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不器用な二人  作者: じゃが丸
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ゴールデンウィーク-二人の認識-

時は流れ、4月末。


マモル潔子ジュンコの通う高校では、地域のお祭りが重なり、8連休となっていた。つまり、ゴールデンウィークの到来である。


その分、宿題を少し多めに出されるため、嘆く学生も少なくはない。運動部に所属している者達の悲哀もより一層、増している事は想像に難くない。


閑話休題。件の二人は護の家で、つまり彼の部屋で宿題を進めていた。どうやら彼の両親とも出かけており、誰もいないようである。


時間は昼を過ぎていた。護の部屋には、4、5人は座れるテープルに二人は、向き合っては座っており、そのテーブルの上にはノートやワークブック、辞書、そして紙コップが置かれていた。


遠くから見てみると、二人のいる場所から少し右に大きなお盆がおいてある。


そこには、ポテトチップスやチョコレートをはじめとしたお菓子と取り紙、大量の紙コップと大きなペットボトルが2本、置かれていた。片方は、お茶。もう1つは、オレンジジュースである。


護は、未開封と思われるペットボトルの蓋を開けて、彼の紙コップに八文目ぐらいまで注いだ。注がれた飲料水の色は、黄緑色をしていた。それを一気にのみほすと、つぶやくように言った。


「あー、もう高校に入って数学が難しくなりやがった。全然方程式解けないや。」


護の部屋で彼の声がこだまする。その声に反応した潔子が、言った。


「うるさい。アンタはどっちかっていうと文系なんだから、英語の方を先に進めたら、進捗状況変わるんじゃない?」


「数学つまらないから、先に終わらせた方が、楽しい楽しい英語が待ってるって良いじゃん。外国語苦手で有名な、理系の潔子からしたら地獄だろうけどな。」


「うるさいっ。だいたい、なんであんな古代文字みたいなのが、必要とされて第二外国語として使われるようになるのよ。文法なんて訳が分からないわよ、助けて、マモル先生ー」


先生呼ばわりかよ、とあきれた声を上げる護。その声に応えることなく、潔子は、オレンジジュースのペットボトルに目をやり、自分の紙コップに注いだ。


「あー、やっぱりジュースはオレンジよね。それに引き換え護は、お茶を飲むなんて渋いわね。周りの同級生でお茶かウーロン茶しか選ばない学生、アンタぐらいでしょ。」


「ほっとけよ、これが一番身体に良いんだよ。潔子だって、オレンジなんて子どもの飲むのだぞ。せめて、ココアにしたらどうだ?」


「・・・・・・私のイメージからすればココアの方が、明らかに子供向けだと思うわよ。」


少し空気が乾いたような雰囲気に、包まれた。それに気づいた護は、突然こんなことを言い出した。


「なぁ、潔子。何で、俺の家で一緒に勉強してんだよ。」


「仕方ないじゃない。私の家、狭いんだから。」


「いや、そうじゃなくて、他に女友達とか・・・そう、仲の良いヒカルさんとかさ。」


その言葉に彼の思っているであろうことに気づく潔子は、こう答えた。


「光ねー。あの子、恋のキューピッド役をやってて忙しいから自分で宿題を終わらせるって。」


「またかよ。おせっかいが好きだね、あの子も。」


ヒカルというのは、潔子の同級生でもあり親友の女子だ。


恋愛に敏感で、くっついて欲しい人同士が幸せになる様子を見て、達成感を味わう少し変わった高校生である。


無論、仲の良い護と潔子をくっつけようと何度も画策したものの、二人の不器用で気づかない所やイレギュラーな出来事が起こりすぎたため、二人を恋人にさせる事を諦めていた。


気がつくと、潔子はポテトチップスに手を伸ばし、1枚、口の中に入れておいしそうに食べており、それが終わると同時に、また話し出した。


「・・・今は、アンタの同級生で仲良しのアキラ君と、うちらの部活の先輩、満子ミツコ先輩をくっつけようとしてるわよ。」


「えぇ!?アキラは、実の弟だろ?満子ミツコ先輩の事、アイツ好きだったっけ?」


「そう。自分の弟。満子先輩が、明君のこと好きみたいよ、でも、光の真の目的は、弟との仲を深めて、私と護を恋人同士にさせようとしているみたい。本人から宣戦布告ってタイトルでメールがきた。」


「・・・・・・メール設定受信拒否しておこうぜ。面倒じゃん。それに、本人はどうなんだよ?」


「護と似たような事をメールで返したら、顔文字を怒っているマークでいっぱいにして『あなた達の方が先だもーん』って言って、それからメールの応答ないよ。」


「じゃ、ひとまず放っておこうぜ。俺達の目的は、この宿題を片付けることだしさ。」


そういうと、一口チョコレートをお盆から取った護は自身の口の中に1個放り入れて、幸せそうな表情を浮かべている。


その顔に反応したのか、潔子も同じようにそのチョコレートを取り、口の中に入れて、同じ味をかみ締めていた。


「そうね。ところでさ、護。」


その言葉に不思議と、再び静寂が部屋に響き渡った。護も思わず、息を呑んだ。


「アンタの部屋、殺風景じゃない?さびしくないの?」


突然の言葉に、護は反論を始めた。


「はぁ!?ゲーム機にテレビ、デスクトップパソコン、インクジェットプリンターだってあるぞ!」


彼の部屋には、フィギュアはおろか歌手やアイドルのポスターといった物全てが皆無だった。


あるとすれば、護の言った物ぐらいだが、潔子もまた自論を展開する。


「いや、それらはノーカウントで。カレンダーはあっても、汎用のない代物だし。私みたいに、ぬいぐるみを置くとか、本棚にコミックの1巻から全部並べるとかすれば、少しは面白いのに。」


潔子は言い終えると、彼女の紙コップにオレンジを注ぎ、満杯直前に入れるのをやめ、少しずつそれを飲み始めた。


「俺は単行本派じゃなくて本誌派なの!毎週かかさず本誌を呼んでいて、バックナンバーは取らずに古紙回収にまわしているけれど・・・・・・って、そんなのどーでもいいだろ!」


さらに彼は声を強めて言った。


「だからって、潔子の部屋がファンシーすぎて入りづらいっつーの。傍からみたら、少女マンガオタクかフィギュアマニアにしか見えないんだよ!!」


「はぁ!?今、聞き捨てならないこと言ったわね、護ッ!さっきの、プリンターやらパソコンをフルネームで言ってる時点でアンタも変なこだわりあるじゃないッ!」


互いの触れて欲しくない箇所に触れてしまったためか、二人は立ち上がって睨み合い、どちらとも手を出しそうな雰囲気になっていくものの、その膠着コウチャク状態が変わることなく、どんどん無駄な時間が過ぎていった。


「護、ただいまー・・・・・・・・・・・あら?潔子ちゃんと、まだ一緒に宿題してるの?」


不意に、女性の声が彼の家に響く。そう、二人の不毛な戦いに終わりを告げたのは、護の母の声だった。


「あ、母さん帰ってきた・・・・・・ゲ!もうこんな時間!!」


二人が、互いの携帯に目を向けると時刻は17時を過ぎていた。


「本当だ!お互いに変なことで意地になって時間をつぶしちゃったわ・・・・・・ごめんね、護。」


「いや、こっちこそムキになって悪かったな、潔子。」


そういって、二人はテーブルに座りなおして、勉強に取り組み始めた。


それから少しして、護の母が部屋にノックして中に入ってきた。


「護、潔子ちゃん、宿題の調子はどう?」


「順調です、おばさん。今日はありがとうございます。」


「いいのよーあなたがいないと護、どうせ宿題やらないで、パソコンいじってるだけなんだから。」


「ほうっておいてよ、母さん。勉強の邪魔だよ。」


護の反抗的な声が、部屋内に響き渡った。


「あらあら、大分ご機嫌ナナメね。潔子ちゃん、晩御飯はどうするの?よかったら、たべていかない?」


「そうですねー・・・・・・じゃ、お言葉に甘えて。うちの母には携帯で連絡しておきますから。」


「じゃ、お願い。今日はカレーだから。また声をかけるからね。」


そういって、護の母は、ニッコリと微笑んで護の部屋を出て去っていった。


護が、やれやれというような表情をしている間に、潔子はすでに彼女の母へと電話をかけていた。


「うん、護の所でご飯を食べて帰るから・・・・・・うん、大丈夫。帰る時、また連絡するから。」


少し申し訳なさそうな声が、彼の部屋内に響き渡る中、護は、窓の外を眺めて、外が暗闇に支配されつつある景色に、今日一日がもうすぐ終わりを告げようとしていることに感慨深く感じるのだった。


(明日で8連休の3日目かー・・・時間が経つの早いな。ずっと、このままでいれればいいのに。)


ふぅ、とため息混じりにでた声をだしつつ、彼は宿題をしにテーブルへ向かった。


まもなく彼女もまた親との電話を終えると、彼と同じようにそれに向かい、宿題を終わらせるために、ボールペンを進めていくのであった。


<第3話へ続く>

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