表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤黒メモワール  作者: 射月アキラ
一 船・進む
1/12

01

 船が一際大きく揺れて、シルヴィは縄を掴む手に力を入れた。


 見下ろせば、船員たちはいつもとさほど変わりなく動きまわっている。騒々しいが秩序だった動きは、ここ数日で見慣れたものだったがそれでも驚嘆に値する。


 どうやら、波と風が丁度よく合わさって船を揺らしただけだったらしい。


 船員の様子からそう読みとって、シルヴィは上に視線を戻す。体を支えているのは、縄を結んではしご状にしただけのものだ。船の中でもっとも不安定であろう場所で、まだ船上に不慣れないシルヴィは慎重に上を目指す。


 マストの頂点。見張り台で暇そうにしていた男が、気付いて軽く手を振った。


「さっきは危なかったなぁ」


 軽い調子で言う男も相当の揺れを感じたはずだが、まるで堪えていない様子だった。


 辛うじて、シルヴィは口元に笑みを浮かべるにとどめる。死線ならそこそこくぐり抜けてきたつもりだが、慣れていないものは仕方ない。


 最後まで気を抜かずに縄はしごを登りきって、シルヴィはようやく一息ついた。簡単な造りの見張り台すら、安定した地面のように感じてしまう。


「やっぱこれはキツいか? 慣れるまではしんどいよな」


「筋力的には問題ないのだが、足場が不安定なのはどうも精神的に、な」


「その細腕で大したモンだよ、本当……」


「あぁ……あまり見た目に出ない筋肉の付き方をしているらしくて。見た目で判断させないのは、自分でも得だなと思っている」


「がっはっは! 実際投げ飛ばされた身としては、笑ってられるモンでもないんだけどな!」


 まったく気にしていない調子で、船乗りは笑い飛ばす。そこに嫌みが感じられないのは、普段から明るい調子だからだろう。


 そんな人物に対して嘘をつかなければならないことに、シルヴィの胸がちくりと痛んだ。とはいえ、自分が「神の意志に逆らった人間」で、その影響で人外の力が使えると伝えれば、陸地の見えない場所で海に捨てられても文句は言えない。


 ──連れが連れだから、そこまではされないのだろうが。


 ごまかしの苦笑を浮かべて、シルヴィは男から目をそらす。


 船で一番高い場所から見えるのは、ひたすらに青い景色だった。


 見渡す限りの海、広すぎるとすら感じる空。他に見える色彩といったら雲の白くらいで、今はそれもほとんどない。穏やかで退屈な快晴の日だった。


「初めての海はどうだい、お嬢さん」


 隣に並んだ男が、再びシルヴィに声をかける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ