怪奇 深海人みずうお男
初めまして、にゃあと申します。今は無き「すぴばる」で何編か投稿しておりました。
今回は、『死刑囚』と『武器』が出てくる笑えるお話を書きます。
にゃあは、基本的に長いものが書けない字書きですが、似たような傾向の作品(自作)があると、群体のごとくシリーズ化したりします。
さて、今回は、じゃみじゃみ団シリーズ第1作です。
「ぶわーっはっはっはっは!」
大幹部の越前ガニ男様が、大笑いをしておられる。
ここは、われわれ、秘密結社じゃみじゃみ団F県支部の司令室である。ちなみに、じゃみじゃみとは、F県弁でテレビ放送の終了後の砂嵐のことを指す。この様に書けばお分かりの方もおられようが、F県発祥の秘密結社であり、F県支部はほとんど本部である。世界を征服しじゃみじゃみにすることが我々の悲願である。
「げへへへへへ」
越前ガニ男様の笑い声が変わった。普段から意味もなく笑っておられるのだが、この、おもっしぇ|(妙チキリンナ)笑いは、きっとなにか、よからぬことを思いついたのであろう。
「死刑囚どもを、処刑場へ引き出せえい。これより、深海人みずうお男の性能テストを行う」
割れ鐘のような声が響く。
「ほやの~ぉ~」
私と同僚の8号戦闘員は、F県弁で「そうですね」の意味を持つ掛け声を掛けて素早く立ち上がり、地下牢へと向かう。戦闘員は、皆同じレオタードに覆面姿であり、考えることも同じになるように調製|(改造ではない)されている。
ちなみに、みずうおとは、ゼラチン質を全身にまとったゲンゲという深海魚である。見た目はオタマジャクシ|(F県の形である)を平たくつぶしたようなもので、プヨプヨした半透明の膜に包まれている。「幻魚」と書くと格好いいが当て字だろう。そして、「しんかいじん」は、深海人と新怪人の掛詞である。
地下牢には、我々に協力を拒んだもの。怪人や戦闘員としてのスペックを満たさなかった者たちが収監されている。こいつ等は、これからみずうお男の特殊能力の餌食となり、無惨に殺されてしまうのである。
数分後、われわれは囚人たちを三里浜砂丘の上へと引き出した。
炎天下の中、はっきり言って覆面の中が蒸れて仕方がない。
「ほやの~ぉ~」
と、意味もなく叫んだりしながら、私と27号戦闘員(たぶん)は、囚人たちに武器を向けて威嚇する。
戦闘員は、みな同じ格好をしているので、お互いの認識は適当にならざるを得ない。
待つこと、30分。大幹部越前ガニ男様が登場する。悪名高いF県時間は、約束の時間+15分と言われているが、越前ガニ男様時間は、さらに、+15分である。
「さあ、怪人みずうお男よ。お前の性能を見せてみよ」
「ほやの~ぉ~」
ずるりっ。30分待たされたみずうお男が、満を持して動き始める。けれども、心なし30分まえと比べて、体が小さくなっている。動きも固い。
「どうした、みずうお男? お前の性能を見せてみろ!」
「ほやの~ぉ~」
掛け声ばかりで怪人はなかなか動かない。
「はよ、しねの!」
大幹部の「はやくしろ」が、出た。次は「しね(しろ)が、死ね|(自爆しろ)」になる。みずうお男は、必死の形相で、一歩足を踏み出した。
「ほや、の・・・・・」
ばたりっと、みずうお男が倒れる。ひからびている。ゼラチン質が水気を失い、うろこのない白い皮にくっついてしまっている。炎天下に長くいすぎたのだ。
「うまそーやの~ぉ~」
囚人たちが、つばを飲みこむ。
「ほやほや」
見かけはグロテスクだが、みずうおの干物は、確かにおいしい。
「しもとけ!」
ばさあっ。越前ガニ男様が、マントを翻して基地の中に入られた。きっと怒っておられるのであろう。
「のくてぇ~」
私と、戦闘員8号、27号、365号は、F県弁で最大級の罵倒の言葉を吐きながら、みずうお男の干物を基地の中に運び込んだ。
「のくてぇ~。ほんでもって、重てぇ~」
ちなみに、「のくてぇ」は、漢字で書くと「温てぇ」であるが、べつに、干物男の温度との掛詞ではない。他県人は、「心が温かい」と勘違いするが、要は、頭の中が沸いているのだ。
結局、怪人の回収には、戦闘員全員が掛かって、一時間という時間を費やすこととなった。いっそのこと自爆してくれればよかったのに。
さて、アジトの中に入ってきた我々戦闘員は、皆一斉に顔を見合わせた。もちろん、皆考えていることは同じである。
ところで、囚人の回収って、誰かしてくれた?
実際、「ほやの」「ほやの」と言いながら、暮らしております。
じゃみじゃみ団、大好きです。
悪の秘密結社なのですが、ヒーローの登場の予定は、ほとんどないのです。