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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第5章 戦争
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第120話 ゲヘノム火山

こんにちは。

ブックマークや評価いただいた方、有難うございます。とても励みになります。

第120話です。今回は少し閑話に近いです。

宜しくお願いします。


 2日後、宿の窓際に座りフリーが、頬杖をついて外を眺めながら言う。


「王都は皆こんなに忙しそうなのに、僕らは暇だねぇ」


 そう。窓の外では戦争に備えて様々な人が慌ただしく動き回っていた。小雨が降る中、大荷物を積んだ馬車が何台も通りを走っている。


「準備は兵士たちや非戦闘員の皆が進めてくれてるからな。戦争が始まれば嫌でも働くさ。それまで俺らは休んでくれってことだろ?」


「もう十分休んだよねぇ」


 退屈そうにフリーは言う。外はどんよりと暗く雲ってきた。


 指揮官の俺たちは、兵も集まりきっていない今はまだ出来ることが少ない。

 兵士たちをおよそ300~500人単位で分け、その集団のトップには戦争に精通した騎士団や傭兵が配置することになっている。素人がいきなり中間管理に当たる指揮を行うのは難易度が高いからだ。集団戦法等の練習は彼らが請け負ってくれているので、俺たちは戦場での連絡の取り方や指揮の合図の確認を行うのみだ。


「相手の大将は龍騎士だってねぇ。龍って美味しいのかな?」


 なーんにも考えてなさそうなフリーが言った。


「火竜は旨かったんだから、龍はもっと旨いに決まってるだろ?」


「いやぁ楽しみだねぇ。じゅるるる」


【ベル】ちょ、ちょっと、馬鹿な会話してないで緊張感を持ちなさいよ。


 いや、まぁ、な?


 多分フリーも重い雰囲気になりたくなかっただけだ。



 しばらく沈黙した後、結局フリーは言った。


「兵士は何人死んじゃうのかなぁ。1人1人に家族や恋人がいるんだよねぇ……?」


 フリーが外を歩く人々を眺めてポツリと呟く。


 外は、ザーザーと雨が降り始めたようだ。水滴が激しく窓を叩く。


「…………」


 それに関してすぐには何も言えなかった。そして、考えた挙げ句…………。


「…………俺も、いや俺だって戦争なんかしたくねぇんだよ」


 本音が出た。



 俺は不幸に合う人々を救いたいだけなんだ。デリック、俺はそれどころか人を殺すことになりそうだよ…………。



「ねぇユウ。今の…………僕たちに出来ることはなんだと思う?」


 フリーにそう聞かれた。


 それは俺も考えてたことだ。


 攻められる以上、戦争は避けられない。なら、できる限り被害を少なくする。そのためには



「可能な限り早く、敵大将の首を取ることだ」



 それ以上でも以下でもない。


「そう、だよねぇ。つまり…………」


 言いかけるフリーを見た。


「今僕たちがしなきゃなんないのは…………」


 フリーと目があった。




「「俺ら(僕ら)が……………………」」




 その時、


 コンコン。


 ドアがノックされる音が聞こえた。そして、ドアを開けて入ってきたのはアリス、レア、ウルの3人だ。


「どうし…………」


 俺が話す前にアリスが遮った。


「ユウ、フリー。あたしたちにはまだ時間があるわよね」


 アリスが芯のある声で、俺を真っ直ぐに見ながら言った。


「ん?」

  

 アリスたちも話し合いたいことがあるのか……?


「私たちにできるのは、ギリギリまで強くなること。そうじゃないかな?」


 レアが珍しく真顔で言う。


「俺ら、できるだけ皆を死なせたくねぇんだよ」


 ウルが拗ねたように口を尖らせて言う。


「なるほどな…………」


 アリスたちの部屋でどんな話になったかはある程度想像がつく。皆考えることは同じだ。


 そう。味方を死なせたくないなら、




 俺たちが強くなればいい。




 簡単なことだ。ついさっき、俺とフリーが出そうとした結論と同じ。


「そうだな」


 俺はベッドから、勢い良く立ち上がった。


「アリス、この国で一番ランクの高いダンジョンは?」


 そう聞くとアリスはテキパキと話す。


「すでに調べてあるわ。ここから馬車で南へ20日、Sランクダンジョンの『ゲヘノム火山』!」



◆◆



「あ゛あ゛熱ぃ…………!」


 火山ガスと火山灰で日中も分厚い雲が立ち込めているゲヘノム火山へと来ていた。

 ここはなだらかな斜面に沿って粘度の低い、水のように流動的な溶岩がサラサラと噴火口から流れては枝分かれし、数えきれない本数の川を作っている。火口から吹き出る噴煙で雷が時折光っているようだ。そして薄暗さの中、常に溶岩が赤い光を発しており、このダンジョンは天からではなく地表から照らされている。

 また、冷えて黒く固まった溶岩の地面は地下のマグマの圧力で盛り上がり、ヒビが走っている。そのヒビ割れからは地下を流れるマグマの赤い光が漏れていた。


 下級冒険者であれば超高温のため、この場に立つことすら不可能な環境。一息呼吸をすれば、熱い空気が一瞬で肺細胞を焼き尽くす。俺たちですら手前の町で耐火装備のフード付きローブを購入し、準備を整えていた。

 このローブがあれば跳ねた溶岩が付着しても火傷を負うことはない。


 誰も冒険者のいないダンジョンの入り口に到着した。入り口と言っても何もない。ただ、溶岩が冷えて固まった山肌がむき出しの活火山だ。


 俺たちは様子見でゆっくりと1合目を登り始めた。


「アリス、お前大丈夫か?」


 氷属性に特化したアリスが心配だ。


「大丈夫よ。ワーグナーの修行で長時間氷属性の魔力を纏うことに慣れたからね。あたしは快適なの」


 本当に涼しそうな顔で言った。


 熱に弱いかと思ってたが、どうやら魔力で熱をねじ伏せているようだ。


「むしろあなたたちは大丈夫なの?」


 汗1つかいてないアリスが皆に聞く。


「熱いに決まってんだろアリス姉ー」


 ウルがパタパタと首もとを出して扇ぐ。


「風を起こしても熱い風がくるよおおお!」


 泣く泣く言うレアの風はここら一帯が熱いため、冷却用には意味をなさないようだ。


「そりゃそうだろうねぇ」


 フリーは苦笑いだ。フリーはいつもの着流しの上からローブを羽織っているため、余計に熱そうだ。


「アリスちゃん、ボスは火口なの?」


 レアが案外近そうに見える火口を見つめる。


「ええ。火口は見えてる分、道は簡単よ。後はとにかく溶岩を避けて通れるルートを探しながら進みましょう」


「了解!」


 溶岩の固まった黒いボコボコの地面を踏みしめて歩いていく。


「すげぇ! これが溶岩かよ!」


 表面だけ黒くなって固まりかけの溶岩をウルが興味深そうに眺める。内部はまだ液体のようで表面がブヨブヨと揺れている。


「ウル、あんまり近付いたら溶岩が跳ねるからねぇ?」


「ん?」


 フリーがウルを注意したその時、その溶岩がボコボコと動いた。


「下がって! 来るよ!」


 レアがそう言いながら剣を抜いた。


 のそのそと溶岩の中から現れたのは、見た目はサンショウウオの魔物だ。俺たちは一度距離を取るべく後退した。


「こいつは………サラマンダーか?」


 コルトの町の近くで一度カートたちと戦ったことがある。


「その亜種ね。おそらくこの環境に適応して、さらに熱に強くなった個体でしょう」


【賢者】ラヴァサラマンダーです。溶岩に適応しているため、ほぼ火属性の魔法は無効化されます。


 なるほど。


 大きさは尾まで入れて4メートルほど。通常のサラマンダーよりは小型だ。


 一番先頭にいたレアが剣を抜いた。


「エアロボルテックス……変形!」


 レアのユニークスキル『エアロボルテックス』で高速回転する空気の渦を生み出すと、ドリルのような円錐形に変形させた。それはラヴァサラマンダーの方を向いている。

 そこにレアが浅く踏み込み、必要最低限の動きで剣を突き出した!



 ドシュウ……………………ウウウン!



 一瞬でエアロボルテックスを剣に纏わせ、それを発射した。超高速に渦巻く空気の塊がラヴァサラマンダーの横腹に直撃し、貫通。


「グ、フェ…………!」


 身体に30センチほどの穴を空け、絶命。ラヴァサラマンダーはベロリと長い舌を口から出したまま動かなくなった。


「やたっ!」


 レアが小さなガッツポーズをしてニコニコと喜ぶ。


「さっすがレア姉!」


 ウルがレアにハイタッチをしに行った。と喜んだのもつかの間、


「いやぁ喜ぶのは早いみたいだねぇ」


 前方からズシンズシンと歩いてくるは、燃え盛る7メートル級の岩石ゴーレムだ。


「あれ、いっていいかい?」


 フリーがゴーレムをちょいと指差した。


「任せた」


「りょーかい」


 フリーはグググッとしゃがむように足にためを作ると、ドヒュンと一気に加速した。そして前傾姿勢で滑るように走りながらスラリと刀を抜く。


 フリーに反応したゴーレムが右腕を上から振り下ろし、叩き潰そうとする。だが、その腕はフリーに真上から直撃する瞬間にスパンッと斬り跳ばされ、ズンッと落下した。

 そしてフリーはゴーレムの目の前の股下に滑り込むと、刀を下から上に静かに振り上げる。



 ズパンッ……………………!!!!



 ゴーレムはバキバキという音と共に左右に分かれ、崩れ落ちると沈黙した。


「おーい、魔石は壊さないでくれよ?」


 俺たちは後で追い付いた。


「あ、そうだったねぇ」


 フリーが粉々になった瓦礫に歩み寄ると、魔石を拾い上げた。


「ほら。大丈夫みたいだよ」


 そう言って投げて寄越した。


「おう、サンキュ」


 キャッチすると同時くらい


 


 ゴ、ゴゴゴ………………………………!!




 突然足元が揺れ出した。


「今度は何!?」


 皆がアワアワと辺りを見渡す。


「おい、下がれ!」


 慌てて大きく後退する。揺れがさらに激しくなり、火口に向かって左の方から地面が隆起した。 


「あれは…………手?」


 メリメリと地面から剥がされるように5メートルほどの岩でできた手が持ち上がると、前の地面にズシンと手をついた。そして、さらに揺れが激しくなると目の前が大きく隆起していく。


 ズゴゴゴゴゴ…………ッッ!!


 右手で身体を持ち上げるように現れたのは、赤く怪しく光る溶岩の身体をした、体高25メートルを越すロックタイタンだ。所々、溶岩が身体から溢れだし、ボトボトと流れ落ちている。


「で、でけぇ…………!」


 5人で見上げる。


 これはAランク上位、もしくはSランクすらあり得る!


「ここはあたしが」


 アリスの魔力が一瞬で練り上げられると、ロックタイタンの胴体のど真ん中を太さ3メートルはある巨大な氷柱が貫いた。それは1本だけでなく、続いて右肩、左肩、そして頭も同じようにズッ、ズッ、ズッと氷柱が貫く。



「ゴオ…………ォォ……………………」



 悲鳴のような声をあげると、だらりと脱力し、氷柱に縫い付けられたまま動かなくなった。そして身体の溶岩の光が消えたかと思うと、ドガガガガガと岩の身体が崩壊した。


「これ、多分フロアボス扱いだよな? アリスすげぇな。瞬殺かよ」


「まぁね」


 アリスは何でもないとクールに言うが、言葉の端々に褒められて嬉しそうな気配が乗っているのを俺は見逃さない。


「くそぉ俺も活躍してぇよユーーウーー!」


 俺の頭に飛び付いて、頭をポカポカ殴ってくるウル。


「いだだだ!」


 ウルを掴まえて地面に下ろす。


「ウルは得物がナイフだからデカイ魔物相手は向いてないんだよなぁ」


「もう何でもいいから次の魔物は俺が行くぞ!」


 そう言いながら後ろ向きに歩いていくウル。その真横には隆起した壁面があった。


「はいはい…………って、ウルそこはダメだ!」


「へ?」


 ボコォッ…………!


 ウルの真横の岩が持ち上がったかと思うと、中の洞窟から5メートルはあるタラテクト種が現れた。どうやら、岩で巣を蓋しておき、通りかかった獲物を狙っていたようだ。


「おっ…………とぉ!」


 ウルは振り返りながら柔軟に上体を反らして、前足2本を振りかざすタラテクト種の攻撃を回避した。


 そうなんだよなぁ。ウルにはロクに攻撃が当たらねぇんだよ。


「キシャアアアアア!」


 地面を砕き、避けられたことに鳴いたのかと思えば違う。これは悲鳴だ。

 上半身を地面スレスレにまで反らしたまま、ウルはいつの間にか両手に持っていたナイフを交差するように振り、タラテクト種の2本の脚を切断していた。

 断面から紫色の血液を撒き散らし痛がるタラテクト種。


 そのままタラテクト種の腹の真下へと滑り込むと、ナイフを柔らかい腹に突き立てる。そして、ウルは無邪気に声を出す。



「うりゃりゃりゃりゃりゃあああああああああああああああ!」



「キシャアアアアアアアアア!」


 ウルは、タラテクト種の悲鳴と共に、お尻の部分までナイフを腹に刺したまま走り抜けた。ドバドバと内臓と血液を撒き散らしながらタラテクト種は息絶える。


「しししし! どうだ!」


 タラテクト種の血液を頭から被ってドロドロになりながら、俺たちの方を向いてピースした。


「はいはい」


 ザバァッと水魔法をぶっかけて汚れを落としてやる。


「Sランクダンジョンって、あんまり大したことねぇな」


 ウルは犬のようにプルプルッ! と頭を振って水気を飛ばしながら言う。

 

「油断すんなよ。当たり前にタラテクト種が出てくるんだからな」


 それからどんどん魔物を狩りながら山頂を目指して歩を進めていく。出てくる魔物は火属性のものばかりだ。身体が溶岩でできたラヴァスライムやサラマンダー、溶岩の甲羅を背負ったフレアタートル、溶岩を根から吸い上げ養分にする植物型の魔物ラヴァプラントというものまでいた。特にサラマンダーは斜面を見渡せばどこにでもいる。このダンジョンではゴブリンのような扱いのようだ。


 そうして歩き始めて5時間ほど、山頂が大分近付いてきた。ここまで5人で狩った魔物は200体以上になる。


「もうすぐか。このダンジョンは狭いな」


「ワーグナーのに比べるとね。普通はもっと溶岩に邪魔されて進めないものなのよ」


 アリスと俺が、通れない溶岩の川を魔法による力業で無理矢理に道を作ってきた。


「油断しちゃだめ。ここのダンジョンボスは特に強いことで有名…………」


 と、その時。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………………!!



 また地面がガタガタと揺れる。さっきよりも大きい。俺たちも誤って溶岩に落ちないよう、身を屈めた。


「なんだ? またタイタンか?」


 地面に探知を向けるが反応はない。


「うううん。これ火山の地震だよ!」


 地震に驚いたラヴァサラマンダーたちが逃げるように溶岩の川にドボン、ドボンッと飛び込んでいく。そして、




 ドッッ…………パァアアアンンンンッ……………………ッッッ!!




 火口から溢れ出すようにドパドパと勢いよく溶岩が流れ出した。



「噴火だああああああ!!!!!!」



 噴火で飛び出した溶岩の水滴が近くの地面に落下し、激しくパチチチッ! と火花を散らした。すぐさま溶岩の波がドパァンと目の前にまで迫ってくる…………!


「ユウ!」


 フリーが溶岩から目を反らさずに俺を呼んだ。


「ああ、任せろ」


 土魔法を使い、周囲の地面を高さ3メートルほど持ち上げる。持ち上げた地面を避けるように周囲を溶岩がサラサラと勢い良く流れていく。


「皆あれ見て!」


 レアが指差すのは山頂だ。その瞬間、火口の淵にガッと鋭い3本の爪がかけられる。


 ビシャビシャと溶岩を跳ね飛ばしながら、溶岩の中から現れたのは…………1頭の凶悪な竜。


「あれは…………」


 全員がその竜を見上げた。


【賢者】このダンジョンのボス、溶岩竜ディアブロです。




「グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」




 ディアブロはこのダンジョン全体に自分という存在を知らしめるかのように吼えた。その号哭とともに、さらに背後にある火口がズズンッと爆発し、溶岩が弾け飛ぶ。とてつもない迫力に、俺たちはディアブロを見上げた。


「でけぇ…………」


 それは、硬質な竜の鱗の下に、煮えたぎった溶岩が怪しく光り見え隠れしている全長30メートルほどの竜だった。まるで血液が溶岩のようだ。頭には悪魔を思わせる羊のようなねじれ角が2本生えており、目は黄色く光っている。口から見える牙は1本1本が大きさも鋭さも柳刃包丁のようだ。

 空を飛ぶというより滑空するのか、両腕に皮膜がついている。4本脚で前屈みに溶岩の海を歩く姿は圧巻だ。おそらく動きはかなり速い。そして、太く強靭な尾には先端にびっしりとトゲが生えている。


「この竜…………本当にSランクかい!?」


 フリーが驚きの声を上げた。


 確かにディアブロから感じられる圧力は、いつかのヒュドラを遥かに超えている。


「この環境もあって挑みに来る冒険者はほとんどいないでしょ? 多分…………彼は成長、したのよ」


 熱くないはずのアリスの頬に、汗が流れる。


「おい上を見ろ! あいつらもやべぇぞ!」


 ウルの指差す先には2体の火竜が空を旋回していた。


「ボスの取り巻きが、火竜なの…………!?」


 さすがに俺たちも気を抜いていられなくなった。それに、これはもっとちゃんとした足場が必要だ。


 足場を土魔法でさらに広げる。半径50メートルほどの円形の平たい闘技場が出来上がった。場外を取り囲むように流れる溶岩の川に落ちれば間違いなく死ぬ。



「グルアアアアアアアアアア…………!!!!」



 ディアブロは初めから俺たちに気付いていたようで、火口から斜面を滑るように下りてくると、俺が作った足場に上陸。それだけでさらに周囲の温度が上昇する。溶岩よりもディアブロの身体の方が熱を持っている。

 そして他の2体の火竜も空からこちらへ向かってくる。


「ディアブロは俺がやる! お前らは取り巻きの火竜を始末してくれ!」



「「「「了解!」」」」



 全員武器を構えた。


 ディアブロは息を吸い込むように上半身を反らした。


「いきなりかよ! 一旦下がれ!」


 受け流すように斜めに多重結界を設置する。アリスたちを俺の後ろに引き寄せた。



「グルアアアアアアアアアア!!」



 ディアブロの口から吐き出されたのは、まるでウォーターカッターのような超高温の溶岩ブレス。ここまで粘度が低いと、一体吐き出されている溶岩は何度になるのだろう。


「ぐぅ、おおおおおおおおおおお!!」


 結界で防ぎ続けるも、結界を越えてきた超高温が俺を焼き焦がそうとする。そして、俺の体からシューっと白い煙が上がり始めた。耐火装備であるはずのローブが発火し、燃え始めている。


 まじかよっ…………焼け死ぬぞっ!


 硬晶魔法で結界の前に硬度と熱耐性の高い鉱物を作り出し、熱を遠ざける。だが、その鉱物すらもドロリと変形すると溶け始めた。


 くそっ…………! 


 その時、後ろから肩に手を置かれたかと思うと急に涼しくなった。


「これで大丈夫よ」


 アリスが氷魔法の魔力で皆をディアブロの熱から守ってくれる。


 そしてブレスが止まった。


「はぁ、はぁ、はぁ、なんつー竜だ。こりゃあ味方にできれば心強いな」


 そう、それも今回の目的の1つだ。俺のスキルでより強力な魔物を仲間にする。


 アリスたちも無事だ。だが、俺が作った足場は結界の後ろ以外溶けてしまっている。


「行くぞ。反撃だ」


 俺は足場を再び作るのも兼ねて、土魔法で一気に地面を持ち上げつつ、土の槍でディアブロの真下から突き刺そうとする。


 だが、ディアブロは地面から生えてくる円錐形の槍を一別すると腕でガガガッと叩き折った。


 その隙に俺はディアブロの足元に向かっていた。


「出し惜しみは無しだ」


 俺は黒刀を空間魔法から抜き出すと、重力魔法を刀に纏わせた。そして、ディアブロの胸目掛けて跳び上がろうとした瞬間。


「ん?」


 脇からディアブロの太い尾が迫っていた。

 とっさに刀を立てて尾を防ぐ。黒刀であるため、受け止めるのは容易だ。直撃は受けなかったが、ディアブロの体表に付着していた溶岩が俺の身を焼き焦がした。


「ぐっ」


 すぐに再生スキルが仕事を始め、黒く焦げた皮膚が剥がれ落ち、ピンク色の綺麗な皮膚が現れる。


 ディアブロも意図も簡単に受け止めた俺の刀を警戒してか、距離を取った。


「頭も良いようだな…………」


 ディアブロに先手を取られるのは良くない。速攻で潰す…………!


 刀を持っていない方の左手を奴に向けて重力魔法を発動した。



 ズズン……………………ッッッッ!!!!



 ディアブロは地面に押し付けられ、地面ごと溶岩に沈んでいく。抜け出すことができずにディアブロは最後顔を水面に出すと、叫んで溶岩に沈んだ。


「グララ…………ッッ!」


 だが液体の中では力が逃げる。これじゃ、重力魔法で上手く殺すことができていない。


 ドポォッ! と重い水音を立てながらすぐに地面の上に這い上がってきた。


「やはり殺し切れないか…………」

 

 だが怒りは買ったようだ。ぶちギレて口からボタボタと溶岩をこぼしつつ俺を睨み付ける。そしてディアブロは1歩右前足を踏み出した。その時、ガクンと膝をつく。


「グルァ…………」


 ディアブロは何が起きたのかわかっていない。


 だが、それは俺も同じだった。


「ん…………どうした?」


 さっきの重力魔法でそこまでのダメージが? いや違うな。そういや、何か黒刀に違和感が。こないだよりも強く力を感じる。


【賢者】これまでの戦いを得て、この黒刀も成長しております。


-ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

黒刀

ランク:S+

属性:重力


特殊Lv.1:血を吸い成長する。

特殊Lv.2:装備者の魔力で刀身を修復できる。

特殊Lv.3:成長に伴い重さが増す。

特殊Lv.4:斬りつけるたびに相手を重くする。


〈世界最古の黒龍の牙から作られた大刀。成長するにつれ能力が増え、ランクも上がる〉

-ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 おお、4つ目の能力が出来たのか!


「グルァ…………」


 苦しそうに身体を持ち上げるディアブロ。その地面はさっきまでとは違い、重さに耐えきれずビシィッとヒビが走っている。どうやら重く感じているわけではなく、本当に体重が増えるようだ。


 そうか、さっき尾を防いだ時に少し斬れたんだな。それでこの黒刀の4つ目の力が働いていると。


 すると後ろからフリーが声をかけてきた。


「ユウ、調子はどうだい?」


「もうちょいだ。お前らはもう済んだのか?」


「うん、ほら」


 そう言うフリーの目線の先には、溶岩の海に浮かぶプカプカ2体の火竜がいた。両目を潰され切り傷だらけになっており、もう1体はバラバラに砕けているものがいる。


「早っ!」


「余裕だぜ!」


 目をウルが潰し、フリーが止めを。バラバラなのはアリスが凍らせてからレアが砕いたのかな。昔は火竜1体でも苦労したんだがなぁ。


「後はユウだけだぞー? 最後の人は罰ゲームがいいかなー」


 ウルがいやらしい顔で言う。


「おいそんなの聞いてねぇよ! もうこっちも終わらせるからちょっと待てって!」


 動きの鈍ったディアブロならば、今の俺でも動きについていける。俺は前に踏み込んだ。


 俺を踏み潰そうとするディアブロの前足を前転でかわすと、立ち上がりながらさらに前に進む。ディアブロの目の前で、奴の大口が迫ってきた。その牙の隙間から溶岩をダラダラと流しながら噛みついてくるのを上にジャンプしてかわす。そして、すれ違い様に奴の角を黒刀でスパンッと斬り飛ばした。


「グルアアアアアア!!!!」


 これでディアブロはさらに重くなった身体でほとんど身動きが出来なくなった。


「フーッ、フーッ、フーッ!」


 頭を地につけ、ガクガクと震える四肢で必死に身体を持ち上げようとしている。


「じゃあな」


 俺は地面に縫い付けられ、つき出されたその首を、ブツンと斬り落とした。


 ゴトン…………。


 ダンジョンボスが死に、火山の活動も落ち着きを見せ始めていた。これまでに倒した魔物はすべて魔石を回収した。


「なんとかなったな」


 それからは、手当たり次第にダンジョンの魔物を狩り続けた。




 俺たちは、少しでも強くならなきゃならなかった。




読んでいただき有難うございました。


できれば一言二言の簡単でいいので、『レビュー』を書いていただけると作者のモチベーションが凄く上がります。

レビューはハードルが高いと思われる方は、ポチっと評価ボタンを押していただけると嬉しいです。

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