新たな面倒事の予感!?
「あはは〜! タクト君は物凄く良い人ですね!」
街に着いた俺とミーアは酒場に来ていた。
と、いうのも、まだお腹が足りてなかったようで、何か食べたいと言ったからだ。
俺はミーアを追って歩き出した後、何となくこんな展開になりそうな気がしていて、少し戻ってミーアが倒したゴブリンが持っていたボロの剣や盾を取りに行った。
その様子をミーアは立ち止まって怪訝そうに横目でチラチラ見ていたけど、俺がリペアで剣と盾を修復すると、物凄い勢いで走り寄って来て、「今のどうやったんですか!?」聞いて来たから、「だから、俺は修復魔法が使えるって言っただろ? それでミーアの服も修復したんだから」って言った。
すると、「えっ!? さっきのは詐欺じゃなくて本当だったんですか!?」って言って、やっと俺の修復魔法を信じてくれた。
そうして、無事に街に着いて、ゴブリンから奪った剣と盾を換金したら、ミーアが「何かお腹空きましたね! 食べに行きましょう!」って言って、酒場へ来たのだ。
そして、ミたくさんの料理とお酒を頼んでミーアは少し酔っている。
対する俺はお酒にはそこそこ強いのと、酔い始めてやばいなと思ったりリペアで回復している。
「どこがだ? 普通だろ?」
ミーアを助けたのは、倒れている人をほっとけなかっただけだし普通の事だと思う。
「いや〜冒険者にも良い人、悪い人もいて、悪い人は見殺しに装備品奪ったりする人もいますからね。その点、タクト君は助けてくれた上に服も直してくれましたから」
そう言ってミーアは自分の服を見る。
「あぁ、あのままだと他の男に見つかると襲われそうだったしな。ミーアみたいな可愛い子がそんな目に遭うのは俺が嫌だし当然な事をしただけだ」
なぜか俺はミーアと喋っているとからかいたくなってしまう。
でも、言ってる事は本当だ。
少しの間しか一緒にいないけど、天真爛漫なミーアの事をどうやら俺は好きになっている。
だから、他の男にミーアが襲われるなんてもってのほかだし、ミーアにはそんな目に遭ってほしくない。
偶然通りかかって助けたけど、俺はミーアに出会えて良かった。
孤児院で育って来て、これまで明るい気持ちになった事はない。
「またまたそんな事言ってぇ〜。本当、タクト君は口がうまいですねぇ〜」
が、俺の気持ちは素直にミーアには伝わらないようだ。
そして、それが何か悔しいし、流されるとからかいたくなる。
「いや〜、でも、助けたお礼に王都までの護衛してもらえるし、助かるよ。それに、後は服の修復代を返してもらうのと、あの時食べた乾パンと欲肉代……あぁ、あの場で食料なんて手に入らないから特別料金だな、それを払ってもらえるだけでも、助けた意味はあるよ」
俺がそう言ってからかうつもりで言うと、ミーアは間に受けて一瞬で血の気が引いたように顔が青くなっていく。
「タ、タクト君、何を……?」
「だってそうだろ? 俺は冒険者成り立てなんだ。危険を冒してまで助けたんだから」
「……い、いくらですか?」
「んー……全部込みで金貨一枚にしておこうか!」
金貨一枚とはベテラン冒険者が、稼ぐ三ヶ月分くらいだ。
「そ、そんな!! 無茶苦茶です!」
「いや、命と乙女のミーアを守ったんだ、それくらいは当然だろ?」
「うぅ〜……ぼったりです!!」
「え? ミーアが思う命ってそんな安いの?」
「そんな事ありません! 命はただ一つしかない大切なものです!」
「だったら、金貨一枚くらい安いもんだろ?」
「くぅ〜……詐欺師!! 金の亡者!!」
「なんだ? 炎狼族は恩を踏み倒すのか?」
「うぅ〜……」
すると、ミーア は顔を赤くして黙り込んだ。
「分かりました! 炎狼族の名にかけて必ず返します!」
「そうか、分かった。それまでは一緒に行動だな」
「うぅ〜……仕方ありません」
「それか身体で返してもいいんだぞ?」
俺は最後に明らかに冗談って分かる表情と口調で言う。
でも、いつかは気持ちが通じてそんな仲になれたらいいな……そんな事を思っていると、ミーアの顔がドンドン赤くなって行く。
「ケダモノッ!! やっぱりそういうつもりだったんですね!! 男なんてみんな誰でもよくてそんなんばっか言うですね! 最低です!!」
「いや、俺はミーアだから言ったし、ミーアだからこそ、もしそうなれたら嬉しいし、そうしたいなと思っただけだけど?」
「も、もう何言ってるんですか!! タクト君は誰にでもそんな事を言うんですか!? 乙女の敵です!!」
「いや、俺はミーアにしか言った事ないけど」
「も、もう!! もういいです!! とりあえず食べますよ!! ちゃんと体力回復させてすぐにお金返します!!」
そう言うとミーアはそっぽを向いて、食べて飲み出した。
◇◆◇◆◇◆
「ったく、気を抜き過ぎだろ」
俺は酔って食べて満足して眠ってしまったミーアをおぶって酒場を出る。
ついさっきまで俺の事をケダモノとか言ったのに、俺の前で酔って気持ちよく寝ておんぶされるのはどうかと思う。
そのせいで、俺にラッキースケベとような、俺の背中に耐えがたい感触を与えてくれている。
ったく、俺がリペアで酔いを覚ましてなかったらどうするんだ。
「にぃちゃん、ちょっといいか?」
そんな事を思いながら、酒場を出て、どこか安く泊まれるところを探そうと路地に入ると声をかけられる。
振り返るとそこには髭を生やしたいかにも怪しい男がいた。
その後ろには同じようにいかにも怪しい十人程の男がいる。
「……なんだ?」
俺は答えながらこいつらの事を思い出した。
こいつはさっきの酒場でチラチラと俺たちの方を見て聞き耳を立てていた男達だ。
「そいつは炎狼族だろ? にぃちゃんはそいつと付き合い長いのか?」
「……いや、今日知り合ったばっかりだ」
「そうか、ならその女を金貨十枚で売らないか?」
すると、男は金貨十枚でミーアを売らないかと言ってきた。
なるほど、こいつらは奴隷商人か。
この世界では奴隷は合法的に認められているところもあって、奴隷商人ってのが存在しているって聞いた事がある。
そして、ミーアのような獣人やエルフ族といった種族は高値で取り引きされているって聞いた。
ミーアを売らないかと言って来たって事はこいつらは奴隷商人だろう。
「……残念ながら俺は売るつもりはないね。俺はこの子に払ってもらわないといけないお金があるから」
俺にミーアを見放すって選択肢はない。
「借金くらい金貨十枚でチャラだろ?」
「そうかもな、でもこの子はもっと借りてくれる太客だ。あいにく譲る気はないよ」
「そうか……残念だ。じゃあ……あの世で後悔しろっ!!」
次の瞬間、男達は武器を取り出し構えた。