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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第2章 町へ
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第13話 コルトの町

こんにちは。

ブックマーク、評価宜しくお願いします。

 

 結局、運良くレアの知り合いの門兵だったため、俺も後から冒険者カードを持って来ることを約束して町に入ることができた。


 この町コルトは森からの魔物に備え、高さ5メートルの石塀でグルリと囲われている。検問を抜け、見上げるほどの門をくぐると、ガヤガヤと一気に町の活気が聞こえてきた。


「はぁ、でかい町だなぁ」


 アラオザルとは比べ物にもならない規模だ。

 レンガ造りの建物が中心で、主要道路には石畳がきっちりと整備されている。ひっきりなしに商売人や兵士、冒険者等が行き交い、荷台に野菜や麻袋を積んでいる人もいれば、サイのような魔物の死体を載せている馬車もあった。


 人口はおよそ3万人。町の領主は『ジーク辺境伯』という人物で、実力で人を判断し雇うこともあり、人々から慕われている。彼は近辺の魔物の進行を押さえるため、多数の兵士を抱えているそうだ。


 珍しいものを見るようにキョロキョロと町を見回しながら、レアに連れられて歩く。


「ユウったら! もういくよー?」


 レアが俺を手を母親のように引っ張るが、それどころじゃない。


「ま、待ってくれレア。今、トカゲがしゃべってたぞ!? あれ、魔物じゃないのか?」


 俺が見たのは、直立二足歩行の服を着た2メートルのトカゲが行商人と流暢に言葉を話す場面だった。そして自分よりも大きなリュックサックを背負っていた。何を運んでるんだろう?


「ユウそんなこと言っちゃ失礼でしょ! ()()()()()()だよ!?」


「へぇ、あれがリザードマンか」


 大きな通りにある建物や人、馬車を引く魔物等、見るもの全てが珍しく新鮮だ。今更ながら本当にファンタジー世界に迷いこんだんだなぁと、つい興奮してしまう。


「なぁ、てことはエルフもいるのか?」


「いるに決まってるよ。でも基本的に彼らは森から出たがらないからめったに見れないけどね」


「へぇ」


 エルフがいるなら是非会ってみたい。いかにもザ・ファンタジーって感じがするじゃないか?


「そう言えば、確かギルド長もエルフ族だったような…………」


 そんなレアの呟きを他所に、俺の興味はたどり着いた広場に移っていた。ここはどこかアラオザルの広場に似ているが、大きな町だけあって豪華絢爛だ。細かなところまで装飾が行き届いている。

 そこ広場の中央では、大きな噴水の周りにガヤガヤと大勢の人が集り、人だかりができていた。


「おいレア! あれ何やってるんだ?」


「もう、話を聞いてよ~」


 興奮を押さえられず人を押し退け、前に出る。女の子2人が噴水の前で芸をやるようだ。


「はいはい、それじゃ始めまーす」


 めちゃくちゃやる気のない声で、全身黒い格好をした女の子が詠唱を始めた。


 そして


「…………凍れ」



 パキンッ!



 その言葉と同時に噴水の水が一瞬で凍りついた。



「「「「うおおおおおお~」」」」



 観客が一斉に声をもらす。


「すごい! 綺麗だなぁ」


「宝石みたいだな」


 噴水の水は、高く昇ったままに停止している。躍動感をそのままに、大きく広がった水しぶきに太陽の光が当たり、キラキラと輝いて綺麗だ。


 それに感動した人たちが地面に置かれた帽子にお金をヒョイヒョイと投げ込んでいく。


「俺も!」


「ユウは一文無しでしょ!」


 レアに首根っこを掴まれた。


「はい」


 そんなはっきり言われると傷つく。


 続いて先程の女の子とは対照的な、白色のパジャマにカラフルなペンキをぶちまけたような派手な服に赤いベレー帽を被った女の子が話し出した。


「じゃあ次は私の番ね!」


 そう言うと、どこからともなく1メートルほどの大きな筆を取り出し、凍った噴水に向かって振った。



「カラードレス!」



 べちゃっ!


 噴水の氷に黄緑色がついた。


 うお、どうやって氷の表面に色なんかつけんだよ。


【賢者】彼女のユニークスキルです。


 へぇ、そんなスキルもあるんだな。


「そりゃっ!」


 連続で筆を振っては、どんどん噴水に色を塗っていく。


「じゃあ、次はー、この色!」


 そう言ってさまざまな色を塗りだした。初めは暗い茶色が基調だったのにカラフルな色が重ねて塗られていく。


「お、おい。これ木じゃないか?」


「わ、ほんとだ!」


 何を描いているか、わかった観客はざわつき始めた。


 そう。だんだんと噴水は1本の木になっていった。木の形からはみ出たところはカラフルな蛍光色の鳥や蝶になっている。この世界にあんな蛍光色の色使いがあるとは思わなかった。その鮮やかさに目を奪われる。


「次…………アイスメイク」


 黒い女の子が呪文を唱えた。


 完成したかと思われた木の枝から、今度は透明な花がどんどん咲き乱れていく。


「ほいっ、ほいっとぉ!」


 そこにもう一人の女の子が真っ白な色をつけていく。


「すごい…………」


 白色の満開の花をつけた木に色鮮やかな昆虫や蝶、鳥が羽を休めに来ていた。もはや観客が言葉を失うほどの美しさだ。


 なんだか、全然姿形は違うが日本の桜を思い出す。


 だが、皆が見とれているその静寂を破るように、




「コラーーー!!!! 町の噴水に何をやっとるか!!」




「はっ! ヤバイ憲兵だ!」


 カラフルな女の子が小さく叫ぶと焦り出した。


「逃げるよアリス!」


 アリスと呼ばれた黒い女の子は大量にお金が入った三角帽をそのまま頭に被った。


 え、何あの帽子どうなってんの?


 そのまま2人は俺たちの横を通りすぎる。黒い女の子は通りすぎる瞬間なにかの詠唱を行っているのが聞こえた。


 タタタタタタ。


 そして2人は分かれて別々の路地へと走り去っていく。


「待てコラーーー!!」


 あとを憲兵が追っていく…………。


 パキンッ!!


「くそうっ!!」


 路地の入り口は氷の壁で塞がれていた。地団駄を踏む憲兵は慌てて別の路地へと走っていく。唐突にショーは終わりを向かえ、町の人々は興奮した様子で口々に感想を言いながら散っていく。


「あははははは! 最後まで面白い見せ物だったなー」


「すごかったねあの噴水! 派手な方の子はわからないけど、あの氷使いはBランクのアリスちゃんだね」


「へぇ、有名なの?」


「それほど有名ではないけど、あの子ソロの冒険者だから気になってたの」


「ソロねぇ、なんかワケ有りみたいだな」


 この町で名のある冒険者は覚えておこう。



◆◆



 ようやく冒険者ギルドに到着した。


「なかなか遠かったな」


「ユウが寄り道ばっかりしてるからでしょ! 真っ直ぐ行けば5分もかからないよ!」


「そ、そうなのか」


 冒険者ギルドは3階建てで、床面積だけで900坪は有りそうな大きな建物だった。入り口のドアを開けると、ガヤガヤとさらに喧騒が険しくなった。


 ギルド内は飲んでいる冒険者で溢れている。ただ、冒険者は粗暴でオッサンばかりのイメージだったが、そうでもないようだ。確かにオッサンも多いが、小学生か中学生くらいの子らのパーティもいる。ちょうどパーティランクが上がったのか、はしゃぎ回っていた。


「やっぱり俺は天才だ! こんなに早くEランクに上がるなんてな!!」


 リーダーらしき少年がテーブルの上に立って大声で叫んでいた。


「うるせぇ、デカイ声だすんじゃねぇよ。こっちは二日酔いだってのに……!」


 いかつい冒険者に怒られ、3人とも真顔になるとピシッと気を付けし、静かに座った。


 しかし、あの年齢でも冒険者にはなれるんだな。まぁ魔法がある世界だ。強さは腕力だけじゃないか。


 彼らに限らず、他の冒険者たちも自分達で騒いでいるので入ってきた僕たちにはあまり気づいていないようだ。慣れたフリをしてギルド内を歩いて進む。


 ギルド内は天井にはシーリングファンがあり、テーブルがいくつも並べられている。入り口から向かって右手に受付、受付の隣に魔物などの受け取りカウンター、入り口から向かって左手には壁一面にビッシリと依頼書が貼られていた。入り口向かいにはバーカウンターがある。そちらでお酒が買えるようだ。


 と俺が物珍しさにギルド内を眺めているとレアが両手を合わせて謝ってきた。


「ユウ、ごめん。ちょっとここで待っててね! 依頼の報告してくる!」


「ああ、そうだったな」


 レアは受付に向かった。俺は空いたテーブル席に1人座り、報告の様子をぼーっと眺める。


 受付嬢は目鼻がくっきりとした美人な大人の女性で、ギルドの制服らしい白のYシャツにジレを来ている。髪はポニーテールのように後ろでくくられているが、カールがつき、ゆるふわな感じだ。その受付嬢はそれでいてまじめそうなタイプだ。

 受付嬢はレアが無事だったことに喜んだが、話を聞いて驚き、レア共々悲しそうな顔をした。


「そうでしたか、彼女らは勇猛な冒険者でした。残念です。ウワバミの件は上に報告しておきます。ありがとうございました」


 そう言って彼女はペコリと腰を折った。


「うん、ありがとう。あ、ちょっと待って! ユウの冒険者登録をしたいんだよ」


 ユウこっち! とピョンピョン跳ねながら手招きでレアが俺を呼ぶ。


「彼の冒険者登録ですね。かしこまりました。少々お待ちください」


 受付嬢はウワバミと亡くなった冒険者について、別の者に伝えると引き続き対応してくれた。


「お待たせいたしました。改めまして、ギルド職員の『ルウ』と申します。あなたがユウ様ですね?」


 正面から見ると目鼻のハッキリとしたすごい美人だった。しかもかなり胸が大きい。来ているワイシャツのボタンがはち切れそうだ。レアと比べても大きかった。


「は、はい。そうです。冒険者登録をしたいのですが」


 美人過ぎて緊張し、敬語になってしまった。


「わかりました。冒険者の規則についてはご存じですか?」


 首を横に振る。


「では説明させていただきます。まず…………」


 人差し指を立てながら、ルウさんが説明してくれた。


【冒険者ランク】

 F > E > D > C > B > A > S> SS > SSS


【依頼の受注】

 まず、依頼は自分のランクを含めた上下のランクしか受けることはできない。

 依頼を受けるには報酬の5%を前払いし、達成時に前払金は返還される。未達成の場合はその料金が罰則金の代わりになる。受注料が発生するのはDランクからで、内容によっては返金もある。

 ただし、緊急事態にギルドが依頼する特別依頼は対象外である。


【討伐部位】

 魔物の討伐は、討伐証明として討伐部位が必要。ただし討伐部位は魔物によって異なるため、事前に依頼書を確認する必要がある。


【冒険者同士の争い】

 後腐れを無くすためにギルドが正式に介入し、決闘スタイルをとる。


【ランクの更新】

 貢献度にも左右されるが、Cランクまでは大体自分のランクにあった依頼を20回クリアすると上がる。


 …………等だ。


「なるほど、おおよそわかった」


「では、こちらの水晶に手を当ててください。魔力を登録し、ギルドカードを発行します」


 言われた通りに手を当てる。


 水晶はぼうっと淡く輝いた。覗き込む俺たち3人の顔が水晶の光で照らされる。


「はい、これで完了しました。5分ほどでカードを発行したしますので、出来ましたらお声をかけさせていただきます。空いたテーブルでお待ちください」


「わかった。ありがとう」


 カードが出来るまでの間、受付近くの空いているテーブルで待っていると、若い男が一人近づいてきた。


「レアちゃん大変だったみたいだねぇ」


 短髪黒髪で糸目のひょろっとした男だった。180センチくらいの身長で着流しのような物を身につけ、腰には『刀』が差されている。


 へぇ、この世界にも刀があるのか。


「あ、フリーさん! お久しぶりです」


 レアが挨拶した。フリーというらしい。知り合いのようだ。


「久しぶり。お仲間のことは残念だったね」


 フリーも目を伏せて言う。


「はい……私もいきなりこんなお別れになるとは思っていませんでした。でも、いつか敵は討ちたいと思います」


 てかレア、ちゃんと敬語話せるんだな。意外だ。


「そうだね。レアちゃんならそのうちできるかもねぇ」


 ニコニコと話すフリー。


「ありがとうございます。あ、それと彼はユウです。今日から冒険者になりました」


 レアの紹介でフリーの糸目が俺に向いた。


「ども」


 軽く会釈をする。


「君も剣を使うのかい?」


 俺の腰に下げていた剣をチラリと見た。


「まぁ、そうだな」


 そう言うと嬉しそうに笑うフリー。


「お仲間だねぇ。レアちゃんとの知り合いでもあるし、君とは良い関係を築けると良いねぇ。よろしく」


 そう言ってフリーは右手を差し出した。


「ああ、ヨロシク」


 俺も手を出して握手をする。


 固い手のひらだ。かなり剣を握ってきたのだろう。



「ユウさーん」



 そのタイミングで受付のルウさんから呼ばれた。


「お、すまん。じゃあちょっと行ってくる!」


 受付に行くと、白色のカードを渡された。

 ランクによって人目でわかるようにカードは色分けされているらしい。


 金 S級:5000~

 銀 A級:2000

 銅 B級:500

 緑 C級:300

 黄 D級:100

 水 E級:50

 白 F級:30


 このカードにはすでに俺の魔力パターンが登録されているらしく、個人証明になるそうだ。また、世界中の冒険者ギルドで使用可能になる。


「冒険者の皆様は初めほど無茶をして命を落とされる方が多いため、ギルドではまず薬草の採取やスライムの討伐をお勧めしています。ですが、ユウさんはレアさんがいるので大丈夫そうですね」


 ニコッとレアに目を向けて言うルウさん。


「あぁ、その辺は大丈夫」


「…………説明は以上です。なにか質問はございますか?」


「いや大丈夫。わからないことがあったらまた聞きに来るよ」


「はい、今後のご活躍、期待しております」


 最後にもう一度ニコッと微笑むと、ルウさんは深くお辞儀をした。


 席に戻るとレアだけになっていた。フリーは帰ったようだ。


「お疲れ、登録は終わった?」


「あぁ、何かあったか?」


 そう言いながらとりあえずテーブルを挟んでレアの向かいの席に腰かけた。レアの手元には数枚の硬貨がある。


「フリーさんにお金借りたんだよ。私たち無一文だし…………。でもなぜか1日分だって言って、2泊分貸してくれたんだよ」


 首を傾げるレア。


「なるほど」


 それはおそらく1部屋2泊分じゃなくて2部屋1泊分だ。


「で、あいつは何者なんだ?」


「フリーさんは昔、私が冒険者を始めた頃に戦い方を教えてくれた私の先生だよ」


「あぁそれで敬語なのか。レアが冒険者を始めた頃って、あいつも若いだろ」


「うん。確か、ユウと同じで15才だけど、冒険者歴は長いみたいだよ。今ではBランクトップクラスの実力者で、この町はAランク冒険者がカイルさんって人が1人だけだから、町のナンバー2だって言われるほど凄い人なの」


「へぇ。確かに腕は良さそうだったな。そんな凄い奴だったのか」


「ユウと戦ったらどっちが強いんだろう?」


 ワクワクした様子で話すレア。


「さぁ?」



◆◆



 それから町の入り口まで行き、衛兵に冒険者カードを見せ、宿屋へ向かった。もうすっかり太陽は沈んでしまったが、魔石を使った街灯で柔らかい色合いの明かりが灯り、夜道も暗くない。


 多数の酔っぱらいとすれ違いながら宿屋へ到着した。


「ディッシュ亭か。旨そうな名前だなぁ」


 中に入ってみると客は少なく、5人だけだ。1階がレストランで2階が宿泊用になっているようだ。


 レアがフリーに借りたお金で亭主に代金を払うと鍵を受け取った。


 よし、早く稼いでお金を返そう。


「よしじゃあ。部屋へレッツゴー! 201号室だよ!」


「りょーかい!」


 そう言って、ニコニコ元気にレアも着いてくる。


「ん? レアの部屋はどこなんだ?」


「もう! 私もここに決まってるじゃん。ひどい! 廊下で寝ろって言うの!?」


 耳をピンと立てては頬を膨らませて怒る。


「え…………」


 こいつ本気でフリーが2部屋分のお金を貸してくれたことに気づいていなかったのか。危なっかし過ぎる。


「おま、馬鹿か?」


「違うよ! 皆馬鹿にするけど…………私は賢いもん!」


 小さく呟いて、プンスカ怒るレア。


 ああ、やっぱり皆にもそう思われてるんだな…………。


 少し気の毒になった。可哀想なものを見る目で見てしまう。

 


「いいから、また一緒に寝てよ!」



 怒るレアは廊下で大声で叫んだ。


「ちょ、おまっ、ここでそんなこと叫ぶなって…………!」


「外でも一緒に寝たじゃん!」


 俺に追い討ちをかけつつ、本人は泣きそうになっている。


「わかった! わかったからもう叫ぶな!」


 結局、俺が折れて同じベッドで寝ることになった。荷物をなくし、着替えもないので、レアは防具を外し、そのまま横になる。そしてすぐに寝落ちした。


 ぐーーーーっ。


「はやっ!」


 ヒソヒソ声で1人突っ込む。


 俺の葛藤はなんだったのか…………。それに、ダブルベッドとは言え、やはり2人では少し狭いため肩が触れ合う。


「…………だぁああ、もう!」


 寝息が聞こえる距離だからか、どうにもソワソワして眠れなかった。



◆◆



 だが、俺も疲れていたのか気づいたら朝だった。目が覚めると、レアは起きて窓からボーッと外を眺めていた。


 早いなと思ったが、窓から差し込む強い日光は朝ではないことを知らせていた。


「寝過ぎた」


 ぼさぼさの髪を押さえつけながら、ベッドに座った。


「おはよ! ほんとに寝過ぎだよ~。早く顔洗いにいこー?」


 駆け出したいかのように、足踏みをするレア。


 この宿は、裏の井戸を借りられる。行ってみると、もう昼に近いこともあり、井戸を使っている人は誰もいなかった。


 顔からバシャッと水で洗う。井戸水は冷たく気持ちいい。


「ぷは~やっとスッキリした」


「だよね。昨日はそのまま寝ちゃったし」


 苦笑いを返すレア。


「だな。今日は宿代を稼いで…………それから服を買いたいな」


 俺は着の身着のままアラオザルから出てきたため、今着ている1着しか持っていない。


「そうだね、しばらくはお金を稼がないと」


「あと、できれば風呂にも入りたい」


 森で暮らしてた頃は、基本自分の水魔法で体を洗っていた。でもたまにはゆっくりと温かい湯に浸かりたい。


「お風呂なんて貴族様くらいしか入らないよー?」


 不思議そうにそう言うレア。庶民の感覚では風呂は毎日入るものではないようだ。


「それでもだ!」


「そ…………そうなの?」


 俺の気合の入った声にレアは軽く退く。


「じゃ、じゃあ準備できたらギルドへ行こう!」


 ギルドへ向かうと、中にはもう数人の冒険者たちしかいなかった。かなり冒険者の朝は早いらしい。


 入ると受付にはルウさんがいた。こちらに気づいて会釈してくれたので、ルウさんの受付へと向かった。


「ユウさん、レアさん。おはようございます」


 丁寧に腰を折るルウさん。


「おはよう」


「おっはよー!」


「ユウさん、冒険者の朝は早いです。もう少し早く来た方が良い依頼がありますよ?」


 ニコッと立てた人差し指を上に向けてそう言われた。


「そうみたいだ。まぁ、今日は寝過ごしただけだし…………」


「そのようですね。あちらに本日の依頼が張ってあります。受けたいものがあればこちらへ持ってきてください」


 ルウさんが手で指す方には、壁一面に貼り付けられたさまざまな依頼書があった。


 フリーに借りた残り1日分の宿代はあるが、今日のうちにできるだけ稼いでおきたい。


「さてと…………」


 レアと並んで壁に張られた依頼書を順に見ていく。


「ユウなら何でも大丈夫だろうから、受けたいのあったらやってみよう!」


「だな」


【Fランクの依頼】

 草原でできる薬草採取、毒消草の採取、草原のはぐれゴブリンやスライムの討伐、町の排水溝の掃除、家の解体の手伝いなど。魔物の討伐は少ないようだ。それどころか肉体労働まである。


【Eランクの依頼】

 森の狼系魔物の討伐、ゴブリンの討伐など。

 ゴブリンは数が多く、基本いつでも受け付けているそうだ。ちなみにこの辺のゴブリンはゴブリンキングに率いられておらず、ザコしかいないらしい。だが、その繁殖率の高さから危険視されているようだ。


「ゴブリンの討伐はどうだ? 無難なとこだろ?」


「いいんじゃないかな? まだ余裕はあるだろうし、いくつか受けようよ」


 確かに。レアはCランク冒険者だからな。


「そしたらコレと、コレ。薬草と毒消草の依頼もやっておこう」


 俺は下の方にある依頼書を見ながら言った。


「良いね!」


 というわけでルウさんの元へ向かう。


「はい、それではこちらで承ります。ギルドカードを」 


 ルウさんは俺たちから依頼書を受け取り、書類にチェックをいれていく。ものすごくテキパキとしている。最後にギルドカードを見せて依頼を受領した。


「はい! これで了承しました。気をつけて行ってらっしゃい」


「ありがとう! 行ってくる!」


 ルウさんはニッコリと手を降ってくれた。



◆◆



 町を出て徒歩5分の平原へやってきた。遠くにはちらほらと他の冒険者の姿が見える。見通しの良いこの平原は初心者の冒険者にちょうど良いらしい。足元には踏みつけに強い背の低い草花が生え渡っている。

 今は青空で天気も良く、牧場のような草原だ。


 見渡す限りを鑑定し、目当ての薬草と毒消し草が生えている一帯を探す。


「あった。あの辺だな」


 賢者さんの鑑定と空間把握を併用し、どんどん薬草と毒消草を見つけていく。指示した場所をレアは持ち前の敏捷力で回収する。1時間ほどで持ってきた背中に背負うカゴがいっぱいになったので、衛兵の詰所で行っている荷物の一時預かりサービスを利用してカゴを預けてきた。


「さて、後はゴブリンだな」


 下を向いて薬草を採っていたので、グルグルと凝った腰と肩を回す。


「うん! 見つけられそう?」


「待ってくれ、やってみる」


 半径1キロをカバーできるようになった高位探知を発動する。


 森のすぐそばに生き物の反応を感知。千里眼を発動すると青い毛色をしたアグボアが見えた。


「青いアグボアが見えるんだけど?」


「ほんと!? そ、それブルーボアだよ!」


 レアが猫耳をピンッ! と立てて驚く。


「ブルーボア?」


「うん、レッドボアより強くてBランクの魔物だよ。こんな町の近くに出るなんてやっぱりあの蛇の影響かな」


「なるほど、どうする?」


「私たちなら何とかできるかも。始めたての冒険者が襲われたら大変だし!」


「よし」


 というわけで、ブルーボアを倒しに向かった。


============================

ブルーボア

Lv.40

HP:453

MP:960

力:523

防御:396

敏捷:571

魔力:795

運:91


【スキル】

・アイススタンプLv.4

・ファングブレードLv.2


【魔法】

・氷魔法Lv.4

・水魔法Lv.2

============================


 なるほど。氷に特化したレッドボアみたいだ。普通に倒してもいいんだが…………そうだ。良いこと考えた。


「なぁレア、風魔法の練習したくないか?」


 突然の提案にキョトンとするレア。


「そ、そりゃしたいよ。まだあんまり練習できてないし」


「わかった」


 俺はブルーボアに正面から近付く。というより、これだけ開けた草原だと隠れる場所もない。


「フガッ、フガッ!」


 草をむしゃむしゃ食べていたブルーボアは俺に気づき、戦闘体勢になった。

 ヤツの前足の肩から尖った氷柱が生え、脚を踏み出すたびに足元の草がパキパキと凍っていく。なかなか迫力のある光景だ。


 ブルーボアの魔力が高まり、白い冷気が辺りに漂い始める。


「ほい、結界」


 ブルーボアの4本の脚それぞれを、結界が一瞬で拘束した。


「ブ!?」


 突然動けなくなり、わけがわからずブルーボアは慌てる。脚を動かそうとするも、1本すらびくともしない。


「ブガッ!」


 原因が俺だと気付いたのか、俺を睨み付けるブルーボア。

 奴の前に氷魔法で氷の槍がパキパキと形成されると、俺に向け発射された。


「ほい」


 パキィン…………!!


 棒立ちの俺の目の前に透明な結界を配置。ぶつかった氷の槍が砕けて消滅した。


「ブガッ!?」


 動揺するブルーボア。


「よし。じゃあアイツで風魔法の練習だ」


「えっ…………あのまま攻撃するのはさすがに可哀想じゃ…………」


 気が退けた様子のレア。


 やっぱりそうだよな。女の子にこのやり方はないか。


「わかった。やっぱりやめ…………」


「でも実際に魔物相手の方が緊張感もあっていいかも。よし!」


 言いかけたところでレアはやる気を出した。


「やるんかい!」


「風よ!」


 俺のツッコミを聞くまでもなく、さっそくレアは右手を突き出して躊躇なく魔法を放った。見えない風の塊が巨大なハンマーのようにブルーボアを打つ。


「ブァッッ!」


 ブルーボアは脚を固定されているため、転がることすらできず、その場で仰け反る。ミシッと、ブルーボアの身体に大きなダメージが入った。


「ナイス! じゃあ今度は風を小さく圧縮して速度を上げられるか?」


「んー? …………あーね! なるほど、やってみる!」


 レアは勝手に納得した様子で、同じくらいの風の塊を魔力でつくってからギュッと圧縮した。圧縮された風は小さいながらも凄い豪風になっていることが魔力感知を通してわかる。


「おりゃあ!」


 ぶん投げるように風を飛ばすレア。


 風がブルーボアに貫通はしないまでも深く食い込んだ。そして風が拡散し、傷口を広げる。


 ガガガガッ!


 ブルーボアの血が煙のように舞った。


「ブガッ…………」


「おお~、面で攻撃するよりも威力が高いね!」


「ああ。魔力操作はアレンジが効く。強みの1つだな。だが、その分イメージが大切になるし、練習が必要だ。詠唱魔法は誰でも使えるという面では優れているが、使いこなせればこちらの方が強い」


 レアはうんうんと頷きながら熱心に俺の説明を聞いてくれている。


「じゃ、どんどんやって慣れてみるか」

  

「うん! エアカッター!」


 風がブルーボアを切り裂く。レアは元からある魔法を再現してみているようだ。


「次は防御だ。ほら来たぞ!」


 ブルーボアがレアに向かって雹のような氷のつぶてを100発ほど連続で放つ。


「エアウォール」


 ブルーボアが飛ばす氷魔法を受け止めることができた。そして、風に巻き取られた氷は地面へと落下する。


「すごいね! 見たことある魔法も簡単に再現できるなんて!」


「それはレアの才能だな。普通はもっと時間がかかるはずだ」


 そこでちらりとブルーボアを見る。


「とりあえずは、こんなところか。かなりダメージが入ったみたいだな。後1つ試してみてほしいことがあるんだが…………」


 ブルーボアはすでに全身ズタボロで瀕死の状態である。そろそろ倒してやらないと可哀想だ。


「なになに? どんなの?」


 興味津々なレア。


「風を纏ってみてほしい。魔力操作で体の外に出した魔力を風属性に変換するんだ」


「ちょっと難しそう」


 ムムムと眉間にシワを寄せて魔力を操るレア。しかしこれだけ魔法を使って魔力が枯渇しないのはさすがだ。


「ああ、これは難易度が跳ね上がる。だがレアなら…………」



「あ、できた」



 レアの身体の周囲1メートルに猛スピードで風が竜巻のように渦巻いている。


「はやっ!!」


 さすがは加護を持っているだけあってコツを掴むのが早い。レアは楽しそうに自身を取り囲む風の渦とたわむれている。


「じゃあその状態で走ってみてくれ」


「走るの…………」


 軽くレアの背中を魔力で押した。


「…………て、うわああぁぁぁぁ……ぁ……………………………………ぁ……………………ぁ…………!」


 走り出すと風を撒き散らしながら、一瞬で見えなくなった。草原の草花が舞い上がってヒラヒラと降ってくる。

 かと思えば



 ブオオオオオオオオオオン!!



「ユウーーー! すごーい! はやーーーい!」


 強風と共に一瞬で戻ってきて、俺の目の前で停止した。


「まるで風になった気分っ! 魔力にこんな使い方があるなんてね!」


 爽やかに興奮した顔で驚いていた。


「まぁな、これも俺のオリジナルだから」


「ええ!? ユウが考えたの!? すごいスゴすぎ! 天才だよー!!」


 レアが目を輝かせて俺の手を握ってはブンブンと振る。


「なはは、じゃあ最後にもう1つ!」


 気を良くしたというか、レアなら使えるかもしれないと思い教えることにした。


「なに? まだあるの!? 教えて!!」


「わかったわかった。でもこれは諸刃の剣だ。威力はデカいが魔力の消費が激しい。ここぞという時の必殺技だな」


「うん! うん!」


 必殺技と聞いてレアの中二病心に火が付いたようだ。


「やり方は剣に魔力を纏わせて攻撃するだけだ」


「なんだ、簡単だね!」


 さっそく剣を抜くレア。


「だが、実際やるのは難易度が高い。コツは剣を自分の体だと考えることだな。まぁそこが一番難しいんだが……」


「おっけーー!」


 再び風を纏った状態のレアは、髪の毛が舞い上がり、服も激しくはためいている。なんとも言えない迫力がありカッコいい。この状態ならBランクの魔物も1対1で倒せるだろう。


 レアはその状態で、ゆっくり歩き出した。ブルーボアの目の前まで来るが、ブルーボアは瀕死の状態でもはや攻撃する元気もなく、ただレアのことを睨み付けている。早く楽にしてやろう。


 レアは剣に魔力を纏う。しっかりと剣にレアの風が絡み付いている。


「げ……1発で出来るようになった!?」


 レアは、野球のアンダースローのように体をひねりながら剣を持った右手を下から振り上げた!


「おりゃっ!!」



 ズバァアアアアアアンッッッッ…………!!



 風で空気ごと切り裂き、ブルーボアは縦に真っ二つになった。風はそれだけにはとどまらず、後ろの地面に2メートルほどの深い溝を作った。溝からは摩擦のためか白い煙がシューシューと上がっている。


「あれ? ふあ、だめ…………」


 それを放った後、レアはその場にペタンと女の子座りで座り込んだ。


 やはりかなり魔力を消費したようだ。


「おいおいまじか…………」


 本当に一度で成功させるとは、コツを掴むのが早すぎる。さすがは加護持ち、天才だ。


 レアは片手を地面につきながらグッとサムズアップした。


「ただ、威力の調節が必要だな」


 俺はブルーボアの背後まで突き抜けた技の跡を見ながら言った。


「うん、これ、すごいけど…………はぁはぁ、魔力の消費量が…………んくっ……半端じゃ、ない」


 反動が来たのだろう。息も絶え絶えにレアが答えた。


「ああ。実際は撃つ瞬間だけとか、地面を蹴る時だけとか、調節するんだよ」


「…………はぁ、はぁ……なるほど。うん、これは練習しないとね」


「そういうこった。でもさすが呑みこみが早いな」


「へへん。でしょ~」


 座り込んだまま、こちらを見上げてニシシとやりきった笑顔で答えるレア。


「ほら、調子に乗るな…………って…………ん?」


 その時、探知に20匹くらいの魔物の集団がかかった。その集団に3人の人間が追われているようだ。


 ウルフ系ならもう少し、数は少ないはず…………となるとゴブリンか。


「レア、やっと依頼のゴブリンが出たみたいだ。誰か追われてるみたいだから、ちょっと狩ってくる。そこで休憩しててくれ」


「うん、気を付けてねー」


 座り込んでいるレアはヒラヒラと手を振って俺を送り出した。


 反応があった場所に向かうとやはりゴブリンだった。ブルーボアに追われて逃げてきた奴らだろうか。

 ちなみに人間界内のゴブリンはゴブリンの王国『アーカム』に属していない野良ゴブリンだ。そのためか、装備もその辺の木から作ったこん棒で弱い。


「うしっ、やるかー」


 そう言って剣を抜きながらゴブリンの群れの前に割って入る。先頭のゴブリンは俺を見て、ニヤニヤと喜び笑い声を上げた。だが、それはすぐに悲鳴へと変わる。




「「「「ギャギャギャ…………ギャ? ギャギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」」




 ーーーー1分後。


 ゴブリンの死体の山が出来上がった。


 追われていた3人組のグループは、昨日俺が冒険者登録しにギルドに行った時、騒いでいた少年少女の3人だろう。

 俺が割って入ったのに気付かず、走り続けていったため無事に逃げられたようだ。あんまりEクラスに上がったからって調子に乗らないことだな。


 ゴブリンたちの討伐部位の左耳を回収してレアのもとに戻ると、レアはブルーボアを解体してくれようとしているところだった。


「お、お疲れ様~」


 フラフラになりながら剣をブルーボアに刺している。


「休んでていいのに、俺も手伝うから待ってくれ」


 駆け寄って解体を手伝った。


 それから、魔法の実験台にしたため傷んだ箇所は焼却し、解体して剥いだブルーボアの革に高く売れそうな牙や心臓、旨そうな部位の肉等を乗せ、2人で仲良く町まで運んだ。



◆◆



「っっ!? ブッ、ブブブブルーボアですかっ? これ!」


 ギルド受付のルウさんは目を丸くし、前のめりで聞いてきた。


「そう。森近くの平原に出たんだ」


「そんな町の近くで!? ということはレアさんとユウさんが倒されたんですか?」


「そうだよー」


 うんうんと頷くレア。


「まぁほとんどレアだったけど、あとこれ」


 そう言いながら薬草、毒消草、ゴブリンの左耳をドサドサとカウンターへ置く。


「こんなにたくさん…………! ブルーボアについてはギルド長に報告させてもらいますが、よろしいですか?」


「わ、わかった」


 げっ、ギルド長案件なのか? めんどくさい。


「あと、レアさんは現在Cランクですがブルーボアを倒すとなるとBランクも近いようですね」


 ルウさんが嬉しそうに言った。


「みたいだな。な、レア」


「まぁねー」


 さっきからずっとご機嫌だ。自分の必殺技ができて嬉しいのかもしれない。


「こちら、薬草、毒消草どれもすべて状態の良いものばかりでした。これで4000コルです。ゴブリンは1匹あたり200コルですので……」


「20匹で4000コル、合わせて8000コルだな」


 なんだか久々に掛け算をした気がする。


「すごい、算術も得意なんですね!」


 手を合わせながら誉めてくる美人受付。照れ隠しにポリポリと頬をかきながら答える。


「ま、まぁこの程度なら」


 これで誉められるとか、この世界チョロいぞ。地球の学術レベルが高くて良かった。


「ちなみにブルーボアは依頼外ですので報酬は出せませんが、もちろんギルドとして討伐していただき感謝しております。ですのでギルドで買い取るとなれば、幾分か上乗せさせていただきますが、いかがされますか?」


「そうだな。肉は売りたいが、何か武器に加工できる素材はあるか?」


 そう尋ねると、一瞬考えてからすぐに答えてくれるルウさん。


「でしたら牙は加工してナイフか短剣にできますし、革は防具になります。武器屋と防具屋を紹介いたしましょうか?」


「お願いしたい」


「かしこまりました。後で紹介状をお渡しします。他は売却でよろしいですね?」


「ああ」


「かしこまりました。査定してきますので、しばらくお待ちください」


 そう言われ受付を離れ、テーブルに座る。


「ユウは武器を作りたいの?」


「まぁ、いくつかあってもいいかなと思って。レアもその剣1本だけだろ?」


 そうレアの腰に差している剣に目を落とす。


「うん、確かにいざという時助かるかもね」


 その時、


「おいお前!」


 後ろから下品な声がかけられた。

 振り返ってみると、頭のてっぺんに少しだけ毛を残したデブがいた。よく見るとただのデブではなく、筋肉もそれなりについている。


「…………」


 レアはそいつを見て若干、目をそらした。


 こいつなんで上裸なんだ? レアが嫌がってるだろ。セクハラで訴えるぞ。


「なに? なんか用事?」


 据えた目で見返す。


「お前らがブルーボアを倒したんだって? けっ、そんなわけねぇ! お前は昨日冒険者登録をしてた。そこのひょろひょろの娘に倒せるはずもねぇ! イカサマだろ? 違うか!?」


 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら大声で騒ぎ立てるので、周りが俺たちに気が付き始めた。心当たりがないのでただ正直に答える。


「いや、違うけど」


「違うわけあるかっ!!」


 事実をそのままに答えた俺に、食いぎみで男は怒りを顔に表した。


「いや、だから違うけど?」


「てめ…………この卑怯者が! 皆聞け! こいつはその娘に金を借りてブルーボアの死体をどこかから仕入れやがった! てめぇ、そこまでしてランクを上げたいか!」


 この男は両手を広げて、ギルド内の人たちに聞こえるように言う。


「は…………?」


 言い掛かりも甚だしい。俺はやってもないことを勝手に決めつけられるのは嫌いだ。

 椅子に座って振り向きながら、俺は気付けばその男に感情のままに怒気を向けていた。


 ピシィッ…………!!


「なんっ……だ? あ、ぁ…………?」


 男の額から嫌な脂汗が溢れ出し、ガクガクと膝が震え出している。


「なっなんなんだ、これぇ!」


「あ…………」


 ついつい出ていた殺気を止めると、男の震えも止まった。彼は何かの間違いだと思うことにしたのか、後に退けなくなったのか。


「イ、イカサマを黙っててやるから、ブルーボアの報酬をよこせ!」


 手を俺に向けて寄越せと手招きする男。


 小物過ぎて滑稽だ。


============================

名前 コブロ43歳

種族:人間

Lv :21

HP :524

MP :304

力 :695

防御:352

敏捷:311

魔力:343

運:5


【スキル】

・剣術Lv.4

・解体Lv.4

・探知Lv.2


【魔法】

・火魔法Lv.4

・土魔法Lv.2

============================


 なかなか戦える小物のようだが、俺の相手にはならない。


「何度でも言うが、イカサマはやっていない。お前こそ俺たちの手柄を奪いたいだけだろ?」


 この騒ぎに周りの冒険者たちが勝手にざわつき始めた。



「はっ! またコブロの奴やってるぜ」


「あの新人も可哀相にな」


「下にしか偉そうにできないクソ野郎はいつか痛い目に合うさ」


「止めてやらないのか?」


「待て。今あの小僧」


「ーーーー」


「ーーーーーーーー」



 コブロというこの男はこういう手口で有名らしい。


「ふっざけんな!! 俺がせっかくイカサマを黙っといてやるって言うんだ! 先輩の言うことは聞け!」


 イライラとさらに怒りを滲ませるコブロ。


「うっさいわハゲ。早く目的を言え」


「はっ、はげ…………?」


 ハゲは言われたくなかったようだ。


「…………くくく、いいだろう。ここまで騒ぎを大きくしたのはガキ。お前だぞ?」


「もったいぶんな。なんだかんだ言い掛かりをつけて、決闘に持っていきたいだけだろ? どうぞご自由に」


「ユ、ユウ?」


 レアがオロオロしてる。


「クッ、クソガキが!! お前が負けたら身ぐるみ全部置いていけ! そこの女も俺がもらう!」


「は…………? おい、なんでレアが出てくる!」


 こいつの『もらう』はパーティメンバーにする、なんてニュアンスじゃない。モノに対する言葉だ。レアは奴隷でもなんでもない!


「その女もグルだろうが!」


「そこじゃねぇ、なんでレアが景品扱いになってんだ!」


 あまりにも筋の通らない理不尽な言いがかりにイライラがつのる。


「うるせぇ、早く認めねぇとわかってんだろうな!?」


 相手も怒鳴り返しては、剣に手を掛けようとしている。


 話が通じねぇ。こいつがその気ならこの場でやり合って殺してやろうか…………?


 思わず魔力を右手にこめる。


「てめ…………」



「待ってください!」



 と、間に現れたのはルウさんだった。キリッとした目力で俺とこの男を睨むように力強く言う。


「私闘は禁止です! 決闘ならギルドが立ち会います!」


 ギルド職員だとしても女の人が冒険者の争いを止めに入るには勇気がいるだろう。握りしめた右手が震えていた。


 申し訳ない。ルウさんを見て頭が冷えた。


「ふうっ…………ごめんルウさん」


「いえ、お気になさらないでください」


 はっきりと俺の目を見て言った。


 この人は凄い。強いな。


 再びコブロを見て言う。


「おいお前、そこまで言うなら決闘は決まりだな。ちなみにレアは俺の所有物じゃないから賭けられない。まずは互いの全財産からいこうじゃねぇか……!」


「はははっ! 良いんだな。これでお前は死んだぞ!」


 コブロが勝ち誇った顔で俺を見た。


「どうだか」


「こちらへどうぞ」


 そして俺たちはルウさんに連れられるがままに案内された。

読んでいただき、ありがとうございました。


※過去話修正済み(2023年9月9日)

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