表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第5章 戦争
119/160

第119話 勢力

こんにちは。

ブックマークや評価いただいた方、有難うございます。とても励みになります。

第119話です。宜しくお願いします。


 翌日、俺たちはガブローシュの言っていた『モーガン』という男を確認しにギルドへ向かった。


 ギルドの扉を開くと何やら騒がしい。揉めているわけではなく、受け付けに冒険者たちがわらわらと殺到していた。


「どうかしたのかな?」


 レアがピョコピョコ跳びながら何が起こったか見ようとする。

 適当な冒険者を捕まえて話を聞くと、どうやら王都外へ出る依頼が全て中止になったらしい。


「なるほどな。戦争に備えて冒険者たちには王都に留まってほしいのか」


「それはわかるけど、いきなり仕事が失くなるんだから荒れもするよねぇ」


 フリーがしみじみと呟いた。


「こういう時って、代わりに戦争参加を特別依頼とするんじゃないのか?」


 ワーグナーの時はそんな感じだったよな。


「だとしても問題は多いんだよねぇ。戦争なんか参加したくない人もいるし、そもそも王国が戦争に負けたら報酬は貰えないだろうし」


 フリーは「いーっ」と嫌そうな顔をしながら言う。


「あぁ、なるほどね」


「ねぇ、ちょっとちょっと」


 アリスが肩を叩いてきた。


「あたしたちはもうSランクのパーティなんだし、2階に行ってもいいんじゃない? 人も少ないだろうし、ここよりも話が聞きやすそうよ」


 アリスが2階に上がる階段を指差した。


「お、それもそうか」


 というわけで、Aランク以上の者しか立ち入ることの出来ない2階に上がる。


 すると…………なぜか1階よりも荒れていた。というより思いっきり喧嘩が起きている。


 円形に冒険者たちが取り囲み、真ん中では1人の男が胸ぐらを掴まれながら、別の男にひたすらガッ……! ゴッ……! と殴られていた。


「うわぁ…………」


 いきなりのショッキング映像に俺たちは軽くひいた。


「てめっ……ぐっ、この…………うげっ!」


 顔をボコボコに殴られながらも男が何かわめいている。


「てか、おいあれって…………」


 それを見て気付いた。騒ぎの中心の2人、どちらも知ってる人だ。


「間違いないねぇ」


 フリーも気付いたようだ。


 まず殴っている方はマードックの屋敷に忍び込む時に斥候として同行したポールさんだった。


 そして殴られてるのは…………あいつだ。


「あー、やっぱり弱いかぁ」


 思わず口に出た。さすがは俺が一度素手で倒しただけのことはある。


「あの弱さは不思議ね」


 アリスがキツイことを言う。


「もしかして、Bランクに落ちたのかな?」


 と真面目に考えているレアはナチュラルに失礼だ。


「言い過ぎだお前ら。相手のポールさんはSランクだから」


 さすがに無理だろう。


「ユウ、多分悪いのは殴られてる方だぞ」


 ウルは俺の肩にリスのように乗っかりながら、人垣の上からそいつを指差して言った。


「ああ」


 俺らが助けるでもなく遠巻きに雑談しながら眺めていると、殴られていた男はついにガックリと白目を剥いて気絶した。


 仕方ないな…………。


「あの、すいません」


 俺が声をかけると、胸ぐらを掴んだままポールがこちらを向いた。すると、周りの冒険者も俺たちに気が付いた。



「お、あれは…………Sランクのユウか」


「あいつがガードナー倒したっていう?」


「思ったより華奢な野郎だな」


「おいおい、パーティ全員勢揃いかよ…………っ!」



 ざわざわと噂されているのが聞こえる。そして、俺たち5人を取り巻くように人垣がザァッと割れた。こないだの事件で俺も少しは有名になったようだ。俺の首からかけた金色のギルドカードがキラリと光る。


「お、ユウじゃねぇか」


 ポールさんはガックリと力の抜けたそいつの胸ぐらを掴んだまま、俺の方を向いた。


 前回ゆっくり話をする時間はなかったが、ポールさんは誠実でまじめな男だとはわかっている。目元はパチッと大きく、さわやかで愛嬌のある顔。外見は30才くらいでスキンヘッドだ。

 正直、ワーグナーのジャンが成長したらポールさんみたいになったんじゃないかと思う。どうにも親近感がわくが貴重な人格者過ぎて、なんだか無意識に敬語で話してしまう。


「ポールさん、あの時はどうも」


 軽く会釈をした。


「いや、俺の方こそ前は世話になったな。友達は残念だった……」


 そう言いながら拳についた血をハンカチで拭くポールさん。


「いえ、それで、その…………アホなんですが…………」


 ボコボコになり、床に倒れて気絶した『アホ』を指差して言う。


 ものすごく言いにくい。


「お、なんだ? コレの友人か?」


 友人かと言われると、そうでもない。ポールさんも俺の友人かもと思うと申し訳なさそうだ。


「いえ、違います。気にしないでください。ただの知り合いです」


「え? ん、ああ。友人じゃないのか…………?」


 戸惑うポールさんだが、そこは重要。


「全然違います。それで、そいつなんかしました?」


 したんだろうと思いながらも聞いた。


「ああ、ギルドの決定が気に食わなかったんだろう。受付嬢に掴みかかったんで止めたら、キレて殴りかかってきた。だからまぁ少しだけボコったまでだ」


 やっぱりか。


「ああ、あとはこっちで預かります。すみませんでした」


 一応頭を下げておいた。



「「「「すみませんでした……」」」」



 アリスたちも頭を下げる。


 Sランクになった影響で、今、周りの他の冒険者たちが俺たちの一挙一動に注目している。その中での謝罪はなかなかに堪えるな。よし、こいつは後でしばく。


「ああ。そこまで言うならユウに免じてギルドの処分は止めておくよ。受付嬢も大丈夫だと言ってくれてるしな」


 思ったより大事になってしまったからか、アワアワペコペコと頭を下げ続ける受付嬢が不憫だ。


「ありがとうございます」


 そう言うと、俺らはすぐにその場を離れた。



◆◆



 というわけで、その馬鹿をギルドの隅っこに連れていき、ペシペシと乱暴に顔を叩く。




「おい、起きろ。起きろ"モーガン"」




「んがっ…………?」


 馬鹿みたいに大口を開けて気絶してる。


「んが、じゃねぇよ」


 ポールさんに迷惑をかけたその馬鹿面を見ていたら腹が立ってきたので一発強めにビンタしておく。



 パァンッ!



 強くしすぎたのか、モーガンは壁に頭をめり込ませた。


「あ…………」


 そうだ。俺もレベル上がったんだった。


「…………な、何しやがる!」


 叩かれた頬を押さえてキョトンとするのは、可愛くもない筋肉ムキムキのおっさんだ。正直きめぇ。


「それはこっちのセリフだ。お前、こんなとこで何してやがる」


 目を覚ましたモーガンの胸ぐらを両手で掴んで問いただす。


「お、お前ら…………!」


 モーガンは俺たちの姿を見て、微妙な表情になった。頭が混乱しているのか、話が進まなさそうなので回復魔法をかけて落ち着かせてやる。

 そしてテーブルにつかせると、モーガンは拗ねたようにガンッと頬杖をついた。


「ああくそ、あの野郎…………!」


 その拍子にまた痛んだのか、殴られた頬を触って気にしている。


 あ、あそこは俺がビンタしたとこ…………まぁいいや。


「モーガンお前な。ここで揉め事は起こすな。ギルマスに殺されるぞ?」


「うるせぇよ…………!」


 むすっと横を向くモーガン。


「で、なんでお前がここに?」


「それは…………」


 不機嫌なモーガンをまずは酒で機嫌を直させてからなんとか話を聞くと、少し前にワーグナーのガランギルド長が俺が手違いで投獄されたことをギルドの連絡網を通じて知り、助け船としてモーガンをよこしてくれたそうだ。

 モーガンは先日王都に到着したが、予想よりも早く反乱が終息してしまい、暇をもて余していたようだ。


「なるほどな。助けに来てくれたのは正直嬉しい。ありがとう。礼を言うよ」


 俺はモーガンに向き合ってテーブルに頭を下げた。


「ふん! 貴様にそんなことを言われる時が来るとはな!」


 満更でもなく嬉しさを隠しきれていないモーガン。ニヤニヤと口の両端が上がっている。


 しかしガランよ。反乱を防ぐためだったのなら、こんな馬鹿をよこしてどうする。


 俺は天井を仰いでワーグナーのガランにテレパシーを送った。


「お、そうだった。来たのは俺だけじゃねぇぞ」


 モーガンは俺の背後に視線を向けながら言った。


「へ?」



「ユウ様ああああああ!! はーーーっ!」



 背後から、やたら高ぶった聞いたことのある声が聞こえてきた。


 ああ、うん、これはミゲルだな。


 そのまま背中に抱きつかれた。


「おい、離れろ馬鹿!」


 ミゲルは魔術士として勝手に尊敬してくる困った奴だ。ミゲルは14歳と比較的若いにもかかわらず、すでにAランクでワーグナーでは天才魔術士と呼ばれていた。

 今もスリスリと頬を擦り付けてくる。


「嫌です! 離れません!」


 こいつ、なんか病気が悪化してないか? 可愛い顔をしているが、俺は男好きではない。


「あら、随分仲良しなのね」


 抱き付かれた俺を見て、アリスは文字通り氷の視線を突き刺してくる。


「ユウは男の子も好きなの?」


 レアは少し顔を赤らめて恥ずかしそうに言った。


「ちがぁぁぁう!」


 大きく頭を振って、盛大に否定した。俺は男好きじゃない!


 キョトンとしてわかっていないウルはいいが、腹を抱えて笑うフリーが無性に腹が立つ。


「い、い、か、ら…………離れろ馬鹿野郎おお!」


 とりあえずミゲルを無理やり引き剥がし床に正座させた。


「おい、もう反乱は終わったんだ。来てくれたのは嬉しいが、もう大丈夫。ちゃんと礼はするから! いや、てかもうお前だけは帰ってくれ!」


「嫌です!」


 キリッとした目でミゲルは俺を見返した。


「帰れ」


 俺の目からはハイライトが消えた。


「ユウ様とデートするために遠路はるばる来たんですよ!? 帰れないに決まってるじゃないですか!」


「おい目的が聞いてたのと違うだろおお!?」


 魔術士になると俺を神聖視してくるの、なんとかならんのか?


 とそこでモーガンが真面目に発言した。


「おいミゲルは頭がイカれてるが、帰らないのは俺も同感だ」


「イカれてません!」


 ミゲルは可愛くプイッとそっぽを向いた。


 いやお前な?


「帝国と戦争になるんだろ? この国に喧嘩売ろうとは良い度胸じゃねぇか。俺は出るぞおお!」


 そう言うとモーガンはニヤリと笑いながらやる気満々で大剣を担ぐ。


「僕もユウ様が戦うなら着いていきます!」


 ミゲルも力強い目で俺を見た。


 2人とも本気だ…………。


「あははは、どうするのユウ」


 フリーは面白がって笑う。ポリポリと仕方なく頭をかきながら考える。


 戦争に人手が必要なのは確かだ。それに2人ともAランク。戦力としては申し分ない。正直非常にありがたい。


「…………わかった、わかったけど、もうここで揉め事は起こさないでくれよ。そもそもミゲルはモーガンをちゃんと見張っとけ。じゃないと本当にワーグナーに返すぞ」


「は、はい。すみません」


 申し訳なさそうに頭を下げるミゲル。


「おい!」


 モーガンは怒っているが、多分ガランはそのつもりでミゲルを呼んだのだろう。


「もうお前ら2人だけか?」


「いや、俺らのパーティメンバーが1階にいるぞ」


「フルメンバーかよ!」



◆◆



 そして、やっぱりガブローシュと喧嘩したのもモーガンだったらしく、きちんと謝罪をする約束をして別れた。一応、俺たちと連絡を取るために宿の場所は教えてある。


「戦争かぁ…………」


 宿屋に戻った俺は、ベッドに座ってそう呟いた。ギルドでの依頼も廃止になり、本格的に王都の空気が変わってきた。着々と冒険者や兵士は王都に集まりつつあるし、学園長の予言もある。

 王都は本当に滅ぶのだろうか。


「どうにもならないよ。攻めてくるんだから守るために戦うしかないんだよねぇ」


 フリーは分かりきった答えを言った。


「そうだよなぁ…………」

 

 改めて言われるとこたえるな。


「ユウ、状況はもう迫ってるの。人々を救いたいなら、敵を倒すしかないのよ」


 アリスが諭すように言う。


「ああ…………わかってる」


 魔物からではなく、人から人を守らなければならんとは…………俺のやりたいことってなんだったんだ?

 

 アリスたちと雑談していると、ドアをコンッコンッと丁寧にノックする音が聞こえた。


「ん?」


「失礼します!」


 ドアを開いたのはギルドの職員だった。だが、綺麗な軍式敬礼を俺たちにした。それだけで戦争が近いことを感じさせられる。


「ユウ将軍。ギルドマスターよりこれを」


 手渡されたのは数枚の資料。


「明日、ギルドマスターとの打ち合わせにお越しください。それまでにその資料に目を通しておくようお願いします。ちなみに重要資料ですので、くれぐれも紛失しないように」


「へぇい」


 ギルド職員は、資料だけ渡すと去っていった。


「なんなの?」


 資料を机に広げ、皆で上から覗き込む。その内容はクルス帝国軍における兵力についてのものであった。


【クルス帝国 〈総兵力40万人(想定)〉】

・SSSランク 帝国軍団長ギルガメッシュ 不明

・SSSランク 千軍のキッド       不明

・SSランク  雷迅のボルト       5万人

・SSランク  竜騎士ミルド・トートマン 5万人

・SSランク  泥海のマッド・カベラ   4万人

・SSランク  鋼拳のアイゼン      5万人



「あらら、40万人もいるのかい…………?」



 フリーの呟きが皆の感想を代弁していた。その人数に、生唾をゴクリと飲み込んだ。

 ほぼ王国と同規模の帝国だ。いかに軍事に力を入れてきたかがわかる。なんせ、40万人の兵士がこの国を滅ぼそうと攻めてくるのだ。魔物とは違う意思を持った強敵が。


「これに加えて兵器が、人間爆弾や黒魔力もあるみたいね…………」


 アリスが険しい顔で資料を念入りに見る。


「記載はないが、王国側に戦争用の兵器はないのか?」


「ないんじゃないかしら…………少なくともあたしは知らないわ。だって王国は長年魔物を相手にしてきたんだもの。魔物は多様な形態を取るから、個別に兵器を開発するより実力者を増やす方が現実的なのよ」


「元々この国は人間界と魔界ユゴスとの緩衝地帯だもんね」


 レアがコルトを思い出して言った。


「うーん、つまり敵は殺人に特化した兵器を出してくるんだよねぇ」


「そうだろうな」


 俺らが話す横で、ウルがたどたどしくも文字を指でなぞって読んでいる。


 てかウルお前文字読めたのか。


「戦場になるのは王国と帝国を隔てる南北に伸びた国境線…………てことはそこまで俺たちが行くのか?」


「もちろんだ。開戦はおよそ3ヶ月後だから、それまでに国中から戦力を集めて各砦に到着しないとダメだ」


「うへぇ、こりゃ長旅だなー」


 ウルが人事みたいに言うが、従軍は大変だろうな。


 そして、王国の戦力は以下のようになるそうだ。現在も兵を各貴族や、地方の冒険者に呼び掛け集めている最中らしく、開戦後も続々と追加されることはわかっている。


【カルコサ王国 〈総兵力17万人〉】

・SSSランク アレック・ギネス    4万人

・SSランク  破壊拳スカーフィールド 3万人

・SSランク  紅翼のマシュー     3万人

・SSランク  レムリア騎士団団長   3万5千人

・SSランク  ブレイトン・スウェイツ 3万5千人


 総兵力にはかなりの差があるが、数字だけじゃ結果はわからないと思いたい。


「これがあなたの軍のようね」


 アリスの指差すそこには、俺の率いる部隊について詳細が書かれてあった。


【総兵力 8000】

・歩兵  5000

・弓兵  500

・魔術士 1500

・治癒士 500

・遊撃隊 500  (魔物テイマー含む)


【ランク別内訳(予定)】

 Aランク: 50~ 70人

 Bランク:1500~2000人

 Cランク:2000~3000人

 Dランク:3000~4000人


「8000人ねぇ…………」


 思った以上にAランクが少ない。ほとんどの兵士が種族レベル1だ。こんなもんなのか?


【賢者】ユウ様、お忘れかもしれませんが、Aランクの実力者は稀有な存在です。この人数でも帝国軍より質で劣るということはないでしょう。


 そうか、普通に考えて町に1人だもんな。あとテイマーって?


【賢者】テイマーとは魔物を使役して戦う者のことです。


 てことは、俺もテイマーになるのか?


【賢者】ユウ様の場合はユニークスキルで、さらに魔石から復活できますからまた別物です。いわば上位互換のようなものです。


 へぇ。


「すげぇ…………本当に将軍かよユウ!」


 ウルが興奮したように語る。


「みたいだな」


「移動と砦での準備を考えたら、王都出発まであと1ヶ月てところかしら?」


「それまで暇だねぇ……」


 フリーがだるーんとベッドに寝転ぶ。


「ちょっとフリー、もっと緊張感を出しなさいよ」


 アリスが困ったように言うが、まぁそれが俺たちでもある。


「いや、それで良いんじゃね? 気を揉んでも仕方ねぇ。のんびりいこう」


 そう言うと


「てことはつまり…………?」


 アリスが聞くと、


「いつも通りだねぇ」


「いつも通りってことね」


「いつも通りってことだね」


「いつも通りだな!」



◆◆



 翌日、俺は再びギルドの会議室に呼ばれていた。ここには前と同じメンバーが揃っている。


「事前に資料には目を通してもらえたと思うが、これを踏まえた上で意見を聞きたい」


 ギルマスが話し始めたところで、さっそく文句が出た。


「おい。情報が少な過ぎんだろうが」


 スカーフィールドだ。資料を円卓に叩きつけて言った。


 ギルマスは黙っている。


「情報が少なくて不安か?」


 騎士団長がそう聞くと、スカーフィールドはまたもやぶちギレ、騎士団長へメンチを切った。



「…………あ?」



 瞳孔が開いてそうなくらいの眼力だ。


「急な宣戦布告だ。むしろこれだけの情報を掴んでいたことに感謝すべきじゃないのか?」


 騎士団長は腕を組んで座ったまま、スカーフィールドの方を見ずに言った。


 ああ…………騎士団長、以前騎士団を馬鹿にされたこと、実は根に持ってるな。


 スカーフィールドが無言でスッと立ち上がると、殺気が漏れ始める。


 しかしこの人はなんでこうも短気で自己中心的なのか。本当にレオンの息子なのか?


「はぁ…………」


 無意識にため息が出た。


「おい、お前今ため息ついたか?」


 スカーフィールドが俺を睨んだ。


 げっ…………聞かれてた!


 いや、どうせ近いうちにこの人とは衝突しただろう。レオンの息子だからって遠慮する必要はない…………!


 俺は深呼吸してからスカーフィールドを見返して言った。


「そりゃため息も出るぞ。団長の言った通りだ。文句があるなら自分で帝国の情報を仕入れて来たらどうだ?」


 ピキッと空気が凍った。


「あっひゃっひゃっひゃっひゃっ!」


 俺の発言に珍しくケタケタと腹を抱え足をバタバタさせて笑うギルマス。


 スカーフィールドは俺との間にあった円卓に拳を振り下ろした。ズガンッ! と叩き割られる円卓はまたもや破壊され、土足で踏んで俺の目の前にまで歩いてきた。


 あーあ。またテーブル壊しやがって…………。


「ああ? お前それを、俺に、言ったのか?」


 一言一句丁寧に言ってくれながら、椅子に座ったままの俺をスカーフィールドは見下ろす。


 ただ、馬鹿でもこの威圧感はホンモノだ。


「そうだ。わがままはガキの仕事。あんたは大人。わかるか?」


 自分の頭を指差しながら「わかるか」と聞く。


 なんか俺までイライラしてきた。この国の人が帝国の情報を得るために、いったいどれだけの危険を犯し、何人亡くなったかも考えられないのか?


 俺も椅子をしっかりと引いてから立ち上がる。


「おいよせユウ」


 マシューが肩を掴んで止めにくる。


「止めんなマシュー。こんな協調性のない馬鹿がいると、今後に影響するだろ。1回ボコッて言うこときかせた方がいい」


「Sランクに上がったばかりの雑魚のくせに意気がってんなよなぁ!? あぁ!?」


 スカーフィールドはまゆ毛をハの字に下げ、顔を近づけて俺にだけ聞こえる小さく低い声で言った。




「…………吊るすぞ、ガキ」


「やってみろ。物理的に潰してやろうか?」




 そこで騎士団長やマシューが本格的に止めに入ってきた。その時


「まぁまぁ、お前ら待て」


 ニタニタ楽しそうに見ていたギルマスがそう言うと、スカーフィールドは大人しくなった。


 勝てないギルマスには、「ちっ!」と舌打ちで最大限に反抗しつつ、スカーフィールドは椅子に座った。


 だからこそトップにギルマスがいるんだろうな。本当にスカーフィールドは一歩間違えば盗賊になっていてもおかしくない。誰かが手綱を握らなければ、道を誤るぞ?


「今のでわかっただろ? ユウは経験こそ浅いが、お前らと変わらん実力があり、論理的思考力もある。ランクは下でも実力は同等。ユウの発言は同格として扱え」


「けっ!」


 スカーフィールドは嫌そうに顔をそらした。


「それじゃあ、各々の担当する砦について説明しよう」


 さらに資料が秘書によって配られる。


「これが現段階での最新の情報を元に考えた配置だ」


 王都より西側の帝国と接する国境には5つの砦が存在する。それらは北から南に向かって以下の通りだ。


①シュノンソー砦

場所 :北北東

王国側:未定

帝国側:未定


②ウィンザー砦

場所 :北東

王国側:SSランク 紅翼のマシュー(3万人) 

帝国側:SSランク 竜騎士ミルド・トートマン(5万人)


③ヴォルフガング砦

場所 :東

王国側:SSランク レムリア騎士団 団長(3万5千人)

帝国側:SSランク 雷迅のボルト(5万人)


④クフナ・アルク砦

場所 :南東

王国側:SSランク 破壊拳スカーフィールド(3万人)

帝国側:SSランク 鋼拳のアイゼン(5万人)


⑤レドニツェ砦

場所 :南南東

王国側:SSランク ブレイトン・スウェイツ(3万5千人)

帝国側:SSランク 泥海のマッド・カベラ(4万人)


【その他】

・ギルマス軍は、SSSランクの『帝国軍団長ギルガメッシュ』および『千軍のキッド』に備えて、王都を守護しつつ待機。

・シュノンソー砦は立地上、攻略が難しく重要度が極めて低いため除かれる。

・ヴォルフガング砦は王都に最も近く侵攻の要となるため、決して落とされてはならない最重要砦。練度の高い騎士団を起用。


「帝国の軍部に潜り込んだうちの者による最新情報だ。これでいいか?」


「ちっ、わーったよ」


 ギルマスに言われてスカーフィールドは、椅子に浅く寝そべって座ったまま拗ねたように返事した。


「相手の大将は世界各国に名を轟かせた有名な冒険者や傭兵だ。特に軍団長のギルガメッシュは、この人間界で俺しかおそらくまともに相手が出来ない。ガードナーよりも遥か上の怪物だ」


 あいつよりも?


【賢者】ガードナーはSSSランクの中では下位もいいところです。


 まじかよ。


「もし奴と出会うことがあったら、自分の命を最優先してすぐに逃げろ。無駄死にだ。逃げてすぐに俺に連絡しろ」


 ここはギルマスが本気で言ってるのがわかった。誰も何も言わずに頷いた。


「このSSSランク『千軍のキッド』って奴は全く聞いたことないな」


 騎士団長が資料に目を向けながら言った。


「ああ、そいつはテイマーであるという以外、唯一情報がない。徹底的に帝国が情報漏えいを防いだんだろう。奴らの奥の手である可能性もある」


 ギルマスがそう言うと、学園長が片方のまゆ毛を上げ、怪訝な顔をしながら口を開いた。


「おいギネス、今『テイマー』だと言ったか?」


「そうだが?」


「俺はSSSランクにまでなったテイマーを人類史上聞いたことがない。この情報、本当に正しいのか?」


「ああ、確かな情報だ」


 ギルマスは自信を持って答えた。


「…………ふん、そうか」


 それ以外学園長は何も言わない。


「おいおい、ここに肝心なジャベールが入っていないんじゃないか?」


 それまで黙って資料を見ていたマシューが声を上げた。


 確かにマシューを、ましてやガードナーすらボッコボコに出来るくらいの怪物だ。SSSランクなのは間違いない。

 だが、あの人のことだからな…………。


「お前は相変わらず表面でしか物事をとらえられんのか馬鹿者。奴の性格を考えろ」


 学園長がマシューに苦そうな顔をして言った。


 まぁでも俺も同意見だ。あいつを知ってる者からすれば、王都を離れて戦うなんてするわけがない。


「ああ。もちろん声はかけたが、ジャベールには断られた。彼はあくまでも王都の治安を守る職務をまっとうするらしい」


 ギルマスが残念そうだ。


「こんな時まで職務か…………頭が固いな」


 腕を組んで、むむむ……と呟くマシュー。


 いや、ジャベールはある意味1本筋の通った男だ。嫌いではない。


「ま、奴のことだ。王都まで攻め込まれたら戦ってくれるだろう」


 ギルマスが適当そうに言うが、実際そうだとは思う。


「王都は広い。何かあった時、奴がいてくれるだけでかなり違うだろう。俺はその方が良いと思う」


 そう俺が言うと、特に反論は出なかった。


 そしてなかなか話題に上がらないので、そろそろと手を上げて気になっていたことをギルマス聞いてみる。


「あのー、ところで俺はどこの軍へ?」


 スカーフィールドだけは嫌だ。スカーフィールドだけは嫌だ。


「ああ。ユウはマシューと共にウィンザー砦を守れ。ここもヴォルフガングに次いで重要だ。そして帝国兵も多いだろう。お前のガードナーを討った手腕期待してる」

 

「了解…………!」


 マシューか。正直騎士団長とこがよかった! つまり、暗に思い込みの激しいマシューを止めろということかもしれん。


「ユウよろしくな!」


 マシューがニコニコと熱いスマイルで言ってきた。


「ああ」


 手を上げて返事をした。



◆◆



 そこからはさらに兵士たちの配属や細かい日程等を話し合った。そしてある程度進んでからギルマスが切り出した。


「よし。それでだが、ダリル騎士団長にはヴォルフガング砦への準備ができ次第、すぐに向かってほしい。あそこには元々帝国の軍が少なからず集まっている。すでに油断はできない」


「動きが早いな。了解だ」


 騎士団長があご髭の三つ編みを撫でながら言った。


「おい物資は十分に届いているのか?」

 

 学園長ブレイトンが自慢の白い髭を触りながら真剣な表情で問う。


「今、王国中から食糧や武器、薬などの必要物資が集まってきている。行軍中に立ち寄る町である程度調達できるが、武器以外は王宮の兵糧備蓄からもらえるそうだ」


「ほぅ、王宮はきちんと仕事をしていたようだな」


「まぁ、元々は魔界ユゴスとの戦争に備えたものだったがな。それと物資提供をごねた腐った貴族どもはオーウェン王の一喝でビビって出すようになった」


 ギルマスはヘラヘラと言った。


「話し合うことはこれくらいだ。ここからは各々自分の軍の幹部たちと顔合わせをしてほしい」



◆◆



 廊下へ出ると、マシューと共に別部屋に集められた副将たちの集まる部屋へと向かう。


「いや、ユウが将軍についてくれるとは心強いな!」


「ははっ、それはこっちのセリフだ」


 俺はあんたの指揮が少し心配だよ。


 とまぁ、言えるわけもなく。若干の心配を秘めたまま用意された部屋へ入ると、ついこないだ見た顔が座っていた。


「あれ、ポールさん?」


 そう呼び掛けると


「やぁユウ。昨日ぶりだな」


 ポールさんが手を上げてにこやかに挨拶する。


「どもです」


 ポールさんは反乱時、斥候として動いていたが、実は双剣を使った近接戦闘が本職らしく、かなりの実力とのことで今回将軍に抜擢されたそうだ。


 ああ、ポールさんも一緒なら、マシューが暴走した時に止められるかもしれない。それも考えてのギルマスの配置か。


 その他にはトレスタという黒髭がもみ上げからアゴを一周している濃いおっさんがいた。この人は兵糧や薬、矢や予備武器等の必要物質と運搬や怪我人の治療などを主に行ってくれる後援部隊の隊長だそうだ。


 ここからは4人の顔合わせを兼ねて、おおよそ決まっていることの確認がほとんどだった。


【ウィンザー砦『マシュー軍』30000人】

・本隊(12000人):マシュー

・右翼 (8000人):ユウ

・左翼 (8000人):ポール

・後援 (2000人):トレスタ


 この右翼、左翼というのは本隊を中心にした時の基本的な配置らしく、状況によっては変わることがあるそうだ。とりあえず判別しやすいのでそう呼ばれている。

 そして俺の率いる右翼副将は当然、『アリス、レア、フリー、ウル』の4人とした。


 マシューが率いる本隊はレッドウィングの構成メンバーが中心となり、Sランクがなんと4人いる。本隊の突破力は凄まじいだろう。


「とりあえずはそんなとこだな! 何か話があれば俺のクランまで来てくれ」


 そうしてこちらの会議はつつがなく終了した。



読んでいただき有難うございました。


ブックマークや感想、もしくはこの下にある評価ボタンをポチっと押していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ