飛んで火に入る奴隷商!
「ミーア、おはよう。昨日は良い夜だったな」
俺は朝日の差し込む窓際の椅子に座りながら爽やかなスマイルで、ベッドから起き上がったミーアに声をかける。
「なっ!? えっ!?」
ミーアは俺を見ると慌てて、布団を被る。
そして、しばらくして顔出した。
「何言ってるんですか! 冗談はやめてください!!」
さすがのミーアもこれは騙されなかったようだ。
昨日の夜、宿屋を見つけて泊まる事にしたけど、宿屋のおばちゃんは泊まると言うと、俺とミーアをカップルと思ったか、冒険者同士パーティを組んでいると思ったのか分からないが、一つしか鍵を渡してこなかった。
俺は何も考えずに普通に鍵を受け取ったが、ミーアは「タクト君! なんで普通に鍵を受け取ってるんですか!? 別々の部屋でしょ!!」と抗議してきた。
すると、そこで俺の悪いクセが出てミーアをからかいに走り、「いいのか? 別々の部屋って事は料金が倍、ただでさえ俺に借金してるミーアにそんな余裕あるのか? これから王都に着くまでにどれくらい借金が増える? それに冒険者していたら、いつか異性同士で同じテント、屋根の下で過ごす事あるだろ?」と言った。
ミーアは俺の言葉に返す言葉がなく、悔しいのかワナワナ震えて顔を赤くして、「分かりました! 一緒の部屋で良いです! その代わりベッドは私でタクト君は床で寝てくださいね! それから着替えの時は部屋から出てください!!」と言って、俺の手から鍵を取って上がって行ったのだ。
そこから俺とミーアの間に何かあった訳ではない。
「ちょっとくらい話に乗ってくれても良かったのに」
「何でそんな話に乗らないといけないんですか!? それに私はタクト君みたいな詐欺師で金の亡者で軽い男の人じゃなくて、白馬の王子様が良いんです」
ミーアは怒ったかと思うと、次はうっとり乙女モードになった。
今時白馬の王子様って……。
「さっ、飯食って行くぞ」
「えっ? あっ、もう! タクト君から言ってきたんじゃないですか!!」
俺はミーアの声を後ろに聞いて、食堂にご飯を食べにおりた。
◇◆◇◆◇◆
「さぁ、行くぞ」
「はい、行きましょう!」
俺とミーアは王都に行く為に次の街を目指して街を出た。
あの後、ミーアは忙しいで支度をして、食堂におりて来て俺に怒っていたけど、ご飯をいっぱい食べたら機嫌が直った。
本当、ミーアは単純というか素直というか……まぁそんなところも可愛いんだが。
ちなみにミーアは宿屋代も俺に借金している。
今、ミーアに手持ちのお金がないからだ。
「でもタクト君、なんで馬車じゃなくて歩いて向かうんですか? 最初は馬車で向かうって言ってたのに」
しばらく歩くとミーアが聞いてくる。
ミーアの言う通り、俺とミーアは歩いて街を出た。
「あぁ、ミーアの借金が増えると思ってな」
「ぐっ……確かに私は今は手持ちありませんけど……大きな街へ行って良い依頼受けたらすぐ返せますよ! こう見えて私はタクト君より先輩冒険者なんですよ!」
そう言ってミーアは頬を膨らませて怒る。
こういうところも可愛いからたまらない。
「それは分かってる。まぁ実は違う目的があって……ほら、来た」
俺がそう言うと同時にミーアが双剣を構えて警戒する。
「へっ、さすがだな。でも、おまえは終わりだ。昨日はよくもやってくれたな!」
そう言って現れたのは昨日俺たちを襲った男達だ。
それに、昨日は見なかった顔もあり、人数も多い。
「本当、予測通りに動いてくれて助かるよ」
「タクト君、どういう事ですか?」
「あぁ、昨日こいつらを逃したのは、こうやって報復にくると思ったからだ。街で襲ってくる奴隷商人があれだけの人数の規模じゃないと思ったしな。逃して一網打尽にしてやろうと思ったんだ」
「そんな事考えたんですか!?」
昨日こいつらは奴隷を連れていなかった。
それで、ミーアを連れ去ろうとしたという事はどこかに奴隷を見ている仲間がいるという事だ。
「へっ、強がりやがって。……まぁいい、兄貴! こいつです!!」
そう言うと男の後ろからバトルアックスを持つ大柄な男が出て来た。
そのガタイから武器適正の所持者だろう。
それに、他の男達がヘコヘコしているところを見ると、こいつがボスってところか。
「なんだ? おまえが戦うのか」
「ほぅ、俺を見ても逃げ出さないとは……なかなかやるようだな」
そう言うと、奴隷商のボスはニヤリとしながら前に出る。
「あいにく負ける気はないんでね」
「はは! 面白いガキだ!」
奴隷のボスは大きな声で笑う。
ミーアは心配そうに見ているが、昨日の俺の力を見たからか様子を見ている。
「それでおまえが戦うのか?」
「ん? あぁ、俺が戦っても良いが、どうやらおまえは変な魔法使うらしいな。だから、先にこいつが戦う」
奴隷のボスはそう言うと自分の後ろから誰かを引っ張りだした。
「なんて……」
「……ひどい」
奴隷に引っ張り出されたのは首に隷属の首輪をつけられた俺たちと同じくらいのエルフの女の子だった。