リカバリーの正しい使い方
男達は一斉に俺に向かって飛びかかってくる。
「クイック!!」
それを見た俺はすぐさま補助魔法を自分にかけ、後方へと飛び距離を取る。
「リペア!!」
そして、それと同時にミーアにリペアをかける。
「んー……もう食べれません……」
リペアの効果でミーアの酔いは覚めたようだけど、旅の疲れがあるのか寝ぼけているようだ。
「おいミーア、起きろ」
「んー……なんですかタクト君……ってどんな状況ですか!?」
ミーアは目を覚ますと、すぐさま俺の背から飛び退く。
そして、それと同時に男達を見て、双剣を取り出して構える。
「ちっ、面倒な。行くぞ!!」
男達はミーアが起きたのを見て、戦いを急いできた。
そりゃそうだろ、こんな街の中で人攫いなんてしたら、すぐに衛兵もかけつける。
こいつらからすれば、俺一人をさっさと倒して眠っているミーアを連れて行こうとしていたのだろう。
「もう! せっかく幸せな気分だったのに!!」
ミーアは気持ちよく寝てたのを邪魔されて怒っている。
ミーアは俺より冒険者ランクが上だって言ってたし、この状況で慌てていないって事は、ミーアの実力は結構なものなのだろう。
だから、ミーアがこいつらと戦っても問題はないだろうけど……。
「ミーア、ここは任せてくれ!!」
「えっ!?」
俺はそう言うと呆気に取られているミーアをおいて一気に駆け出す。
「なっ!?」
そして、一瞬で男達との距離を詰める。
「ぐおっ!?」
「グハッ!!」
俺は男達の懐に入ると鳩尾に拳をめりこませて次々と倒していく。
リメイクですべての能力を上げた俺はどの魔法も最大限の効力を発揮する。
普通、どんな魔法の適正を得ても最初から最大限の効力を発揮できる訳ではない。
使っていく中で、経験を積み、身体が魔法を効率良く発揮出来るようになっていく。
武器適正も武器適正を得たからといって最初から達人な訳ではなく、鍛錬が必要だ。
もちろん行き着く先の能力の限界は個人差があるけど。
俺はリメイクで武器適正を得た後、ある程度武器が使えるように練習した。
魔法に関しては、リメイクで身体を流れる魔力の調節が出来たので、極める事が出来ている。
だから、俺は魔法に関しては一流だ。
その為、俺が唱えた補助魔法のクイックはそこらの奴が使う効力とは訳が違う。
俺は動きを追えなくて狼狽える男達を一方的に倒していく。
そして、あっと言う間に打ちのめすと、俺は次の行動に移す。
「リカバリー!!」
それから倒れている男達に手を触れてリカバリーをかけていく。
すると、ダメージから回復した一人の男がよろめきながら立ち上がる。
なかなか体力のある奴だ。
「て、てめぇ何しやがった!?」
「いや、悪さ出来ないようにおまじないしただけだ」
「ふざけるな! アイスランス!」
「タクト君っ!!」
どうやら、男達の中に魔法が使える奴がいたようで俺に向かって一人が魔法を唱える。
それを見てミーアが慌てる。
「えっ……?」
しかし、魔法は発動せず、男達とミーアはポカーンと驚いている。
そう、俺は男達の『素質と能力』とイメージして『リカバリー』で、それを初期化したのだ。
俺が最初にリカバリー使った時は能力を初期化してしまったが、素質は残っていた為、リメイクを使う事が出来て大事には至らなかったが、素質そのものをリカバリーして初期化した男に魔法が使える訳がない。
そして、武器適正があった男達や適正がなくても鍛錬を積んでいた男も武器の素質が奪われ、さらに経験で得た能力も奪われた為、武器をろくに扱う事は出来ない。
こいつらはもうろくに戦う術がないのだ。
「何しやがった!?」
「だから、おまじないだって」
「ふざけるな!! 早く元に戻せ!」
「なんで俺がおまえ達の言う事を聞かないといけないんだ? それよりいいのか? さっきの騒ぎで衛兵が来るぞ?」
「……ちっ!」
すると、男達は引きづりながら引き上げて行く。
「良いんですか、タクト君?」
男達が去って行ったのを見送った俺にミーアが声をかけてくる。
「あぁ、衛兵に引き渡してたらいろいろ事情聞かれて休むの遅くなるしな。それに、あいつらはもうろくに戦えないし」
今日はもう疲れた。
早く休みたい。
あいつらは俺のリカバリーで、ろくに戦えないし問題ないだろう。
それに俺の勘が当たれば……。
「そうですか、でもさっきのは何ですか!? あの男の人魔法使えなくなってましたけど!」
「あぁ、あれはおまじないだ」
「ふざけないでください!」
ミーアは顔赤くして怒る。
いや、俺からすれば、寝てたミーアの方に言いたいけど。
「まぁ、明日話すよ。今日は疲れた」
「もう〜……じゃあ明日話してくださいよ? でも、じゃあこれはどういう状況ですか!? それだけでも教えてください!!」
「こんな状況だ」
「意味分かりません!!」
「そんな怒るなよ。俺もよく分からないけど、酒場出たら絡まれて、ミーアを売れって言われてこうなった」
「何ですかそれ!? ……じゃあでも、タクト君は私を助けてくれたって事ですか。ありがとうございます」
そう言うとミーアは素直に微笑んで礼を言ってきた。
「どういたしまして。いびきかいて寝てるミーアをほっとけなかったしな」
「えっ!? 私いびきかいてました!?」
「ウソ」
微笑んだミーアが可愛いくて、俺は照れ隠しでからかう。
「もう!! タクト君はいったい何なんですか!? それに、酔い覚ましてくれるなら、最初からしてくれたら良かったのに!」
最初からミーアにリペアをかけておけば良かったのかもしれないけど、酔いが覚めていたらエンドレスに飲むかもしれないのでやめていた。
決しておんぶしたかったからではない。
「分かったよ、次からそうするけど、リペア一回、銀貨一枚な」
「高っ!?」
「そうだ、さっきのも銀貨一枚にしておこう!!」
「なんでそうなるんですか!? タクト君の詐欺師! 金の亡者!!」
「さっ、行くぞ! さっさっと宿屋で休むぞ!」
そう言って俺は歩き出す。
すると、ミーアはなんだかんだぶつくさ言いながらついてきた。
そして、俺はしばらくそのままミーアをからかいながら宿屋へ向かった。