前座
如月の書架。
本の紹介をするだけの簡単なお仕事。
今日も、雑味の交じった不味いコーヒーをすすりながら、彼は眉根を寄せる。
さて、戦闘狂、割烹おじさんでお馴染み……そう、私だ。
そこ、「またお前か」などと言わない。
今回は書架を晒すということで、片眼鏡を掛けている……という設定だ。
実はこの企画、私の蔵書の中にとある本を見つけたことに端を発する。
“CoC”と言えば分かるだろうか。一月ほど前か、リプレイ動画を漁っていた時に「そう言えば、“あの本”が在ったよな」ということを思い出した。
そして先程、蔵書の中から引っ張り出したものが手元にある。
──その名もズバリ、《ネクロノミコン》(*1)だ。
教養として購入して以来、あまり手を付けて居なかった。
また、転職以前は本の頁を繰る機会が少なかった。結局、300近い蔵書──その中に埋もれてしまっていたのだ……。
勿論、資料室にもなっている我が書庫の中に在って、ネクロノミコンは堂々の資料本コーナーに陳列されていた。少々探し出すのは骨だった。
その内原作小説も読んでみたいものである。
むむむ、《屍食教典儀》や《無銘祭祀書》も気になるが……書店には無いだろうな。古書店も行ったが、古めかしい本は見かけたものの資料に向きな本は幾つか在った。しかし、どうにも限定的な内容で使えそうになかった。
時間さえあったのなら、もう少し吟味できたのだがな。
主に国内の歴史、中国の歴史などの本は多かったが、資料としてなら既に《遠野物語(×2)》(*2)もある。同作者の《日本の昔話》もあるので、な。
話は逸れたが、引っ越しに伴って私の蔵書は今や100冊あるかも怪しい。古書店に足を運んだのも、蔵書の増強を考えてのことだ。
資料本は複数用意してあるし、辞典も完備してある。
先に釘を刺しておくと、俗っぽいなどと野暮な事はなしにして頂きたいということくらいか。
如何せん、ライトノベルも研究素材にしてあるので、鬱展開・シリアスマシマシの鬱作家には似合わない内容と思うだろうことを先に断っておこう。
とは言え、最近は翻訳ものにも食指を伸ばしつつある。
活動報告で挙げた、《白夜の爺スナイパー》も紹介にあげたいところ。
……どうにも、私は戦闘狂の気が、というか戦闘狂の血が騒ぐとでも言うのか、アクション物だとかに傾倒する節があってな。
所謂独断と偏見が詰め込まれたものだと思って、ポップコーンでもかじって居てくれれば嬉しい。
因みに、私こと如月が読みたくない書物No.1は《グラーキの黙示録》。
読んだ端から首のない大男に付け狙われるなど、冗談ではない(*3)!
次回から、書架を晒すことになるが軽い紹介に留める……と思うので安心して欲しい。
そう言えば、《ネクロノミコン》が枕元付近に在ったとき、私結構酷い悪夢を見たんだが(*4)……まあ、気疲れのせいだろう。
*1……言わずと知れた、宇宙的存在にまつわる魔道書。中身は“恐怖”だとか“精神(障害)”だとか、おぞましい単語は勿論、ろくな単語が出てこないことで超有名。
神話的存在にも言及されていて、まず間違いなくイカれている書物。
翻訳されてなお、不気味な空気をまとう。
……いあいあくとぅるふ(ボソッ
*2……柳田国男氏が記した、日本の口伝を集めた書物。現在の岩手県遠野市が発祥で、ここは日本民俗学発祥地ともされている。
不思議な話は勿論、日本の怪談にまつわる逸話もあり、不思議な書物。如月の書庫には何故か古い物と、新版とが二冊並んでいる。
余談だが、これらのことから如月は遠野市に一度足を運びたいと強く願っている。
……好奇心猫を殺す(ボソッ
*3……クトゥルフ神話における魔道書の一つ。沼などの底に潜む邪悪な神性グラーキについて触れている。十三の写本になっているが、一番最初にイゴー○○クの存在が書かれている。これは呼んでも、読んでもいけない厄介な邪神で、読んだら何かに見られている気がするらしい。
首のない大男の外観で、掌に口があるらしい。対象──名前を認識した者──を何処までも追い回して来るので、恐ろしい。如月のリアルSAN値を一番削る存在。
如月がリアルで後ろを振り返るのは、大体こいつのせいorz
イギリス……ブリチェスター……グラーキ……。
*4……実話です。既に五回見ている。