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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第2章 町へ
12/159

第12話 レア

こんにちは。本日2話目です。

よろしければ、ブックマーク、評価宜しくお願いします。


 

 気を失って、どれくらい経っただろう…………。



 ーーーーあはは、何言ってるのよもう~。



 和やかで温かな声がする。


 誰かと楽しそうに笑い合っている。


 1人は女性、もう1人は、誰…………?



 ザザザザザ…………ザザ、ザザザ。



「はぁ、はぁ!」


 なんだ? 誰かの息づかいが聴こえる。


 ザザザ…………ザザザザザザザザザザ!


 何の音だろう? 落ち葉が擦れる音みたいだ。


「っく! はぁ、はぁはぁはぁ…………!」


 必死な息づかいだ。


 うっ、痛い…………!


 意識がぼんやりしている。腕を掴まれて森の中を引きずられているようだ。


 やめてくれ。そこを掴まないで。


 腕が痛いんだ。置いて行ってくれ!


 そしてまた意識は沈んでいった…………。



◆◆



「…………っ!?」


 何か遠くで聴こえる。


 人の気配がする。


 意識がはっきりしてくるにつれ、その声は大きくなっていった。


「…………ねぇ、ねぇってば! 生きてる!? 生きてるよね!?」


 心配そうな声に、ぼんやりと目を開けると、ピョコッと動く猫耳が目に入った。


「あ! 気がついた!?」


 目を開けると、身長160センチくらい、15~16歳くらいの大きくくっきりとした目が特徴的な猫耳少女がいた。とても心配そうな顔で俺を見ている。


 明るい茶髪は短く無造作に切られているが、ふわっとボリュームのあるくせっ毛のショートヘアだ。大きな黒目に涙袋、まつ毛が長く二重でパッチリと可愛らしい顔をしている。

 膝下までのブーツを履き、ショートパンツに半袖を来ている。普通の女の子かと思いきや、胸当てや腰には剣を下げているところを見ると冒険者なのだろう。

 ブーツとショートパンツの間に見えるふとももは吸い付くようにモッチリとすべすべで少し内股気味なのがこれまた可愛い。スレンダーであるにも関わらず、丁度よく主張する胸は何とは言わないがDくらいだ。さらに特徴的なのは頭の上についている2つの猫耳。外側は髪の毛と同じ茶色だが、耳の内側は白い。

 そこまで無言で見ていると、居心地悪そうに耳がふにゃっと伏せられた。


「なっ、何なの…………?」


 オドオドと困った表情はとても可愛らしく、まるで俺が好きだった品種、スコティッシュフォールドのようだ。


「可愛い! 飼いたい! 名前はシフォンとかでどうだ!?」



「飼わないでえええええ!!!!」



 少女はウルウルと涙目で、俺の両肩を押さえた。


 ああ、ダメだ。切り替えなくては。


「すまん、ありがとう。助けてくれたんだ?」


 俺はキリッと至極真面目な顔で礼を言った。


「あれさっきのは幻、なのかな…………? う、うん。そだよー。怪我は大丈夫?」


 少女は不思議と戸惑ったようだが、心配してくれているみたいだ。良い子だ。


【XXXX】敵意はありませんでしたので、この者は迎撃しませんでした。


 う、うん? あ、ありがとう。大丈夫だ。


 少女はウワバミと戦って気絶した俺を運んでくれたんだろう。あのままだと見つかって喰われてもおかしくなかった。


 俺は大木のうろの中に寝かされており、外に立つ少女は後ろからの光で後光が差した天使のようだ。ただ、さっき夢の中で聞いた声はこの子とは違う。あれは誰の声だったのか。


「ね、ねぇ急に黙ってどうしたの? やっぱりまだ痛む? いやごめん、そりゃ痛いよね! ていうか、そもそもその怪我でどうして普通に話ができるの?」


 心配と疑問への興味がない交ぜになった表情で顔を近づけ聞いてくる。くりっとしたお目目がほんとに子ネコみたいだ。


 質問が多いのでとりあえず、ざっくりと答えた。



「うーん、まぁ…………大丈夫だから大丈夫なんだ」



「どう見ても大丈夫じゃないよ!?」


 少女が指差す俺の手足は関節が増えた上にいろんな方向を向いている。


「こんなの唾つけときゃ治る」


 話しながら体内で回復魔法を発動させる。まだ修復途中だった残りの箇所の処置を行っていく。


「唾で骨折は無理だよ!? …………ま、まぁもういいや」


 少女は諦めたようだ。


「いいのな」


「と、ところでスゴい闘いだったね!」


 興奮した様子で、両拳を握って少女は話す。


「私、遠くから見てたんだけど、まさかあの蛇の一撃を弾き返せるなんて思わなかったよ! もしかしてレベル2? うううん。もしかしてレベル3なの!?」


 ん…………? 話が噛み合わないな。


 あのウワバミがレベル2とか3でやり合える相手なわけがないだろう。それにレベル2に驚くほど、この子自体も弱いようには感じないんだが…………。


「大したことないよ。ぼこぼこにやられちゃったしな」


 とりあえず当たり障りのない答えで、話を誤魔化す。


「いや、仕方ないよ。あいつの相手をしようと思ったら、S級冒険者が数人いるよ。人間界に指定されてる災害クラスの魔物の1体だもん」


 確かにあのクラスがウジャウジャいるなら人間などとうに滅んでるはずだ。


「なるほど。それより助けてくれてありがとう、俺はユウ。君は?」


「私はレアだよ」


 そう言って少女はニッコリと右手を差し出した。


「レアか、よろしくレア。握手するのはもう少し待ってくれ」


 苦笑いでそう言った。というのも、俺の手足はテディベアのぬいぐるみのように投げ出されたまま、まだ動けそうにない。


「あはは、だね」


 レアは眉をハの字にして笑う。


「ふぅ、でも良かったよ。久々に人に会えた」


「久々?」


 レアは不思議そうにコテンと首をかしげた。


 無意識だろうが可愛い。


「まぁ俺もいろいろあってな。というかレアはなんでここに?」


「なんでって、私は冒険者なの。こう見えてC級なんだよ? すごいでしょ~」


 レアはニヤッと笑いながら胸を張っては「どう?」とどや顔をしてきた。


 だが、俺はそれどころじゃない。



 むむむ胸がっ、がががが…………!!!!



 胸を張ることでパツンパツンになっているシャツを思わず凝視しそうになった。


 いや、した。


 でも胸当てが邪魔だ。てか鼻の血管が切れた、回復魔法でバレないように治療治療。しかしDカッ…………じゃなかった。Cカップでもなくて、C級だって?


「えふん、C級なんてまだ若いのにすごいな。あの蛇に関する依頼を受けてここまで来たのか?」


「それが……違うの」


 レアは急にシュンと気分を落としたように下を向いて話し出した。


「最近、町の近くに魔物が増えてきえ、その原因を探る調査依頼を4人パーティで受けたの。でも森で運悪くオークの大軍に出くわしてなんとか逃げてきたら、森の奥深くまで迷いこんじゃって…………」


 泣きべそをかくように話すレア。


「なるほどなぁ。それであのウワバミに襲われたのか」


 コクンと頷くレア。


 てことは人里まではまだもう少しあるのか。


「他の仲間の人たちは?」


 そう聞くと、レアは声と肩を震わせながら答えた。



「……あの蛇にみんな食べられ、ちゃった…………」



 なるほどな。


「あの時、悲鳴を上げたのは?」

 

「多分、私。死んだ、と思ったら蛇が別の何かに気を取られたみたいで、その間に逃げられたの」


 それ、ヘタレに運ばれてた俺だな。ナイスヘタレ。焼き鳥は勘弁してやろうかな。


 言い終わった途端、仲間のことを思い出したのかレアはボロボロと泣き出した。


「うっ、ひっく、サーナ、エマ……ユーリィィ…………! 助けてあげられなくてごめんね……でといつか強くなって、絶対にみんなの仇はとるから!!」


 心が折れるでもなく仇をとるために強くなるか、強い子だ。俺だって負けてられない。


 それでもレアの涙は後から後から頬を伝ってこぼれ落ちていく。


「急にごめんね…………。冒険者をしてたらこういうことはたまにあるんだけど、いつまでたっても慣れないね」


 ゴシゴシと目を擦り、泣きじゃくりながらも俺に謝るレア。


「ああ、それは慣れたらだめなやつだな」


 レアが泣き止むまで俺は、やっと動くようになった右手で頭を撫でながら待った。


「ひうっ、ひぅ、ううっ……。ごめん、ありがとう。あの時……蛇が気をそらしたのは君のおかげだったの?」


 レアが目に涙を溜めながら、上目遣いで聞いてくる。こんな時で悪いがそれでも破壊力抜群だ。


「うーん、まぁそう……かな? たまたま通りかかったというか、飛びかかったというか…………」


「ありがとう。君のおかげで私は生きてる! ホントにホントにありがとうね!!」


 両手で俺の手をギュッと掴んでお礼を言うレア。


「ま、まぁたまたまだし」


 急にそんなことされると照れるじゃん。


「そんなことないよ。君にとっては偶然でも、私はそれで命が助かったんだし!! お礼にできることはない? 私にできることなら何でもするよ!」


 な、なんでも…………げふんげふん、ま、まずは情報だよな!


「だったら色々と教えてほしいことがあるんだが」


「何? なんでも聞いて!?」


 役に立てるのが嬉しいのかレアが嬉しそうに顔を近づけて詰め寄ってくる。




「俺、2ヶ月以上前の記憶がないんだ」




◆◆



 記憶喪失ということにして、レアに色々と教えてもらった。


 まずは俺がいる人間界は超巨大な大陸(魔界ユゴス)から突き出た超巨大な半島らしい。人間界の周りは広大な海である。

 そして今いる場所は人間界の『カルコサ王国』だそうだ。この国は魔界ユゴスに直接接している。そして、聞いた感じ地球で言うところのロシアくらいの大きさはある。

 やはりこの世界はめちゃくちゃスケールがでかい。半島の一部の国でこの大きさだ。


 また、カルコサ王国には『(ことわり)』を持つ者がいるらしい。なんでもこの世界では国として認められることの条件は「国名、人、土地」、そして『理』が最低1人いることだそうだ。

 ちなみに『理』とはその道で世界で最も優れた生き物という証だ。


 俺のいるこの王国は、魔界ユゴスに接する森から出てくる魔物とのいざこざが多く、国力の一部をそちらに費やしているそうだ。その点、他の国からすればユゴスとの防波堤のような役割を果たしているため、カルコサ王国に戦争をしかけないことは暗黙の了解となっているそうだ。


「戦争か…………。そういやその『(ことわり)』が戦争に出たらすぐに勝負がつくんじゃないのか?」


 だがレアは首を横に振る。


「それは絶対にないよ。『理』同士が戦争に出ると、両国が滅びかねないし、『理』の存在がユゴスへの抑止力になってるからね。1人でも戦争で亡くなると、人類にとって大損害になるの」


 そうか、アラオザルじゃ人間の法律は当てはまらないからわからないな。


「なるほど。『理』はそれほどの存在なのか…………」


 また人間界は常にいざこざが絶えず、隣接する国同士でも戦争が絶えないそうだ。近年は隣接するクルス帝国が暗黙の了解を破り、カルコサ王国に戦争を仕掛けてくるのではないかと不安視されているとのこと。


「ユゴスという人類共通の敵がいるのに人類同士でもめているなんてな」


「あはは…………」


 レアは苦笑いを返した。


 また、今いる場所は歩いて近くの町まで3、4日くらいの場所なのだそう。人の住む町がそんなに近くにあるなんて、ここにたどり着くまで苦労し過ぎたのか、夢みたいだ。

 というか、こんな近くにあのウワバミが来ていて大丈夫なのか? そこがまず心配だ。まぁそれがレアが受けた調査の内容にも関係するのだろう。


 話は変わるが、この世界の冒険者のステータスは以下のような強さだそうだ。このへんはアラオザルで聞いていた情報通りだった。


 S級5000~

 A級2000~

 B級500~

 C級300~

 D級100~

 E級50~

 F級30~


 俺の方はと言うと、この1週間、基本ヘタレに運んでもらっていたのでほとんどステータスは変わらないと思っていた。

 だが今見れば知らないユニークスキルが増えている!


============================

名前ユウ16歳

種族:人間

Lv:83→85

HP:1220→1310

MP:3690→3860

力:980→1060

防御:930→990

敏捷:1430→1590

魔力:4010→4250

運:130→132


【スキル】

・鑑定Lv.10→賢者Lv.1(ユニークスキル)NEW!!

・剣術Lv.7

・高位探知Lv.1

・魔力感知Lv.10→高位魔力感知Lv.1NEW!!

・魔力支配Lv.1

・並列思考Lv.10→賢者Lv.1(ユニークスキル)NEW!!

・隠密Lv.8

・解体Lv.4

・縮地Lv.2

・立体機動Lv.3

・千里眼Lv.2


【魔法】

・火魔法Lv.7

・水魔法Lv.6

・風魔法Lv.7

・土魔法Lv.8

・雷魔法Lv.8

・氷魔法Lv.5

・重力魔法Lv.9

・光魔法Lv.4

・回復魔法Lv.10


【耐性】

・混乱耐性Lv.6

・斬撃耐性Lv.4

・打撃耐性Lv.4→5

・苦痛耐性Lv.9

・恐怖耐性Lv.8

・死毒耐性Lv.9


【補助スキル】

・高速治癒Lv.7→8

・魔力高速回復Lv.5


【ユニークスキル】

・お詫びの品

・結界魔法Lv.1→2

・賢者Lv.1 NEW!!

・空間把握Lv.1 NEW!!


【加護】

・ジズの加護

=============================


 まず新たに得たものはこれだ。


【結界魔法】

 薄く透明な壁を作り出す()()()()()()()。魔力を消費する。ジズの加護によって取得した。


【縮地】

 一瞬で数メートルの距離を詰めることができるスキル。


【千里眼】

 視力強化。レベル2では600メートル先の虫の模様が見える程度。 


【立体起動】

 アクロバティックな動きに補正がかかる。


 結界魔法にも驚いたが、これは少し前から気付いており使っていた。それよりも驚いたのはこの、意志疎通ができるユニークスキル『賢者』だ。


【賢者】はじめましてユウ様。


 頭の中に女性の声で挨拶が鳴り響いた。耳の奥まで凛と響く、気持ちの良い声だ。


 ど、どうも。ユウです。


【賢者】情報処理に長けた鑑定と並列思考のレベルが10に達し、2つが統合され私が生まれました。宜しくお願いします。


 いや。こ、こちらこそ宜しく、お願い申し上げます。というか、さっきウワバミの時にアドバイスしてくれてたような……。


【賢者】はい。先程は、あまりお役に立てず申し訳ありません。


 いやいや、おかげで死なずにすんだし助かった。


【賢者】ありがとうございます。


 なぁ、賢者さんはどういったスキルなんだ?


【賢者】はい。主な内容は、ユウ様の行動に対する助言、詳細鑑定や並列思考の提供などです。

 ですが私はまだまだ完全ではありません。レベルが上がれば思考スピード、並列計算が速くなり、より自発的な行動が可能になります。あらかじめこの世界に関する知識は持ち合わせていますが、特定の人物等については周囲から情報を集め、知識量を増やしていくことができます。


 すごいな。ディープラーニング機能のある人工知能みたいだ。


 ということは、俺が困ったときにアドバイスをくれる相棒ってこと?


【賢者】はい。その解釈で間違いありません。


 スゴいじゃないか…………! じゃ、じゃあ試しにジズの加護について教えてほしい!


【賢者】はい。ジズの加護とは、空の王『ジズ』により与えられた加護のことです。1つ目の恩恵が『結界魔法』の取得。2つ目が『スキルの合成・進化』です。私が生まれたのもこの加護が関係しています。


 すごい加護じゃん! ジズのおかげだったのか!


【賢者】もう1つのユニークスキル『空間把握』は、探知Lv.10と魔力感知Lv.10から生まれました。


 それは何ができる?


【賢者】空間把握は半径100メートル以内の全てを同時に見ることができるスキルです。普通の人間なら情報量に割れそうな頭痛に苛まれますが、私が処理を肩替わりし、かつ情報の取捨選択を行うので問題ありません。


 スキルも賢者さんも、優秀すぎるだろ…………!


【賢者】ユウ様が素晴らしい方だからです。


 社交辞令も上手い。


 そういや、俺のユニークスキル『お詫びの品』ってなんなの?


 それを聞くと予想外の返答がきた。



【賢者】申し訳ありません。それはお答えできません。



 へ? ど、どういうこと? ()()()()()()って、わからないということではないの?


【賢者】そうです。


 何か理由があるのか? 賢者さんですら逆らえない何かが…………。


 わかった。その答えは自分で探すよ。


【賢者】申し訳ありません。


 いや大丈夫。それじゃ、これからよろしく頼むぞ。賢者さん!


【賢者】よろしくお願いします。


「よし! 怪我も治ったし、そろそろ移動するか。魔物が町に増えてきたのは大方あの蛇が原因だろう」


 いきなり飛び起きた俺にレアは猫耳の毛を逆立てて驚いた。


「もう怪我治ったの!?」


「当たり前だろ?」


「あ、当たり前って言葉、私の知ってる意味と違うみたいだね……」


 レアは困惑した顔で呟いた。


「一緒だろ」


「……もういい。気にしないよ…………でも、てことは怪我は魔法で治したんだよね?」


 そろそろと聞いてくるレア。


「まぁな」


「わぁ、良いなぁ…………」


 レアは羨ましそうに俺を見た。


 レアは魔法が使えないのだろうか。まぁそれは今度聞いてみよう。


「で、町は川を下った先か?」


「そうだよ! それじゃ…………行こっか!!」


 レアは歯を見せ、ニィっと笑ってそう言った。


 なんなのこの子、可愛すぎる。ほんとに助けて良かった。


 町に向かって軽く流しながら走るも、レアは俺の速度に平気でついてきた。

 レアの話によると、獣人は身体能力が高い種族なのだそうだ。レアは特に優秀で一族の中でも歴代ダントツの才能を持っていたらしい。


============================

名前 レア 16歳

種族:獣人

Lv :21

HP :356

MP :687

力 :223

防御:198

敏捷:845

魔力:763

運 :560


【スキル】

・剣術Lv.4

・縮地Lv.4

・立体起動Lv.2

・解体Lv.3

・探知Lv.3


【魔法】

・火魔法Lv.1

・水魔法Lv.1


【加護】

・風の加護

=============================


 賢者さん、風の加護って?


【賢者】敏捷と風魔法において突出した才能を授かります。ただし他の魔法が不得意になるというデメリットもあります。


 なるほど。本人はこの加護に気付いていないのだろうか。もしかすると俺は賢者さんのおかげで加護が見えたのかもしれない。


 走りながら聞いてみる。


「レアは風魔法を使わないのか?」


「風魔法? 考えたこともないよ。だって私、簡単な火を起こす魔法だってすごく時間がかかるんだよ? きっと魔法自体に適正がないの」


 レアは猫耳をペタンと伏せながら言う。


「やってみないとわからないだろ? あ、でも先に『魔力操作』のスキルを取得しておかないとな」


 詳しい話をするために足を止める。レアもズザザザと、大木の根の苔の上を滑りながら立ち止まった。


「ねぇ魔力操作って? 魔力は詠唱で操作するからスキルなんていらないよ?」


 コテンと可愛らしく首をかしげるレア。


「いいからいいから。言う通りにやってみ? このスキルさえあればレアだって魔法が使えるようになるかもしれない」


「ほんとに!? うーん、ユウがそう言うなら…………」


 レアは恩を返したいと言うが、俺の方こそレアから受けた恩は大きいと思っている。少しでもこれが彼女への手助けになればいいが…………。


 とりあえず俺がスキルを取得した時と同じ手順で、魔力を見つけるところから開始した。

 まぁ魔力感知を持っていれば楽だったんだが、なかなかそうはいかない。それでもレアは俺を信じて頑張ってくれた。



◆◆



ーーーー4日後。


 レアは遂に『魔力操作Lv.1』を取得した。魔力感知を取得してから2日後のことだ。


【賢者】これでも加護の力が働いて、異常な早さで取得できたと考えられます。


 ほう。


「おめでとうレア!」


「やったよユウ! これで魔法が使えるんだよね!?」


 胸の前で手を抱いて、ピョンピョンと跳び跳ねるレア。


「ああ。まずは魔力操作で自分の魔力を動かしてくれ」


「わかった!」


 レアは眉間にシワを寄せながら、魔力操作を始める。

 魔力感知で見ていると、体の中では上手く循環させられているようだ。だがこの先が大事だ。


「レア、その魔力を体の外に持っていくようイメージするんだ」


「体の外に? うーん、こうかなぁ…………?」


 まだレベルが低いだけあってゆっくりだが、レアが立てた人差し指に向かって魔力が動き始める。


「おおっ?」


 見ていると指先から魔力がポコッと溢れ出した。レアは元々魔力が強い。このくらい余裕だろう。


 なぁ賢者さん。思うんだが、この世界に浸透してる魔法の使い方、間違ってるんじゃないか?


【賢者】いいえ、完全に間違いではありません。ただ、魔力操作を取得することは地道な練習が必要になります。この世界では練習や鍛練は『体を動かすもの』という認識があるため、受け入れられておりません。


 あー、なるほどな。確かに端から見た分には俺も座ってるだけだったし。


【賢者】詠唱は大昔、魔力の使用方法がわからないと悩んだ人間たちが編み出した知恵の結晶です。ですがもちろん効率は悪く、威力もコストも大きく劣ります。本来、魔力操作と魔法はセットで扱うことが正しい使用方法と言えます。


 そういうことか。世間の常識によって違うやり方が浸透したのか。


 とその時レアは、右手の平からバレーボール大の魔力を出して扱うことができるようになっていた。


「よし! そしたらその状態で風魔法をイメージするんだ。あ、詠唱はいらないから」


「いらないの? こ、こうかな…………風よ!」



 ドッ、バキィイイ…………!!!!



 壁が動いたかと見まがうほど、ゴッと空気が動いた。高さ3メートルほどの若木が見えないものにぶつかられ、折れながら吹っ飛んだ。幹が裂けた際に、粉々になった木くずが舞い、千切れた葉っぱが落ちてくる。


「うわぁ!! すごい、すごいすごい!! ほんとに使えた!」


 レアは目を丸くして驚いていた。猫耳もピクピク動いている。


「これが『魔力操作』スキルを使用した魔法だ。まぁ元々レアは凄い風魔法の才能があるんだが、そのせいで他の魔法が苦手なんだよ」


 首の後ろをポリポリとかきながら話す。


「え、そ、そうだったの!? し、信じられない…………」


 大喜びするかと思ったが、レアは驚きと嬉しさで感情が追い付いてきていない。そしてプルプルと震えながらブワッと泣き出した。



「えぐっ、あ゛り゛がどう~ユウウウウウウ!!」



 鼻水ダラダラで抱きついてきた。


 柔らかい胸が当たって、平常心を保つために青空を仰ぎ見た。


「良いかんしょ…………て、天気だ…………!」


「ホントありがとう!! こ、こんなの、ユウは命の恩人どころじゃないよ! 私、どうしたらいいの~!」


 レアは感情がわからなくなっているようだ。


「はは、どういたしまして」


 俺はレアの余りの喜びように苦笑いしながら答えた。しばらくして落ち着いたレアは聞いてきた。


「先生、でもどうして詠唱が要らなかったの?」


 ニコニコと上機嫌で俺を先生呼びしてくるレア。


「本来は詠唱なしで『魔力操作』のスキルとセットで使うものなんだ。詠唱は魔力を操作するものだからな」


「へぇ、そうだったんだ。ユウは普通のこと知らないのに、こんなことはよく知ってるだね。公開しようとは思わないの?」


「今は詠唱するのが当たり前なんだろう? 信じてもらえるようになるまでが大変だ。別に魔法の先生をやるつもりもないしな」


「あはは、それは言えてるね」



◆◆



 そうしてようやく町への帰還に動き出した。進みだしてすぐ、魔物を見つけた。


「…………お、アグボアだ」


 空間把握に鑑定を併用しているため、範囲内に入るとすぐに何の魔物かわかる。


「ほんと? 私が行こうか?」


 レアが小声で聞いてくる。


「いや、俺が行くよ」


 俺はレアに首を横に振って答えてからアグボアに向かって走り出した。アグボアは3本の大木の裏にいて、俺には気付いていない。俺が木の陰から飛び出した時はもう遅い。さらにそこで


 縮地!


 急加速し、5メートルの距離が一瞬でなくなった。立派な牙を持った茶色い毛色のイノシシが俺の眼前に迫った。

 こいつはいつかデリックに頼まれていた食材だった。あの時は結局捕らえることができなかった。デリックの料理、もう一度食べてみたかったな…………。


 デリックのことを思い出しながら問答無用で剣を降り下ろす! 反応できないアグボアは首に剣を食い込ませた後、そのまま首を落とされた。


「へぇ、ユウは剣も使えるんだね」


 俺の隣に来て、ツンツンとアグボアの身体を突っつくレア。


「まぁな」


 とそこで、こちらに走ってくるアグボアが見えた。


「あ、もう1匹来た。次は私が行くよ!」


 そう言って走り出すと同時に、レアも縮地を連続で5回も発動。速度の緩急にレアを見失ったアグボアのアゴ下から脳へ向けて剣を突き刺し、一瞬で倒した。


「すごいな……」


 もともと高い敏捷値に加えて連続の縮地。その姿は微かに残像すら残る。やはり彼女は才能の塊だ。


 と、そんな風に俺が考えているのがわかったのか。


「へへん!」


 レアはニヤケ顔を俺へ向けた。


「おい、なんだそのどや顔」


「私もちょっとはやるんだよ~」


 レアがジト目で自慢しながら俺の脇腹を突っついてくる。


「や、やめろ、そこ弱いんだよ!」


 レアが人見知りしない性格で助かった。ずっと1人で来たからか、話相手が増えると楽しい。誰でもなく、レアに会えてほんとによかったと思う。


 次はユニークスキルの『結界魔法』を使ってみよう。この魔法はもっと試行錯誤すれば、用途が増えるだろうし。


「ちょっと練習したい魔法があるんだ。次魔物が出てきたら俺に譲ってくれ」


「うんわかった!」


 しばらく行くと、アクアフォレスタートルの反応があった。見た目は、苔だらけの緑色の体をした体高2メートルくらいのゾウガメだ。甲羅には、大砲のような4つの砲身がついている。


 近付くと案の定、ノシノシと向きを調整しながら大砲からバシャンと水の塊が撃ち出された。


「けっこう、威力があるな」


 苔むした大木の幹を削り、黄土色の木目が露出させるほどには速度が出ている。


 2発目が来そうだったので結界魔法を発動し、目の前に透明な壁をスッと作り出した。


 パァンッッ!!


 バスケットボール大の水の塊を結界が遮った。ヒビ1つ入らない強度だ。


 まぁ頑丈さはウワバミの時にわかってた。それなら…………。


 試しに足場のようなものをイメージすると、透明な30センチ四方の立方体が現れた。アクリル板でできたもののように見えるが、強度はその比ではない。


 グッグッと足をかけてみても問題ない。結界を蹴ってジャンプしてみる。


「おっ、いけそうだ!」


 飛び上がった先の空中にまた小さな結界の床をつくる。


【賢者】把握しました。


 賢者さんがどんどんと結界の足場を作ってくれ、空中をかけ上がることができた。


「ふう」


 ちょうど20メートルくらいの高さまで上がった。結界の上に立ち、奴を見下ろす。

 どうやらアクアフォレスタートルの甲羅は真上には水魔法を打てないようで、困ったようにその場でグルグルと回っている。


 ならこれはどうだ…………?


 俺は自分が立っている結界を鋭い円錐形に変形させ、真下に勢いよく伸ばす!


 ストン。


 結界は甲羅を豆腐のように貫通し、アクアフォレスタートルは息絶えた。


「すすすすすごい! 空走って空中に立っっ!? しかも最後の攻撃どーやったの!?」


 レアはリアクションが良いな。


「いろいろあんだよ」


「なによそれぇ」


 ジト目でむくれながら猫耳を垂れさせ睨んでくる。人懐っこい猫のようだ。


 その晩、交代で見張りをしながら大木の枝の上に作った寝場所の上で寝た。探知も使っているが、森の中は決して油断できない。

 

 見張りをしながら、賢者さんに今いるカルコサ王国についての情報を仕入れてみた。

 どうやら、この国では町に最低1人はAランク冒険者がいるそうだ。そして、この森に近い町には魔物に備えて多くの兵が配備され、冒険者の数も多いとのこと。

 また、カルコサ王国が南北に長いこともあり、東側では複数の国と接している。最近はこの国に匹敵する大国のクルス帝国の動きが怪しいらしく、魔界ユゴスとの防波堤を果たすこの国に対して、戦争を仕掛ける動きがあるらしい。

 なんとも困った話だ。



◆◆



ーーーーそして5日目の夕方、俺たちはとうとう森を抜けた。


 森の端っこは丘の上にあったようで、5キロくらい丘を下った先に町が見えた。遠目に見た感じ、中世ヨーロッパの町並みに近い。奥には巨大な教会のような建造物も見える。かなり大きい町で、街道のようなものが伸びている。『コルト』という町らしい。


 すっかりレアとも打ち解け、しばらくは一緒にパーティを組むことになった。こんな可愛い子とパーティを組めるなんて、正直ウハウハだ。


「いやー、やっとついたな!」


 俺からしてみればとてつもなく長い旅路だった。ようやくこの世界について知ることができる。


「そうだねー!」


 町が見えたことでいつもよりさらに元気なレア。とそこで俺は事前にレアに聞いていた話を思い出した。


「そういえば町に入るには許可証がいるんじゃないのか?」


「大丈夫! 冒険者カードがあれば代わりになるよ!」


「いや、俺はそれもないんだけど?」


「あ、そうだった。でも大丈夫! 1000コル払えば仮発行できたはずだから!」


「本当に大丈夫か? てかすまん。俺、お金もないんだけど…………」


 無一文という状況があまりに申し訳ないので頭を下げる。


「ユウはしょうがない子だなぁ! お姉さんがおごってあげるよ!」


 レアはニコニコしながら、財布を探す。


「ありがとうございます。レア姉さん」


 とりあえずここはヘコヘコするしかないな。


「へへん、任しときなさい!」


 ドンッと胸を張ってはレアがポケットを探る。


「あれ…………? ちょっと待ってね」


 だが時間がかかっている。なかなか見つからないようだ。


 そして俺はあることに気付いた。


「なぁ、姉さん。ウワバミに襲われたとき荷物なくしたって言ってなかったか?」


 服のポッケを漁るレアが固まった。


「そ、そうだった…………!!」




「あほーーーーー!!」



読んでいただき、ありがとうございました。

 

※過去話修正済み(2023年9月4日)

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