修復魔法ってなんだ!?
なんで……なんでなんだ!?
俺は神殿の前で神から授かった魔法適正にショックを受ける。
「君、次が控えているから!」
神父に促されるまま、俺は力なく神殿から出て項垂れる。
「今日から人生やり直そうと思ったのに……」
俺の名前はタクト。
今日で18歳となり、成人して大人の仲間入りをした。
人は生まれながら、何かの素質を持っていて、成人になると、神殿に行き、神から能力を授かる。
つまり、神が素質の一部を開花してくれて能力を授かるのだ。
能力というのは、武器の適正だったり、魔法の適正だったりする。
武器の適正については、魔法が使えない代わりに、剣や槍、弓とかのどれかの武器の適正が示され、その武器を使い、鍛錬する事で、通常ではたどり着けない域の能力を得られる可能性がある。
他の武器に関しても常人以上の使いにはなれる。
一方、魔法の適正については、一般的には攻撃魔法、防御魔法、補助魔法、回復魔法のどれかの適正が示され、その系統の魔法に特化する。
でも、武器の適正と同じように、どれかの魔法の適正を得たからといって、他の系統の魔法が使えない訳ではなく、その系統に特化するだけで他の魔法も使える。
要するに、適正を授かる人は武器適正か魔法適正に分かれて、神から授かるってのは素質の覚醒って事だ。
そういった素質がない人も多いから、能力を授かるだけでも喜ぶ事なのだが……。
俺は小さい時から親もいなくて、孤児院で育ち貧しい生活をして来た。
だから、成人になって攻撃魔法の適正か武器適正を得て冒険者になって成り上がってやろうとしていた。
そして、成人になった今日、孤児院に『旅立つから探さないでくれ』って置き手紙を置いて飛び出してきた。
「なのに修復魔法ってなんだよ……」
俺が神から授かったのは修復魔法だった。
攻撃魔法か武器適正を期待していた俺にとっては、無残なものだった。
というか、修復魔法なんて聞いた事ない。
回復魔法の間違いかと思ったけど、能力を神から授かった時に得た魔法のイメージで浮かんだのが、
『リペア』対象を修復する。
『リメイク』対象を作り直す。
『リカバリー』対象を初期化する。
の三つの魔法だった。
つまり、俺が今メインで使える魔法はこの三つだ。
努力にとっては他の魔法も使えるが、一流にはなれない。
「はぁ〜……」
俺は溜め息吐きながら歩き、街を出て当てもなく森を歩く。
孤児院を飛び出した手前、帰るに帰れない。
これは俺のプライドだ。
俺は何とかしてこの瞬間魔法で成り上がらなければならない。
でも、こんな魔法でどうやって成り上がるのか?
武器の修理屋でもやるか?
冒険者は慣れた武器が一番実力を発揮できるし、需要はあるだろうし、お金には困らないだろうけど、地味だし嫌だ。
「イタッ!」
そんな事を考えながら歩いていると、石に躓き転けた。
足から血が出る。
「くそ、踏んだり蹴ったりだ!!」
俺は一人悪態をつく。
「ん、待てよ?」
修復魔法って物を直すだけかと思ったけど、修復って事は傷も治せるんじゃないか?
「……よし、試してみるか。リペア!!」
俺は対象を修復すると言うリペアを唱える。
すると、傷を淡い光が覆い、傷口を塞いだ。
「おぉ!!」
マジか!
回復魔法みたいなのも出来るのか!
「じゃあ他の魔法は……リメイク!!」
俺はリメイクと唱えるが何も起きない。
少し虚しくなった。
「いや、待て。リメイクは確か作り直すだったから……」
俺は石を持って石のオノを想像する。
「リメイク! ……おぉ!!」
すると、俺の手には小さな石のオノが形成された。
「マジか……作り直すってこんな事も出来るのか……。もしかして、俺の顔も変えたりできるのか?」
気になった俺は近くの池に歩いて行き、覗き込む。
「……リメイク!」
俺は昔一目惚れした可愛い女の子の顔を想像して唱える。
「……ヤバイ」
すると、俺の顔はその女の子の顔になっていた。
「リメイク!」
しかし、このままだとヤバイと思った俺はすぐさまリメイクを唱えて自分の顔に戻る。
「これヤバすぎだろ……」
自分の顔も変えられるなんてヤバイ。
「待てよ? もしかして、素質もリメイク出来たりとか……リメイク!!」
俺は攻撃魔法の素質、武器適正の素質と考えて叫ぶ。
「ぐわっ!?」
次の瞬間、身体を痛気持ち良い刺激が駆け巡り、俺はその場に膝を着く。
そして、しばらくして立ち上がった。
「見た目は何も変わってないと……」
さて、どうして試そうか……?
「ギャッ!!」
「うわっ!」
すると、木の影からゴブリンが出てきた。
俺達人間と魔族は遥か昔から関係が悪く、人間の大陸と魔大陸に分かれて暮らしている。
今でこそ関係は悪いけど、争ってはいない為、戦争は怒っていないが、昔にあった魔族が侵略してきた時に連れてきた魔物が人間の大陸で野生化して繁殖して人間を襲っている。
それで、魔物に襲われてなくなる人間も多く、人間はその原因を作った魔族を憎んでいる。
なので、野生化した魔物が出る事はあるし、注意はしていたけど、こんな街から近いところで出るとは思わなかった。
「く、来るな!」
「ギャッ!」
しかし、俺の願いは虚しくゴブリンは俺の方へ古びた剣を持ちながら走ってきた。
「フ、ファイアボール!!」
咄嗟に俺は藁にもすがる思いで、ゴブリンに手を向け攻撃魔法であるファイアを叫ぶ。
修復魔法とはいえ、他の魔法も使える適正はあるはずだ。
「ギャッ!?」
俺が唱えた瞬間、手の先から巨大な炎の玉が出てゴブリンを一瞬で炭にした。
「えっ……?」
その光景に一番驚いたのは俺だ。
俺が放った炎は攻撃魔法適正でない俺が使う魔法とは違い。明らかに普通じゃない。
「もしかしてリメイクの効果……?」
思い当たるとしたら、さっき素質をリメイクした効果としか考えられない。
「は、ははは!!!!」
素質を変えられるって最強じゃないか!
「じゃあ最後のリカバリーってなんだ? ……試してみるか、リカバリー!!」
しかし、何も起きない。
二度目でもショックだ。
「待てよ、リカバリーは初期化。初期化って……あっ! ファイアボール!!」
リメイクで素質が変えられるとしたら、初期化って!?
俺はさっきのようにファイアボールを唱えるが、炎は出ず、小鳥の囀りが鳴り挽いていた。
そう、俺の能力は初期化されていたのだった。