第11話 蛇
こんにちは。長くなりそうだったので2話に分けました。1話目です。
ブックマーク、評価お願いします。
ーーーーヘタレに掴まって飛ぶこと、さらに1週間。
夜中は木の上で休み、朝になったら飛び、お腹が空けば適当に魔物を狩ってヘタレと一緒に分け合いながら食べる。ヘタレとも大分仲良くなり、森の向こう側を目指しながら2人でそんな生活を繰り返していた。
『ジズの加護』のおかげで、非常に嬉しいことにユニークスキル『結界魔法』を得た。
これは言わば透明で強固な壁を作り出す魔法で、今はまだ盾としての使い方しか試していないが、応用が利きそうで嬉しいもらいものだった。早くジズを救える手掛かりがあればいいのだが。
そして飛び始めて8日目の正午、晴天の中いまだに見えない森の終わりにうんざりしていると、
「ん?」
森のなかにズリズリとうごめく長く巨大な生物が目に入った。テカテカと太陽光を反射する黒と紺色のまだら模様が見える。
「なんだありゃ…………て、まさか蛇!?」
太さは10メートルくらいある。長さは森に隠れてよくわからないが、そいつがうごめくことで揺れる木々の範囲は視界いっぱいだ。一体何メートルの長さがあるのか。
「デカ過ぎないか…………」
ほんとにこの世界の生物は身体が大きくなりがちだ。
「おいヘタレ。あいつに見つからないように高度を上げてくれ」
と頭上のヘタレに言った時
「きゃあああああ!!」
森の中から女の子の悲鳴が聞こえた。
間違いない! 人の声だ!
嬉しさで顔がにやける。
「おいヘタレ! …………ヘタレ?」
俺が隠せない喜びを顔に表しながらヘタレを呼ぶも、反応がない。頭を見ると、ヘタレはその鋭い眼光で森の中でうごめくものをひっきりなしに追っている。
ヘタレは性格がヘタレなだけあって、すぐ逃げられるように危機察知能力が高い。
「まさか、すでに見つかって…………!?」
その時、
「グァララララララララララアアアア!!」
その声で気付いた。口を開けた巨大な蛇が俺たちの真下から迫ってきていた。
「ビエエッ、ビエエエエエ!!」
パニックを起こしたヘタレが目をグルグルさせている。
わかってたが、本当にすぐにテンパるなこいつは。だが、まだ今すぐに横へ飛べば紙一重で避けられる。
その時、ヘタレが脚をバタつかせた。
「お、おい落ち着けって!!」
俺は、魔力操作でヘタレの脚に掴まっていたのだが、パニック時の火事場の馬鹿力でヘタレが俺を振りほどいた!
「うおおおおおお!?」
突如始まる浮遊感の中、俺に背を向け飛び去るヘタレの後ろ姿が見える。
「てめぇヘタレ! 一生恨むからな!?」
俺はヘタレへの呪詛を叫びながら、そのまま蛇の口へ向かって落ちていく。
周囲の景色がゆっくりに流れる…………。
ジズ、すまんな。息子の寿命は次俺に会うまでだ。あいつだけは絶対に焼き鳥にしてやる!
直後、俺の視界に影がさした。下からにゅっと壁のように巨大で生臭そうな上顎と下顎が俺を挟み込むように生えてきている。そしてゆっくりと左右から挟み込みながら迫ってきた。
加えて俺の身体はスローモーションで、口の中目掛け落ちていく。
ああ、これが命の危機を感じた時のタキサイキア現象ってやつか。いや、いくらなんでもこんな死に方はない! そもそもあのアホに落とされて死ぬとかありえん!!
「絶対! 次は絶対に食うからな!! あの野郎!!」
ヘタレへの怒りを燃料に魔力込める。
この巨大蛇を怯ませられる雷を! 全力で喉奥へ放つ!!
ピシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンン!!!!
バリバリバリバリバリバリ…………!!!!!!!!!!!!
一瞬目が見えなくなるほどの光と、耳をつんざくような音が響き渡った。しばらくして一斉に森中の鳥がバサササと飛び立つ。
キーーーーーーーーーーーーーーーーン…………。
自分の魔法で耳がやられた。耳鳴りがして音が聞こえない。目は庇ったが耳は押さえられなかった。
あの、ウワバミはどうなった…………?
ウワバミは体が痺れているようだ。俺に噛みつこうとしたままの体勢で固まり、口からはモクモクと黒煙を上げている。ただ、それでも致命的なダメージはなさそうだった。
そこまで見れたところで、俺は森の中へと落下した。
ザザザザザ、バキッ!!
ザザザザザザザザ! バキッ…………!
バキバキ……。
ダン!
枝葉をクッションにし、膝を曲げて地面に着地できた。
うえっ、口に葉が入った。青臭い…………。
「ペッ! ぷっ……!」
口の中の葉を吐き出し、葉っぱだらけの体を払いながら遥か上の樹冠を眺める。
あいつは?
木に隠れて覗くと、痺れをとりたいのか、ウワバミは森からニュッと頭を出してブオンブオンと振っていた。すさまじい質量が高速で動き、それだけで後退しそうになる。
こ、こんなやつ、どうやって倒せば……?
「いやそれよりも、さっきの声の人は!?」
声の主を探そうとすると、
ヒュッッ………………ズガァンン!!
風を切る音と、すごい揺れが来た。
「…………な、なんか飛んできたな」
恐る恐る後ろを見ると、長さ20メートルくらいの大木が枝のある方から地面に派手に突き刺さっていた。
「ヤバッ」
飛んできた方向を見ると、ウワバミが大木に巻き付きながらこちらを睨んでいた。
もう復活したのか……!!
頭だけでビルくらいの大きさがあり、紺色の鱗1枚1枚が俺より大きい。舌をチロチロさせながら明らかに俺を威嚇している。ただ、ジズのような知性は感じられず、完全に動物的な本能で行動しているようだ。
=============================
名前:イルルヤンカシュ
Lv.598
HP :9385
MP :1200
力 :4753
防御:9290
敏捷:6008
魔力:1780
運 :16
【スキル】
・濃強酸ブレスLv.7
・蛇にらみLv.10
・硬化Lv.9
・胃酸強化Lv.8
・鈍感Lv.7
・熱源探知Lv.10
【魔法】
・毒魔法Lv.4
【ユニークスキル】
・魔酸鎧Lv.8
【称号】
・ヒュミル川のヌシ
=============================
ダメだ。勝てない…………!
こいつは戦ってはダメな相手だ。
ユニークスキルまで持ち、俺より数段格上だ。だが、出会った瞬間死ぬと予感させるだけの圧倒的な力の差は感じられない。ならば、なんとかして隙をついて逃げるられるかもしれない。
ヒュウウウッッッッ…………!!
ウワバミがこちらに向かって動いた。あの巨体で凄まじい速さだ。豪風が吹き荒れる。逃げる暇もなく、気がつけば一瞬で俺の周りを胴体が1周していた。
どうも逃がさないつもりらしい。
「動きが速過ぎるだろ…………!!」
上からアゴを開いて隕石のように降ってくる!
俺を取り囲むはウワバミの肉の壁、上からは大アゴ。迎え撃つしか方法はない……!
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
ジズの加護をもらって得た力、『結界魔法』で結界を張り、魔鼓を8つ上に配置した全力の斥力でウワバミの突進を迎え撃つ!!
ゴオッッドンッ……………………!!
と圧力が迫り、手足が軋む…………。俺の下の柔らかい土の地面に足が膝まで埋まったあげく、周囲の地面ごと凹み始める。
「ぐっ…………おおおお!!」
ウワバミは斥力のガードを破ると、グリグリと頭を結界に押し付け結界を破ろうとしてくる。俺は両腕を上げて押し返そうとするが、そんなものでどうにかなるものではない。
その時結界にヒビが走った…………!!
「やばっ…………死っ…………!」
結界が破れたかと思ったその時、
カッッッッ…………!!!!
「うわっ!!」
発動したつもりはなかったが、いつの間にか光魔法が放たれ、ウワバミがそれに一瞬怯んだ。
【XXXX】今です!
一瞬、頭の中で鈴の音のような声がした。
「うおおおお!!」
バガンッッッッ…………!!!!
怯んだ隙にウワバミを弾き返した! 俺も反動で地面にめり込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ…………やれば出来るもんだ」
ウワバミは仰け反っている。素早く身体を起こすと、今のうちに俺を取り囲むウワバミの胴体を飛び越えて抜け出した!
「っし!」
身体強化を維持しつつ、全力でウワバミから距離をとるべく走る。走りながら後ろを見れば、はね返されると思っていなかったのか、ウワバミは驚いたようにこちらを警戒している。
そういや、さっきの光魔法は誰が…………それにあの声。いや、それを言うなら悲鳴の声の主は無事なのか?
急に生まれた謎について考えながら走っていると、ウワバミは距離を取りつつも俺の後ろを追いかけ始めたようだ。逃がす気はないようだが、俺を警戒しているのも事実だ。
その時、さっき頭の中で聴こえた鈴の音のようは声がまたした。
【XXXX】こちらを注視している時ほど、認識外の不意打ちは有効です。
…………え、誰? 恐っ……………………いや、そうか。なるほど。誰か知らんが、それはそうだな。
見えない魔鼓をウワバミの口内まで移動し、重力魔法を発生させる。
ギュウンンンンンンン…………!!
「!?」
ウワバミは訳がわからず、口を閉じた。そしてよっぽど驚いたのだろう。体を振り回し、口を閉じたままその巨体でグルングルンと暴れまわる!
ドガン!! バキバキバキ…………!!!!
どんどんと森の木々が押し潰されていく。大木ですらウワバミの力には簡単に潰れてしまうようだ。
あいつ、パニックになっているのか? でもこれは逃げるチャンスだ……!
だが簡単にはいかない。大木を押し潰すほどの力を持つため、まともにその長い胴体で体当たりされるだけでも、大怪我は免れない。しかも、グネグネドタンドタンと予測できない動きだ。
「くそっ!」
動きを必死で目を追い、避ける。避けきれないならと体の周りに魔鼓を配置し、斥力で衝突をずらして耐える!
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
目の前はうごめくウワバミの胴体と、潰され巻き上げられた樹木の幹や破片が四方八方から飛び交っている。
「逃げるタイミングが…………!」
ウワバミの全身は見えていないが、遠くの方で土ぼこりが上がっているところを見ると、体長は500メートルはゆうに越えているだろう。でも頭は1つだ。
「奴の目から逃げられさえすれば…………」
問題は奴の速さが俺の手に追えないこと。
その時、ウワバミは予想以上に長い時間、口を開けられないことにイライラがつのり、さらに激しく暴れ始めた。
「嘘だろ…………」
暴れるウワバミは俺の目にはもはや残像しか見えない。ウワバミの鱗の色だけが掠れた絵の具のように森の中にぶちまけられて見えた。
気づけば、運悪く振り回したウワバミの頭がこちらに向かっていた。
避けられない…………!
ウワバミの頭の眉間のあたりが俺にまともに直撃した。
「がっ…………!」
死を覚悟した。
間に合った斥力でガードしたものの、その程度では衝撃を逃がしきれない。ものすごい衝撃が肉体を伝わってくる感覚がある。
ボキッ…………ボキャキャキャ…………!
体を護るために突きだした両手の平から衝撃が伝わる。指の骨が粉々に碎け、手首、上腕骨と迫ってくる。胴体にまで到達すればジエンドだ。
とっさに両足を曲げ、膝とすねで胴体をガードするが、大腿骨が碎け、骨盤にはヒビが入った。
あぁ、俺…………死ん…………?
が、そのあたりで大分力が弱まった。衝撃を逃がしながら後ろへ吹き飛ぶ。
あ、危なかった。衝撃が胴体まで届けば内臓が破裂し、死んでいた。それに、自分でも驚くほど冷静に対応できた。最近の死と隣り合わせの生活のおかげだろうか。
手足の関節を3倍ほどに増やした糸の切れた人形のようなほぼ死人状態で吹き飛んでいく。それでも意識は飛ばさずに必死で背中側に斥力を発生させ、身を守り続ける。
バキバキ!!
バキ、ドガッ、ドガッ、ドガッ……………………ドゴォォォォン!!
木々を折りながら吹っ飛び、巨大な大木に衝突し停止した。
良かった。生きてる。でも、もう意識が…………。
目の前にはジグザグに折れ曲がった手足が投げ出されているのが、ぼんやりと見える。それも霞んできた。
【XXXX】ユウ様! もうしばらく、こらえてください! あの蛇は熱源感知を持ちます。体温を隠します。
……………………だ、だれ……だ。
バシャッ。
知らない人物が水魔法と氷魔法を使って氷水を体にかけた。
相手は、蛇だ。体温を下げないと…………今見つかればまず助からない。この人は正しい。
冷たい……。
同時に冷たさが傷みを麻痺させてくれてるようだ。
どうやらウワバミは気付かずに俺に衝突したようだ。そのまま、森の中に倒れたままでいること30秒ほど、ウワバミはキョロキョロしていたが俺を見つけられずに諦めたのか、ズルズルと立ち去っていった。
九死に、一生だった。ありがとう、誰かさん。
【XXXX】いえ、大怪我をさせてしまい申し訳ありません。ですが、あの蛇を混乱させる方法しか、あの場から逃げられる方法はないと判断しました。
いや、正しいよ。助かった。
「まだ寝てられん。いだだだ……回復魔法」
回復魔法をフルに使い、骨折を治す。身体中の骨がじわじわ動き、元の場所におさまろうとする。回復魔法中は痛みは和らぐものの、気持ち悪い。
【XXXX】お休みください。動けるようになるまで、警戒は私が行います。
ありがとう…………。
ーーーーそうして意識は落ちていく。
また、負けたか。前は負けることなんて…………。
瀕死の状態から抜け出したところで、プツンと意識を失った。
読んでいただき、ありがとうございました。
※過去話修正済み(2023年9月2日)