5話
「とうしゃま、まず着替えてきた方がいいでしゅか?」
「今日はもう直ぐルーカス伯父様達が来るから訓練はまた今度からだ。
シルバとロイも着替えて来なさい。」
「「はい、父上。」」
「ミーナ、私と一緒に家の中に入ろう。」
「ミーナ、兄上では無く僕と手を繋いで行こう。兄上は汗臭くなってるから、ミーナに汗臭さが移ったら大半だからね。」
「ロイ、私が汗臭いならお前は埃臭いだろう。父上の魔法の砂塵で目眩ませされていたのだから。」
「埃臭さは移らないですよ。これだから脳筋は。」
ロイ兄様はシルバ兄様にそう吐き捨てると、私の手を取って歩き出してしまいました。後ろを振り返ると‘脳筋?’と疑問顔をしているシルバ兄様と呆れ顏の父様がいました。確かにシルバ兄様は脳筋です。誰に似たのでしょうか?
そして私の兄達はシスコンな気がするのですが、気の所為ですよね?
家に入り、洗面所で手洗いうがいをしました。この世界と言うよりこの国は、よくラノベやネット小説のファンタジー世界の様な中世ヨーロッパの世界ではありません。
むしろ、現代に近い世界です。魔物などの脅威がない為技術が発展したのでしょうね。
それに、プランツェ王国は代々賢王が治めていますからそのおかげで、この国は大国ではないですがライフラインの整備が世界一と言われています。その為、上下水の整備・供給は勿論、ガスや電気に替わる特殊な加工をされた魔力【電魔力】を作りだし各家庭に供給されています。
余談ですが使用した水と【電魔力】は毎月国にお金を支払うシステムになっています。国に仕えている人は、お給金から天引きされます。
そしてこの【電魔力】はプランツェ王国の特産物に当たり、他国には作り方が漏れない様にされています。そうすると、戦争を仕掛けられるのでは無いかと心配になりますが、同盟国や中立国には技術者を派遣して【電魔力】の恩恵を与えて、庇護下においてもらっています。同盟国は海に隣接している大国が多いのでとても重要なギブアンドテイクです。
それに食物は緑豊かな国なので自給自足できているのですが、プランツェ王国は内陸の国なので塩や海産物が自国では賄え無いので、同盟国から輸入させてもらっています。
安定している国に産まれたのはラッキーです。ナディエージ様が特別に選んでくれたのですかね?
「ミーナもお部屋にお洋服を用意したから着替えていらっしゃい。」
リビングの隅に移動して人形遊びをしようとしたら母様から着替えるように言われました。
「うん、わかったでしゅ。」
「ミーナ、‘うん、わかったです’ではありませんよ。‘はい、分かりました’ですよ。」
母様は没落してるとは言え、貴族の令嬢だったので言葉遣いが丁寧です。私も日々言葉遣いを直されています。3歳になったばかりなのにマナーなどはスパルタな母様です。この世界でも‘三つ子の魂百まで’と同義語の諺があるのでしょうか?母様の努力の甲斐あって、前世の話し方とは大分変わりました。
部屋に移動する時に壁に掛かっている時計に目を向けるとお昼まで後1時間程。どうやら、お昼から私の誕生日パーティーを伯父様一家を呼んでやる様です。伯父様達が来ると言っていたし、伯父様の家の侍女さんも3名程いらして、内1名の方が私の後ろに控えて手伝おうとしているので間違えないですね。
侍女さんと共に部屋に戻りました。普段、侍女さんは居ないので不思議な感じがします。
部屋に戻るまで侍女さんは口を開きませんでしたが、お仕事中だから仕方ありませんね。まだ10代半ばの成人したばかりーー15歳で成人ーーの感じなのにプロですね、憧れます。前世の15歳の時なんてお喋りはしてなんぼでしたからね。
私はどんなプロを目指しましょう?
閑話休題
ずっと無言でお世話されるのは嫌なので自己紹介でも致しましょうか。
「はじめまちて、ミーナ・ヴァグナーク 3歳でしゅ。
侍女しゃんのお名前は何と言うのでしゅか?」
「ご丁寧にありがとうございます。
私はエマ・パーマントと申します。歳は今年で17になります。」
フワッとした花が咲く様な可愛らしい微笑みを頂きました、ありがとうございます。美人とか可憐とかではないですが愛嬌があって可愛らしい方ですね。
「エマしゃん、可愛いでしゅ。」
「その様な事は初めて言われました。ミーナ様の方がお可愛らしいですよ。」
とっても驚いた顔をされました。エマさんの周りの男は見る目が無い様ですね。
「エマしゃんは可愛くて、侍女しゃんのお仕事もプロでしゅ。エマしゃんの周りの男性は見る目が無いかヘタレでしゅね。
エマしゃんは恋人はいないのでしゅか?」
「その様に評価して下さるとはありがとうございます。
…恋人はいません。片思い中なのです。」
3歳児に対して常に丁寧な言葉遣いを出来るなんてちゃんとしたプロですよ。しかも主の姪ではあるけど準貴族の娘に対してですよ。この年頃の娘さんだったら、言葉が乱れたり、下に見て手を抜く方だっているでしょうに。前世の知識があるから偏見でしょうか?
それに、伯父様が今日の私の準備の為だけに付ける侍女だからといって、ヘタな侍女はつけるはずは無いのですから。
その後も雑談ーー主に私から話題を振りながらーーをしながら、身支度を整えるのを手伝って頂きました。
用意されていた洋服は靴からリボンまで揃えた新品でした。
身支度が終わったタイミングで別の侍女さんが私達を呼びに来ました。
どうやら伯父様達が到着したので、今日の主役の登場という事ですね。
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