第117話 弟子の育成
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第117話です。宜しくお願いします。
「「「「将軍をやることになったぁ!?」」」」
宿屋に戻って皆に伝えると予想どおりの反応だった。
「ああ、反乱の時の実績と実力を買われてな」
「あ、あなたねぇ、軍を率いるのって簡単なことじゃないわよ?」
驚きで立ち上がったアリスが、額に手を当ててよろめきながら俺を見た。
「ワーグナーでやった仮クランみたいなもんだろ?」
「全っっ然! 違うわよ……」
最初は勢いが良かったが、「違うわよ」の部分でガックリと肩を落とすアリス。
「大丈夫だろ。今までもなんとかなってきたし。まぁ気を落とすな」
ポンポンと肩を叩く。
「すん…………」
落ち込みながらベッドにストンと腰を下ろすアリス。よしよしと頭を撫でる。髪がサラサラだぁ。
アリスは真面目なんだよな。ちょっとくらい楽観視してもいいんだぞと。
「僕らはユウが決めてきたことなら従うまでだよねぇ」
「そうだね。今までも何とかなってきたし!」
ヘラヘラと何も考えてなさそうなフリーとレアは元気に賛成してくれた。
こいつらは楽観的過ぎるが。
てか、2人の両手には屋台で買ってきたらしいオーク肉の串焼きが握られている。こいつら国王即位パレード見て遊んでやがったな?
そしてウルはと言えば、
「俺…………今度こそでっかい戦に参加できんのかよ! いいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃ……んやっほぉう!!!! ぜってぇデカイ手柄立ててやんぜ!」
ワーグナーで参戦できなかった雪辱を果たせると、ベッドの上で天井を向いて拳を振り上げ喜んでいた。
うん、ウルはガキだな。ただの。
自分しか心配していないことに気付いたアリスは、頭をふるふると振りつつ気力で復活した。
「この馬鹿3人はもう~~~~」
そう言って馬鹿3人を睨んだ後に、俺にキッと視線を向けた。
「そ・も・そ・も! あなたまだ力を制限されたままなんでしょ?」
怒りが再燃したアリスは心配そうに指を突きつけてくる。どうやら本気で心配してくれてるようだ。
「あーそうだな。でもまた種族レベルも上がったし、前よりかは強いぞ」
力こぶを出して見せる。
本気を出せばSSランク下位くらいの実力はあると思う。それにいざという時はベルの力を借りられるしな。
【ベル】簡単にあてにしないでほしいんだけど?
「う…………ほんとすぐ強くなるのよね」
反論できず、疲れたようにアリスは返事した。
「うん、もういい。あなただもの」
お疲れのアリスには今度ケーキでも買ってやろう。
「なんとかなるって! それでだ。皆にも俺の軍の中で幹部的な役職についてもらおうと思う」
「わお! てことは可愛い子はべらせ放題?」
フリーがニマーッとしながら両手を広げ喜んだ。
「あほかぁ!」
スパァン! とデコをしばく。
「任せてよユウ! こんな美味しい、うううん。美味しい串焼きがある国を滅ぼさせはしない」
言い直せてないぞレア。
「俺もやるぜー! とりあえず部下は10万人ほしい!」
ウルに幹部はまだ早いような……。とりあえず、誰かとセットだな。
「うーん、仕方ないわね…………」
珍しく拗ねたアリスもしぶしぶ了承した。
「まぁまた詳しい話はギルマスからあると思う。とにかく、よろしく頼むぞ」
「「「「了解!」」」」
4人の返事が揃った。
なんだかんだふざけてるようで、俺の言うことに従ってくれるんだよな、こいつら。
【ベル】みたいね。一応あなた認められてるのよ。
一応ってなんだよ。
「あ、そう言えば今日もガブローシュ君たちを見てあげるんだったよね?」
ピクピクと耳を動かしながら、口をモグモグさせたレアが言った。串焼きは全て口に収まったようだ。
「ああ、もう来るはずだが…………お?」
と言ったそばからドタドタと宿の廊下を走ってくる音が聞こえた。
また騒がしくなりそうだ。
ドアがバタンと勢いよく開かれる。
「ししょ~~~~!」
左目の回りに青紫のアザをつくった半泣きのガブローシュが部屋に飛び込んできた。ドタドタと床に膝をつくなり、泣き始める。
「お、おい、どうしたその顔!」
とりあえず、ガブローシュに回復魔法をかけながら話を聞いた。
「実は…………」
◆◆
後から来たエポニーヌとコゼットにも話を聞くと、どうやら王都ギルドでいざこざがあったようだ。
あそこは1階はBランクまでの依頼しかない。Aランクになると2階で依頼を受けることになっている。だが間違えてガブローシュたちは2階に上がってしまったらしい。
「私たちが悪いんです。ガブローシュは突っかかってきたAランク冒険者と言い合いになって…………」
しゅんとしながらエポニーヌが話す。
「ボコボコにされた、と?」
「はい」
素直にガブローシュは返事をした。
言ってもガブローシュは子供だ。子供をガチでボコる奴なんて……今まで結構いたな。
いや、それでも王都ギルドは比較的治安が良いぞ?
「相手は?」
「モーガンというAランク冒険者です」
モーガン? どっかで聞いたことあるような。
と思っているとアリスが思い出した。
「え? モーガンって、まさかワーグナーのあのモーガン?」
「ワーグナーって、あのでかい筋肉のおっさんか? まさか王都にいるわけ……」
いやでもモーガンもワーグナーの氾濫を乗り越えてレベル2に上がったんだったよな。確かに荒っぽい性格で、あいつならケンカになってもおかしくないような…………。
「じじょー! おれぐやじいです!」
ガブローシュが泣きながらしがみついて来た。
「おまっ、またかよっ……!」
こいつの涙と鼻水で俺の服がテカテカと光る。素直にキレそう。
「早くあいつに勝てるように修行をつけてください!」
「お前な、そいつはAランクだったんだろ?」
ガブローシュの服を掴んで引き剥がしながら問う。だが、ガブローシュは叫んだ。
「だっで、だって! 師匠はAランクのカイルと引き分けたじゃないですかー! 俺も早く師匠みたいになりたいんです!」
悔しさで本気で泣いたガブローシュの大声に、皆の同情のじろっ、とした視線が俺に集まる。
「いや、あのなぁ……」
俺を目標にしてくれてるのは嬉しいが……同じことがガブローシュに出来るか? うーん、まぁ教えられることは教えてやるか。
◆◆
翌日の早朝、俺たちはCランクダンジョン『無限砂漠』へ来ていた。
というのも王都近辺は比較的安全で魔物の数自体も少なく、修行がやりにくい。そしてガブローシュたちも今やCランクということで、ちょうど良いと思ったからだ。
ただ、このダンジョンまでは王都から馬車で2週間かかる。当然俺にそんな時間はないので、全員を抱えて空を飛んで来た。
「…………うおおえええええええええええええぇぇぇっ!」
びちゃびちゃびちゃ。激しく吹き出す吐瀉物。
「許してください。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…………」
「……………………うっ」
ガブローシュたち3人は高速移動の反動で青い顔をして砂地にうずくまっている。エポニーヌとコゼットはまだマシだが、ガブローシュは完全に中身が出てる。
そして、アリスたちも全員連れてきていた。俺もレベルが上がって、身体をならすのにちょうどいいし、町中にいるより気分転換にもなる。
「ふぅん。乾燥してる分、あたしはちょっと魔法が使いにくいかしら」
確かに氷属性が得意なアリスには少し不利かもしれない。
「…………あら」
アリスがなにかに気付いたように呟いた。
ドゴンッ!!
砂を突き破って、地面から小山ほどある氷山が現れた。一気にジリジリと焼け付くような暑さから、ひんやりとした空気が地表を流れるようになる。
「地下には水がいっぱいあるみたいね」
満足そうに語るアリス。
「ちょっ、アリスさん!?」
慌てて火炎魔法で氷山を溶かす。環境破壊もいいとこだ。
しかもアリスの魔力が上がったせいか、なかなか溶けない。そしてサンドワームたちが低温の氷山に苦しみのたうち回っていた。
「広いね! なんだか風も自由に流れてるよー! あ、すごい見て見てみんな!」
レアは障害物の少ない砂漠で、立てた人差し指をクルクルと回しながら、自由に風を操って遊んでいる。
「てかレアさん? 砂嵐はやめてね?」
「あ、ごめん! えへっ、楽しくてつい!」
可愛くペロッと舌を出すのはいいが、レアが遊びで作ってた砂嵐は町を飲み込むサイズなんだよ。「えへっ」で作っていい規模じゃねぇ。
だがそれも、レアが右手をひと振りすると、嘘のように霧散した。
ダメだ。こいつら連れてきちゃ、このダンジョンを破壊されかねない。
「すぅーげぇレアねぇ! これ全部砂かよ! あちー!」
ウルは一面砂だらけで焼けつくような暑さの世界になぜか喜んでいる。
まぁアリスたちは放っておいても大丈夫だ。そして倒れてる3人に目を向ける。
「よし、お前ら早く立て」
「「「はい~」」」
フラフラとガブローシュたちは立ち上がる。そしてヨレヨレの3人を観察する。
見た感じこいつらも実質Bランクくらいにはなってるんだよな。ここをクリアするくらいならいけるだろ。
それから魔力操作の次の段階について教える。なんだかんだ色んな人に教えてきたので、これにも慣れた。
以前に軽く説明してからコツコツと3人とも練習していたのか身体の表面に魔力を出すところまでは出来るようになっていた。
「お、そこまでできたら後は簡単だ。その状態で自分の得意な属性をつけてみろ」
「「「はい!」」」
3人はぐぬぬ……と力みながら身体に纏った魔力に属性を付与しようと頑張っている。
「力を抜け。別に筋力は関係ない。重要なのは自然体でいることとイメージだ。ガブローシュなら炎を身体に纏うイメージ。エポニーヌなら水を、コゼットは風を纏うイメージ。無詠唱で魔法を使おうとした時はどうやった? それを思い出してやるんだ」
お…………?
コゼットの身体の周囲にはすでに微弱な風が吹き始めている。
コゼットは才能がありそうだ。これならすぐかもしれない。
「じゃ、俺らはちょっと用事があるから。しばらくしたら戻る」
というわけで、ここに来たついでに俺たちはあのゴールデンゴーレムに会いに行った。
◆◆
「よ、元気にしてたか?」
俺たちは散歩がてら適当に魔物の相手をしながら、あの財宝部屋まで来ていた。
「ユウウウウウウ!! フリイイイイイ!!」
ゴーレムは、その金ぴかの四角い顔をゴリゴリガリガリと擦り付けてきた。
「いてっ、いてぇよ馬鹿!」
思わず蹴飛ばした。ガシャアン! と金銀財宝の山に頭から突っ込むニュート。
「な、何なのこのゴーレム。話せるの?」
人間味の強い変わったゴーレムにアリスたちが動揺する。
「ああ、前に一度ここで会ったんだ。俺の友達のニュートだ」
財宝に埋まっているニュートをそう紹介すると、ニュートは飛び起きた。
「ニュート、ニュートデゴザイマス!」
ニュートはビシッと敬礼した。
「ど、どうも…………」
「コ、コンニチワ」
「おっす!」
アリス、レア、ウルが驚きながらもペコリと返事をする。
「言ったろ? 珍しい奴がいるって」
初めて見る3人はニュートに興味津々だ。
「ソレデ、キョウハ、ドウシマシタカ!」
「いや、たまたまこのダンジョンに来る用事があったんで寄っただけだ」
「すげぇな! 砂漠ってこんなのもいるのかよ!」
喋るゴーレムに興味津々なウルが、いつの間にかニュートのそばにいてコンコンとボディを叩いている。
「いや普通の砂漠にはいないと思うぞ。あ、そうそう。ウルのナイフもニュートにもらったんだぞ?」
「そうなのか!? あんなすげぇナイフくれて、ありがとうなニュート!」
ニシシと嬉しそうに礼を言うウル。ニュートの頭に飛び乗った。
「ハイ、ココニハ、フルクカラノ、ブキガ、タクサン、アリマスカラ」
そう言うニュートも感謝されて満更でもなさそうだ。というよりニュートは話し相手がいるだけで嬉しいのだろう。
「ニュート、調子はどうだ?」
「チョウシハ、タイヘンイイデス。デモ、チョッピリ、サミシイデス」
「寂しいか……」
「ハイ、ズット、ヒトリデスカラ」
「なるほどなぁ。うーん…………」
俺らがここに来るのも限度があるからな。
「あ、ユウのユニークスキルで魔物を復活させて、ここで一緒に暮らしたらどうかな?」
フリーが人差し指を立てながら言った。
「お、そりゃいいな! ええっと…………」
魔石はワーグナーのダンジョンでとれたものを溜め込んでいた分が結構ある。
ニュートは首をかしげながら俺が何をしているのか、見ている。
どうせなら、ニュートを守ってくれるくらい強い奴がいいよな。
「それならこいつだ!」
取り出したは20センチはある黒曜石のような魔石。
さっそく魔力を込めていく。ドクロの時とは違い、今回は余裕がありそうなのでありったけを込めていく。どうやらこの時の魔力が多いほど復活した時、幾分か強化されているようだ。
俺の魔力が長い竜の骨格を形作っていく、尾はとんでもなく長く、その黒く強靭な竜鱗は攻撃を弾く。そして細長い顔に鋭く細かい牙。体高は以前よりもさらに1メートルほど大きく5メートルはある。
「グロロロロロ…………」
そいつは30メートルはある長い尾を自らの回りにとぐろを巻いて、俺に向かって頭を下げた。
「「「デ、デモンドラゴン…………」」」
以前に戦ったことのあるアリスたちは、その脅威を思い出して後退りする。
「何なりとお申し付けください。ご主人様」
低いイケオジボイスだった。
「ああ、こいつを守ってやってくれ」
俺があごをしゃくると、デモンドラゴンがニュートを見た。
「ヒッ、ヒイイイイ」
ニュートは俺の背後へと隠れる。
身体中が黄金で出来ているニュートだ。いつ冒険者に狙われるかわからない。でもそんな時こいつがいれば大丈夫だ。CランクのダンジョンにSランクのこいつなら敵なしだろう。
友達には…………まぁ勝手になるか。ニュートのコミュ力次第といったところか。
だが、デモンドラゴンはニュートを見た瞬間、目を大きく見開いた。
「…………このようなお方の守護をさせていただけるとは、ありがとうございます」
「このようなお方?」
俺と後ろに隠れたニュートは揃って同じ方向に首をかしげた。
「ワタシ、タイシタコト、ナイデスヨ」
そう言いながら手をブンブンと振るニュート。
お前が言うかと思ったが、それもそうだ。
「そうだぞ。こいつ大したことねぇぞ。大きく見積もってもDランクだ」
だが、デモンドラゴンは目を伏せて静かに首を横に振る。そして、ニュートに視線を向けた。
「いいえ、あなた様からは偉大なる『龍』を感じます」
「ワタシカラ!?」
びっくりして財宝の山にガシャンと頭から突っ込むニュート。
ん? 確かにニュートは龍を目覚めさせないようにここで守ってるって言ってたな。
「やっぱりお前自身が、守ってる龍に関係あるんだな」
「ソ、ソウナノ、デショウカ」
そう言いながら、その場でグルグル回って考え出すニュート。
「ま、とにかく、仲良くやってくれ」
「タ、タベラレナイ、デスカ?」
またもや俺の背中に隠れるニュート。
「絶対に食わねぇよ。お前が食われたら俺がこいつを殺してやる」
ビクゥッと身体を震わせるデモンドラゴン。
「そうだ。一応伝えておくがニュート。実は今、この国は帝国と戦争状態になってるんだ」
「オワ、コワイデスネ。センソウ、デスカ」
そう言いながら財宝の山にあったデカイ鍋を頭に被るニュート。
「ワタシ、センソウ、キライデス」
ブルブルと首を振っている。
「そうだ。ここまで帝国軍は来ないと思うが、なんかあったらこいつに守ってもらえよニュート」
そう言ってデモンドラゴンの首をパンパンと手で叩く。
「ワ、ワカリマシタ」
デモンドラゴンも満更でもなく嬉しそうなのが伝わってくる。そして、デモンドラゴンに目を向ける。
「ああ、あとお前。このダンジョンで俺の弟子3人が修行してる。命の危険がありそうだったら助けてやってくれ」
「承知しました」
デモンドラゴンは飼い犬のように床にふせをした。
「そんじゃなニュート、仲良くやれよ!」
そう言って俺たちはこの部屋を立ち去った。
デモンドラゴンと2人きりにされたことに気付いたニュートの悲鳴が後ろからこだました。
「ヒイイイイイイ…………!」
◆◆
ガブローシュたちのもとへと戻ってくると、コゼットは不安定ながらも風属性の纏いに成功していた。
「お、早いな。さすがコゼット」
「えへへ」
ほめてやると満更でもない様子だ。でも集中を乱したのか、すぐに纏いは解けてガックリと肩を落とすコゼット。
「くそおおおおおお!」
ガブローシュはコゼットに先を越された焦りで力が入っている。
「むむむむ…………」
エポニーヌは自然体でできているが、まだだろう。
全員が纒いをできるようになるにはまだかかりそうだが、まぁ予想通りだ。
こいつらを戦争に行かせるわけにはいかない。俺が将軍だと言えば絶対に着いてくる。
「そんじゃお前ら、当分の食糧と夜営セットはここに置いとく。コツはすでに教えたからな。それをマスターしてこのダンジョンでボスを倒すまで王都には戻ってくるな」
「「「へ? ええええええええええええええええええええええええ!?」」」
読んでいただき有難うございました。
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