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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第4章 王都
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第105話 牢獄

こんにちは。

ブックマークや評価いただいた方、有難うございます。とても励みになります。

第105話です。宜しくお願いします。


 目が覚めた。目を開けると、2メートルほど先に不格好で雑な石造りの天井が見える。俺は仰向けに眠っていたようだ。


「いっ…………つ!」


 身体中が痛い。無理して動いた反動だろう。


 身体の下には固いベッド。腕を動かしてみるとジャラジャラと金属音がする。目の前に手を持ってくれば、重く分厚い鋼鉄の手錠がされていた。


「はぁ……」


 手錠は鉄の板を2枚貼り合わせたような形状で太いボルトでしっかりと固定されている。そしてその手錠は3メートルほどの太い鎖で部屋の奥の鉄床に止められていた。ベッドから起き上がると、目の前には鉄格子。その向こうには石畳の廊下を挟んで同じような独房がある。薄汚い場所だ。湿気が酷いのか、カビが繁殖しネズミの気配がする。

 ここは王都の地下牢だろうか。牢屋自体が非常に丈夫に作られているようだ。Aランクでも逃がさないためだろう。


 まぁ、俺なら簡単だけどな…………。


 賢者さん。あれからどれくらい経った?


【賢者】およそ30時間です。


 そんなに!? 


 てことは今頃王都じゃ、通り魔事件の犯人が俺で公表されてんだろうな。


【賢者】申し訳ありません。ジャベールの強さは想定外のものでした。


 いや、あれは仕方ない。全力で重剣化した黒刀を正面から受けて、あれだけのケガとか、まじでありえねぇよ。


【賢者】武器は全て回収してあります。


 ありがとう。助かる。


【ベル】ふん、だから止めときなさいって言ったのよ。


 ベルが口を尖らせてそうに言った。


 仕方なかっただろ? それともベルに代案があったのか?


【ベル】…………それは、ないけど。


 ほらみろ。てか、お前も手伝ってくれて良かっただろ!


【ベル】あたし、無駄なことはしないの。


 へいへい。


 さて、ここからどうするか…………。


「おお、あんた起きたのか」


 声がしたのは通路を挟んだ向かい側の牢だ。ジャラジャラと鎖を引きずりながら鉄格子のそばに寄ってきた。


 どっかで見たことあるような?


「確か…………レッドウィングのグリフさん?」


「おお、俺のことを知ってるのか!」


 知られていたのが嬉しいようで、パアッと顔を明るくさせた。


 グリフは20歳代前半の線の細い青年だ。野武士面の短髪で、捕まってからしばらく経つためか髭が伸びている。

 気付けば、俺もグリフもベージュの麻で作られたようなシンプルな服を着せられていた。


「ああ。あんたが捕まるところを見たんだ」


「それでかよ…………!?」


 理由が理由なので、かなり残念そうだ。


「心配いらねぇよ。グリフさん、あんたはもうすぐ釈放だ。なんせ代わりに俺が捕まったんだから」


「てことはお前か! お前のせいで俺は…………!!!!」


 ガシャン! と牢に詰め寄ると、俺に怒りをぶつけようとする。


「待て待て待て!!!! 俺は犯人じゃねぇ!」


「てめぇ…………言い訳するのか?」


 じろりと睨んでくる。


 いや、あんたもあの時さんざん言い訳してたろ!?


「話を聞け! 俺はただの第一発見者。冤罪だ! 真犯人も別に見た!」


「なんだ。俺と同じか」


 それを聞いて納得したのか、よろよろと歩くと自分の独房のベッドに腰かけた。


「そうだ。嵌められたんだよ」


 俺の言葉を聞いて、グリフは上を向いてふーっと息を吐いた。


「で、犯人はどいつなんだ?」


 グリフが眉間にシワを寄せながら聞いてくる。


「チャド・オルゲン。マードック・オルゲン伯爵んとこの長男だよ」


「ああ、あの家か。それは厄介だな」


 途端にアゴに手を当てて考え始めるグリフ。


 知ってるのか? 厄介なのはそうだが他に理由がありそうだ。


「なんでだ?」


「あそこはこの国の権力者と繋がりが深い。特に裁判所や金貸しなんかとな。逆にギルドや警察とは仲が悪いようだが、それでも金でなんとかしちまうからたちが悪い」


「なるほどな」


「しかしお前も若いのにな。通り魔事件の犯人は人を殺しすぎてる。お前、間違いなく死刑だぜ?」


 残念そうにグリフは言う。


「まぁそうだろうな」


 それは予想してはいた。


「おいおい、わかってんのか死刑なんだぞ!?」


 グリフが声を大きくした。


「ここで騒いでもどうしようもねぇだろ」


 俺がそう言うとグリフは黙って下を向いた。そしてポツポツと話し出す。


「相手があの伯爵となれば、今の王都対抗できる奴なんていない。それこそ死んじまったジーク辺境伯以外にはな……」


「ジーク辺境伯か」


 そうか。ジークはマードックと同じくらいの権力を持ってたんだよな。やっぱり、もうそこを頼るしかないか。問題はどうやって連絡をとるか…………。


 俺が考え込んでいると、


「なぁ、お前の名前はなんて言うんだ?」


「ああ、言ってなかったな。俺はユウだ」


「ユウか。お前が本当に冤罪だって言うなら、俺が出られたらマシューさんに頼んでクランでその真犯人を取っ捕まえてやるよ」


 グリフがニッと歯を見せて笑いながら言った。


「え…………?」


「ここで会ったのも何かの縁だからな」


「良いのか?」


「もちろんだ。俺らレッドウィングは元々曲がったことが嫌いな奴らの集まりだからな!」


 そう言ってグリフは親指を立てて笑った。


 いや、だからと言ってクランが動いたところでさすがに分が悪いだろう。


 どうする…………あ、そうか!


「なぁ、それよりもお願いがある。あんたがもし釈放されたら伝言を頼まれてくれないか?」



◆◆



 俺が目を覚まして3日後、グリフの釈放が決まり、彼は無事に出所。俺は1人になった。


 グリフが無事に伝言を伝えてくれるといいんだが…………。


 そしてその日、初めての来客があった。


「これはこれは、初めましてでいいのかな」


 嫌に猫なで声で粘着質な声だった。


「マードック…………!」


 最悪な奴が来た。何しにここへ?


「マードックじゃない。マードック伯爵だ。平民のくせに私を呼び捨てとは度しがたいな。死刑にするぞ? ええ?」


 マードックはその中年体型に貴族らしいいかにも高そうな洋服に身を包んでいた。そして、彫りの深い顔で薄汚れた牢屋に座る俺を見下ろしていた。


「ああ、もう死刑だったな!」


 うっかりしてたとばかりに額に手をやるマードック。


 しかしこうして対面して話すのは初めてだ。どうせ鎖に繋がれた俺を笑いに来たのだろう。


「何か私に言うことはないかな? ええ?」


「死ね」


 今までの怒りを込め、睨み付けながらとりあえずそれだけ言った。


「し、し、し…………ね?」


 いきなりのストレート過ぎる暴言に、額に青筋を浮かべながらうろたえた。


「し、しかしよくもまぁ、私の屋敷に忍び込んでくれたね。ええ?」


 マードックはしゃがむと鉄格子に顔を近付けて言った。


 ん? …………俺たちが忍び込んだことがバレてる?


「さぁ、なんのことだか」


「しらばっくれても無駄だ」


 確かに資料とルーナをかっさらったし、侵入者がいたことはわかってるとは思ったが、なんで俺だと?


「おかげでギルドがズカズカと偉そうに踏み込んできて散々だ。計画に遅れが出てしまったのもそれのせい。つまり全ては貴様のせいだ」


 マードックは憎々しげに俺を睨む。


 計画に遅れが? 良かった。ギルドの作戦は順調のようだ。


「何を言ってるかわからんな。それより、ブラウンは元気か?」


「ん? ああ、まぁそうだな。元気なんじゃないか?」


 マードックは視線を上に向けて、どこかとぼけたような答え方をした。


「てめぇ、ブラウンに何かしたのか?」


「知らんな」


 マードックはニコッとしながら首を傾げて答えた。


 ブラウン、無事なのか? 


「ブラウンと言えば、せっかく学園を退学にしてやろうと思ったのに金をどこからか用意してきたな。あれも貴様の手引きだろう?」


「さあな。あんたがブラウンを見くびりすぎただけだろ」


「見くびっているものか。私はあいつの父親だ。あいつのことは誰よりもわかってる。つまり、ただの臆病者だ。ええ?」


 カチンと来た。


 どの口が父親だと…………! 子どもを殺そうとする親がどこにいる!?


「あいつはあんたが思っているよりも、勇敢で正義感に溢れてる。ブラウンのことを何も見ていないくせによく言えるな」


「ふん。短い付き合いの学友ごときが偉そうに」


 イライラした様子だったが、伯爵は何か思い付いたようにニヤリとすると言葉を続けた。


「いや、そうだな。確かに勇敢、勇敢ではあったもしれんな。この私に、偉そうに講釈を垂れるほどには馬鹿で勇敢だったな」


「なっ…………!」


 ブラウンの馬鹿野郎! マードックに抗議する時はあれだけ俺のいる時にしろって言ったのに…………! 


 ブラウン無事なのか!?


 俺の動揺に気を良くしてマードックは喋り続ける。


「ああそうだ。それにな、クロム先生はクビになったよ。ええ? 優秀だったクロム先生の代わりと言っちゃなんだが、ガードナーが君たちのクラスの担任を勤めることになったから…………宜しくな?」


 そう言うと、伯爵はニヤニヤと笑った。


「ガードナーが?」


 SSSランク冒険者のあいつか。これはつまり、Sクラスの皆は人質だということだろう。俺がここから逃げ出したりしないための。


 ここまで手を打つということは、どういうわけかマードックに俺がやったことが確実にバレているようだ。


「1つ聞きたい」


「なんだね? 死に行く貴様だ。なんでも聞いてくれたまえよ」


 マードックは大仰に両手を広げて言う。


「なんで忍び込んだのが俺だとわかった?」


「はっ! 単純なことだ。貴様を見ていた者がいた」



「…………は?」



 あの時、こいつの他にはガードナーと数人の研究員がいただけだ。ということは、あの研究員の中に俺の隠密を破るほどの奴がいたということか?


「誰だ?」


「ふっ、はっはっはっ! 冥土の土産に教えてやろう。ええ? チャドを連れ帰った男だよ。君のことを知ってるようだったね。ま、私とて彼とはもう関わることもない。実に気味の悪い男だったよ」


 偽コリンズか…………!!!! つまり、あいつが顔を変えてあの場にいた。そして、奴は俺の隠密を見破るほどの実力を持っているということ!


「あいつは…………何者だ?」


「ああ、これ以上無駄話はいけないな。じゃあ、そこで私が国王に即位するのを待っていたまえ」


 そう言い残してマードックは悠々と去っていった。



◆◆



 そこからは地獄のような日々が始まった。マードックの息のかかった3人の看守が交代交代で壁に磔にしては動けない俺を蹴る殴るのサンドバックにしていく。


「おらっ!」


 それなりに体重の乗った蹴りがドスッと俺の腹にぶちこまれる。


「ぐっ…………!」


 打撃耐性が高いのでほぼダメージはないが、それでも何度も蹴られていると鈍い痛みが身体の内部に蓄積されてくる。

 

「伯爵様に楯突くなんて、馬鹿なことをしたな。小僧」


 その声でピンときた。


「ああ、お前屋敷にいた警備の奴らか。こんなとこにいるなんてサボり過ぎてクビになったのか?」


「……っ!」


 的を射ていたのか、俺の顔を殴り付ける。


「ぐっ…………ははっ、図星かよ」


 口が切れて血が出てきた。


「死刑囚が! その減らず口もいつまでもつかだなぁ!」


 拳がすりきれるまで俺を殴り、疲れれば交代で別の看守が出てきて俺を殴っていく。


 暴行を受ける俺を感じたのか、空間魔法にいるゼロや悪魔たち、竜のユーリカ、ゲイルまでが激怒してなだめるのが大変だった。

 ここから抜け出すことは容易だ。だが、学園のSクラスそのものを人質に取られてはそうはいかない。




 看守による暴行は夜中まで続き、ようやく看守がいなくなった。


「終わったか。暇になったな」


 俺はぽけーと天井を眺める。


 外の状況がわからない。


 ギルドと伯爵はどうなった? 

 クロム先生は無事なのか? 

 Sクラスの皆は? 

 アリスたちは? 

 サイファーが死んでガストンは大丈夫だろうか?


 考えても答えの知りようのないことばかりだ。そして俺の手錠を見つめて改めて実感した。


「そうか。俺、死刑囚なんだよな…………」


 このままマードックが国王になればすぐにでも俺の刑は執行されるだろう。それに今は逃げ出すことはできない。ただ待つだけだ。


「暇だな…………ああそうだ」


 久々にスキルレベルでも上げるか。


 時間をもて余した俺は、より高度で精密な魔法の鍛練に没頭した。俺の生成できる最高硬度の石を作りだしたり、水や火、雷で俺の分身を作り出しては牢の外を出歩かせ遊んだりもした。

 そして、ついでに自分の腹めがけて魔法をぶっぱなし、耐性を上げていく。俺がジャベールに負けたのは力が足りなかったからだ。俺が弱かったからだ。ステータスが下がっていたことは言い訳にしかならない。


 もう二度と失いたくない。



◆◆



 ユウが投獄されたその日、空間魔法内ではユウに仕えている者たちのトップが顔を突き合わせていた。


 ここはどこまでも続く真っ白な空間。


 ゼロが秘密裏に【賢者】に掛け合い、もう1つの空間を彼らの共通の場所として提供してもらっていた。ここに顔を揃えているのはグレーターデーモンのゼロ、ゲイルタラテクトのゲイル、そして今や岩竜に進化したユーリカである。


 彼らはユウがジャベールに敗れたことを、自分達にユウを守れる力がなかったためだと考えていた。


「ご主人様のため、我々にはもっと力が必要です。我々はいつまでもご主人様からの魔力に頼っていてはだめなのではないでしょうか」


 そう切り出したのはゼロだ。


「そうだね。僕はもっと強くなってパパの役に立ちたいよ」


 この可愛らしい話し方は、体高30メートルに及ぶ巨体に成長したユーリカだ。岩竜は竜の中でも特に大きな身体を持つ。そのため、この大きさでもユーリカはまだ成竜ではない。子供なのだ。


「それは同感ね」


 牙を鳴らしつつ返事をするのはゲイルだ。


「そう考えていただけているのなら話は早い。私たち悪魔は互いに手合わせを行い、力を高め合っています。それは悪魔に限らず、私たち全員でもできるのではないでしょうか」


「確かに。それはできるわね」


 頷くゲイル。


「待ってよ。僕はまだ1人なんだよ?」


 一番早くに卵から生まれたユーリカは一匹だけだ。


「だからこそのこの空間です。ここならば、皆が集うことが出来ます」


 その思惑があって賢者もゼロの提案には同意していた。


「なるほどね」


 そう言いつつ、ゲイルはその複数の脚を動かして空間内を見渡す。


「それじゃ、私は優秀な子供たちをここへ連れてくるわ」


 ゲイルが産んだタラテクト種の子供たちはすでに5000匹以上にもなっており、それらのうち数匹はすでに成体のタラテクトになっていた。


「ええ、私も。ナンバーズを用意しましょう」


「楽しみだなぁ」


 ずっと1人であったユーリカはピコピコと尾の先を動かし、他の魔物と話ができることに喜んでいた。



「「「ご主人様のために」」」



 3匹は合言葉のようにそう言ってそれぞれの意思を確認した。


 そもそも、ここにいる魔物たちはユウの魔力を食べることで成長していたが、ろくに戦闘というものを経験していなかった。そのため、互いに高め合う相手を得たことでさらに意欲が高まっていた。


 その時、ゼロたちの知らない声が空間魔法内に聴こえた。





『ふふん、面白そうなことしてるじゃない』





◆◆



 看守以外誰と話すこともなく、約1ヶ月が経過した。俺は耐性レベルを上げるために積極的に自らに魔法を使っていた。


「な、なんかお前、勝手にボロボロになってないか?」


「ああ? 気のせいだろ」


 看守たちが目を離した隙に傷だらけになっている俺を心配しだしていた。案外良い奴らだ。


「さぁ、いつも通りここに拳をぶつけてくれ! さぁ早く!」


「お、おう……」


 若干顔のひきつった看守の男のパンチが腹にめり込む。


 打撃耐性はこいつらを利用して上げようと、毎日この時間を待っていた。


「あぁ効くなぁ。いいぞ、もっとこい! 今日は1000発打つまで終わらせねぇ」


「こ、こいつ、おかしくなっちまった…………!」


 だって打撃耐性上がるしな。


「おい、お前代われよ!」


「いやだって、こいつ気持ち悪いんだよ…………」


 とその時、こちらからは見えない階段の上の方から声が聞こえた。


「おい、終わりだ」


「「へ?」」


 看守と俺が声を揃えた。


 終わりとは?


「こいつの無罪が確定した。釈放だ」


「まじか」


 もう少しでまた耐性が上がりそうだったんだけどな。


「やった! もう、殴らなくて良いのか!?」


 看守たちは心から嬉しそうに喜んでいた。


「もう良い。これで解放されるな」

 

 看守仲間が同情するように男の肩をポンと叩いた。


「ああ。もうこっちの頭がおかしくなってきそうで…………」


 俺そんなに酷かったか?


 と、その時、カツカツと階段を下りてくる足音が聞こえた。



「あららら、こんなボロボロになっちゃって、大変だったね」



 懐かしい、そして優しい声を聞いた。もう1年ぶりくらいだろうか。


「ジーク辺境伯…………!」


 ボサボサの髪で、タレ目で、のんびりとした話し方、間違いなくジーク辺境伯だった。階段を下りてくる、その柔らかで平和で日常的な雰囲気に自然と心が安堵した。そして思わずじわっと涙が目に溜まった。


 ちょっと変態的な方向に走っていたが、これは自分を守るためで正直殴られるのは辛いことにかわりなかった。服はボロボロで顔や髪の毛まで泥まみれだ。


 本当に助かったのか。これで、俺は死刑にならずにすんだのか?


 アリスたちはうまいことやってくれたようだ。


 あの時、出所するグリフに頼んだのはアリスたちへの伝言だ。

 内容はコルトのギルド長ゾスにギルド本部の通信を使って連絡を取り、ジーク辺境伯を王都に呼んでくることだ。マードックの証拠を突き止めた時点で連絡を取りたいとは思っていた。

 ジーク辺境伯はマードックの天敵であり、王都では互いに同じくらい権力を持っている。死んだことになっていた彼が生きているとなれば、流れは変わってくる。これが俺の逆転の手だ。


「まだ王都に着いたばかりでね。アリスさんたちから話を聞いて一番に君の釈放を認めさせたんだ」


 1ヶ月で来るとは、思ったより早かった。


「ありがとう。助かった」


「ユウ大丈夫!?」


 聞きたかった声が聞こえた。アリス、レア、フリー、ウル。4人とも揃っている。心からホッとした。

 レアやウルはもはや泣きそうなくらいに顔が歪んでいる。かなり心配してくれたようだ。


「すまんな。心配かけた」


 本当にホッとして笑みがこぼれた。


「いやぁ、こっちも助けに来るのが遅くなってごめんねぇ」


 フリーがやれやれと頭をかきながら謝った。


「いや、助かったよ」


 俺が牢屋から出されると、レアとウルが抱きついてきた。


「ゆ、ユウが死刑になるって聞いたからああああ!」


 涙で顔をぐしゃぐしゃにしているのはレアだ。


「ユウのあほ! あほー!」


 語彙力がないままポカポカと俺を殴るのはウルだ。


 よしよしと、猫耳のついたレアと小さなウルの頭を撫でてやる。


「あたしたちを庇うなんて馬鹿。心配かけないでよ……!」


 アリスは1人離れた場所で腕を組み、涙目で怒っている。


「あの時はゆっくり話もできずに悪かった」


「ふん」


 アリスは分かりやすく不機嫌な顔をするとそっぽを向いた。


「ふぅ。ジーク、思ったより早かったな」


「ああ、実はちょうど王都へ向かっている途中でね。ワーグナーでガランギルド長からアリスさんたちの連絡を受けたんだよ」


「なるほどな。それはタイミングが良かった」


「そういうこと」


 ジークはニコニコと答えた。


「んじゃ、ジークさっそくだが、今の状況を聞かせてくれ」


「うん」


 俺は深く息を吸い込んだ。

 フィルじい、ジャン、ブルート、ルーナ、その他多数の非人道的な行い、そしてここで受けた個人的な恨みを込めて叫ぶ。



「マードックを…………ぶっ潰す!!」




読んでいただき、有難うございました。

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[良い点] 「さぁ、いつも通りここに拳をぶつけてくれ! さぁ早く!」 「あぁ効くなぁ。いいぞ、もっとこい! 今日は1000発打つまで終わらせねぇ」 完全にヤバい人になってる…(笑) 毒耐性つけた時…
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