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赤黒メモワール  作者: 射月アキラ
二 師・語る
6/12

04

「そう、だね。長い髪は、シルヴィによく似合ってると思う」


「でもいろいろと邪魔になるだろう」


「まぁそう……かもしれないが、少しくらいは、こう、『戦い以外のこと』に気を向けるきっかけがあってもいいんじゃないかな」


 ロランの邪魔にならないよう、できるだけ動かずに、シルヴィは耳を傾ける。


 後頭部に生じていた違和感は、徐々に少なくなってきている。


「息抜きとか、気分転換とか、そういうものは誰にだって必要だよ。シルヴィにとって、長い髪の手入れやなにかがそれに当てはまるかどうかは、僕にはわからないけど」


 そう言って、ロランは黙り込んだ。


 戦い以外のこと、と言われて、シルヴィが思い浮かべるものは少ない。


 生活と生存に必要な最低限、とまとめてしまっても過言ではない。


 戦いと、それに必要な力。


 極論してしまえば、シルヴィに必要なのはこれだけだ。


 特別と思うほどでもなく、当然のように、シルヴィは強さを求めている。


 それは災いを呼ぶかもしれないし、呼ばないかもしれない。〈悪使い〉として都合がいいかもしれないし、よくないかもしれない。


 しかし「強くなりたい」という感情はシルヴィの自我の根底にあって、ほとんどすべてを占めているのだった。


「もし、私が──」


「シルヴィ」


 思ったよりも深刻になりすぎた声音は、ロランの低い声に遮られた。


「あまり悪い予感を口にするものじゃない。実際そうなってしまったら困るだろう」


 至極真面目にそう言ってしまう、妙なところで信心深いロランだった。


 そして、なぜだかシルヴィはそれに逆らえない。教会のない村で生まれ、神などろくに信仰しないで育ってきたというのに。


 ロランの言葉には神や主などという単語こそ現れないが、その裏にはまっすぐな信仰心が存在しているらしかった。


 釈然としないシルヴィに対し、「だが」とロランは言葉を付け足した。


「僕とシルヴィが同じ考えだったら、約束だ。お互いにね」


「……わかった」


 会話に一区切りついて、ほとんど同時にシルヴィの髪の毛は枝から解放された。


 はっきりとロランの言葉にうなずき、約束は胸中にとどめる。


 言葉には出さない。しかし、それは〈悪使い〉の誓約として心に刻みこまれた。




 もしも私がバケモノになってしまったら、ロランが殺してくれ。


 代わりに、ロランがバケモノになったなら──

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