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不器用な二人  作者: じゃが丸
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夏休み-出会いは突然に-

その日、護達の通う高校では1学期の終了式が滞りなく行われ、無事に閉幕した。


いよいよ夏休みの時期である。時刻はお昼を過ぎており、珍しく護は明の教室にいた。


「運動部って夏休みでも容赦なく、部活の日程入れるよな。」


あたりまえだろ、と明が護に言い返す。


「身体鍛えないと、入ってる意味ないしな。それよりそっちもあるんだろ?部活動。」


「秋の学園祭に向けて描くくらいかなぁ…いつものやつで乗りきる。」


「ああ…食べ物の絵を模写して、適当に書き直すアレか。まぁ、護の描く絵が、そんなうまくないのは周知の事実もあるし。」


少しムッとした表情をする護にそれを諌める明。ふと、教室にくっついてる時計が目に入る。


「まぁまぁ……あ、悪いけど、もう部活始まるから、また今度な。」


「仕方ないな。俺も部活動に行くわ。」


二人はそういって別れを告げると、各々の部室へ向かっていった。










数時間後、文化部の活動が終わりを示すチャイムが学校内に響き渡った。


護は疲れているらしく、さっさと帰宅してしまった。


一方の潔子は、一緒に帰る光を音楽室の近くで部活動が終わるのを待っていた。


音楽室は建物内の3階の奥にあり、面積も大きい。


何を隠そう光は、吹奏楽部に所属している。一応コーラス役として、頑張って歌っているのである。


ガラッという音楽室のドアが開く音と共に、部活動を終えた生徒達が談笑しながら出てきた。


その中で潔子は見た。背の高く長髪で黒髪の優しそうな男子生徒の顔を。


目は丸く、口も小さいため幼く見えたものの、なぜか雰囲気は大人に見えた。


その大人っぽい印象を与える男を前に、潔子は彼の姿を、無意識に目を追い続けていた。


(あの人は………誰?そして、私、何をしているの?」)


「うーん、ちょっと高音出しすぎちゃったかなぁ……あーあー、喉が痛い」


その時、だった。音楽室から出てきた光の独り言にハッと我に返った潔子は、慌てて彼女の声をする方を向いて、口を開いた。


「あっ、光?遅かったじゃない!」


「んー?潔子か、待っててくれたの?ありがとう。ちょっと最後の締めがうまくいかなくてね、時間かかっちゃってさ…」


「すぐ帰れそう?」


「ちょっと、水道でうがいしてからでいい?ノドの調子、あんまり良くないのよ。」


彼女はその言葉に首を縦にふると、光はニコッと笑って近くの水道のある所に向かった。


そして、うがいを終えると唇の辺りについた水をハンカチで拭き、潔子が待っている所に戻っていった。















二人が学校を出て、空を見上げるとそこには夕方とは思えない空が広がっていた。


「空って良いよね。全てを包み込んでくれて、悲しいときも嬉しいときも味方してくれるから。」


「うん、そうだね……」


潔子のそっけない受け答えに、光は動揺した。


「な、何かあったの?護君とでもケンカしたの?」


「アイツは関係ないって。体調不良でさっさと帰っただけ。今、ちょっと…………考え事してて、さ。」


潔子は空を見つめてて、ふぅ、とため息を漏らした。


未だに音楽室前で見たあの男子生徒の幻影を振り切ることができなかったのだ。


「えー親友の私に隠し事って、何よ。恋愛以外で……そうね、例えばダイエットの相談だったら受け付けてないわよ。」


「アンタ、私より太ってるからって、そんなこといわなくても。」


「ちょっと…怒るわよ、潔子。」


もう怒ってるじゃない、と少しさびしそうな微笑みを見せる潔子に光は何も言えなかった。


その帰り道、光の家の前に着いた時に、潔子は意を決したかのように口を開いた。


「光。教えてほしいことが、あるんだ。」


「えっ、何を?赤点の補修だったらギリギリ及第点でセーフって、言わなかったっけ?」


呆れ果てた表情をする潔子ではあったが、こう答えた。


「そっちじゃないわよ。」


「じゃあ、何よ。」


彼女は、深呼吸して、再び口を開いた。


「……今日、音楽室であなたを待っていた時の事なんだけどさ。背の高い男で大人っぽい雰囲気を出している人、いたでしょ?」


ジェスチャーを交えながらの説明に、光は誰のことかすぐに理解できた。


「ああ、3年のトオル先輩だね。イケメンで同級生以外、1・2年生の私達ですら人気あるもん。同じコーラス担当してて、さ。美声なんだよー」


「…………透先輩、って言うんだ。あの人。」


彼女は目の瞬きが不自然な程、多くなると同時に、心臓の鼓動が大きくなっていくのが分かった。


「今年3年生だから、学園祭で引退しちゃうからさびしいんだよね…その人が、どうかしたの?」


そこまで言って光は、潔子の異様な雰囲気に気づいた。思わず表情が固まり、カバンの中にあった飲み物を取り出し、口に注いだ。


(えっ……待って、それはないよね。潔子……?私、夢を見ているのかな。いや、炭酸のグレープジュースも味がするし、夢じゃないみたい。)














「私…………透先輩のこと、一目ぼれしちゃったみたい。」


潔子から出た光にとって一番聞きたくない言葉に、彼女は頭をかかえこんだ。


「えっと、その、落ち着こうか……透先輩の事だから、敵も多いよ?バーゲンセールで洋服を狙う主婦みたいに、狙っている人達がたくさんいるから。」


「そうだね、イケメンだから。」


「いや、だから、私の意見としてはノーマークの護君を選んだ方が幸せになるんじゃないかと思----------------」


光が長々と説明をしている最中、彼女の説明を遮って、潔子は叫んだ。


「恋をした方が良い、っていつも言っているのは光でしょ?私、光の玩具じゃないよ!」


「ゴメンなさい。それは、うん、重々承知しています。」


光は謝罪しつつまた頭を抱えながらも、今の状況を必死に整理しようとしていた。


(待って。私、落ち着け。変な方向で縁が、できちゃったなぁ……護と潔子のラブラブプランBも、徹夜で考えたのに破綻寸前じゃない……どうしよう、そうだ、まずは……)


「ところで、その。透先輩の何を知りたいの?ああみえて、結構ガード固いから、口添えしろったって無理よ。」


「あの人が部活に来る日を教えて。それだけで良いの……遠くから、透先輩を見ているだけで心がホッとするのよ。」


「えっ。」


思わず、その言葉に絶句する光。それに対して堂々と胸を張り、彼女の問いに答える潔子。


彼女の目は、本気だった。何一つ、偽りのない輝いた目だった。


「……それすらも、分かりそうにないかな?光。」


「えぇ…っと、明日は学年全体でコーラスの練習があるから、来るわよ。明後日は、部活全体でお休み。今は、それだけしか分からないわよ。」


この時、確かに光は事実を述べていた。


吹奏楽部は、学年毎に部活動に参加する日が変わっており、進捗状況で大きく変化するため、現時点でわかることを彼女は説明するしかなかったのだった。


その答えに満面の笑みになった潔子は、光に言った。


「ありがとう、光!じゃあ、また明日ね……。」


そういうと、彼女は走り去って彼女の家の方角に向かっていった。


それを引きつった表情で手を振る光。身体さえもショックで震えていた。


(どうしよう!!!)














光が家に帰宅してから数間後、潔子の先ほどの言葉で茫然自失と化した彼女は、夕食後、勉強の手伝いという名目で弟の明を捕まえて、自分の部屋に連れてきて今日起きた事を説明した。


明もまた部活動で疲れていたが、鬼気迫る表情を察した彼はしぶしぶ、姉に従っていたのである。


「……という訳で、護君がピンチなんだけれど、明、何か良い方法ない?」


「うーん、突然言われても困るよ、姉ちゃん…っていうか、なぜに護がピンチなんだ?」


「だって……幼馴染と結ばれないと分かった護君が、心が荒んでヤンキーになったら、私にも非はあると思わない?」


なるわけないだろ、と明はため息をついた後、続けて言った。


「いや、他人を好きになるのは良いことだ、って常日頃口ずさんでいる人から、出る言葉じゃないよ、それ。」


姉ちゃん混乱しているなーという焦りを感じつつ、答えた。


「本音はさー徹夜で二人がくっつけるよう、考えたラブラブプランBが、台無しになる可能性が高くなったのよぉ!どうしてくれるの…徹夜の時間を、返して!」


「それは姉ちゃんの思惑通りに事が、進まないからでしょ。光さん、ロボットじゃないんだよ。お姉ちゃんの。」


「う……似たようなこと、光にも言われたわ……」


少し反省をしたように、しょんぼりとした顔をする光は、うなだれてしまった。


そこに言い過ぎたかな、という感じで明が優しい声で口を開いた。


「姉ちゃんの持っている情報だと、狙っている人はいるって言ってたけれど、恋人はどうなの?」


「私でも分からない。あまりにも出し抜こうとする敵が、多くて。タブー扱いされてるのよ、その話題。吹奏楽部だけじゃなく学校全体で。」


それは知らなかった、という表情をする明は少し考えた後、こう応えた。


「2年生だけど満子先輩なら、知ってるかなぁ?後でメールして聞いてみるよ。とりあえず…どういう行動するか、光さんの観察でよいんじゃない?ストーカーになっても、困るでしょ。」


その言葉に、なぜかホッとした表情をする光に明はどうしたの、とつぶやいた。


「良かった。明も私と同じ考えで。それ以上、具体的な策が見つからなかったから。」


「流石に特攻するのも早すぎるし、護に説明したってどうにもならない事は明白だって、分かりきってるし。」


二人の認識では幼馴染の仲を崩すわけにもいかず、現時点では秘密にしておくという方針のようだ。


「そこなのよねー……でも護君、すぐに異変に気づきそうじゃない?私、また波乱が起きそうで怖いわ…」


「その時は…その時だろうね。さて、満子先輩にメールを打って事情を説明しておこう。後、あの二人と同じ部活だから異変が起きたら連絡くれるよう言っておくよ。お姉ちゃんも、潔子さんと透先輩の動向をよーく、観察しといて。」


「はぁい、お姉ちゃんの野望のために、がんばりまぁす。」


少しやる気なさそうに、しかし言葉に偽りはなく、光はこれから起きる出来事に不安抱えながら、行く末を見守ることを決意したのであった。







その頃、何も知らない護は、体調不良のせいか気だるさが続き、布団で横になっていた。熱は測ったものの、平熱で異常は見られなかった。


また布団の近くには、風邪薬と大量の水、そして母親が作ってくれたであろうおかゆが置かれている。


そのおかゆは、半分以上食べた形跡があったものの、まだ残っていた。


(あ-…夏風邪っぽいけれど、熱と鼻水が出てないだけ、マシかー……来月発売のゲームの公式サイトの更新だけは、確認したいのに、力が出ねぇ。)


呑気に護は、自分の体調そして趣味の事で頭がいっぱいになっており、周りを把握できる力は皆無だった。


(……もう、寝よう…………。)


彼は目を閉じ、明日の部活動に備えて身体を休めることにした。潔子の心境がどうなっているか露も知らずに……


<第6話に続く>

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