83話
お待たせしました。
戦闘音を聞きながら周囲を警戒していると、四半時程で戦闘音が止みダンさんと少しボロボロになったシルバ兄様とロイ兄様が現れました。
「「ミーナ無事でよかった!」」
「ダンさんに助けてもらいました。シルバ兄様にもロイ兄様にもご心配お掛けしました。」
「父上や爺様も駆け付けようとしていたけど、敵兵の指揮官クラスが十数名ずつ群がってたから、来られなかったんだ。」
「父様とお祖父様は大丈夫でしょうか!?」
いくら父様とお祖父様が強いからと言って、十数名の指揮官クラスに押し寄せられれば無事には済まないのではないのでしょうか?それに、帝国の兵はあの血が止まらなくなる毒を使っていますし。
かすり傷1つでも致命傷になりかねませんし。
「大丈夫だ。あの程度ならあと20人ぐらい押し寄せても平気だろ。」
「…ヴァグナーク隊長ならあり得るな。それに隊長のお父さんもあのヴァグナーク隊長を鍛えた人なんだもんな。」
「あぁ。」
「それよりも、シルバ兄様もロイ兄様も怪我をしているではありませんか。見せて下さい。」
大丈夫だと言う兄様達をダンさんに抑えてもらって、治癒の魔法を行使します。
ここから戦場までどの程度かかるか分かりませんが、綺麗になおして万全の態勢で戦場に戻る方が良いですからね。
兄様達の治療が終わったので、休憩を取らずに出発します。
私は休憩をしていた様なものですが、ダンさんや兄様達は戦闘していたのに休憩をしなくていいのでしょうか?
「休憩は取らなくていいのですか?」
「ここは見通しが悪いし、他の異形なモノがまだこの近くにいるかも知れないからここからは離れる。
それに、いつまたリガーフェルが襲って来るかもわからないからな。」
「あんたが仕切ってるのは、釈然としないが、その通りだから移動しよう。
疲れていたら、僕がおんぶして移動するよ。」
シルバ兄様がダンさんにスマンなと片手を挙げて謝っていましたが、ロイ兄様の後半部分のセリフを聞き逃さずにロイ兄様に詰め寄ります。
「ロイ、お前がこの中で一番体力が無いのに何を言ってるんだ?
そういう事は、俺達に余裕でついて来られる様になってから言え。」
「………。」
「ダンが先頭で次にミーナ、そのすぐ後ろにロイが付いて殿は俺がする。」
「分かった。それで行こう。」
シルバ兄様の正論にロイ兄様がだんまりを決め込んで、不貞腐れています。
ロイ兄様は少し子供っぽい性格なので、不貞腐れると面倒です。私に慰めてもらおうと距離が近くなるので、出来れば距離を離してもらいたいです。ですが、ダンさんがそれを了承したので、諦めるしかありません。
それが了承されて、少し浮かれていたロイ兄様でしたが、移動を開始してから間もなく、私に話しかける余裕がなくなってしまった様です。
シルバ兄様の言う通り、一番体力が無いのはロイ兄様の様でした。
その後は一時ごとに小休憩を取り、時にはダンさんめがけて襲ってくるリガーフェルと交戦をしてようやく戦場近くに辿りつきました。
夕闇も迫って来ていた時間なので、乱戦状態になっている本陣には明日の日の出の後に合流する事にして、今は英気を養う事になりました。
私は収納の中から、ドライフルーツと水を取り出し皆に配ります。
一番へたばってしまっていたロイ兄様は、ドライフルーツを見た瞬間に生気と笑顔が戻り勢いよく食べ出します。
それを、ダンさんとシルバ兄様が呆れ気味に眺めながら、ドライフルーツを食べています。
私はそれを横目にドライフルーツを食べ、明日の事を思って空を見上げました。
いつもなら、空には幾万の星が輝いていますが、今日は暗雲と立ち込める雲がその光を邪魔をしています。
なんだか、これからの王国の未来を現している様で戦場の状況に不安が過ります。
父様やお祖父様はもちろん、クリーガ団長やルダート副団長にヘレンさん、それに医療隊の皆やその他の人達も無事なのでしょうか?
「ミーナ、明日戦場に戻るのが怖いか?」
ボーっと空を見上げていると、シルバ兄様が小声で話しかけて来ました。ダンさんとロイ兄様を見ると地面に横たわっているので、見張りをシルバ兄様がしている間に寝る事に決まった様です。
「怖いと言うよりも、不安が大きいです。
医療隊の皆やプリースダント司祭様達も無事なのか心配ですし…。
私が攫われた時は、本陣が奇襲を受けて戦場になっていましたから。」
「…ミーナは自分がその場に居たら、皆を守れたとおもってるのか?
そうだとしたら、それは只の傲慢だと思うぞ。」
「え…?どうしてです?」
「確かにお前は戦闘も難なくこなせるし、特殊な魔法も使える。
だけどそれだけだ。
誰も彼も、ミーナに期待しているのは分かるけど、人は何時か死ぬ。それが戦争で死ぬか、病気や事故で死ぬか、寿命を全うするかの違いだ。
俺もそうだが父上達もまだ成人していない13歳のミーナが戦場に見を投じる必要は無いと思ってる。」
「でも、こういう時は力を持った者が身を投じるのは義務ではありませんか?」
「じゃあ、なんで陛下は戦場に身を投じないで王宮で政務を行っているんだ?
それに、今回の戦争では成人している貴族の子息がほとんど参加していない。王国民を守るのは貴族の義務であるにも関わらずだ。」
「それは…今回は異形なモノが居るからではありませんか?
通常の戦争とは違いますし。」
「そんなのは関係ないだろ。それに、成人前の女の子を戦争に投入している時点で、その言い訳は出来ないはずだ。
父上達だって納得してないさ。だから、この戦争が終わったら、シュテルネン家は爵位を返上して、俺達は今の仕事を辞して他国に渡り平民として生きる事にする。」
「そんな事が出来るのですか?」
「簡単じゃないだろうな。
それについては、伯父上とカール兄上が上手くやるだろ。」
父様達が色々動いていたなんて知りませんでした。でもそんな事をして大丈夫なのでしょうか?
私達が他国に渡ると言う事は、国の威信にも係わるのではないのでしょうか?そんな簡単に行くとは思えません。それにもしその事で家族の誰かが罪に問われたとしたら…。
「ミーナが陛下の事を愛していて、側にいたいなら考え直すけど、ミーナが好きなのは昔からダンだろ?
簡単に出来ない事は分かってるから、心配するな。それよりも、明日に備えて今はきちんと寝ないとな。」
苦笑いをしながらシルバ兄様が、ダンさんとロイ兄様の方を見ました。
どうやら、私にあちらに行って眠る様に促された様です。
流石にダンさんの隣で眠る度胸は無いので、ロイ兄様の隣で丸くなって眠る事にします。
うん、地面にそのまま眠るのってかなり寝にくいですね。気合を入れて眠りましょう。
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