ。うん、その程度なら飛来コースがわからなくても大丈夫だが、これがあると非常に楽だ。
「お…………こ、このっ、くそが!!」
最後、右目に向かってきた今までで最速の矢は避けもせずに左から右に右手の甲で払う。
パシュンッ…………!
矢は一瞬で火の粉となって散り、消滅した。手の甲がちょっとだけ熱かった。これじゃあ、矢の先に直撃されたところで対した怪我にはなりそうにない。
「う、うそ…………だろ?」
コブロは呆然と立ち尽くした。だがそれは周りの観客たちも同じだった。始めはわーわー言っていた冒険者たちも、途中からは誰1人しゃべることなく俺の動きを見ていた。
「素手!? レ、レアちゃん彼の腕は鋼鉄でできてるのかい?」
そばで観戦していたフリーも驚いていた。
「いえ、あれはただの気合いですね。熱そうだよ~」
レアが呆れたように言った。
「それにあの避け方。ひょっとしてユウは僕よりも…………」
「あははは」
レアは笑うだけだった。
他の冒険者たちも各々がこの戦いを見て考察している。
「ゴードン、あの矢の払い方お前にできるか?」
ゴードンと呼ばれた巨人族の冒険者は首を横に振る。
「無理。コブロの魔法は、決して弱くない」
「だよな。つまりブルーボアを殺ったのも本当か…………」
顔をひきつらせて納得する冒険者たち。
「さて、コブロ。非礼を詫びる気になったか? 謝ればこの決闘自体なかったことにしてやってもいい」
俺は怒りを顔に出すことなく真面目に問い掛けた。
「黙れ…………黙れ黙れ黙れ黙れ!! 今のはイカサマだ!! そうに決まっている!」
唾を飛ばしながら怒鳴るコブロ。
「はぁ…………百歩譲ってイカサマだとして、イカサマで同じことが出来るならもはやそれは本人の実力じゃないか?」
「う、うるさい! 黙りやがれ!」
反論の言葉が出なかったのか、それしか言わなくなったコブロ。
「はぁ、わかったよ。もう終わりな」
コブロの元へ歩いて、10メートルほどあった距離をジリジリ詰めていく。
「お、おい。来るな! 来るなあああああ!!」
コブロの間合いへ入ったと同時に、怯えたコブロが大剣を大上段に振りかぶり降り下ろしてきた!
「お前じゃ相手にならんっての」
あの森の魔物たちはもっと狡猾で手強かった。
振り下ろされる大剣の縦斬りに対し、俺は右手の裏拳を振りかぶり、無造作に左から右へと大剣の側面を強打した。
ガイン…………!!
大剣はコブロの手を離れ、訓練場の天井に当たり、離れた地面にドスッと突き刺さる。
「なっ…………っ、っ!」
呆然と立ち尽くすコブロの首筋に、俺は剣を抜きピタッと剣を当てた。
「勝負あり! 勝者ユウ!」
ルウさんが声高らかに宣言した。
「ふうっ…………」
振り返れば、いつの間にか観客は80人ほどにまで増えていた。そして、しばらくして周りからどよめきの声が聞こえてきた。
「「「「う、うおおおおおおおおお!!??」」」」
「あ、ありえねぇ…………コブロはCランクだぞ? 素手で勝ちやがった…………!」
「Fランクてのは本当なのか!?」
「おもしれぇ」
「おいおいおいおいいいいい!!!! いくらだ!? いくら勝ったんだ!?」
「おいニーナ! アイツの情報はねぇのか?」
「あんな野郎、今までどこに…………?」
「120万コルだあああ!!!! ありがとおおおおおおおお!」
なんか儲けた奴がいるな…………しかし今さらだがCランクにしては弱すぎないか? コブロがギルドの中堅程度なのだとしたら、人類存続が心配になるレベルだ。
「くそがっ!!」
負けたコブロは大剣を拾うも、腹いせに思い切り大剣を力任せに地面に叩きつける。そして逃げるように背を向け、1階へ上がる階段へ歩いていく。
「おい、待てよ」
コブロに後ろから声を掛けて引き留めた。
「あ?」
キレながら振り返るコブロ。
「約束だろ? 身ぐるみ全部置いていけよ」
「やるわけねぇだろ!!」
コブロは懲りずに斬りかかってきた。
ああ、これはもう言い訳できないな…………。こっちも正当防衛だ。
だがその瞬間、
ガ…………ッッ!!
「大丈夫かい?」
フリーが峰打ちで後頭部を打ち、コブロを気絶させていた。
速かった…………。
やはりフリーはかなりの使い手だ。剣術だけは俺と同じかそれ以上。前言撤回だ。このレベルの剣士がいるのなら、まだ安心できる。
「ありがとう。助かった」
「よく言うよ。俺が助けなくても余裕でなんとか出来たろうにねぇ」
フリーが微妙な表情で言う。
「どうだろうな。それでもありがとう」
俺のために動いてくれたってことが重要なんだ。
「ユウおめでとう! やっぱユウはむちゃ強だよ!」
レアだ。非常に嬉しそうな顔をしている。
「当たり前だろ。よし! そしたら報償金をいただきますか!」
俺は地面にうつ伏せに気絶したままのコブロににじり寄る。
「いや、ユウこの状態の人から取るの?」
レアがさすがに盗人まがいなやり方に引いている。
「だって身ぐるみ全部が賭けの対象だし、ギルド公認だぞ。それにこいつが起きたら素直に渡すと思うか?」
「むぅ、確かに」
腕を組みながら考えるレア。
もうひと押しかな。
「やるなら今だ。違うか?」
「それもそだね!」
レアはポンッと手を叩くと、すぐに切り替えて俺と一緒に漁り始めた。白目をむいて気絶したままのコブロをいろいろ漁ってみると、6万コルほどが出てきた。
良い仕事をしたもんだ。ただ、身ぐるみ全部とは言ったが、さすがに主武器を持っていくのは……。
「剣を奪えばこいつ、冒険者業を続けられなくなるよな」
「んー、そだね。そこまでやるとちょっと可哀相だよ」
こいつもこの町の戦力としてはそれなりにあるんだろう。たぶん。
俺にだって人の心はある。たぶん。
「おーけー、じゃあ身ぐるみ全部もらったけど、この大剣は臭かったので返却したことにしよう。本当に臭いし」
隣で見ていたフリーの顔が引き攣っている。
「あ、そだ。フリー」
「な、なんだい?」
ドン引きしながら、とりあえず答えるフリー。
「ほら昨日借りてたお金」
そう言ってコブロから取ったばかりのお金を取り出した。
「あ、ああ、ありがとう。ってこれコブロの金じゃないかい?」
フリーが戸惑って苦笑いをする。
「今は俺の金だろ?」
「…………そ、そうだねぇ。ありがたくいただいておくよ」
チャリンチャリンとフリーの手の上に置く。フリーは心底嫌そうな顔で受け取った。
「でも宿はホントに助かった。また何かあったらよろしくな」
「うん、よろしく」
そう挨拶して、フリーは微妙な表情で階段を上がっていった。
フリーが去ってすぐ、待っていたかのように知らない男がやってきた。
「やっやっやっ。俺はニックてんだ。面白いもんが見れたぜ。何より、お前のおかげで稼がせてもらったよ!」
ニックは酔狂な感じで硬貨の入った革袋を肩に掛けながらそう言った。揉み上げが濃く、外見はとあるアニメの大泥棒に似ている。職業もレンジャーをやっていそうな格好だ。
「ユウだ。それは何よりで」
「ははは! おめぇ、これも何かの縁だ。俺は顔だけは広ぇんだ。この町で困ったことがあったら頼ってくれよ?」
ニックはニッとむき出しにしてウインクした。
「ああ。よろしく頼むよ」
「わははは!!」
それだけ言うと、がに股でノシノシ上機嫌で去って行く。ニックが去ると別の男がすぐに声をかけてきた。
「なぁウチのパーティに入らないか? パーティランクはB。俺はリーダーのカートだ」
カートは金色の短髪で髪を上にかき上げ、身長は俺よりでかく190センチは越えている。背には細身の大剣を差している。鼻が高く、瞳の色は青で欧米系のイケメン顔だ。
Bランク、コブロよりさらに上のランクか。確かにコブロなんかよりずっと強そうだ。
そのカートの後ろにはさらに3人控えていた。それぞれと順に握手を交わした。
【ゴードン】
身長3メートルを超す筋骨隆々の巨人族。背にハンマー部分が1メートルはある巨大なウォーハンマーを背負っている。四角い骨格に優しそうなつぶらな瞳をしている。
【サリュ】
魔法使いのローブを着た20歳代後半の流し目がエロいおねーさん。1.2メートルほどの、先に宝石がついた杖を持っている。体のラインがでる黒のワンピースを身に付けており、巨乳。
【キース】
腰に10本以上のナイフをさげた斥候職。身長は160センチと小柄だ。歩き方からして身軽そうで、しょう油顔で地味だがそれも職業柄だろう。
「ユウだ」
他の3人とも挨拶を交わした。
「さっきの戦いを見せてもらった。お前は強いな。Cランクを赤子扱いにできるなんて将来有望だ。どうだ? ウチのパーティに入らないか? 試しにでもいいから」
来ると思っていた勧誘。でもしばらくはレアとやっていくと決めていた。
「いや、誘ってもらって悪いが仲間はもういるんだ」
チラリとレアに視線を送りながらそう言って断った。レアはウンウンと頷いている。
「そうか…………それは残念だ」
フッと笑いながら肩を落とすカート。落ち込み方までイケメンだ。
「すまんな」
「良いんだ。今後は一緒に仕事をすることもあるだろう。その時はよろしく頼むよ」
心底残念そうだ。本気で誘ってくれていたんだろう。良い人ではありそうだ。
「ああ、しばらくはこの町を拠点にするつもりなんだ。こちらこそよろしくお願いするよ」
カートとは固い握手をした。そして、手を離した直後、
「おーい、そこの君」
「おお!? びっくりした!」
声がして、下を見ると身長140センチくらいの小柄な女の子? 女性が立っていた。探知を使っていなかったとはいえ、隠密に長けているのだろうか。フードを深くかぶっているため、顔はわからない。
「おや、ニーナじゃないか。久しぶりだな」
カートの知り合いのようだ。
「カート、次は僕の番だろう?」
「ああ、わかってるさ。だが、お前が目をつけるってことは…………なぁ今からでも考え直してくれないか?」
カートはまだ俺を説得しようとしてきた。
「いや、無理だ」
「そうか…………いや、すまんな」
カートは名残惜しそうに謝った。
「カート聞いてるかい? 順番、だよ?」
そう静かに言い放つ。その瞬間、一瞬だがニーナと呼ばれた奴の雰囲気が変わった。もしかするとかなりの手練かもしれない。
「わかったわかったよ」
カートは両手を上げ、観念したように言った。
「俺らは去ろう。またなユウ」
「ああ」
手を振りカートたちは去っていった。
「さてさて、ぼくはニーナって言うんだが、いわゆる情報通の冒険者さ。困ったらここのバーのマスターに連絡しな。ぼくに繋いでくれる」
「あ、ああ」
そう一方的に繰りだし、カードのようなものを渡された。カードを見ると、『ニンチェ』というバーの名前が書いてあった。
情報通ねぇ…………。
カードから視線を上げるとニーナの姿は消えており、そこで受付のルウさんから声がかかった。
「ユウさん、お疲れ様です」
するとルウさんが耳もとまで近寄ってきた。鼻をくすぐる良い香りがする。そして小声で、
「コブロ様はよく新人の冒険者に絡まれる方で、正直スッキリしました。ありがとうございます」
というと、ニッコリした。美人のたまにでる笑顔はやばい。
「やっぱりそういう奴か」
「はい。証拠が少ない場合が多く、対処できずに困っていたので助かりました。あとブルーボアの精算も終わっております。受付へどうぞ」
ルウさんは手で受付フロアを指した。
「わかった。レア、行くぞ」
「うん!」
レアと共に受付へ上がると、ルウさんが硬貨の入った革袋を出してきた。
「ブルーボアの討伐と素材買取り分で25万コルになります」
「そんなに!?」
「ブルーボアともなるとやっぱり高いんだねー」
レアも感心したように言った。
「はい、Bランクの魔物ですとこれくらいは当然です。それだけ脅威度が高いということです。1匹町に入るだけで被害は計り知れませんから」
「ああ、確かにその辺の奴らには相手できないか」
俺はさっきボコボコにした奴を思い出す。
「そして、こちらがお話ししていた武器屋、防具屋の紹介状です」
「ああ、どうも」
紹介状を受け取ると、ルウさんは頭を下げた。
「本日はいろいろとありがとうございました。またよろしくお願いします」
「いや、こちらこそ助かったよ。そんじゃ」
ウルさんに手を振りギルドを出た。さっきのブルーボアのお金はレアと半分にした。そして入り口そばで伸びをする。
「ふぅっ、なんかいろいろあったな」
「そーだね~。でもユウが巻き込まれやすいんだよ」
レアがジトーと見てくる。
「悪かったな」
「でもあいつの言葉にムカッとしたのは一緒だし、私のために怒ってくれたのは嬉しかったな」
レアが手を後ろに組んでニコニコしている。
「そ、そうか?」
「そだ、早く武器屋行こうよ! ユウの装備一式揃えなきゃ!」
レアが俺の腕を引っ張る。ギルド前でこんなことしてると、他の奴らに絡まれそうだなぁ。とりあえずレアを引っ張って歩き出す。
「それもそうだが、武器よりまずは服を買いに行こう。明日の着替えがほしいだろ?」
「そうだった! ユウはどんな服を買うの?」
「ん~、俺より先にレアの服だな」
「私、特に服にこだわりがないから何でもいいんだよ。今の私服は前のメンバーにら勧められて買ったものだし…………」
前のメンバーを思い出したのかレアは下を向く。
「でもその服ももうボロボロだろ? まずはレアのを買おう。女の子だしな」
「うん、ありがとう……」
今のレアの格好はショートパンツにブーツ、そしてシャツに胸当てだ。この装備はレアの戦闘スタイルの長所を十分生かせるし、レアのボーイッシュな可愛さも際立たせて良い。
あとはシンプルにレアの町歩きの格好を見てみたいという、俺の私利私欲だ。しかしこの世界の洋服屋ってどんなだろう?
「しまった。ルウさんに洋服のお店も聞いておくんだった」
俺がそう言った時、ちょうどギルドから出てきたフリーが俺たちを見つけた。
「ん? 服を買いたいのかい?」
「フリー、ちょうど良かった」
てかまだギルドにいたのかよ。
「お前この町詳しいだろ? 良い洋服屋知らないか? レアの服を選ぶんだ」
するとフリーの目の奥が光った。
「れ、レアちゃんの服を選ぶだって? あるよ。というか僕も連れてってほしいねぇ。僕もレアちゃんに着てほしい服があるんだよ」
フリーが俺の肩をガッと掴んだ。この時ばかりは糸目が開いていた。
「お前…………気が合うな」
俺たちは洋服店に向かって歩き出した。
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※過去話修正済み(2023年9月13日)