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ー閑話 ~ロイ・ヴァグナークに訪れた絶望~中編-

朝日が顔を出し始めた頃、僕は兄上の方を揺さぶって起こした。日が差し出したんだから、出発しても良い頃合いだろう。

兄上は起き上がり、体を伸ばしたりしている。今日もかなりの移動距離になるだろうから、僕も体をほぐしておこう。

2人とも体をほぐし終わったあと、昨日感知した異形なモノの死体の山の方向へ向かう。

森の中に入ると、予想以上の数の異形なモノが生息していた。いや、予想以上だけど昨夜の襲撃の事を考えれば当たり前の事なのかもしれない。


「ロイ、あれらは俺が基本的に処理する。

お前はミーナの探索に集中しろ。」


兄上だけに任せるのは気が引けるが、仕方がない事だろう。僕の風魔法が頼りなんだから。

まぁ、今ぐらいの数での襲撃だったら確かに兄上だけでも事足りるだろうし。流石に数が増えたら僕も参戦しよう。

兄上に頷き返し、兄上の邪魔にならず、自分に襲撃が来ないだろうと思われる距離を確保しつつ兄上の後ろを歩く。


森に入り半日以上が経ったが、未だにダンにすら合流出来ないでいる。これほど合流出来ないと焦りもするが、道標の様に異形なモノの死体が続いている。

それでも、僕らを襲う異形なモノの数は減る気配はない。むしろ、進めば進むほど数が増して来ている。


「兄上、道標は転々と存在する異形なモノがあるから、僕もそろそろ参戦するよ。

流石の兄上でも、厳しい数になってきたでしょ?」

「…助かる。」


寸瞬の沈黙は、兄としてのプライドだろうか。それでも、僕の助けを受け入れてくれたと言う事は、僕の戦闘方面での力も受け入れてくれていたと言う事で、少なからず嬉しく思う。


僕も参戦しながら、ダンが残したであろう道標を辿って行き、時々風魔法で探索もしたが、この日も日が沈む頃までに、ミーナもダンも見つける事が出来なかった。

どれだけ先行しているのやら。


「この辺りの木の上で今晩は過ごそう。ちょうど木の実も付いている事だしな。」

「確かにこの実に毒は無いけど、甘くないから好んでは食べないけど、こんな状況じゃ好みなんて言ってられないか。」


兄上は器用にスルスルと木に登って行った。相変わらずなんでもできるよな、この人。

僕は風魔法で補助しながら登った。

先に登り終わっていた兄上から、木の実をもらい齧る。うん、やっぱり好きじゃないな。ミーナもこの実はドライフルーツにしていなかったし。でも、酒に漬けてたな。


「今日もお前が先に休め。俺が先に番をしとくから。」

「…寝ずの番にしないで、ちゃんと途中で起こしてよ。」


そう言うと、兄上が苦笑いをしていた。やっぱり、僕をずっと寝かせておくつもりだったんだな。まったく、甘い顔をするのはミーナだけにすればいいのに。弟まで甘やかしてどうするんだか。

夜中に兄上と番を代わり、朝日が差し出した頃に起こした。

流石に木の上で寝ていただけあって、異形なモノの襲撃は無かった。幸いしたのが飛行型の異形なモノが居なかった事だろう。

木から降りて、ミーナの探索を続けようと思った所、木の周辺には異形なモノが大量に居た。ほんと、こいつら何処から湧いてきてるんだ?

風魔法と水魔法、土魔法を使って、木の下にひしめき合っていた異形なモノは粗方始末する。

始末が終わると、兄上は木から飛び降りて着地している。

あー、うん。木を伝って降りててまた異形なモノが増えても面倒だもんね。仕方ないから、風魔法で落下速度を抑えて僕も飛び降りた。

いくら、魔法を使っていても、足がジンジンと響いて痛い。よく平気で動けるよね。


僕の足が回復してすぐに移動を開始した。

一時か二時程歩いていると、大量の異形なモノに囲まれてしまった。本当にこの森の生態系はどうなってしまったんだろう。異形なモノが多すぎる。この森に入ってから、普通の動物なんて片手で足りるぐらいしか見かけてないよね!?

そんな事よりも、これは非常にまずいかも知れない。ざっと見ただけでも、100~200は居るね。

森への影響を考えて、一番得意な火魔法を使って無かったけど、流石に使わないと拙いだろう。


「兄上、先に火魔法で広範囲に攻撃します。討ち漏らした分で、僕達の方へ来るモノへの対処をお願いします。」


兄上が小さく頷いたのを見届け、一気に火魔法を展開する。

この異形なモノを獣扱いしてもいいのか悩むけど、やはり火は恐ろしいらしい。多少なりとも引いてくれているモノもいる。

ある程度の数を火魔法で処理し終ると、容易に近づいてくるモノはいない様だ。だが、確実に僕と兄上を隙なく包囲している。

だったら次は、氷魔法と風魔法と土魔法を使うまでだ。

魔法を展開した後に、僕の出した魔法の量を見て、兄上が声を掛けてくる。


「ロイ、そんなに魔法を使ってこの先持つのか?」

「大丈夫。どうやらダンがミーナを助け出したみたいだから。さっき風魔法での探知で漸く引っかかったよ。もう近くまで来てる。

だったら、ここを安全に通過する為にも、綺麗に掃除しとかないとでしょ。」

「そんな重要な事は先に言え、先に。」


兄上も剣を構えて、僕の魔法を避けた異形なモノを始末していく。先程までのスピードとは比較にならない程の素早い動きだ。

こんな時でも、きっちり体力温存してるんだから、凄いと言うべきか、マイペースと言うべきか。

まぁ、どっちでもいいよね。ミーナが無事だったんだから。

それじゃあ僕も、ミーナがここに来るまでに、こいつらを一掃する為に大規模な魔法を展開しよう。

うーん、どの魔法が良いかな。流石にこれ以上火魔法を使うのは拙いだろうから…、よし、【ストーム】を使おう。少し、こっちにも被害が出るかも知れないけど、それが、火魔法以外で広範囲で使える攻撃力の高い魔法だし。


兄上に何も言わずに魔法を展開したけど、なんとなく察知して僕の側まで退避してくる。流石と言うべきなのか、野生児と言うべきなのか。

予想通りに多くの異形なモノを始末してくれた様だけど、冗談でしょ?何でまだこんなに異形なモノが残ってるの?

自分の目がおかしくなったのかと思って、異形なモノの死体の数をざっと数えてみるけど…。

うん、最初にいた数より明らかに多いね。一体何処からこんなに沸いてくるんだよ。倒しても倒しても、これじゃあキリがないじゃないか。


「兄上、こいつら数が…。」

「今頃気が付いたのか?ずっと同じ数で俺達を取り囲んでる。

どうやって、この包囲網を抜けて、ミーナと合流するかが問題だ。」


どうしよう、調子に乗ってたみたいだ。

こいつらの数が減らないんじゃ、残りの魔力量も心もとなくなってくる。こいつらは何時になったら湧いてこなくなるんだろうか?流石に無尽蔵じゃないだろうけど。

不安を感じ始めた時に、外側から攻撃が加わり出した。

何が起こったのか知る為に、風魔法を展開して状況を探る。


「外側から、ダンが攻撃を仕掛けてくれているみたい。

ミーナは少し離れた所で休憩してる。」

「分かった。お前は俺とダンのサポートを頼む。」


僕が返事をする前に、兄上は異形なモノの群れへ突入して行った。

取り敢えず、ダンの姿が見えないのでサポートのしようが無いから、兄上の周りに居る異形なモノで、兄上の剣線上にいないモノに向かって、氷魔法と土魔法を展開して仕留める。

ダンの姿が見える様になってからは、そちらも兄上同様にサポートする。

四半時も経った頃、あれほど数が減らず増え続けていた異形なモノを粗方倒してしまった。

兄上が強いのは知っていたけど、ダンはそれ以上だな。

確かにこれだけ強かったら、父上や兄上が認めるのも分かるけど、だからってミーナの相手としては認めたくない。それに、陛下との婚約も認めたくないし。

だってまだミーナは未成年の子供なんだから。まだ家族で仲良く過ごして良い筈だ。その中によそ者が入る隙は与えたくない。

良し、ミーナを無事奪還したみたいだけど、ここからは僕の存在をミーナにアピールしなくては。

1人決意を胸に秘め、ダンに案内されてミーナが休んでいた所まで行く。


再会したミーナは僕達の無事を喜んでくれた。父上達の状況には心配している様だが、大丈夫だろう。兄上と合流した時は様子を見れて無かったけど、ミーナを追跡するのに移動した時に姿が見えたが、余裕があった感じだし。

兄上が言った言葉にダンが追従をすると、納得したのかそれ以上追及してくることは無かった。

何で兄上だけの言葉を信用しないで、ダンの言葉で納得するんだよ。ほんとにダンはムカつく奴だな。

でも、すぐに僕と兄上の怪我に気が付き、魔法を使って治してくれた。あぁ、やっぱりミーナは僕の天使だ。

ミーナの優しさに癒されていると、ダンがすぐに出発すると言ってきた。

確かにここは見通しが悪いから、休憩を取るには適切な場所では無いけど…。だったら何で、さっきはミーナをここに1人残して、僕達の方に来たんだか。

きっと、こんな所で1人で居て心細くて休むに休めてないだろうから、僕がミーナを手助けしてあげないと。

だから、おんぶをすると言ったのに、まさか兄上から辛辣な意見を言われるとは思ってなかった。

くそっ、まったくもって面白くない!

ミーナに僕の存在をアピールする折角の機会だったというのに。

むくれてダンマリを決め込んでいる内に、移動する際の隊列が決まっていた。

ミーナの直ぐ後ろだから、まぁ良いだろう。移動中はミーナとおしゃべりをして、僕の存在をアピールするぞ。


ちょ、ちょっと待って。

なんで、ここに来る時よりも、移動速度が上がってるの?

え、何でミーナは平然とその速度について行けるの?と言うか、異形なモノはそのままのスピードで切り捨てて、時々襲ってくるミーナの誘拐犯とは、さらにスピードを上げて交戦してるのは何で?

ほんとに、こいつは普通の人間なの?もしかして、父上や爺様より強いんじゃ…。最強と名高い騎士団団長とどっちが強いんだろう。

あれ?でも父上の話だと、騎士団団長は魔法無しの父上より少し強いだけじゃなかったっけ?

ていう事は、ダンが王国最強??


そんな事で頭を混乱させ、肉体的にも限界が近くなった所で、今日の野営をする事になった。

ミーナが、【収納】に居れていたドライフルーツと水を貰い、それを一一心不乱に食べた所までは一応記憶がある。

けど、明け方近くにダンに揺すり起こされるまでの記憶が無い。


「よく眠ってたから、そのまま寝かせてた。ミーナをそろそろ起こすつもりだったから、先に起こした方が良かっただろ?」

「なっ!途中で起こしてくれたら、僕だって番をちゃんとやったよ!」

「そうだろうけど、シルバと話して決めてた事だから。

昨日は、ロイの体力をギリギリまで使って移動したから、ゆっくり休んでもらいたかったんだよ。それに今日は戦場にまた戻るんだから、体力は完全に近い形で回復しといた方が良いだろ。」

「…くそ、ミーナを起こしてくる。」


僕だって成人した男なのに、完全に2人からは子供扱いだ。たった3つしか歳が変わらないのに。

あー、こんな感情のままミーナを起こしたくない。きっと心配させる。

こういう時は、ミーナがよく言っている深呼吸をしよう。


すーはー、すーはー、すーはー、すーはー、すーはー、最後におまけに、すーはー。

よし、ミーナを起こして、ミーナの笑顔に癒されよう。

お読み頂きありがとうございます。

後編は暫くお待ち下さい。

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