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不器用な二人  作者: じゃが丸
3/9

期末テスト前-波乱の始まり-

雨が止まない季節も後半に差し掛かろうとしている中。


マモル達の学校では期末試験が押し迫っていた。


今までの授業の範囲内ということもあり、復習する者、諦める者、開き直って一部分しか勉強しない者。


人それぞれではあるが、先生達を初めとした生徒達もピリピリする時期が始まっていた。


今日の授業の2時間目が終わった後、護はそそくさと、教科書等を机の中にしまうと、トイレの方向へ向かった。


「ねぇ、潔子。」


それを見計らっていたかのように、茶髪でショートボブの髪型をした潔子と同じ位の背格好をした女子が、机に座っていた潔子に右側から声をかけた。


その時、彼女は復習のために英語の教科書に書かれている本文を眺めており、苦手な英単語を1つでも覚えようとしていたため、その声に思わずハッとした。


「…急にどうしたのよ、ヒカル。せっかく集中していたところに。」


満面の笑みで、(ヒカル)は、返答した。


「ねぇねぇ、ゴールデンウィーク中に護君と何もなかったの?」


またその話か、とつぶやきそうなため息がその言葉と共に漏れた。


「別に、なんとも。一緒にゴールデンウィークの勉強を早々と終わらせたし、護のお母さんに晩御飯をごちそうになっただけよ。」


光は不服そうに、しかし何かを思いついたかのようでもあった顔をして言った。


「…ふーん、じゃあエッチな勉強は-----」


「殴るよ。」


ゴスッ!という音が鳴った。ほぼ同時だっただろうか。


潔子は、言葉通りに『殴る』事はしなかったものの、右足から『蹴り』を入れた。


幸い、光は行動パターンを余地していたようで、膝をかする程度で済んでいた。


「……ちょっと、暴力反対。」


光がさびしそうな目で、睨み付けている彼女を見つめながら続けて言った。


「いや、二人が恋愛に疎くてそういうのが嫌いだっていうのは、十分承知してるよ?ただね、世の中には愛し合っていても家族に許されない人たちだっているの。それを考えるとうらやましい、って思っている生徒いるわよ、きっと。」


「それは、少女マンガの読みすぎじゃない?愛のキューピッドさんには申し訳ないけれど、恋愛をして100パーセント幸せになるとは限らない。」


「んー…理系だけに、100パーセントって言い切ったね。」


少し唖然とした表情をする光は、モゴモゴと歯切れが悪そうに話し続けた。


「まぁ、確かに、そりゃ、ね。愛のキューピッドさんでも、価値観の違いとかすれ違いやらで、破綻したカップルも何組かいたよ。でも、裏を返せば-----------」


「恋愛に絶対はないから、楽しいんだよ!そんな決まりに決まった数式やら確率論で計算できたら、人生、楽しくないじゃん。そう思わないの?」


その問いかけに、彼女は語気を強めて答えた。


「思わない。嫌いなの、恋愛っていう努力が報われない行動は。前にも言ったよね。」


(あー、うん。それは、恋愛をする事に恐怖してるだけだって私も返答したんだけどなぁ・・・)


光はそう思いつつも諦めた顔をして、ゴメンなさい、と一言だけつぶやくと、彼女自身の席に戻った。


それを潔子は確認すると、ふぅ、とため息をついて、時計を見る。勉強する時間がないと察し、教科書を机に戻した。


ほぼ同時に、護がトイレから教室へと戻ってきた。


彼は、何となく潔子の方を向くと周りの雰囲気から、機嫌が悪いことを察知し、自分の席に座った。


(また、光さんとケンカしたのか…潔子は怒ると手がつけられないから、そっとしておこう。)


時が経ち4時間目。昼休み前の最後の授業は、体育であり3クラス合同でもあった。


この日の体育は先生の都合により珍しく、男子だけ運動場を20周も走り回る事になった。


一方の女子は、体育館でバレーボールをすることになったのである。


この高校の運動場はとても大きく1周するのに時間がかかることは明白である。


しかし、陸上部に入っている同級生や運動神経があってそれなりに早い子達は、40分足らずでゴールし終えた。


逆に、足が遅くスタミナがない者達にとっては、地獄の宴であった。


授業が経過してから、45分。トップから約6分程送れて、護はゴールした。


彼は疲れ果て、近くの水道に行き蛇口をひねり、自分の口をそれに近づけて水を補給した。


黒髪で少し長い髪形をした、護よりわずかばかり大きい背格好の男子がコンクリートに座っているのを、彼は目撃すると、そこに近づいていった。


その男子こそ、明アキラだった。彼は、トップから3番目にゴールしており、護の到着を待ちわびていた。


「……ゼェゼェ……うちの学校の運動場って案外、大きかったんだな。」


疲れながら、護が明につぶやきながら、彼の左側に座った。


「お疲れ、護。満子先輩から聞いたけど、ここで美術部に入ったお前じゃ厳しいだろ?陸上部に入っている俺はまだ余力残して、完走できたからな。」


「まぁね。こんなに疲れるとは思わなかったよ。それにしてもさ、クラスが隣になっただけでキッツいよなー中々、おしゃべりできなかったり、クラスでの話題も違うし。」


「飯は俺達、二人で食べてるだろ?問題はないだろうに・・・」


少しあきれたような口調で彼は、そう応えると、護は反論した。


「…さっき名前があがったけれど、満子先輩とは、睦ましくやっているなら、飯も一緒に食べれないんじゃね?」


「……文系らしく難しい言葉を表現するのが好きだな、護。話を戻してその事に関しては、互いの動向に探りを入れてる段階だからそこまでいかないよ。飯を食う時ぐらい、友達ダチと一緒にさせろ、つーの。」


「光さん…じゃなくてお姉さんみたく、恋愛大好きって感じじゃないもんな、明。」


まぁ、姉ちゃんほどではないよ、と一言だけ言うと呼吸を整えて、彼は言った。


「どこまで、護が知っているかにもよるけれど、満子先輩が俺が好きだっていうの姉ちゃんから聞いたんだ。本人からじゃないもんで、腹の探りあいぐらいするさ。お互いに。」


「ふーん。俺、そういうのよく分からないからな。」


はぁ、とためいきをつく明。さも当たり前だろ、という顔をして護は運動場を見つめている。


「つまり、姉ちゃんが俺達をくっつかせようとしているための工作は、明白なんだ。ただ、なぜ俺と満子先輩に絞ったのか、理解できないんだよね。」


護は驚いたものの、今、置かれている状況を整理してみた。


(潔子が言っていた、俺と潔子をくっつけようとしているための布石、あながち間違いじゃなさそうだな…言うと、ややこしい事になるから黙っておこう。)


「おい、護?さっきから、考え事しやがって。潔子さんから何か、聞いているのか?」


「いや、なぜにそうなる。アイツも俺と同じ恋愛に疎いほうだぞ?」


「わりぃ。何となくそう思っただけさ…お、外周でドンケツだった子、走り終わったみたいだな。」


体育の先生が笛を吹き、集合の合図がかかると、二人ともほぼ同時に、やれやれ、とつぶやきながら立ち上がり、一目散に、運動場へと集合した。タイミングよく授業終了のチャイムが鳴り響く。


「今日はこれにて体育の授業、終了。礼!解散!」


「ありがとうございました!」


昼休みが始まるという事もあり、男子生徒達は一斉に、教室へと走り去っていく。無論、二人もだ。


二人は制服に着替え終わると、それぞれの教室に戻った後、護の教室へと向かい、彼の隣の机を借りて、明はその席に座りながら、母親の手作りの弁当を空けて、箸を使って食べ始め、談笑していた。


話に夢中になっていると、護はふとした事から、自分の箸を床へと落としてしまった。


「げっ、手がすべった。」


「やっちまったな。でも、オカズしか残ってないんだから、ウインナーに刺さってる爪楊枝ツマヨウジだけで、いけるんじゃね?」


「それもそっか。やれやれ、拾わないと…………」


そういうと彼は、前かがみになって箸を無事に拾うことができた。


その時だった。彼は自分の机の中に、白い手紙のような物が入っていることに気づいた。


「んっ?」


彼は、自分の箸を箸入れの中にしまうと、その白い手紙に手を伸ばした。


「どうした?」


「いや、俺の机の中になんか変な物が……」


そういうと、護はその手紙らしき物を、無造作に机の上に置いた。


明の視界に、四角形で白い便箋の形をした手紙らしき物が、写りこんだ。


(いくらなんでもその手口は、古すぎてうちの姉ちゃんでも使わんぞ。)


少し明の顔がひきつった。旧式というか明らかに、その形状から察するに----------


「ダレのだろうな?間違えて俺の机の中に入れたのかな?」


護がその便箋をあけようとすると、明が突然止め始めた。


「待て、ちょっと待て。それを見て、分からないのか。嘘だろ?」


「ん?明の手紙だったのか、これ?」


「違うっつーの!あー、もう、本当に分からんのか。なら、開けてみればいいじゃん。」


そういうと、護は懐疑的になりながらも、その便箋の封を開け、手紙を見た。


そこには、明らかに女性と思われるかわいらしい字で、こう書かれていた。


”入学式で見たときから、ずっと好きでした。つきあってください。今日の放課後、運動場の所でずっと待ってます。 2年生 M・Kより”


明は、やっぱりラブレターだったか、という言葉に、教室内がざわつき始めた。













「何これぇぇぇぇぇ!!!!」


一瞬、大きな間が空いたものの、護は唖然とした表情で叫び、教室内にその大きな声は響き渡った。


明からは、うるさい、静かにしろよと怒られる彼の姿がそこにあった。


そして----一部始終を遠くから見ていた潔子も、それがラブレターである事を認識できた。


それが分かった同時に、なぜか護と同じように自分の箸を床におとしてしまった。


(ラブレターが…護に?)


彼女は、先ほどケンカをした光の方をふりむくと、光もまた首を大きく横に振り、自分ではないと主張する。それに対して、分かったよ、という反応を示すと、突然、潔子の胸が痛んだ。


(何、この、胸がつきささるような痛み----誰かを傷つけたわけでも、傷ついてるわけでもないのに。この、得体の知れない感情は--------何なの!?)


1枚のラブレター。護と潔子、二人の関係に大きな波乱を招く代物であることは、明らかだった。



<第4話へ続く>

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