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7 異世界(ファンタジー)でも現実(リアル)と言うのなら、惨劇もまたリアルのひとつである

前書き



 いつまで続く、タイトル詐欺よ~


 それにしても、今回は変態性が全くないです。

 俺は、現実(リアル)の住人だ。こんなファンタジー世界にいられるか!

 今すぐ現実に戻せ!

 それか夢に違いない!

 それとも頭をぶつけたのか!

 とにかく、今すぐ現実に返しやがれ!!!



 などと、ヤクモは吠えなかった。

 従兄弟のコウが魔法をつかえたのは事実なのだから、しょうがない。つまりこれは現実なのだ。

 ここが現代の地球のどこかなのか、はたまた異世界なのか、過去の日本なのかということは、すべて棚上げにした。

 今のところ考えても、答えの出しようがない問題なのだから仕方がない。


 それより、今は目の前の現実を受け入れることだけ。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「コウさんは、魔法使いだったんですか」

 目の前で放たれた雷撃に、目を見開くフィリア。


 だが、今はそんなことに驚いている状況ではない。

「コウ、魔法はもう2度と……いや、しばらく使用禁止。今の音は目立ちすぎたから、今すぐこの場所を離れるぞ」


 山賊から逃げている最中なのだ。雷撃の魔法は結構だが、それで発生した音は、山間に響いて目立ちすぎる。


 ヤクモの指示に、3人は慌ててその場所から逃げることにした。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後、慌てて逃げたおかげなのか、山賊に出会うことなくすんだ。


 ただ、もしもの場合を考えて、ヤクモはコウから魔術の呪文を、簡単に聞き出すことにした。

「呪文は覚えているけど、使えたのはまぐれみたいなものだから」

 使ったコウでさえ驚いていたほどだから、仕方がない。

「いいのいいの。使える使えないに関係なく、いざと言う時の保険のために、俺にも呪文を教えてくれ」

 再び山賊に出くわしたときに、丸ごしの状態は勘弁だ。

 ないよりましという程度だが、ヤクモはコウから呪文を聞き出した。


 初歩的な呪文であるファイアボール。

「絶対に腕を突き出さないように。ないとは思うけど、呪文が勝手に発動したら、危ないから」

「了解」

 そう答えて、コウから聞いた呪文をスラスラと復唱するヤクモ。


 初歩的とはいえ、それでもファイアボールの呪文はかなり長い詠唱を必要とする。だが言葉の羅列をヤクモは一度聞いただけですべて暗記していた。

 忘れてはいけないが、この男は飛び級で既に大学を卒業している傑物だ。初めて聞く言葉でも、一度聞いただけですべて覚えてしまう。


「一度であの呪文覚えるなんて、ヤクモおかしいだろう」

「いやいや、魔法を本当に使えるコウの方が、常識を離脱したって感じがするぞ」

 従兄弟同士で、互いに不毛な言葉を投げかけ合った。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 それから3日たった。


 山……それも道を舗装すらされていない山の中を移動する経験など、文明の中で育ったヤクモにも、コウにもなかった。

 一応コウは、前世の記憶が勇者様。と言うことなので、その記憶から野宿の仕方とかの知識があるらしい。とはいえ、あくまでも記憶は記憶でしかない。

 記憶と違って、体は山道を歩くことに慣れていないせいで、日本生まれ日本育ちのコウも、山を歩くことに手こずっている。


 最初の日こそ、男2人の方が歩く速度は速かったのに、今では砦で助けたフィリアの足取りが一番軽いと来ている有様だ。


「2人とも、これぐらいで息を上げて情けないですよ」

 フィリアが先頭を切って歩いている。


 それに対して、ぐうの音も出せないヤクモとコウだ。


 それに、フィリアは山のことをよく知っていた。

「木に成っている果物を見つければ、あれは食べる。まだ熟していないから酸っぱいだけ。あのキノコは危険だから、絶対に口にするどころか、触ってもいけない」

 キノコについているカビに触ると、皮膚が炎症を起こして5日間は苦しむことになるのだそうだ。

 この豊富な山の知識のおかげで、この3日の間、果物に野菜、山菜の類いが手に入っている。


「コウ、フィリアを助けたのは正解だったな」

「僕たちだけだと、確実に餓死してたね」

 などと、男2人は話し合った。



 そうして歩いているうちに、山を2つ超えていた。

 フィリアが知っている光景に出くわしたようで、一行の先頭を行くフィリアは、自分の住んでいる村があるからと言って、案内役まで務めてくれた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 それからさらに2日がたった。


「あった。あれが私の村」


 山賊の砦に捉えられていたフィリアにとって、自分の住んでいる村に辿り着けたのは大きな喜びだったのだろう。

 歓声を上げて、駆けるようにして村へ……といってもたった5、6軒しかない家が建っているだけの村へと走っていく。

 これでは村と言うよりも、開拓地とでも言ったほうがいいのだろうか?


 とにかくフィリアは、村へと喜びも露に駆けていった。


 一方、ヤクモとコウはげっそりしていた。

 慣れない5日間の山歩き、おまけに夜は野宿である。

 追手のことも考えて夜は火をつけることもできなかったのだが、山のそこら中から、獣の鳴き声が聞こえてきて、それに驚かされたり、警戒させられたりした。

 心なしか、ヤクモの頬は削げていて、コウにしても似たような状態だった。


「とりあえず、今日は野宿しなくて済むよな」

「ああ、今日は安心して屋根の下で眠れる」

 2人とも、疲れ切っていた。


 そして重たい足を引きずりつつも、村へと歩いていった。



 だが、村に近づいていきながら、コウの様子がおかしくなる。顔をこわばらせて、ナイフに自然と手が伸びる。

「コウ?」

「ヤクモ、危ないかもしれない」


 ――危ない?

 一体何がと思うヤクモ。そういえば、山の中の村なのに、鼻孔にかすかに錆びた鉄の匂いがする。

 自然に囲まれた村でするはずのない匂いで、嗅ぎなれていない匂いだ。


 コウが警戒から歩く速度を遅くする。ヤクモも合わせて歩いた。一応、コウに促される形で周囲を見回すが、何か変わったものがあるようには見えない。


 やがて2人は、先に村へと駆けて行ったフィリアに追いついた。

 ただ、傍に近づいても、フィリアは茫然としたまま立ち尽くしている。

「フィリア?」

 その様子をヤクモは訝しんだが、すぐに理由が分かった。


 フィリアの目の前に、体を斬られた人間が崩れ落ちていた。

 ……それも、1人2人でなく、10人以上。

 老人や大人だけでなく、中には小さな子供まで含まれている。

 それが人間としての尊厳などなく、捨てられるようにして1か所に集められていた。


「うそ、うそよ。こんなの……」

 ガクガクと震えるフィリア。

 それを見るヤクモも、死んだ人たちから、視線を外すことができなくなってしまった。こんな人間の遺体なんて、今までに一度も見たことがなかった。

 知り合いや親せきで、歳をとって死んだ人の葬式に参加し、その姿を見たことは何度かあった。だが、そんな人たちの体は、もっときれいに扱われていて、体から血が流れていたことなど、一度としてなかった。

 遺体の傷口には、白い蛆が沸き、さらに黒いハエが集ってぶんぶんと音を立てている。


 ヤクモは口の中に、酸っぱいものがこみあげてくるのを感じ、近くにいるコウも、顔を青くしていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――ザック、ザク、ザク


 ヤクモとコウは、殺された村人たちの為に墓穴を掘っていた。

 ただ、言葉など一言も出てこない。


 フィリアに至っては、自分が住んでいた村の住人が殺されたのだ。

 その中には、家族もいた。

「お父さん、お母さん、リナ」

 彼女は涙も流すことができず、立ち尽くしていた。

 しかも家族だけではない。

「ハンスおじさん、ニーナおばさん、エミリー、ヨハネ」

 知っている村の大人たち。歳の近い友達。すべてが、無残な殺され方をしていた。


 フィリアは、その場に倒れ込んでしまった。



 ヤクモにしても、コウにしても、その光景はつらい。ヤクモに至っては、胃の中の物を吐き出してしまった。

 コウは、そこまでならなかったが、それでもとても平気な顔などしていない。


 ただ、殺された人たちを、このまま見捨てていくことはできなかった。

 ――せめて、墓だけでも用意しよう。

 そう思い、ヤクモとコウは無言で、村人たちの墓穴を掘ることにした。



 だが、墓穴を掘る以上に、遺体を埋葬することは簡単でなかった。

 斬られた死体を運ばなければならないのだ。

 死者のことを思って、その体は丁重に扱おうとした。だが、斬られた遺体を持ち上げようとしたとき、その遺体はあまりにも深く剣で切り付けられていた。なんとか一つにつながっていた体だったのに、持ち上げた拍子に切り口が裂けるようにして開いてしまった。そのまま2つに別れてしまう。


 そして、血と体の一部が、周囲にこぼれだす。



 ――何がファンタジーワールドだ。こんなの最低だ。何が現実(リアル)だ!リアルより、ひどすぎる!


 ヤクモは、自分が以前考えていたことを、心底呪ってやりたくなった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 村人たちの埋葬は終わり、供養をすることはできた。

 とはいえ、それまでの作業は精神的にすさまじく辛かった。

 途中から、何をしていたのか記憶が欠落してしまっている。だがきっと、それは覚えていれば、自分には耐えられないことだったのだろう。


 ヤクモは殺された人の墓の前で冥福を祈りつつも、墓に納める前に見た遺体の顔が脳裏にまざまざと蘇った。



 そして、その日は村人たちの埋葬をしている間に日が暮れ、夜になろうとしていた。

 精神的にも、肉体的にも、もう限界だった。

 人が殺された村にとどまるのは危険が伴うかもしれない。そして、人が殺された場所で、一夜を過ごすことなど正気であればできるはずがない。

 それでも疲れ切ったヤクモたち3人は、その日はただ重たい沈黙の中で、村での一夜を過ごした。


 幸いと言う言葉は使えない。

 村には僅かにだが食糧が残されていて、家には屋根があった。

 空腹と、野宿だけは避けることができた。

 それでも、その日は決して安眠などできなかった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 翌日の早朝。

 深く眠ることができなかったヤクモは、まだ太陽も昇っていない時間に目を覚ました。

 時計など持っていない。スマホもない。

 そういえば、ここに来る前に俺の部屋にいた時は、机の上に適当に放り出していたんだっけ。

 日本に……自分の部屋にいた時のことが、遥か過去のように思えてしまう。


 まだ太陽は登っていないが、周囲はうっすらと明るくなっている。

 ヤクモは横になっている体を起こして、立ち上がろうとした。

「もう、起きたのか?」

 その拍子に、コウの声がした。

「ああ、寝られるわけがないだろう」

「だよな」

 当然だ。人の死体、それもあんな殺され方をした人たちの姿を見た日に、熟睡できるはずがない。

 2人は無言で起き上がると、家の中から出た。

 外に出ると、昨日作った村人たちの墓の前で、フィリアが地面に座っていた。


 ヤクモはフィリアに呼びかけるべきか迷った。

 でも、話しかけても、何を話せばいいのかもわからない。

 結局今は何も言わない方がいいと思い、この時はそっとしておくことにした。




 ただ、いつまでもそうしているわけにはいかなかった。

 薄暗かった周囲は、太陽が山間から昇ってくると共に、朝の光で満たされていく。

 時間と言うものは、常に動き続けているのだ。


 始めはフィリアのことをそっとしておいたヤクモだったが、いつまでもこの村にとどまっているわけにもいかない。

 村人は全員斬られていた。

 つまり、人間がこの村を襲ったということだろう。ヤクモたちを捕まえた山賊に襲われた可能性を考えてもいいだろう。あの砦から、この村までの距離はあまりにも近すぎる。


 おまけに太陽が昇るまでの間に村の中にある家を見て回ったが、そのすべてが荒らされていた。

 もともと規模が小さな村だから、まともな金品なんてろくになかっただろう。それでも、家の中は全て荒らされていた。家の中にある食べ物は極端に少なかったので、食糧まで持っていかれてしまったのだろう。


 完全な廃村だ。

 いつまでもここにいられない。食べるものさえろくに残されていないので、ここに留まっていれば、すぐに飢えてしまうことになる。


「フィリア、それにコウにも話したいことがある」

 村人たちが殺されたことにショックを受けているだろうフィリアに話しかけることは気は重いが、それでもヤクモは切り出さずにいられなかった。


「このままこの村に留まっていても、どうにもならない」

 その言葉に、コウは頷く。フィリアはヤクモの方を見ているが、その眼には光がなく、ヤクモの姿がちゃんと見えているのかもわからない。

 だが、それでも続ける。

「僕たちはこの村を出るつもりだ。できれば、町が近くにあるといいけれど……」

「……」

「フィリア。生きていくつもりなら、僕たちと一緒に来るんだ」

 ヤクモは、それだけをフィリアに告げた。


 だが、その後フィリアは地面に突っ伏してワーワーと泣き始めた。

 そんな彼女にヤクモもコウも、どんな言葉をかければいいのか、まるで分らなかった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 村の家の中には金目のものなど一切残されていなかった。村人の殺された家々から物品を拝借するのでは、まるでこっちまで強盗か山賊になってしまった気になる。

 それでも、ヤクモもコウも、そしてフィリアも、身一つの状態。服だけはあるが、それも山賊の砦にいた期間と、5日間の山の移動ですっかり汚れていた。

 汚れどころか、異臭は漂うし、さらに墓を作った時に、村人の血まで染み込んでしまっている。


 村に残されていた衣服から、自分たちの体に合うものと、荷物を入れるのに便利そうな鞄などを失敬する。

 死者の墓には、感謝と言うよりも、詫びを口にして、ヤクモたちは村を後にした。


 ――フィリアは途方に暮れていて、このまま村に残って自殺してしまうのではないか。

 そんな危うさがあったが、それでもフィリアはとぼとぼと下を向いた状態ながら、ヤクモたちと行動を共にすることを選んだ。


「近くにある町を知っています。そこまで案内します」

 ただ、その声はいまだに暗いものだった。


あとがき



 さあ、本編の読後感とか、いろんなものをぶち壊す時間を始めましょう(そう言うのが嫌な人は、あとがきを読まずにスルーすることを強く推奨します)。




 ファンタジーではお約束である人の死です。

 これを軽く扱ってしまうとコメディーですが、まあ重たい話と言うものは大変ですね~




 それにしてもこの話、スランプの時期に書き出した話だったので、どうせ3話書いた辺りで筆を投げて終わっちゃうだろうと思ってました。

 ただ、その後思い付きと勢いだけでこんなところまで書いてしまったり。


 ……思い付きっでこんなものが出てくるのだから、書いてる人の中に何が詰まっているのか怖いものですね~

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