88話
私に集中していた異形なものは外からの攻撃に合い、そちらに意識がいった様で、すぐに私に襲い掛かって来る事はありませんでした。
一体誰が外から攻撃をしているのでしょうか?
攻撃の仕方を見ると、騎士が複数と魔法士が1人いるようです。もしかしたら魔法士も複数いるかもしれませんが。
暫く外側の様子を見ていた異形なモノは、すぐに己の所に攻撃が迫ってこないのを確認できると、私の方の攻撃に戻る事にしたようです。
あえて外側の攻撃に意識がいっている異形なモノに攻撃をしないで、私の存在を忘れさせたかったのですが、そういう事にはならなかった様です。
傷口からは血が止まらずに出続けているので、この異形なモノ達にもあの毒が使われているのでしょう。お掛けで、異形なモノが攻撃を仕掛けてこない間に体力回復を図りたかったのですが、血が流れ出ているので体力回復とはいきませんでした。
本当に厄介な毒を仕込んでくれたものです。
暫くは、外側にいる人達が何とかしてくれる事を祈りつつ、防御に徹します。
とは言っても、四方八方から攻撃が仕掛けられてくるので、今の私の体力では全てを防ぎきる事は出来ません。
少しずつ傷が増えていきます。
時間が経つにつれ、外側からの攻撃は徐々に広範囲から仕掛けられる様になっています。もしかして、外側から攻撃しているのはお祖父様が先程医療隊に運んだ生き残りの方達でしょうか?
そうであれば、医療隊の生き残りはかなりの人数が居るのかもしれません。少数しか残っていなければ、こんなに早く戦線に復帰出来る様な怪我の方は殆どいませんでしたから。
あぁ、それにしてもまずいですね。血を流しすぎた様です。目が霞んできました。私はここで死んでしまうのでしょうか。せめて、ダンさんとシルバ兄様の無事を確かめたい。
父様とお祖父様の無事は戦闘音で確認がまだ取れてますから。
あら?でも耳には何の音も聞こえてこなくなっていますね。本当にいよいよ駄目みたいです。
もっと長生きがしたかった。狭い世界しか知らないから、世界中を歩いていろんな物を見て回りたかった。私が作った服を嬉しそうに買って行く人の姿を見たかった。ダンさんの隣で笑って過ごしたかった。
あぁ、こんなにも後悔があるのですね。もっと我儘に生きればよかったです。きっと父様は何とか叶えてくれようとしてくれたでしょう。父様だけでなく、シルバ兄様もロイ兄様もお祖父様もルーカス義父様も…。
もしかしたら、私が我儘を言うのを待っていたかもしれませんね。
王都に帰ったら、カール兄様とシャルロッテ姉様の子供を抱っこして、似合う洋服をいっぱい作りましょう。すぐに着れなくなるから勿体ないなんて言わせませんよ。
ふふっ、もう死んでしまうのに何を考えているのでしょうか。せめて、死ぬ間際の夢の中だけでも叶えて下さい……ナディエージ様。
「ミーナ、俺が絶対に死なせない。だから…今言った我儘を全部叶えような。」
薄れゆく意識の狭間で、ダンさんの力強い声が聞こえます。
最後にダンさんの声が聞けたなんて、私は幸運ですね。
硬い地面に体が崩れ落ちる前に私の意識は無くなりました。
意識が浮上すると、いつか見た白い空間に私はいました。
「久しぶりだね、茜ちゃん。」
「ナディエージ様…。そっか、私は死んだんですね。
でも、どうしてまたここに来たのでしょうか?」
「茜ちゃんはまだ死んでないよ。でも、仮死状態ではあるけど…。
仮死状態にあるからこそ、茜ちゃんの魂に吸収された僕の神力を使ってこの空間に呼び寄せられたんだ。
以前、その神力を頼りに茜ちゃんの夢の中に入り込んで、力の理由等を説明に行ったんだけど覚えて無かったみたいだから、この仮死状態である今がチャンスだと思って接触したんだよ。
僕は基本的に、この世界に介入出来ないから、どうしても介入したい時は、馬鹿息子を使う以外方法は無かったけどね。馬鹿息子も迷惑を掛けたね。」
ナディエージ様は苦笑いをしながら頬をかいています。
力の事は既にリガーフェル様に聞いているのに態々私をここまで連れて来て話さなければならない事とは何でしょうか?
「力の事はごめんね。僕もあんな力を授けるつもりは一切なかったんだ。だから、魔力を持たない様にさせたのに、それが裏目に出て、辛い思いをさせてしまった。謝っても許される事でもないし、言い訳もされたくもないだろう。」
「いえ、その事はナディエージ様の意思では無かった訳ですから。
それに、力の事を説明に来られたのに、私の方が覚えていなかったのもいけないのですから。」
「いや、僕も茜ちゃんの中に宿った力が何だったのかは、茜ちゃんが初めて力を発露した時に知った事だから、説明に行けたのはその後だね。」
「そうだったのですか。」
「本当はもっと誠心誠意謝って許しを請いたい所だけど、時間も無いから今回の本題に入らせてもらうよ。」
「あ、はい。」
「ここへ呼んだのは、デヴェルティンの創造神…茜ちゃんを殺した女神、デヴェルティアナの事だよ。
あの女神は、神界の秩序を無視して、デヴェルティアナの信奉者の中で特に力が強く、残虐な男を僕への信仰心の強い幼い魔法の才があった子供に憑依させ、自分の傀儡になる者を作り出し、僕の世界に干渉してきた。
その憑依体には、デヴェルティアナの強い加護が付いているから、滅多な事では中々死なないし、僕の世界に生きる人々より強い力を持っている。」
「ナディエージ様の加護を持っている方達よりかもですか?」
「僕の加護?…もしかして、プランツェ王族の力の事を言っている?」
「はい。あれは加護とは違うのですか?」
「あれは、特に加護じゃないんだ。
あの地…プランツェ王国は、世界を作り上げた後に僕が降り立った地であり、僕の力の影響を受けてしまった地だ。
そして、僕の息子である半神が産まれた地でもある。だから土地に強い力が残ってしまって、代々その地の力を薄める為に、僕の血筋である者達に特殊な力を授けてその力を世界に還元させているんだ。」
「それをしないとどうなるのですか?」
「世界の綻びとなり、この世界が消滅する。」
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