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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第5章 戦争
118/159

第118話 再会

こんにちは。

ブックマークや評価いただいた方、有難うございます。とても励みになります。

第118話です。宜しくお願いします。


 ガブローシュたちをダンジョンに置き去りにした翌日、俺たちは気分転換に王都を満喫していた。


 王都には数多くの観光スポットがある。


・王国最大の大聖堂

・王都を巨大なレムリア山ごと一周する防御要塞

・住宅地区と商業地区を隔てる壁の上から見る街夜景

・都民の憩いの場である王立レムリア公園

・全世界の多種多様な植物を擁する王立植物園

・王国一の蔵書数を誇る王立図書館

・様々な逸話を持ち、王都に時を知らせる巨大な鐘楼

・etc…


 その中で、俺たちは王立レムリア公園に来ていた。

 ここは建造物がひしめく王都の中で唯一広大な面積の林と、だだっ広い芝生がある。都会のオアシスだ。


 今日は天気がとても良く、青空に木々の間から可愛らしい小鳥のさえずりが聴こえてくる。芝生に腰を下ろし、青空に流れる雲をのんびりと眺めながら、俺たちは心と身体を癒していた。


 柔らかで、ぽかぽかとした陽気が身体を芯からじんわりと温めてくれる。


「ふぁ~」


 間の抜けた声に横を見れば、芝生で仰向けに寝転がったフリーが眠そうに欠伸をしていた。


 最近、ブラウンと仲の良かったフリーは時折暗い顔をするようになった。あの事件の元凶はマードックだから、フリーは悪くない。自分を責めなくて良いと思う。ただ、俺たちにもっと慧眼と実力があれば、結果は違ったかもしれないとも思う。

 俺だってそうだ。別に平気なわけじゃない。どんなに強いと言われようと、俺たちだって1人の『人』なんだから。


 そう考えつつ、ふと顔を上げれば、公園の木々の向こうにレムリア大聖堂の石造りの屋根が見えている。


「でけぇなぁ…………」


 落ち込んだ時に大きくて壮大なものを見ると、和らぐ気がする。今度行ってみたい。ワーグナーの聖堂も良かったが、王都のはまた違うだろうな。


 と、ぼんやりと考えていると、視界をウルが横切った。

 

「なんだあの遊具! 見に行こうぜレア姉!」


 お姫様のはずなのに少年みたいにはしゃぐウル。向こうにあるブランコの遊具を指差しながら走り去っていく。


 俺のセンシティブな気分は一気にぶち壊された。


「あんまり遠くに行ったら迷子になるよ! ウルちゃん!」


 芝生を駆けるウルを、立ち上がったレアがあらあらと追いかけていく。


 あははと、隣で胡座をかきながらそれを見て笑うアリス。


「昔、レアの村にはあれくらいの年齢の子どもたちがたくさんいてね。よく遊んであげてたらしいわ」


 アリスは、はしゃぐウルとレアを目で追いかけながら言った。


「まぁ、レアも外見はどうあれ、中身は子どもだしな」


 俺がそう言うと


「ユウもだよねぇ?」


 寝転んだままのフリーがヘラヘラと笑う。


「お前もだろ」


 フリーは空を見上げてピューッと口笛を吹いた。


 皆でのほほんと日向ぼっこをして過ごしていると、ウルと遊んでいたレアがふぅと一息つきながら俺の横に腰かけた。


「あちーっ! ウルちゃんほんと元気だよね」


 パタパタと暑そうに手で自分の首もとを扇ぐレア。


「そうだな。元気なクソガキだ」


 そう言いつつ視線を隣に移すと、ウルはうたた寝をしているフリーの鼻の穴に、木の実をせっせと詰めている。心なしかフリーは苦しそうだ。あ、顔色が青白くなって痙攣してきた。


 俺とレアが見ていることに気付くと、しーっと人差し指を立てて楽しそうに笑った。そして、どこかへ走り去った。


 こうして無邪気に遊んでいるのを見ると、見た目どおりの幼い子どもに見えるなぁ。ウルのあんな楽しそうな姿、久々に目にした気がする。

 元気なウルのおかげで俺も幾分か気が和らいだ。


「あの子にとって私たちが家族なんだよ。皆と一緒にいれるのが楽しくてたまらないんだと思うよ」


 レアは凄く大人な優しい笑顔で言った。


「…………そう、だよな」


 ウルは無邪気に笑っているように見えるが、未だにジャンを失った哀しみからか、1人になった瞬間陰りが見える時もある。


 ウルも、フリーも、レアも、アリスも、俺だって。皆、何らかの辛く苦しい過去を抱えている。いや当たり前か。

 俺らは、辛い出来事を乗り越え今までを生き、そしてこれからを生きていくんだ。



◆◆


 しばらくして、俺はアリス、レア、フリーにゴニョゴニョと相談をした。


「ふぁぁ、うん。いいねぇ」


「任せてよ!」


 レアと寝起きのフリーは即賛成してくれた。


「ちょっ…………いいけど、あたしは走るの苦手なのよ?」


 アリスは困ったように手を横に振りながら言う。


「じゃあアリスは魔法ありでいこう」


「うん、それなら」


 アリスも快くOKした。


「おーい、ウルー!」


 パンツについた芝生の欠片を払いながら立ち上がると、ちょいちょいと手招きでウルを呼ぶ。


「なんだなんだ?」


 そう言いながらテトテトと近付いてくるウル。呼ばれたらちゃんと来るの可愛いな。



「俺らと…………ケイドロやんね?」



 前にワーグナーの町でやったようにケイドロを持ちかけた。


 今まで、なんやかんやこのメンバーで遊んだことがなかったからな。


「あ、ケイドロ…………。いや、でもさ…………」


 ウルの顔が曇って下を向く。前にワーグナーの子どもたちとやって上手くいかなかった思い出があるからだろう。


「おい、俺たちが相手だぞ。手を抜く余裕があるとは、さすがウルだなぁ~」


 そう言うと、ハッと気付いたように顔を上げて皆の顔を順番に見る。


「カモン! ウルちゃん!」


 レアがニコニコしながら低姿勢でウルを煽る。


「やれやれ、手加減できないかもよ?」


 フリーはコキコキと手首足首をほぐしている。


「皆殺しよ」


 アリスさん? 皆殺しは違うよね?



「やるうううう!!」



 ウルは、にぱぁ! と顔を綻ばせた。



◆◆



 2時間ほど遊び、思いっきり身体を動かしたことで気分転換にもなった。

 その後、王都をブラブラしながら昼飯を食べるために飲食街へ。飲食店が建ち並ぶこの通りは、人通りが多くランチタイムであることも相まって大勢がごった返している。


 だが、街中を歩き始めて数分。俺たちの後をつける、妙な気配を感じた。


 うん……………………?


 ガヤガヤと賑わう通りに時折、俺たちを意識している視線を感じる。


「誰かに、つけられてる?」


 レアも気付いていた。耳がピクピクと色んな方向を向いている。


「みたいね……」

 

「全部で3人。近いのが1人、離れて2人いるねぇ」


 皆気付いてるみたいだ。


「そこの角、曲がるぞ」


 俺は気付いてないフリをしながら、小声で合図をした。皆は無言で返事をする。


 大通りから路地裏へと少し小走りになって角を曲がり、曲がった直後、壁に沿って待ち伏せる。


 俺らが走ったので、見失うまいと尾行者も駆け足になって角を曲がる。


 来たっ…………。


 来た瞬間にガッ! とそいつの胸ぐらを掴んで壁に押し付けた。


「ぐぅえっ!」


 そいつは苦しそうな声を上げた。


「お前、さっきから何のつもりだ?」


 そう言って睨み付けながら、そいつが被っていた帽子をとる。


 すると、見覚えのある顔が…………。



「また、お前かよっ!」



 俺が捕まえたのは、ヒューズだった。コルトから王都への道中で出会って以来、なんだかんだ縁のある泥棒三兄弟だ。


「げっ! は、離せ馬鹿!」


 明らかにイヤそうな顔をされた。


 ちょっとショックだ。それはこっちがしたいんだが?


「お前らホントどこにでもいるな。ゴキブリか? 何で俺らをつけてやがった? つけてきてた後の2人はノーブルとモッシュか?」


 そう聞くとヒューズはガックリと肩を下ろした。


「…………はぁ、仕方ねぇな」


 深くため息をつくと、ヒューズは観念してノーブルとモッシュも呼んできた。3人まとめて問いただす。


「俺は、お前らを探してほしいって頼まれたんだよ」


 そうノーブルは語った。


「俺らを? 誰に?」


「知らねぇ男女2人組だ。お前らが王都にいるはずだからってな。今は本人かどうか確かめたかったからつけてただけだ」


 誰だ? 俺らを知ってる奴ら…………うーん。今となっちゃいっぱいいるな。


「もういいだろ? 依頼人には『本人でした』って連絡しとくから、またあっちから直接連絡があるだろうよ」


 ノーブルはすぐに逃げようとする。


「お前冷たい奴だな。久々に会ったってのに」


「うるせぇ! 俺たちは別に会いたくねぇからな!? 言っとくが俺たちはもうこの国を出る! これが本当に最後だ!」


 なんだかんだ面白い3人だ。


「ぐすっ…………寂しくなるな」


 俺が目に涙を浮かべて言うと



「それ、お前だけだからな?」



 真顔でそう言って3人は逃げていった。



◆◆



 ノーブルたちの依頼人が気になりながらも、とりあえず昼飯を食べに行った。

 今日のお店は王都では有名なウィープルという鳥型魔物の丸焼きのお店で、いつも大行列が出来ているらしい。俺たちは40分ほど並んだ後、テーブルに着くことができた。

 案内されたのは通りに面した2階の窓側席だ。


「まだかなー? まだかなー?」


 フォークを片手に握りしめて、トントンとテーブルを叩くウル。


「今注文したとこだろ!?」


 慌ただしいウルを尻目に、ふと窓の外大通りを見下ろすと人だかりが出来ていた。別に王都ほどの大都市であれば、あれほどの人だかりは珍しくはない。だが、中心にいるのは見覚えのある巨人族の男だった。


「ゴ、ゴードン!?」


 俺の口から出た懐かしい名前に、ウル以外の3人は反応した。


「ゴードンって、あのゴードンかい?」


「多分」


 ゴードンはコルトの町でカートというリーダーを筆頭にするBランクパーティの1人だ。一度、黒魔力のバケモノから命を救ったことがあった。


「何してるんだろ?」


 気になったレアが窓を開けると、男の張り上げた声が店内にまで聞こえてきた。


「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 今ならこの巨人族の大男と腕相撲をして、耐えた秒数に応じて賞金を出すよ! もし勝てたなら賞金は総取りだぁ! さぁ、参加する力自慢はいるかー!?」


 あれも聞いたことのある声だよな…………。


「俺がやる!」


 袖を二の腕までまくり上げたおじさんが名乗りを上げた。かなり鍛えてるのか、オーガのような腕の太さだ。


「はい、じゃあ参加費は10000コルです。はい! ありがとう!」


 そして樽の上で2人が腕を組み合わせた。


「よーし、スタアアアアトォ!」


 

 バゴォンッ!



 瞬殺だった。おじさんは一瞬で10000コルを溶かした。


 馬鹿だなゴードン。ある程度苦戦しなきゃ次の参加者が続かんだろう。


「さぁ、次の挑戦者はああああ?」


 やはり今の結果を見て、たじろぐ観客たち。しばし互いに目線を送り合うも手を上げるものはいない。だがその時


「はい!」


 人混みの中、見えるように元気よく精一杯手を上げる小さな少女がいた。どこかで見たことのある女の子だ。だぼだぼのオーバーサイズのシャツにキャップを被っている…………んんっ?



「「「「ウル!?」」」」



 俺たち4人は窓から身を乗り出しながら声を揃えて言った。


 自分たちのテーブルに目を戻せば、目の前のウルの席がすっからかんだ。おそらく窓から大通りに飛び降りたのだろう。


「にししし!」


 ウルは、やる気満々で男前に樽の上に小さくて細い腕をドンッと置いた。


「いやいやいや! お嬢ちゃん! それは無理だよ」


 どよめいた周りの大人たちがさすがに止めに入る。


「やだ! 俺はやるんだ!」


 ウルはブンブンと頭を振って確固たる意思で拒んだ。


「ユウ、レア、止めなくていいの?」


 アリスが聞く。


「うーん、まぁ、大丈夫だろ」


 俺がそう言うと、レアも頷いた。


 目を大通りへ戻すと、ゴードンも困りながらウルと腕を組んだ。手のサイズが違いすぎて、ウルはゴードンの人指し指を握っている。


 俺がコルトを出た時、ゴードンの実力はBランク程度だった。いくらパワー型だからといって、レベル2で身体強化ができるウルには勝てないと思うが…………。



「スタアアアアトオオオオオオオ!!」



 ガッッ………………………………ッッッッ!!



 なんと力は拮抗した。


「「「「嘘!?」」」」


 観客たちは少女が巨人族と互角に勝負できていることに驚いていたが、俺たちは逆だった。


 ウルとゴードンが互角…………!?


 目を凝らしながら店の窓枠にはさまる俺たち。


「い、いーち! にーい! さーん…………!」


 驚いた司会の男が慌ててカウントしていく。ゴードンは驚きながら、顔は真っ赤でプルプルと震えている。徐々にウルが押し負けていき、5秒耐えたところでウルの手の甲が樽についた。


「ぐわあああああ、負けたあああああああん!」


 そうわめきながらウルはトントントンッ! とジャンプして、窓から店の中へ戻ってきた。取り残された観客たちはポカンと口を開けたままだ。


「なんでだよおおお!」


 すぐに自分の席に座ると、テーブルをバンバンと手のひらで叩いて悔しがるウル。


「いや、ゴードンあいつ、Aランクになってたのか?」


 すると、ちょうど料理が運ばれ、テーブルのど真ん中にでんっ! とパリパリに皮が焼かれた鳥の丸焼きが置かれた。鳥の油が流れ滴って非常に旨そうだ。


「うひょおおお!」


 ウルはまたご機嫌に戻り食べ始めた。


 まだやってそうだし、後で顔出してみるか…………。



◆◆



「じゃ、僕がいくよ」


 フリーが手を上げた。俺たちは食後に大通りのさっきの腕相撲のところに来ていた。


「はい、次の挑戦者はこの優男さんでーす!」


 そう紹介されるフリーを俺らは人垣の後ろから眺めていた。あの司会をやってる男、やっぱりゴードンと同じカートのパーティのキースじゃねぇか。


「フリー兄ぃ! 俺の仇、取ってくれよな!」


 ウルがグスグス嘘泣きしながら応援している。


 当人たちが手を組み、顔を突き合わせたところで…………ゴードンの顔が蒼白になって固まった。


「あ、ゴードン。今、相手がフリーだって気付いたな…………」


 哀れやゴードン。でもこれで確定か。


 

 バゴオオオオン…………!!



 瞬殺だった。フリーは土台にしていた樽ごと叩きつけたゴードンの腕で破壊し、ゴードンは勢いで空中で何回転かした後、地面に落下。目を回していた。

 さすがのゴードンもフリーが相手じゃどうにもならんようだ。


「はぁ、スッキリしたねぇ」


 フリーは腕を回して満足顔だ。


「馬鹿。ちょっとは加減しろ」


 フリーはニコニコと後ろで見ていた俺たちに向かって手を振った。巨人族が瞬殺された光景に観客たちは頭がついてきていない。


 そのまま目を回したゴードンとキースを引きずり路地裏へと連れていく。


「キース、何やってんだ?」


「や、やっぱりユウじゃねぇか!」


 驚くキースにペシペシと頬を叩くとゴードンが目を覚ました。2人とも懐かしい顔だ。


「あ、あれ? ユウ?」


「おう、何してんだお前ら」


「ユウーーーー!」


 状況がわかってきたゴードンが俺めがけてハグをしてきた。


「いだだだだだ! 折れる! 折れるって!」


 巨人族の馬鹿力で背骨が折れそうだ。


 事情を聞くと、カートたちはコルトの森で自分たちを殺しかけたあのバケモノを、独自に探る旅に出たそうだ。その結果、情報が集まるだろうということで王都に少し前に到着したところとのこと。そして俺たちが国王を救ったと話を聞いて王都にユウがいることを知り、探していたそうだ。


「で、なんで腕相撲なんかしてる?」


「それは…………」


 キースが目をそらした。そして嫌そうにボソッと言った。


「こないだサリュがウォーグレースで金をほとんどスッちまって、資金集めと情報収集を兼ねてたんだよ」


「そういうことか…………」


 サリュ、まだギャンブル癖抜けてなかったのか。


「で、そのサリュとカートは?」


「2人は俺たちとは別の方法でユウたちを探すって言ってた。確か、探偵を雇って探してもらうとかなんとか」


「探偵…………あ」


 もしかしてさっきのノーブルたちって、カートたちに雇われてたのか? 確か男女2人に雇われたって言ってた。あれ、カートとサリュのことじゃ…………。


「なるほどな」


「この後、西区の噴水広場で集合なんだ。案内するよ」



◆◆



「ユウ! 久しぶりだな!」


 バンバンと背中を叩いてくるカート。コルトで見た時よりも金髪が肩くらいまで伸びていた。


「久しぶりね」


 相変わらず妖艶な雰囲気を醸し出しているギャンブル廃人残念美人のサリュ。


 ゴードンとキースに連れられ、噴水広場でカートとサリュにも会うことが出来た。


「ああ。皆、元気そうで何よりだ」


「レアとアリスとフリーも久しぶりだな。で、このちっこいのは誰だ?」


 カートが足元にいたウルを指差した。


「ちっこくねぇよ!」


 ウルがカートのすねにローキックをかました。


「いってぇ!」


 痛みですねを押さえて飛び上がるカート。


 あれは本気で痛い奴だ。ウル、加減しろ。


「すまん。そのちっこいのはワーグナーで知り合った仲間、ウルだ。お前らも強くなったみたいだな」


 ちっこい発言に、俺にもウルはローキックをかましてきたが、結界で防いだ。結界に足をぶつけ、「いでぇぇ!」と地面を転がっているウルをスルーしてカートと話す。


「お、おい、これいいのか?」


 地面を転がるウルを指差して心配するカート。


「全然無視してくれ」


「あ、ああ。わかった」


 ウルを目の端に気にしながらも話を続けるカート。


「俺とゴードンは種族レベルが2になったんだ。ワーグナーの近くの沼地で骨竜に出くわしてな」


 賢者さん、骨竜って?


【賢者】いわゆるスケリトルドラゴン。成竜のアンデットになります。全身が骨でできた竜でAランクの魔物です。


「へぇ、やるじゃん」


 俺が素直に感心していると


「それよりユウ、お前もうSランクなんだって?」


「ああ、まぁな」


 ポリポリと頬をかく。


「まさか、本当にSランクになっちまうとはな。それで、今度の戦争じゃ将軍か?」


「そこまで知ってたか。まぁ、不本意ながらな」


「俺らも参加するからよ。ぜひお前の部隊に入れてくれよ。それもあって探してたんだよ」


 そう言いつつ親指を立てて、イケメンスマイルをした。


「は?」


「良いだろ? どこぞの知らん馬の骨の下に付くよか、お前の方がまだマシだ」


 嫌みが入ってるが嬉しいことを言ってくれる。


「そりゃあ、こっちから頼みたいところだ」


「よし契約成立だな! 宜しく頼むぞ将軍」


 俺とカートはガシッと握手を交わした。



◆◆



 カートたちと話した後、アリスたちは別れて買い物に行ったが、俺とフリーは別に行くところがあった。


 いや、ようやく行く決心がついたと言うべきか…………。


「久々だな」


「だねぇ」


 俺とフリーが見上げているのは学園の校舎。


 俺とフリーは制服に着替え、レムリア学園に戻ってきていた。だが、生徒として戻るわけではない。マードックの反乱をギリギリ防いだ今、ここにいる意味もない。きちんと同じクラスの奴らに別れを告げるためであった。


 今は授業中、Sクラスの教室を覗き込むと知らない教師が教鞭をたれている。生徒はオズ、マリジア、シャロンしかいない。3人ともひどく退屈そうだ。オズなんかは頬杖をついたまま寝ている。


「少なくなったねぇ」


 フリーが哀しそうに呟く。


 がらんとした教室を見ると、ブラウンたちとガストンたちにワイワイとイタズラを仕掛けていたあの頃がひどく懐かしく思え、ポッカリと胸に穴が空いた気持ちになった。


「助けられなかったな」


「うん…………」


 フリーが寂しそうに頷いた。


 授業が終わるのを待ち、教室の扉を開けて入った。


「「「ユウに、フリー!?」」」


 3人が目を丸くして驚いた。


「ビックリした。もう来ないのかと……」


 そう言いながらマリジアが泣きそうになって口を歪めた。


 言いにくいな…………。


「うん、すまん。…………でも、学園にはこれで最後なんだ」



 ーーーーしばしの沈黙が流れた。



 そしてシャロンが寂しそうに目の端に涙を溜め、笑いながら口を開いた。



「うん、わかってるよ。2人とも、英雄だもんね」



◆◆



 それから最近の学園について聞くと、ガストンとクロム先生は行方不明。サイファーと臨時教師だったガードナーは死亡。ブラウンも表向きは行方不明だが、暗黙の了解で死亡扱いになっている。

 さらにオーウェン生徒会長、キーナ副会長、テオ風紀委員長も学園を辞めたそうだ。まぁ、王族だし、オーウェンは国王になったんだからな。


「ブラウンもいなくなっちゃって…………ぅぅっ」


 マリジアは涙を流しながら、口を押さえて床にへたりこんだ。後ろからシャロンが肩を抱き寄せる。


「すまんかった」


 俺は頭を下げた。


 ブラウンを父親に立ち向かわせたのは俺の責任でもある。


「ユウ……」


 フリーが俺の名前を呼んで肩をつかんだ。でもその後に、言葉は出てこない。フリーは悔しそうに唇を噛んで黙った。


「うううん、ユウとフリーは何も悪くないの。2人も生きていてくれて良かった…………!」


 そう嗚咽を噛み殺しながらマリジアは言った。


「うん、私たちは…………詳しくは知らないけど、2人はブラウンを友達として助けようとしてくれた。それだけでブラウンも嬉しかったと思うの。ブラウンは2人を恨んじゃいないわ」


 シャロンは涙が頬を伝いながらも、俺たちに向かってしっかりと強い瞳で、そう言ってくれた。


 なんだろう…………マリジアとシャロンにそう言われて少し救われた気がした。心がふっと軽くなった。


「…………ぁぁ」


 それを感じた瞬間、目頭が熱くなった。


 フリーも同じだったのだろう。フリーは皆から顔を背けた。


 そして、マリジアとシャロンは俺たちの顔を見て、つられるように思い出してしまったのだろう。



「「ブラウン…………ッ」」



 2人は抱き合いながら泣き崩れた。


 ブラウン…………。マリジアのことが好きだったんだよな。マリジアはどうだったんだろう。


 チラッとマリジアを見るが、とても聞けなかった。


 こうして久しぶりに顔を合わせても、胸にポカンと穴が空いたような寂しさはぬぐえない。俺だって辛い。でも、今はできることをやるしかないんだ。


「そ、そういや、オーウェンたちは学園を去って、オズは残ったんだな」


「ああ。俺はオーウェンの後を継いだ」


 オズはいつものように無愛想に言う。


「後を継いだ? てことはお前まさか生徒会長か?」


「ああ」


 そうか。なんだか実感がわかないな。初めて会った時、ナイフを投げ付けてきたオズが生徒会長か。感慨深いな…………あれ、なんだか別の涙が。


「そ、それだけじゃないよ。オズは学園1位にもなったんだから」


 目を擦りながらシャロンが補足した。


「ホントか? さすがだな」


 オズは恥ずかしそうに何も言わずに、話題をそらした。


「それでユウは将軍になったって?」


「ああ、まぁな」


 この話も広まっているようだな。


「軍を率いるのは簡単じゃないぞ?」


 そのセリフ、皆に言われるなぁ…………。


「まぁなんとかなるさ」


 なってしまったからにはそうとしか言えないよな。


「お前は将軍で俺は学園のトップ。互いに国のために頑張るしかねぇ。なんかあったら俺か、うちの兄弟を頼れ」


「ああ、助かるよ」


 オズがそこまで気を回してくれることが嬉しく思える。成長したな。


「それで、ガストンはどうしたんだい?」


 それは俺も気になっていた。フリーが3人に聞くが全員首を横に振った。


「わからないわ。学園側も把握できてないみたい」


 完全に行方不明ってことか。あいつはサイファーが死んで何を思い、どういう結論に至ったのだろう。


 そう考えていると、マリジアが思い出したように人差し指を立てて言った。


「あ、そうそう! うちの父さんも戦争に行くわ。ぜひユウの部隊に入りたいそうよ」


「テイラー子爵が? おお、それは助かる」


 あの人はマードックからの刺客を単独で退けたこともある手練れだ。非常に心強い。


「頼むから…………死なないでよね?」


 マリジアが辛そうに言う。


「ああ、もちろんだ」


 そりゃそうだよな。Sクラスは当初の半分以下になってしまってる。


「フリーもユウを支えてあげて」


 シャロンが俯きながらフリーの手を握る。


「任せてよねぇ」


 シャロンのお願いにフリーはいつも通りのほほんと答えた。


「ユウ、お前なら大丈夫だ。この国を頼んだぞ」


 オズがハッキリと俺の目を見据えて言った。


「ああ」


 オズと、しっかりと握った右拳をゴッとぶつけ合った。



読んでいただき有難うございました。


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