➖閑話 〜ハンス・ヴァグナークの決意〜➖
本日2話目です。
ルプスの3月18日の明け方に臨月を迎えていた妻マーガレットが産気付いた。3人目の子供とあって、マーガレットは落ち着いた様子で私に医者などの手配を頼んでいた。
医者の手配をし終えた後に、長男のシルバ5歳にマーガレットと3歳の弟ロイの面倒を一時的に頼み、職場である王宮へ急いだ。
王宮の騎士団の隊舎に着き、上司に当たる強面のルダート副団長と部下の1番隊副隊長ケインにマーガレットが産気付いた事を伝え、3日程の休暇をもらい、実家のシュテルネン伯爵家に使いを出して帰途に着いた。
家に着くと、医者は既に来ていてお産が始まっていた。
息子達はソワソワとして落ち着きが無かったが、俺自身3回目に関わらず落ち着けていなかったので仕方ない。
こんな時、男は不甲斐ないと思うばかりだ。
家に着いて30分程すると実家から侍女が2人程やってきた。
2人は兄上が信頼している侍女で王都屋敷の筆頭侍女のエーデルと義姉上付きの侍女アインだ。
アインは医者の手伝いに行き、エーデルは俺達を落ち着かせる為にお茶を出したりと世話をしてくれた。
それからどれ位の時間が経ったのか定かではないが、お産に使ってた部屋から、赤ん坊の泣き声が聞こえた。
直ぐに、部屋の前まで駆けつけると
大きな声の泣き声とマーガレットの笑い声が聞こえて一安心だ。
「ご子息様を置いて先に突っ走らないで下さい。」
背後からエーデルの苦笑い付きの注意をうけた。
部屋の扉が開き中に入れて貰い、産まれたばかりの赤ん坊を抱かされた。
「ご息女様ですよ。元気な泣き声で直ぐにお乳も飲まれました。
ただ……」
言い淀むのを不思議に思いながら娘の顔を覗くと、瞼を開けた娘の瞳の色に驚いた。
髪はマーガレットと同じ亜麻色なのに、瞳の色が俺と同じ烏羽色だなんて…黒系統の色は必ず髪と瞳が同じ色になり魔法の才があるのが常識だ。片方のみなど聞いた事がない。
この子ミーナの将来を心配せずにはいられない。
1時間程してから、エーデルから連絡が行っていた父上・兄上・義姉上が家に訪れた。
ミーナは眠っていたが、直ぐにミーナと合わせ瞳の色の事を話した。
そして父上から陛下・宰相や大臣に話が行き、魔法を使う力が有るか分からない上に何か特殊な力が有るかもしれないが、家族と共に過ごせる事に決まった。
これは偏に、俺が騎士隊の隊長である上に魔法使いである事、そして父上が魔法士団団長である事が大きく影響しているだろう。
但し、ミーナに他国からの干渉や接触を避ける為に、外出は最小限で護衛を必ず付けて事が条件になった。
守れなかった場合は、王宮に引き取られる事になると言われた。
日々は流れ、ミーナは病に罹る事なく元気に成長していたが、上の子2人に比べると、思慮深く、大人しい。そして話をよく聞きマーガレットの手伝いも進んでする良い子に成長していた。
明日で3歳になるミーナは、家族に特に祖父と伯父・兄達にとても可愛いがられている。
それは、家族が男ばかりだったからの反動だろうが少し甘やかし過ぎな気がしている。
最初の頃は我儘に育ったらと思っていたが、ミーナ本人が節度を持ったいる節があり、我儘になる事は無かった。
ミーナと息子達や甥達を含めた他の子供達を見ると、ミーナは精神面が成熟している様で他とは違う様に思えている。
そして極め付けは、3歳の誕生日に兄達を言葉のみで説き伏せてしまった。幾ら何でも、子供らしくない。
ミーナはやはり特別な子なんだろう。
此処まで意思がはっきりしているなら、何か特別な力が有るのか調べるのも予定を前倒しして行ってもいいだろう。
準備は既に整っていた筈だ。後は父上と兄上に話して許可を取ろう。
「ミーナは女の子だから、剣では無く棍を習得してもらう。魔法の適性があるかは、お祖父様が手が空いている時にしよう。」
こらからがミーナの人生を左右される時になるのだろう。
何があっても、ミーナは俺がしっかり守るさ。
お読み頂きありがとうございます。
ハンス父さんの決意はいかがでしょうか?
閑話は後もう1話続きます。
次はおじいちゃん目線です。




