怒りをぶつける相手
俺たちの前に現れたのは、人とは違い少し尖った耳を持つ金髪の女の子のエルフ。
その姿はボロボロの服を着せられ、身体中に傷がつけられていた。
そして、目は輝きを失い、表情もない。
エルフは希少で奴隷として高値で取り引きされていると聞いた事がある。
だから、奴隷として大切に扱われるって聞いていたけどこれは……。
「はは! 驚いた顔をしてるな! そうだ、こいつはエルフだ! だがな、このエルフは女のくせに頑なに股を開かなくて返品された売れ残りだ! 隷属の首輪にも対抗する程の力を持ってやがるから護衛に使ってやってるんだよ! でも、それだけじゃいつまでも売れやしねぇから俺が身体を傷めつけて調教してやってるんだ! それでも、全然股は開きやがらねぇと来たもんだ!」
そう言って奴隷商のボスは高笑いする。
隷属の首輪は魔道具の一種で、契約者のいう事を聞くようになっていると聞いた事がある。
それに抗って対抗するって事はよほどの魔力があるのだろう、あいつの口調から、他のエルフは隷属の首輪が有効だって事だと思うし、あの子は特別なのかもしれない。
あの子はただひたすら一人で戦って、自分を守って来たのだろう。
こいつは絶対……許せない!
「……ミーア、雑魚を頼む」
「えっ!? ……はい」
俺の言葉にミーアは驚いた様子を見せたが、普段と違う俺の様子に頷く。
「へっ! 本当、生意気なガキだぜ! よし、考えが変わった。……一斉にかかれ!!」
奴隷商のボスが叫ぶと、雑魚達が一斉に動き出す。
「クイック!! パワーブースト!!」
俺はすかさず補助魔法を使ってスピードと力を上げる。
「くらぇぇぇえええええ!!」
すると、男が剣を振るってきた。
そして、俺はそれを半身になり避け……
「リメイク!!」
剣に触れ、リメイクを唱える。
すると、剣をは形を変え、鉄の球になった。
「なんだこりゃ!? グホッ!」
そして、驚いた男の隙をついて鳩尾にパワーブーストで力を上げた加減なしの強烈な一撃を見舞って意識を刈り取る。
「ミーア、頼んだぞ!!」
俺は今の一連の動きを見て、驚愕した男達を置き去り、俺が意識を刈り取った男同様に「えぇー!?」と驚いていたミーアに声かけ雑魚を任せる。
すると、ミーアは我に返り、隙だらけになった男達に向けて行動を開始した。
「おまえの番だ!!」
ミーアはきっと大丈夫だろう。
俺は奴隷商のボスへと距離を詰める。
「くっ、やれ!!!!」
男は俺が近づいてくると、エルフの女の子に指示を出す。
すると、エルフの女の子は無表情のまま手を前に出した。
「っ!? くっ……」
次の瞬間、何も前触れなく俺の身体を何かが切り裂く。
それを感じて俺は距離を取る。
「貴方は勝てない。負けを認めて」
すると、エルフの女の子が無表情で俺を見ながら言葉を口にする。
そうか、エルフは風の精霊に愛された種族って聞いた事がある。
だから、詠唱なしでも魔法……精霊魔法って言ったか? それを使う事が出来るのか。
「タクト君!?」
ミーアが俺を見て心配して声をかけてくる。
チラッと見るとミーアは男達を次々と意識を刈り取って無効化している。
情けない、啖呵切ったのに俺のほうがこのザマとは。
「残念だけど、俺は負けるつもりはないね!!」
俺は立ち上がるとすぐ駆け出す。
ミーアに負ける訳にはいかない。
「……無駄」
エルフの女の子はそう言うと俺にまた手を向ける。
「ストーンウォール!!」
俺が魔法を唱えると、俺とエルフの女の子の間に岩の壁が出現する。
そして、その岩の上によってエルフの女の子が放った風の刃は止められる。
そして、俺は勢いに乗ったまま岩の壁を飛び越える。
「なに!?」
「っ!?」
急に出現した岩の壁に風の刃が止められたかと思ったら、次の瞬間に俺が壁を飛び越えて現れたので、奴隷商のボスとエルフの女の子は驚く。
「くらぇぇぇえええええ!!」
俺は飛び越えた勢いそのまま奴隷商の男の頬に強烈な一撃を放つ。
「グォッ!!」
男は俺の一撃によって吹っ飛ばされる。
それを見た俺は振り向きエルフの女の子の方を向く。
「……」
すると、女の子は無表情ながらも奥歯を噛み締めている。
奴隷商のボスのように、俺に吹き飛ばされると思っているのだろう。
俺はそのままエルフの女の子に向け、手を出した。
「リメイク!」
「っ!?」
リメイクを唱えると、女の子の隷属の首輪が真っ二つに割れた。
「……なんで?」
エルフの女の子は真っ二つに割れた隷属の首輪を見た後、俺の事を見て聞いてきた。
その表情はさっきまでの無表情と違い、驚きや戸惑いと言った感情が見える。
「もう許さねぇ!!」
エルフの女の子の問いに答える間もなく、俺の後ろで奴隷商のボスが立ち上がり叫んだ。