第114話 事件後
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「疲れた…………」
俺たちは歩きながらマードックの屋敷へと向かっていた。徹夜で戦っていたため、ギンギンに照らしつける朝日がまぶしい。
マードック捕縛後、俺と騎士団長がもと来た通路から寝室へと戻ると、ギルドの冒険者たちと合流したアリスたちと鉢合わせした。どうやらギルドの冒険者たちは途中で反乱軍の別動隊とぶつかり、時間がかかっていたそうだ。そのことからも、マードックはギルドの動きを警戒し、念入りに計画を練っていたことがわかる。俺たちが先行して本当に良かった。
隠し通路で1人追手を食い止めるために残ったマシューはしっかりと相手を倒していた。相手の男はガードナーのパーティメンバーでSランク以上だったらしいが、マシューの相手ではなかったようだ。ここまで良いところなしだったマシューは内心ホッとした様子だった。
「しかし、なんで俺たちがまたマードックの屋敷まで向かわなくちゃなんねぇんだよ」
口を尖らせてブツブツ文句を言いながら道を歩くのはウルだ。
「仕方ないだろ? 騎士団は重傷者だらけなんだから」
そう、騎士団で動ける者が少ないため、万が一を考えて実力のある者で屋敷の地下を見張っていて欲しいと騎士団長直々に頼まれた。とはいえ、俺たちももうフラフラなんだが。
「この辺りも酷い有り様だね」
猫耳をペタンと寝かしながらレアが言う。
俺たちが今歩いている貴族地区も、道は地割れで寸断され、塀や建物の壁が壊れている。まるで大地震の被害にあったかのようだ。
「こりゃあの怪物のせいだ」
地面ごと吹き飛ばすとは思わなかった。バケモノ化したガードナーの、あの威力にはビビる。本当によく勝てたものだ。
「でも良かったよ。お前らが無事で」
ほとんど怪我らしい怪我もなく、アリスたちだけであの集団を全滅させたんだからさすがだ。
「何を言ってるのよ。あなたが一番心配だったんじゃない」
隣を歩くアリスが呆れながら眉を下げて言った。
「そうだよユウ! ましてや相手はこの国最強だったんでしょ?」
レアは少し怒っているようだ。
「まぁ、なんとかなったからいいじゃん?」
「はぁ、あなたそんなんじゃいつか死ぬわよ?」
俺が行き当たりばったりばかりで怒っているようだが、実際なんとかなってるしな。まぁ、ジャベールが来なかったら死んでたかもしれないが。
「あはは。それで今まで一度も死んでないからねぇ。ユウは」
「だよな」
フリーと肩を組んだ。
アリスにくどくどと怒られているうちにマードックの屋敷へと到着した。すでに憲兵とギルド職員が使用人に話を聞くために数人出入りしているようだ。確かに彼らじゃまだ残党がいた時対応できないかもしれない。
「それにしても、この屋敷も酷い壊れ方……」
「地割れがひでぇな」
ガードナーの一撃で起きた地割れがマードックの屋敷の真下を通過したために、本邸は半分に裂け、左側は2~3メートル地盤が沈下していた。敷地を取り囲む外壁も、連なってベタンと倒れてしまっている。
「ここにユウとフリーの友達が?」
「ああ。良いやつなんだよ。絶対に助けてやりたい」
職員たちをスルーして真っ先に地下室へ向かう。1階錬金術の部屋でガコンと地下室への床の鉄扉を持ち上げ中に入る。
階段を下っていくと、この地下室にまで地割れの影響はでていたようで、ズレた地下室の天井の隙間から青空が覗いている。
初めて来たアリスたちはあちこちを物珍しそうに眺めながら歩く。俺とフリーは真っ先にブラウンの檻へ駆け足で向かった。
「お、おい!」
「檻が…………壊れてる!?」
地割れがちょうどブラウンの檻のそばを通過し、崩壊した柱がブラウンの檻を直撃、破壊していた。鉄棒が5本ほど根本から折れ、人が通れる隙間が空いてしまっていた。
不味い……!! ローグとなったブラウンがこの辺りをうろついているかもしれない。
「警戒しろ!」
一気にピリッと緊迫感が張り詰める。全員が瞬時に戦闘態勢に入った。
「ブラウン? どこだブラウン!」
上を向いて叫ぶと声が部屋に反響する。
まさか屋敷から出たってことはないだろうな? そうなれば王都がベニスの町の二の舞になる…………!
「ユウ!」
手招きでウルが呼ぶのはブラウンの檻の方だ。
「いたか!?」
「ああ」
ウルの指差す先、檻の隅っこ暗がりで、食欲を必死に抑えるようにヨダレまみれで左手の指を咥えているブラウンがいた。
良かった! まだ中にいてくれた!
「ブラウン…………?」
俺が近寄ると
「フーッ、フーッ、フーッ!」
必死に何かを堪えるような表情でこちらを睨み付けている。まるで近付くなとでも言うかのようだ。
「この人が、その友達なの?」
アリスが辛そうな顔で聞いてくる。
「そうだ。ブラウンだ」
ブラウンは一晩でさらにローグ化が進んでいた。眼球は黄色く、頭髪は全て抜け落ち、頭皮には青い血管が浮き出ている。何よりもはや2本足でなく、四つん這いで立っていることがショックだ。
もう、人間じゃ……………………っ。
「ユウ。…………僕はこんなの、許せないねぇ」
フリーは血が出るほど拳を握りしめた。
「ああ、許せねぇよなぁ」
俺はもはや、やるせなさで脱力して言った。そして冷たい怒りが心を満たす。
マードック…………!!
絶対にブラウンを治療させ、この報いを受けさせる……!
「2人とも落ち着いて……!」
男勢が珍しくこういう調子でどうしていいのかわからないのだろう。アリスがなだめるように俺たちに言った。
「ああ、大丈夫。大丈夫だ」
熱く駆け回る血流を押さえながら、自分に言い聞かせた。
フリーは俺を横目で見て言いにくそうに言う。
「ユウ、学園の皆、特にマリジアとシャロンには…………」
フリーのその言葉でさらに心が辛くなった。
「言えるわけねぇだろ」
「だよねぇ」
フリーは目をつむりながら首を横に振った。
「な、なぁ、でもなんでこの人は檻から出ないんだ? ベニスのあいつらだったら、襲ってきてもいいはずだろ?」
ウルがブラウンを指差しながら唐突に疑問を呟いた。
「そうか。言われてみれば確かにそうだ…………」
なんでだ?
するとフリーはブラウンの方を見つめながら、何かに気付いた。
「そっか……!」
そして含みを持たせて言う。
「ユウ、ブラウンは人を傷付けるのが嫌いだったでしょ?」
フリーが何を言いたいかわかった。そしてフリーは続ける。
「ローグになってもそこは変わらずなのかもしれないよ?」
「だったらいいな」
「そうだねぇ……」
目頭が熱くなった。
「なぁブラウン、安心してくれ。なんとしても元に戻してやるからな」
しゃがんで目線を合わせて呼び掛けるも、ブラウンは指を咥えながら俺を見つめるだけだった。
◆◆
夜通し戦っていたため、俺たちは宿に戻り休息を取ることにした。そして、俺はベッドに入って眠りにつく前に今までのことを振り返っていた。
ブラウンを救うためにはどうすればいい? マードックから情報を聞き出すこともそうだが、まずローグの原因『黒魔力』について知らないとならない。マードックの研究資料には『黒魔力』の加工方法が主で、どうやって手に入れたかまでは書かれていなかった。
だが、その謎を解き明かす鍵は、いつかオズが言っていた『混沌の理』にある。そうだろ?
【賢者】はい。『黒魔力』は『混沌の理』が産み出したものの可能性が高いです。
そうだな。
『理』
そもそも『理』とは? あの時出会った『斬の理』は、ジャベールともガードナーとも違う異質な雰囲気だった。あの感じ…………どこかで会ったことがあるような気がする。
もしこの先、『理』と戦うようなことがあれば、今のままじゃダメだ。ギルマスが過去に『理』と一戦交えた時には、あの人ですら一撃を止めるだけで精一杯だったという。
SSSランクの冒険者相手に苦労していたらまだまだ先は長い。アリスたちもSランク冒険者に苦戦したようだし、もっと俺自身にも力が必要だ。そのためにはレベルを上げやすいこの、弱体化の指輪の効果があるうちにできる限りのことをしなければならない。
それにこの先、今回のように俺の内にいる者たちの力を借りる必要があるかもしれない。戦力増強は急務だ。
そう考えながら俺は久々に感じる、あの抗うことができない強烈な眠気に負け、深い眠りについた。
そして昼過ぎ、目を覚ませば身体が軽くなったような違和感を感じる。
「この感じ、久々だな」
仰向けで目を開けるなり1人でそう呟いた。
そう。俺は、3度目となる種族レベルアップを起こしていた。
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名前ユウ16歳
種族:人間Lv.3→4
Lv :55→1
HP :2150→3750
MP :6030→11550
力 :1550→2980
防御:1600→3050
敏捷:1950→3590
魔力:6550→12080
運 :35→43
【スキル】
・魔剣術Lv.2→3
・体術Lv.9
・高位探知Lv.7
・高位魔力感知Lv.7
・魔力支配Lv.8→9
・隠密Lv.10
・解体Lv.5
・縮地Lv.6→7
・立体機動Lv.7
・千里眼Lv.8→9
・思考加速Lv.8 →9
・予知眼Lv.10
【魔法】
・炎熱魔法Lv.2
・水魔法Lv.8→9
・風魔法Lv.10→翠嵐魔法Lv.1 NEW!!
・硬晶魔法Lv.2
・破雷魔法Lv.1
・氷魔法Lv.10
・超重斥魔法Lv.4→5
・光魔法Lv.6
・神聖魔法Lv.6→7
【耐性】
・混乱耐性Lv.7
・斬撃耐性Lv.8→9
・打撃耐性Lv.9
・苦痛耐性Lv.11
・恐怖耐性Lv.9
・死毒耐性Lv.9
・火属性耐性Lv.6
・氷属性耐性Lv.4
・雷属性耐性Lv.4
・重力属性耐性Lv.9
・精神魔法耐性Lv.10
・風属性耐性Lv.3
・水属性耐性Lv.3
・土属性耐性Lv.3
【補助スキル】
・再生Lv.8→9
・魔力吸収Lv.3→4
【ユニークスキル】
・結界魔法Lv.6
・賢者Lv.4→5
・空間把握Lv.7
・空間魔法Lv.3
・悪魔生成Lv.7→8
・黒龍重骨Lv.2→3
・魔石管理者Lv.1 NEW!!
・⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛
【加護】
・お詫びの品
・ジズの加護
【称号】
・竜殺し
・悪魔侯爵の主
・SS級ダンジョン踏破者
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今回の上げ幅はエグいな。ま、SSSランクを倒せばこうもなるか。
全体的にかなりの能力値アップが見られた。これでまだ、ステータスは10分の1のままなんだってから驚きだ。弱体化の指輪が外れたら俺はどうなってしまうのか…………。まぁそれにはまだ半年弱はかかりそうだ。
それに『悪魔生成』がレベル8になり、1ヶ月あたり120柱のAランクのデーモンが生成できるようになった。とんでもない悪魔軍団ができそうだ。
そして新しいユニークスキルが発現していた。
賢者さん、『魔石管理者』って何かわかるか?
【賢者】魔石にユウ様の魔力を注ぐことで魔物を蘇らせ、ユウ様に従わせることができるスキルになります。
おお……! そりゃかなり戦力アップできそうだな。これからは魔石を集めていこう。
でもなんでまたこんなスキルが? レベルアップ前に戦力増強を考えていたからか?
【賢者】それはわかりませんが、一応このユニークスキルも重力属性に関するスキルに分類されるようです。
へ? なんで?
【賢者】魔物の肉体を魔石を媒体として、虚無から肉体を力ずくで引き戻し、ユウ様に引力で従わせているためです。
あ、そういう引力なのね。カリスマ的な?
【ベル】あなたにカリスマ性はないわよ。
うるせ。
まぁ、このスキルについてはおいおい試していこう。
「「「また!?」」」
そしてアリスたちに伝えると、毎度のリアクションを取られた。
「でもまぁ、だと思ったわよ」
ただまぁ皆も予想はしていたようだ。
ちなみにアリスたちもSランクやAランクの冒険者を倒したことで大幅にレベルは上がっていたが、まだ種族レベルまで上がらなかったそうだ。
◆◆
そして、俺たちが目を覚まして昼になる頃には、昨晩の王宮での騒ぎは王都中に知られることになり、マードックが反乱を起こしたことは明るみになっていた。
ガードナーの一撃で住民たちの住む地区にまで揺れは届き、建物や道路にヒビが入る等の被害が出たそうだ。その時点で都民たちは皆目を覚ましていたとのこと。あの一撃はここ王都のあるレムリア山の標高を数メートルも下げることになったようだ。
また、王宮自体はほぼ壊滅状態で修繕には魔法を用いたとしてもかなりの時間が要するだろうとのこと。まさに歴史に残る大事件だ。
そして、反乱軍と正面からぶつかることになった騎士団は、王宮に在中している騎士の半数を失うことになった。それだけ黒魔力で強化された相手は難敵だった。騎士団長は騎士団の建て直しでこれから忙しくなるだろう。
なんだかんだ長かった王都までの旅はこれで目的を終えた。諸悪の根元だったマードックは逮捕され、処分は王国が下すだろう。
そして、今回の事件で王都は大騒ぎだったが、それはまた別の要因もあった。それは、ジーク辺境伯が生きていたことだ。
元々、その飄々としたキャラクターで貴族と民衆から多数の支持を得ていたジークは、ギルドとともに今回のクーデターを防いだ立役者として、そしてその英雄的な復活劇にさらに人気を博すこととなった。そして、マードックがいなくなった王都にジークは返り咲くこととなったようだ。
◆◆
「レオン、なんとか国王の暗殺は食い止められた」
俺は1人でレオンのもとへと来ていた。
「ああ。ご苦労だったな」
革張りの1人用ソファーにふんぞり返って腰掛け、苦い顔で葉巻をふかしている。
「後のめんどくさい処理はギルドがやってくれるらしい」
レオンは俺の話を聞いているやら聞いていないやらで、手に持った魔石ライターの蓋の開け締めを繰り返している。
なんかありそうだな…………。
だから、先に言いたいことを言うことにした。
「ジャベールがあんたの弟だって、教えてくれても良かっただろ? 助けに呼んでくれてるならよ」
「ああ…………?」
レオンはライターをいじる手を止めて俺を睨んだ。眼力だけで人を殺せそうな威力がある。
「い…………っ」
やっぱり恐えええ…………!
「あいつの手はできるだけ借りたくなかった。それだけだ」
だが、それ以上にレオンの表情は芳しくない。それが気になって結局聞いた。
「…………どうしたんだ?」
「ああ?」
レオンはピクッと眉を持ち上げた。そして俺を見た。
「ああ。…………マードックが今朝、遺体で発見されたらしい」
レオンは葉巻でしゃがれた声でそう言った。
「は?」
マードックが殺された?
「警備は万全。忍び込める箇所なんてない王都の地下牢に捕縛していたそうなんだが、自殺だそうだ」
「じ、自殺…………!?」
「死因は不明。そもそもどうやって死んだかわからん。何があったか、恐怖におののく顔のまま目を見開いて死んでたそうだ」
レオンは話すのも嫌そうにイライラした様子で言った。
「それはない。自殺はねぇよ。あれは自殺なんてできる人間じゃない」
「知るか。死んでたのは事実だ」
レオンは眉間にシワを寄せ、彫りの深い目で俺を睨んだ。そして続ける。
「誰も忍び込んだ形跡がなく、1人で死んでたんだからそう処理した方がこの忙しい時に憲兵も都合が良かったんだろうよ」
「はぁ、そうかよ」
「それと、奴の屋敷も謎の火の手が上がり、全焼したそうだ。間違いなく証拠隠滅だろうな」
「全焼…………!? ブラウン、ブラウンは無事なのか!?」
「ああ、お前のダチのブラウンだったか? アレをまだ人と認めるか」
レオンは葉巻の先を噛み潰しながら馬鹿にしたように笑う。
「あいつは人間だ…………!!!!」
ズンッ……………………!!!!
思わず殺気が溢れ、部屋を揺らした。パラパラと壁の欠片が降ってくる。
荒い呼吸をしながら俺はレオンを睨み付けていた。
「お前、力を限定されててこれか」
レオンは軋んだ部屋を見渡し、俺のしている指輪に目を落として言った。
「………………………………。安心しろ。あいつは騎士団で保護してるらしい」
レオンはしばらく黙って俺の顔を覗き込むと、葉巻を灰皿に押し付けながらそう言った。
「そうか」
これは多分騎士団長のおかげだな。
だが、マードックが死んだ。つまり、ブラウンを元に戻すための手がかりが失われてしまったということになる。
【賢者】ユウ様、それはまだわかりません。ですがマードックは間違いなく他殺です。ということは。
いや、そうか。考えられることは1つだ。
……………………黒幕がいる。
レオンの話を受け、呆然とした気持ちで宿屋へ戻る。
「ユウ、聞いてよ!」
レアが満面の笑みで俺に向かってきた。
「な、なんだよ?」
「私たちね? 国王様直々に恩賞をもらえるらしいんだよ!」
ピコピコとレアの尻尾が動いている。
「恩賞?」
そうか。レアと出会った時、レアはまだCランクのちょっと腕の立つ冒険って感じだった。それが国王を救うまでになって、純粋に嬉しいんだろう。
「はぁ、レアそんな嬉しいことじゃないわ。ああいうことに関わると絶対にめんどくさいんだから」
アリスはレアとは対照的に、ため息をつきながら眉をひそめる。
「だからって断れないでしょ? 国王からだもんねぇ」
「そうなのよね」
フリーのもっともな発言にまたアリスがうんざりとした様子だ。
「めんどくさくないよ! 断るなんか言わないで!」
珍しくレアがプンプンと可愛く憤慨している。
それどころじゃないんだよな。この気楽な雰囲気に水を差すようだが。
「いや、それよりもまず伝えることがある」
◆◆
「なんで…………!」
レオンからの話を聞き、皆驚きを隠せない。
「で、でもそれってつまりは他殺だよね」
レアが首を傾げながらも言った。
「そうだ。必ず黒幕がいるはずだ」
皆で頭をなやませていると、アリスが何かに気付いたようにハッと口に手をやった。
「どうした?」
「ねぇ、確かギルドであのブルートの妹、ルーナだったかしら? 彼女はギルドで保護されてたのよね?」
「ん? ああそうだ」
「そうよ、マードック殺害に屋敷への放火。そこまでして証拠隠滅した相手よ。彼女に敵が何もしてこないはずないんじゃない?」
アリスの言葉に皆が気付いた。
「ギルドだ! 急ぐぞ!」
俺たちは宿屋を飛び出した。
「ギルマス!」
受付嬢を無視して階段を駆け上がりギルマスの部屋に飛び込むと、椅子に座った状態のギルマスはのんびりと片手を上げて答えた。
「おう。お前らか、良くやっ……」
腰かけたギルマスの前のデスクにバンッ! と勢い良く手をついて問う。
「あの子は!? 屋敷で保護したルーナは!?」
「ああ、心配すんな。警護はSランク冒険者が当たっている。万全だ。大方、マードック同様に狙われると思ったんだろ?」
ギルマスは俺らに対して、外見に不相応の優しい笑みを浮かべた。
「あ、ああ…………」
そうか。俺らが気付いてこの人が気が付かないわけがないか。それにSランクが警護についているなら安心だ。
俺らは揃って肩を下ろす。だがその時、ドタドタと階段を駆け上がってくる足音が聞こえた。そして、扉が乱暴にバタンと開けられる。入りながら大声で喋ったのは知らない男のギルド職員だ。
「ギルマス大変です! 例の少女が誘拐されました!」
「「「……………………」」」
部屋に沈黙が流れた。
「だああああああああ…………!」
ギルマスは椅子に座ったままのけぞるとペシッと額を叩いた。
「ギ、ギルマス?」
戸惑ったようにギルマスを見るギルド職員。そして、俺たちがいることに気がついた。
「なっ、なんでだ! 警備は万全だったはずじゃ…………!?」
思わずそのギルド職員に詰め寄った。
「だっ、誰ですか!?」
「いい、いい。こいつらは当事者だ。いいからここで報告しろ」
ギルマスはシッシッと手を払うとそう言った。
「はっ! 指示どおり例の少女を私どもだけが知る、ある民家で護衛をつけて匿っておりました。ですが夜が明けたところ、Aランクの冒険者3名にSランクの冒険者1名、つまり護衛4名全員が死体で発見され、少女は行方不明となっております」
「Sランクまで…………!?」
相手はかなりの手練れだ。
「俺に気付かれることなく、誘拐するか…………」
ギルマスはイライラしたようにガラスペンの先でカンカンッと机を叩く。
「ね、ねぇ、でもそんなことが出来るということは、逆に犯人は絞りやすいんじゃない?」
まだギルマスの無意識の圧に慣れないアリスがおずおずと尋ねた。
「そうだな。Sランクに楽に勝てる者となれば自然とそれが可能な者は限られる。だが、ギルドで把握している限り、この王都に該当しそうな人物は存在しねぇ」
「つまり…………国外の者か?」
「それはわからん」
「これで、裏で手を引く者の存在は確定。だが、それと同時に手がかりはなくなった」
皆が頭を悩まし、沈黙が流れた。そして
「お前たちが命懸けで救いだしたというのに、すまんかった」
ギルマスはその小さい身体で真剣に頭を下げた。
「いや…………こりゃもう仕方ねぇよ」
そう言うしか他になかった。
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