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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第4章 王都
109/160

第109話 クーデター

こんにちは。

ブックマークや評価、感想、レビューをいただいた方、有難うございます。とても励みになります。

第109話です。なんだか長くなりました。

宜しくお願いします。


 アリスたちを連れ、重力魔法で飛び上がった。目の前には銀色で巨大な月の模様までがくっきりと見える。澄んだ夜空だった。


「俺たちは先に国王を助けに向かおう」


 今夜でこの国が終わってしまうかもしれない。そういう危機感をひしひしと感じ、アリスたちは真剣な顔で頷いた。


 王都は広く、貴族地区からでも王宮までは距離があるため、徒歩では時間がかかる。俺たちはそのままメインストリートを走るマシューたちを置いて、重力魔法で一気にぎゅんっと速度を上げる。標高が高くなり、冷たい空気を感じながら、空気を切り裂く速度で王宮を目指す。

 

 1分もかからずに、王都そのものを構えているレムリア山の山頂へと来た。そこには月に照らされ白銀に輝く荘厳な王宮がある。だがそこも今や火災に見舞われ、赤く燃え盛っては黒い煙を吐いていた。


 王宮はこの王都の中でも一番上の区画に位置しているが、その王宮も階段状に大きく分けて3層になっている。一番広い下層には、きれいに整備された半径1キロはある広大な庭があり、以前に来た騎士団の宿舎や、宮廷魔術士、王族に使えている者の家がある。そして中層、上層には、王族たちの住まいの城がある。


 まずは結界魔法で王宮下層の上空50メートルほどに足場を作ると、アリスたちをそこに下ろす。


「もう始まってるみたいだよ」


 レアがあわあわした様子で結界に手をついて下を眺めると、ペタンと猫耳を寝かしながら言う。


「だな。まずは状況を把握しないと」


 上空から下層の庭で雄叫びを上げながら激しく衝突する騎士団と冒険者の集団を眺める。



「うおおおおおおおおおおお!!!!」


「国王の首をとれええええ!!」


「させるか逆賊め!」


「こいつら、いくら斬っても倒れねぇ!」


「きゅ、救援を! ギルドに救援を要請しろおおお!」



 伯爵が反乱を起こしたのは間違いない。戦況も伯爵側がかなり優勢だ。大勢の騎士たちが倒れているのに対し、伯爵側は脱落者は数人だけのようだ。それに交戦中の者たちのレベルが高いだけに周囲への被害が尋常ではない。流れ弾1発が数人を殺傷し、家1軒を簡単に吹き飛ばす威力がある。

 また、伯爵側の反乱軍は王宮区と貴族区を隔てる強固な西門を、力業で破ったようだ。あそこの門は厚さ50センチはあり、鋼鉄製だ。それが真ん中から裂け、大きくひしゃげていた。


「門をあんなに変形させられる奴があの中にいるってことか……」


 燃え上がる炎が俺たちの頬を照らす。王宮にはけたたましく警報の鐘がしきりに鳴り響いていた。


「ユウ何してんだ! 早く騎士団に助太刀しねえと……!」


 地上の戦いを見下ろしながらウルが焦ったように叫んだ。


「待て。肝心の伯爵とガードナーがいない。伯爵は安全な場所にいるとして、ガードナーが前線にいないのは不自然だ。ここは陽動の可能性が高い」


「そうね。ここにはもうすぐギルドからの応援が駆け付けるわ。それならあたしたちは王族の警護に回る?」


 アリスが冷静に戦場を見渡して提案する。


「いや、そうだな…………」



 ズ……………………ンンンンッッ!!



 下から大きな衝撃があり、20名くらいの騎士団員たちが吹き飛ばされ倒れた。300名以上いたであろう騎士たちは残り100名ほどだ。対して伯爵側はそれほど減っていない。

 その時、見覚えのある姿を見つけた。


「あれは…………!」


 バケモノになった変異体だ。敵も味方もなく、知性を失い狂ったように腕をぶん回し暴れている。黒魔力を制御できなくなったのか? 


【賢者】地下研究室にあった黒魔力タンクが減っていたことを考えると、反乱軍の大勢が黒魔力を持っていると考えられます。


 だよな。ヤバいぞそれは…………。


 それに見たところ騎士団長もここにはいない。あの人がいないとこれ以上もたない。


「あの三つ編みヒゲオヤジどこに行きやがった…………!」


 圧倒的に手が足りてねぇ。もう少し待てばギルドの冒険者たちが来るが、その前に騎士団が全滅してしまう。騎士団がいなくなれば、こいつらはそのまま王宮を襲うだろう。

 そうなると、仕方ねぇ…………。


「アリス、レア、フリー、ウル」


 名前を呼ぶと皆がこちらに視線を向けていた。俺の指示を待っていたようだ。


「あたしたちでここに加勢するのね?」


 戦況を察したアリスに先に言われてしまった。


「ああ。4人で騎士団と挟み撃ちにして、奴らの兵力を削いでくれ。指揮はアリスがとれ」


「うん、わかったわ」


 アリスは真剣に頷いた。


「あとウル。お前の神聖魔法なら黒魔法も無効化できる。アリスたちがもし怪我を負ったら治療してやれ」


「おう! ユウはどうすんだ?」


「俺は、国王を探してくる。ガードナーを止める必要があるからな」


「気を付けてね?」


 レアが心配そうに言う。


「ああ。お前らも無茶はするな。ギルドの連中が来るまで持たせればそれでいい」


「でもユウ、全員斬ってしまってもいいんだよねぇ?」


 ブラウンの怒りを抱えてフリーが静かに言う。


「…………もちろんだ。じゃあ行ってくれ」



「「「「了解!」」」」



 その言葉とともにアリスたち4人は揃って地上へと飛び下りて行った。


 

◆◆



 俺は中層へ向かい、その中庭へと着地する。そこには派手に血液やハラワタ、肉片骨片がぶちまけられ、月の光に照らされまだ新しいのか濡れてテラテラと光っている。どう見ても1人の量ではない。


「やっぱりあれは陽動だったか。すでに王宮内に潜入してる奴がいる……」


 生臭さが充満している。元々は花が咲きほこり、噴水がある相当綺麗な庭だっただろうが、血飛沫が庭全体を赤に染め、噴水の水ですら赤くなっていた。まるでホラー映画の世界に来たようだ。


「ひどいな…………」


 鼻を押さえながら周囲を探索すると、その惨劇は一方向に続いていることがわかった。

 庭から広い廊下に入る。廊下にはレッドカーペットが敷かれ、荘厳で太い柱が等間隔で立っている。そして、ステンドグラスが嵌め込まれた大きな窓が長い廊下に沿って並んでいた。

 そして、柱に取り付けられた魔石灯と窓から射し込む月の光に照らされ、兵士の死体が多数無惨に床に転がっているのが見える。その目を見開いたままの顔には恐怖が貼りついていた。


 ガードナー相手に一般の兵士など紙切れ同然だ。全く時間稼ぎになることなく殺されたのだろう。

 このまま追いかけたところで俺にそのガードナーが倒せるのだろうか…………。


 そんな不安を抱えながら死体だらけの王宮の廊下を走る。ガードナーは兵士だけでなく、使用人、メイドたちすら関係なく殺して進んでいるようだ。廊下には他にも欠損死体がゴロゴロとしていた。


「気の毒に…………」


 これは任務よりも殺しを楽しんでいる節がある。兵士たちも決して弱いわけではないはずだ。だが、ガードナーには相手が誰であろうと関係なかった。ただそれだけだ。


 その時、廊下の奥からゆったりとした足音が聴こえてきた。


 なんだこの余裕。生きてる人がまだ向こうにいたのか…………?


 姿が見えてくる。背まである黒髪をオールバックにして、後ろで縛っているようだ。そして、持ち手まで金属でできた槍を肩に担いだ痩せ型で醤油顔の男だ。籠手のみと最小限の防具をつけている。


「ああ? ここはどこだ?」


 道に迷ったようにキョロキョロと辺りを見渡している。


 見たことない奴だ。敵か?

 

【賢者】はい。あれはウディ・ハレルソン。ガードナーの一味であり、SSランクです。


 SSランクか…………こいつもヤバい。今の俺と同じくらいの戦闘力がありそうだ。


 そして男が俺を見つけ、その視線を受けた時、心臓に氷水を詰められたような悪寒が身体に走った。

 俺はスキルで実力を上げているが存在力はAランクにも満たない。そのため存在値の差をモロに受けることになる。


 SSランクの殺気でこれか…………。


「あ、すまん。国王の部屋を知ってるか?」


 まるで道を聞くように、片手を上げて何気なく聞いてくる。手に持つ槍には血がべっとりとついていた。おそらくあいつがこの辺の死体を作り出したのだろう。


「知らんな」


 動揺を隠し、平常心を装って答える。


「なんだ、知らねぇのか」


 残念そうにするウディ。


「だったら用はないかなぁ。バラバラになってくれない?」


 俺を見てニコッと言った。そして槍を俺に向ける。


「…………」


 戦ってもいいが、俺の目的はガードナーを止め伯爵を捕まえることだ。こいつに時間を取ってる暇はない。


 出てこいゼロ。


「はっ!」


 空間の裂け目からゼロがすっと現れ、俺の目の前に膝まづいた。


 ん? こいつ、また強くなってないか? いや強くなる分にはいいんだけどよ。


 一目でわかるほどに纏うオーラが研ぎ澄まされ、不純物のない純粋な力強さへと変わっていた。


【ベル】ふふん。


 おい、機嫌良さそうだなベル。何かしたか?


【ベル】別に?


 …………? まぁいい。


「ゼロ、状況はわかるか?」


「把握しております。あれを殺せば良いのですね?」


 そう言ってウディを見るゼロ。


「そうだ。勝てそうか?」


「もちろんでございます」


 ニッコリとゼロは笑った。


【ベル】ユウ、他の戦場でも戦力が足りてないみたいよ。


 そうなのか?


【賢者】はい。西門とは反対の東門より攻めてきている伯爵反乱軍の別動隊が騎士団と衝突しましたが、騎士団が敗れた模様です。


 敗れた!? 全滅か!?


【賢者】はい、そのようです。現在、反乱軍は東側から王宮へと進軍中です。


 わかった。


 反乱軍は2部隊あったのか。人手が足りねぇ。だとしてここでタラテクト種なんか出せば別の大騒ぎが起きてしまうだろうしな。なるべく人型に近い奴らを…。


「紅葉、蒼白」


 俺に名前を呼ばれて赤みがかった黒い悪魔と、青みがかった黒い悪魔の2柱が空間を裂いて現れ、俺の前に膝まづいた。


「「はっ!」」


 彼らはゼロの次に腕の立つ悪魔だ。悪魔につけた1~10のナンバーズよりも強い特別個体になる。Sランク上位の実力があり、いつの間にかグレーターデーモンに進化していた。デーモン独特の骸骨頭から、全身が人の姿に変わっている。

 紅葉は燃えるような紅の頭髪に鋭い目付き、がっしりと筋肉がついている。蒼白は紺色の頭髪に少しタレ目で体格はスマート、落ち着いた雰囲気だ。


 って、こいつらも強くなってないか? 


 メラメラと立ち上るは紅と蒼のオーラ。


「この城に侵入している逆賊を始末してこい」


「「了解しました。ご主人様」」


 嬉しそうにそう言うと、2柱はすっと暗闇に姿を消した。


 その様子を見ていたウディはゼロの背から生える翼に気が付いた。


「悪魔…………?」


 ウディはただ呟く。


「ゼロ、ここは任せた」


「はっ!」


 ゼロは深くお辞儀をした。


 そして俺は踵を返して、その場を立ち去ろうとした。だがその時、



 ゴトッ……。



 静寂の中、後ろから何かが落下したそんな音が聞こえた。


「え…………!?」


 振り返ると、そこにはピンッと指先を揃えた右手を振り切った後のゼロがいた。そして、まるで噴水のようにブシュウッと吹き出す血飛沫と、槍を構えた格好のまま固まっている首を失ったウディ。

 ゼロの足元にはウディの頭部が転がっていた。


「ゼロ…………?」


 いや、いやいやいや! SSランクを瞬殺…………こいつ強くなり過ぎじゃないか!?


「はい、ご主人様」


 ゼロは俺の元へ来て片ひざを立てて跪いた。


「お前…………いや、なんでもない」


「申し訳ございません。ご主人様に時間を取らせぬよう、急ぎましたところお見苦しいところをお見せしました」


「すまん、いや、むしろ見てなかったんだが何をした?」


「相手は武術に長けているようでしたので隙を作るため幻覚を見せました。さすがは手練れ。2秒ほどで破られてしまいましたが、それだけあれば首を落とすには十分です」


 こいつヤバ……!


「そうか…………いや、助かった。紅葉と蒼白の方を手伝ってやってくれ」


「はっ!」



◆◆


 

 ゼロと別れ探知を発動すると、複数の人間が集まっている場所があった。ここから1つ上、3階寝室の一角のようだ。おそらくそこにいるのが王族たちだ。

 そしてそこにゆっくりと向かっている1人の反応があった。


「見つけた!」


 間違いない。ガードナーだ!


 廊下を音を立てずに最速で駆け抜け、左に曲がり階段をかけ上がる。上がった先で右を見ると、20人以上の兵士が固まり廊下を通せんぼをする形でガードナーに槍を向けていた。


「こっ、ここは死んでも通さん!」


 ガードナーにガタガタと震える槍を男に向ける兵士たち。


「わざわざ死ぬ必要なんてねぇんだ。そこをどけ」


 ガードナーは片眉を持ち上げるようにして兵士たちを指差しながら言う。


「ダメだ!」


 若い兵士が勇敢に叫んだ。


「はぁ…………じゃあ死んどけ」


 ガードナーはトーンを落としてそう言うと足を踏み出した。そして、兵士たちに向かって真っ直ぐに走った。一瞬で兵士たちの壁を突破して背後に回ったガードナーだが、兵士を避けて走ったわけではなかった。



 ブシュウウウ…………ッッッ!!



「がっ…………!」



 兵士たちはガードナーが触れた部分の肉体を削り取られ、1人は上半身を、1人は頭を、1人は肩を失い、他の兵士たちも即死していた。鋼鉄の鎧や分厚い盾なんか関係ない。肉体の断面はすりおろされたようにズタズタだ。


 ガードナーに目を向ければ、身体の鱗がめくれ上がり、まるで鋭いおろし金のようになっている。そして、自身にへばりついた血肉や臓物を犬のように身体を震わせてふるい落とした。


 パキンパキンパキン…………!


 音を立てながら鱗が元に戻っていく。槍の鍛えられた金属の刃先ですら削られている。おそらく防御と攻撃が一体化したユニークスキルだろう。


 くそ……戦わなくてもわかる。俺が1人で正面から戦ったところで勝機はない。


 隙を見つけるため、そのまま悠々と突き当たりの部屋の前まで足を進めるガードナーの後をつける。すると、ガードナーの目の前に、剣を床に突き立て堂々と1人で立ちはだかる男が現れた。


 あれは……………………っ!


「おうおう、やっとお出ましだ。そうだな。俺の相手になるとすりゃ、あんたくらいだ」


 ガードナーは口の両端を持ち上げるようにしてその牙を覗かせながら言った。


 立ち塞がったのは騎士団長ダリル・オールドマン。そして騎士団長は巍然たる態度で口を開いた。


「バンギラス・ガードナー。お前は付く相手を間違えたようだ」


 騎士団長に話しかけられガードナーの足が止まった。


「ああ? 俺は俺が最強になるために奴に付いただけだ」


 おそらくガードナーはただ力を奮いたいだけの筋肉バカだ。今騎士団長が命懸けで時間稼ぎをして、王族たちが寝室の裏から抜け道を通っていることに気付いてすらいない。その油断しやすい性格、隙なら必ずできるはずだ……!


 ガードナーが騎士団長に向かって走り出した。



「どらああああああ!!!!」



 ガードナーは背中に担いだ両手斧の柄の端を右手で持ち、身体を左回転させながら右上から袈裟斬りに振り下ろす。


「む…………」


 受けきれないと瞬時に判断した騎士団長が、身体を捻りながら右肩を後ろに引いて避ける。




 ズガガガガガガガガガガガガガガゴガガガガガガガガガガガガッッッッ!!!!!!!




 ガードナーの力任せの斬撃は、後ろの王の寝室の天井近くを斜めに破壊した。その威力は壁だけにとどまらない。



 王宮の建物全体ごと、なます斬りにした…………!



 一瞬でガードナーの戦斧の斬撃上にあった壁や柱にビシッ! と切れ込みが走り、斜めに滑り落ちていく王宮の一角。


 ガガッ…………ガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!


 3メートル以上ずれて停止した天井からは頭上に空が見え、星空と月が顔を出した。

 そして、王の寝室の壁がガラガラと後ろへと倒れた。砂ホコリが晴れるにつれ、見えてくる無人の王の寝室。


「おいおい、国王いねぇじゃねぇか!」


 誰もいない寝室を見て、ぶちギレながらガードナーが言う。その時、



「だから急げと言ったであろう。ええ?」



 何っ…………!?


 真横からしたその声にバッと振り向く。


 マードック伯爵とあと3人の男が俺の真横を通りすぎ、ガードナーの隣にいた。3人の男は息子のチャドとグレン、あと1人はわからないがSランクの実力はありそうな男だ。


 くそっ! 絶好のチャンスだったのに! ガードナーに集中するあまり、後ろから近付く伯爵に気が付けなかった…………。

 

 ただ、どうやら向こうも隠密状態で柱の影に隠れていた俺には気付かなかったみたいだ。


「仕方ねぇだろ。こいつが邪魔なんだからよ」


 そう言ってガードナーが後ろの騎士団長を親指で指す。


「邪魔者の排除が貴様の仕事だ。違うか? ええ?」


「ああ、わかってんよ。俺がこいつを殺してる間に、あんたは国王を追いかけてくれ」


「お前にしてはよくわかっているな」


 ふんっと鼻で笑いながらマードックは言う。


「させると思うか…………?」


 騎士団長は剣を改めて構えると言った。


「ガーーーードナーー!」


 ガードナーを呼ぶマードックの声に反応し、ガードナーは騎士団長に向かって突進する。騎士団長も強く足を踏み出した。互いに近づいていく2人。



 ズンッ……………………!!!!!!!


 

 今度は正面から2人がぶつかり、衝撃でヒビの入っていた床が割れ、傾いた大理石の柱が倒れる。壊れかけた王宮がさらにガガガガと滑り落ち、崩壊していく。


「ぐうっ…………!」


 まともにガードナーの一撃を受けた騎士団長が、ガードナーの戦斧に堪えきれずに床を3回バウンドしながら弾き飛ばされていく。剣をガガガガッと突き立てすぐさま立ち上がろうとするも、力が入らず再びガクンと膝を突く。


「あぁ…………がふっ」


 騎士団長は口から血を吐いた。両手を床について、動けなくなっている。やはりガードナー、SSSランクの実力は伊達ではない。


 その脇を伯爵たちはふんぞり返ってのうのうと歩いて通りすぎていく。そして伯爵は騎士団長を見下ろしながら言った。


「かの勇敢で英雄である騎士団長様もSSSランクの怪物を前にすればこんなものか。さすがは『暴力の化身』と呼ばれるだけはあるなガードナー!」


「黙れ…………国王様を貴様なんぞに殺させはせん!」


 口から血を流しながらも伯爵を睨み付ける騎士団長。


「ふん。もう少し遊んでやるがいいガードナー」


「ま、待て…………!」


 手を伸ばすも、立ち上がることすらもできない騎士団長。そして伯爵は国王の寝室へと消えた。


 くそ…………!


 ここで俺が伯爵を追いかけても追いついてきたガードナーに殺される。だから今は騎士団長に協力してガードナーを仕留めるのが先だ。そのためにはまず騎士団長を助ける!


 ガードナーはニヤニヤとしたまま騎士団長へトドメを刺そうと斧を振り上げる。


 一か八か…………!!


 俺は最大限に隠密を発動したまま、黒刀に重力属性の魔力を纏わせていく。ジャベールに使ったような規模の重剣は、周囲に影響を与えすぎるので気付かれる可能性がある。だが、中途半端な威力ではガードナーのあの鱗を貫けない。だから黒刀の先端へ重力魔法を集中させ、静かに、それでいて鋭く研ぎ澄ませる。


 息を潜めてガードナーへ背後から近付いていく。右足を持ち上げ、前に進めるという動作だけでこれほどの緊張感を感じたことはない。


 やはり、近くで見てこいつのヤバさはわかる。この身体に秘められている存在感はジャベールにも匹敵する。その存在が物理的な圧力となって俺の歩みを止めているようだ。そして奴の身体から生臭い血の匂い、死臭がプンプンしている。俺は今、死神に向かって刃を向けているのかもしれない。

 だがしかし、ここで仕留めなければチャンスはない…………!


 残り1歩で俺はゆっくりと右手に持った重剣を引き絞った。狙うは背中の左側。背後から心臓を貫き即死させる。


 だがその時、全く意識していなかったガードナーの太い尾が黒刀に巻き付いた。


 なにっ!?


「そんな魔力出されちゃ、いくら俺でも気付かねぇわけねぇだろ」


 ガードナーはそのトカゲのような黄色い目を俺に向け、ペロリと長い舌を見せた。


「……っっ!!」


 その目を見た途端、悪寒が電流のように身体を走り、手足が震える。心が折れそうになる。だがその時、ローグにされたブラウンを思い出した。



 絶対に、許さん…………っっ!!!!



 むしろ堂々と魔力を込めて、さらに重剣を強化した。そして気合いを込める。

 ガードナーはその尾で黒刀ごと掴んで投げ飛ばそうとしたのだろう。尾に力が入ったのを感じる。


「ふんっ! あ、ああ!?」


 ガードナーが掴んでいるのは重剣だ。その程度で動かせるわけがない。


「はあああっ!」


 俺は気合いで重剣をガードナーごと持ち上げる。


「なんだと!?」


 両足が地面を離れ、身体が浮き上がったことに動揺するガードナー。そしてそのまま黒刀を振り回すと、ガードナーを投げ飛ばし壁に叩き付けた。



 ドガガガガ…………ガアァン!! ガアァン!! ガアァン!! ガアァン!!



 ガードナーは音速を越える速度で壁を突き破って、何枚もの壁を壊し続けると姿が見えなくなった。


「はぁ、はぁ、はぁ! 今のうちだ…………」


 俺は満身創痍の騎士団長の隣へと駆け付けた。


「おっさん、治療するから動かないでくれ」


「お、お前ユウか! なんでここに…………!」


 ひじを床についてうずくまり、半開きの騎士団長の目が俺の姿をとらえる。口からはよだれと血が混じりあったものが糸を引いている。


「助太刀に来た! もうすぐ他の冒険者たちも駆け付けるはずだ」


 ガードナーの斧を受けた衝撃で右足の骨が折れ、ふくらはぎを突き破っていた。複雑骨折だ。回復魔法を使用して骨折を治す。


 ドゴンッ!!


 その間に無傷のガードナーが壁を破壊して戻ってきた。


「効いたぜ。妙な技を使いやがる! 誰だてめぇは!」


 床に散らばった瓦礫を蹴飛ばしながら俺に怒るガードナー。だが無視して治療を続ける。


「これで全身治ったはずだ。2人でガードナーを仕留めるぞ」


「ふっ、やはりお前は実力を隠していたんだな」


 騎士団長は立ち上がりながら納得したように言った。


「いや……それでもあいつを倒せるほどじゃない」


 そう言いつつ20メートルほど先にいるガードナーを睨み付ける。


 異常に堅い防御力を誇る鱗に超怪力。それに加えて、黒魔力の再生力ときた。俺と騎士団長でもあいつに勝てるかどうか……。


「ここで死のうとも、これが俺の王への忠義だ」


 騎士団長は口をぐっと結んで覚悟を決めた。そして2人並んで立ち上がるとガードナーに向かい合う。


 と、その時、突如目の前の床がメキッと盛り上がったかと思うと爆発した。




 ボゴオオオオオオン…………!!!!!!!




 瓦礫が吹き飛び、下の階から1人の男が飛び出す。


「「は?」」


 驚く俺と騎士団長に、床石を突き破るようにアッパーカットをしながら出てきたのは、小柄な男。レッドウィングのマシューだった。


 どっから来てんだよこの人…………。


 俺とガードナーの間に着地すると、ガードナーと騎士団長を交互にきょろきょろと見た。


「ん…………?」


 1人で来たところを見ると、クランの仲間たちは置いて、俺と同じように先に来たのだろう。


「なるほど」


 状況を見て理解したようだ。マシューが指を組むと、ぐぐっと反対側に伸びをして、オイッチニーと身体をほぐし始めた。そんな彼に状況を説明する。


「マシュー、ガードナーを殺らないと国王が殺される。もう伯爵は先に行っている」


「そうか」


 マシューは真剣に闘気を高めていく。


「レッドウィングのマシューか。雑魚が何人集まろうと同じことだ」


 ガードナーはギザギザの歯をむき出しにして笑った。


「うるさいね。自称王国最強さん」


 マシューがすえた目で言った。


 マシューも手を抜いて勝てる相手じゃないとわかっているのか、背中に背負った大剣を正中に構えた。そして、マシューの身体を覆うように黒く薄い鉱石のような鎧が全身に現れる。


 バキンッ、バキバキ、バキバキバキバキ…………!


 拳ほどの大きさの六角形の黒い鉱石は、まるで流れる溶岩のような赤く光る境目で繋ぎ合わされている。そして、最後にその鉱石は1対の翼を形作り、激しく燃え盛る炎を点した。


「相手が相手なんで、全力でいかせてもらうよ」


 そう言いつつ、マシューの炎の翼が一度だけバサッと大きく羽ばたいた。そのことで火花がチリチリと周囲に舞う。


 そうか、あれがレッドウイングの名の由来か。


「じゃ、俺も遠慮なく」


 俺も魔力吸収で魔力をさらに増幅し、身体強化でSランク以上の身体能力を一時的に得る。そして、黒龍重骨を2本とも発動。黒刀に全力の魔力を注ぎ込む。高い防御力のガードナーに対し、手数で攻めるのは止めて1発1発の攻撃力を高めることにした。


「ふんっ!」


 騎士団長はバンプアップしたかのように、上半身がボンッと一回り巨大化させた。


 ユニークスキルだろう。パワーはさっきよりも遥かに上がっているようだ。

 このクラスの戦闘になると、魑魅魍魎ばかりだ。


「いくぞ」




 そしてこの日、王都にて最大規模の戦闘が繰り広げられた。





読んでいただき、有難うございました。

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