5 異世界ファンタジーのお約束によって、今日も山賊は頑張る
前書き
┌(┌^o^)┐ホモォ…
(1章入ってから、常にホモ~しかしてない気がするけど……)
さて、ファンタジーなことになってしまった。
……だが、そんなことを考えている余裕など全くなかった。
少女の姿をした魔族から逃げ出した後、ヤクモとコウの2人は、全力で走って逃げ、息が切れていた。
ここまで来れば、もう追いかけてこないだろう。
ちょうど近くに川が流れていた。
喉も乾いていたので、まずは一口その水を口に含む。飲んでも大丈夫そうだったので
そのまま水をごくごくと飲んだ。
そうして、安堵から一息ついたところで……
「ヘッヘッヘッ、親方随分な別嬪がいやすぜ」
下品な笑い声。
それに続いて、川の周りに立つ木の間から、5、6人の男たちが現れた。
全員が動物の毛皮を着ていて、手には剣に、斧、弓矢などを持っている。
「なあ、コウ。あれってどこからどう見ても、山賊だよな」
「ああ」
「俺の知識がおかしいのか、今の日本に山賊なんているのか?」
「いないよ……っていか、僕も油断したな」
コウの中では、前世での勇者の記憶が蘇っていた。とはいえ、それは今の自分とは関係のない過去の記憶であり、生き方だった。
ついさっきまで、ただの高校生でしかなかったコウには、過去の自分のような生き方も、経験もしたことがない。
前世の自分であれば、もっと周囲に警戒していたはずなのに……
そう思い、自分のうかつさを呪う。
そして、その記憶に突き動かされるように、コウは武器になるものはないかと周囲を見回したが、残念ながらここにそんなものはない。
……ならば、どうするべきか。
「なあ、コウ。まだ走れるか?」
「なんとか……な」
コウよりも先に、ヤクモの方が考えがまとまっていたようだ。
その言葉に、コウも頷いた。
あんな相手には関わっていられない。2人は一目散にその場から逃げ出そうとした。
「おおっと、逃げようなんて考えるなよ。別嬪さん」
ところがそんな2人の考えを先読みした、山賊の1人が弓を構える。
放たれた矢が、コウとヤクモの足元にドスッと音を立てて突き立った。
命中していれば、間違いなく体に突き刺さる。
悪くすれば、そのまま即死しかねない。
「……逃げるのは、無理そうだな」
相手の武器に脅され、2人は両手を上げて降参するしかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
両手を上げて降参したが、コウは頭を山賊の1人に殴られて、その場で気絶させられた。
「コウっ!」
従兄弟への仕打ちにヤクモは声を上げるが、その手を別の山賊に掴まれ、近寄ることもできない。
「へっへっへっ、姉ちゃん。あんな男のことなんか気にするな。それより俺たちと仲良くしようぜ」
そう言い、山賊はねっとりとした視線をヤクモにけ向けてきた。
よく知っている。この視線は、ヤクモの性別を完全に勘違いしている男の眼だ。
「このド変態……俺は男だぞ!」
過去に、気の狂っている男から告白されるたびに、何度も口にしてきた言葉を山賊に叫ぶ。
だが、男と名乗ったのに、山賊はねっとりとした視線を変えもしない。
「おいおい、嘘をつくならもっとましな嘘をつけよ。……まあ、胸がないのは残念だが、それでもとんでもない上玉だな」
山賊のでも一番偉い頭なのだろう。その男がヤクモの胸に手を押し付けてくる。
――ゾワワッ
気味の悪さで、全身に鳥肌が立つヤクモ。
「ゲヘッヘヘヘ」
対する山賊の頭は、欲情全開の顔である。
「いいな、親方ー」
「あとで俺にも抱かせてくださいよ」
などと、下っ端の山賊たちは羨ましそうにしている。
「クックックッ、まあ気長に待っていろよ」
そんな言葉を手下に返し、山賊の頭はヤクモの体を太い腕で抱きしめた。そして下心に満ちた顔を、ヤクモに近づけてくる。
「バカ、やめろ!来るな!アホウッ!」
体が身動きをとれないので、口だけで反抗するヤクモ。
だが、そんなヤクモの態度に山賊の頭はチッと舌打ちした。抱きしめていたヤクモの体を、乱暴に突き飛ばす。
「クッ」
突き飛ばされたヤクモは、そのまま地面の上に倒されてしまった。だが、その上から、山賊の頭が、体ごと乗りかかってくる。
「こういうのは初めてからな?俺がいい具合に泣かせてやるから、まずは股を開きやがれ!」
山賊は声を荒げ、ヤクモの股を力づくで押し広げようとした。
「……!?」
直後、山賊の頭の動きが止まる。
心なしか、その顔まで硬直している。
「……お前、本当に、男なのか?」
「だから……そう言ってるだろう!」
不覚だが、屈辱で目から暖かいものがこぼれだしてしまうヤクモ。同じ男に襲われそうになるなんて、ありえない!
股を開かれそうになり、その時に山賊の頭の手が、女性であれば存在してはならない部分に当たったために、頭も気が付いたのだ。
しばらく、山賊の頭は沈黙していた。
「嘘だろう。これだけの上玉だぜ。……でもこの顔と見た目ならいっそのこと……いやでもな……」
心の中の葛藤が、声にまで漏れている山賊の頭。
「ド変態野郎!」
そんな山賊の頭に、ヤクモは吠えた。
だが、山賊の頭はそれまでの下心に満ちていた顔を引っ込めると。獰猛な顔になって太い腕を一振りした。
顔を思い切りぶたれ、ヤクモの意識は暗い闇の中へと飲み込まれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それが夢の中の出来事であることに、ヤクモはすぐに気付いた。
荒廃した荒野の中で、1匹の銀色の獣が咆哮を上げた。
辺りにあるのは瓦礫と化した建物の残骸だけ。地面には、死体が転がっていた。鎧甲冑に剣や槍、盾を持った人間の死体。
それだけでなく、得体も知れない姿の魔物としか表現できないものたちの死体まで。
ヤクモの鼻には強烈な錆びた鉄の匂いがした。
思わず吐き気が出てきそうになる。夢の中であるはずなのに、とてつもなく強烈な感覚が襲ってくる。
荒野の中を一陣の風が凶風となって吹き荒れる。
廃墟と化していた建物が風によって切り刻まれる。かまいたちという現象に似ている気がしないでもないが、風が建物を切り裂くほどの力になるなど、普通ではありえない。
そんな中、その場でただ1匹生きている獣は咆哮を上げ続ける。
やがて銀色の獣の体は、光り輝き始めた。
光は狼の体から、天へと向かって数千にも及ぶ光の尾を引いた光が飛び上がる。
そして、天へと駆け上がった光が、直後大地へと向けて落下する。
とどろく爆音と、光の閃光が次々に大地に突き刺さっていった。
瓦礫で覆われていた周囲が、光の激突に飲み込まれてしまう。
目に見える範囲全てが、光で包まれたかのようだった。
やがて光が収まった時、周囲には何もなくなっていた。瓦礫も、死体の山も、そして大地も空でさえもが。
ただ、闇だけが世界に広がっている。
――どういうことだ?
と思うヤクモ。
そんなヤクモの目の前で、獣は笑い声を上げた。
ただ吠えているだけだ。しかし、その声は間違いなく笑っていると、ヤクモはなぜか直感できた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ヤクモ。しっかりしろ、ヤクモ!」
頬を叩かれていた。
「うーん」
唸り声を上げながら目を開けたヤクモは、目の前に見知った従兄弟の顔を見つけた。
「おはよう、コウ」
「おはようじゃないだろう」
「じゃあ、こんばんわ」
「……」
「こんにちはがよかった?」
――そういうことじゃないだろう。
コウの視線が刺々しいが、ヤクモはそれを平然と無視した。
さっきまで何かやたらとリアルな夢を見ていた気がするが、起きた拍子にすべて忘れてしまった。まあ、別に大したことじゃないだろうから、覚えていても仕方のないことだろう。
それより、ここはどこだろうと思って周囲を見回す。
周囲は洞窟だった。天井も床も土でできていて、明かりは松明の光がともっているだけ。もっとも、電気でつく電球や蛍光灯と違って、炎の明るさは、驚くほどに弱々しい。
火が揺らめくたびに、明かりは不規則に揺らめき、周囲の景色をはっきりと見て取ることが叶わない。
それでもよく見ていると、ここが洞窟の中と言うだけでなく、鉄格子で隔離された空間の中ということも分かった。
「牢屋?」
「それ以外に考えようがないだろう」
「つっ」
そういえば山賊に気絶させられた時にぶたれた頬が痛む。顔を歪めて、ヤクモは頬をさすろうとしたが、触れたら余計に痛そうなので、手を止めた。
「突然わけのわからない場所にいて、女の子にはキスされて、次は山賊。そして牢屋か……ファンジー小説。それも完全にラノベの世界だな」
ヤクモは現状をそう片づけて、やれやれと肩を窄める。
「ヤクモ、お前冷静すぎないか?」
「そう?あまりにも急展開すぎて、驚くのが面倒臭くなっただけかも」
「……」
ヤクモの胆が据わっている様子に、コウは無言になってしまった。
「まあ、コウの方も状況の割には落ち着いてると思うけど」
「……まあ、こういうのは初めてじゃないから……かな?」
「初めてじゃない?」
おいおい、こんな洞窟の中に閉じ込められるなんて、日本生まれ、日本育ちの人間がする経験じゃないだろう。
そう思う、ヤクモ。
「ここってたぶん、あの山賊の砦かアジトだよな。現代でもロシアの僻地には、武装した山賊がいるって話だけど……こんな経験を、コウがした?」
「正確には、今の俺じゃなくて、昔の俺が……な」
なんだか、歯切れか悪いなと思うヤクモ。
「そういえば、あの女の子にキスされた後、前世の記憶がどうとかって言ってたけど……?」
「ああ、俺は昔、魔王を倒すために勇者として……」
――ストップ
ヤクモは話している途中のコウに、手を出してストップを指示した。
軽い頭痛を覚えて、手でこめかみを抑える。
「ごめんコウ。ラノベの話なら、クラスの沢西くんとしてくれ」
「沢西?」
「『破廉恥です』で有名な、キモオタ扱いされてる沢西くん」
「そういえば、同じクラスにいたな……」
「いたなって、クラスメートの名前ぐらいちゃんと覚えてなって」
全く、クラスメートに対して友情の欠片もない奴だなと思うヤクモ。
とはいえ、ヤクモにしても、キモオタ扱いされている沢西とは、親しいわけでなく、今までに何度か話したことがある程度だ。
「なあヤクモ、俺だって認めたくはないけど、冗談抜きで言ってるんだぞ」
「勇者だったって話?」
――コクリ
頷いてみせるコウ。その顔には嘘偽りなど微塵も感じさせない真剣さだけがある。
「でも、そんな無茶苦茶な話を信じろなんて無理」
「でも、お前だってあの魔族にキスされただろう」
「魔族?」
「俺を殺し……子供の姿をしていた女だ」
そういえば、ヤクモの部屋から、見ず知らずの場所にいきなりいた時、最初に出会った少女からキスをされた。
あの時ヤクモは、全身が金縛りになって動くことができなくなってしまったことを覚えている。
「……確かにキスはされた。でも、それ以外は何もなかったぞ」
「何もなかった……俺と違って、すぐに離れることができたから、思い出さなかったのか?」
「?」
コウの言っている意味が、わからないヤクモ。
それどころか、話がかみ合っていない気がする。
だいたい、前世の記憶とか、それが勇者だったなんて話は、あまりにもつまらなすぎて笑えもしない。
安っぽい三文小説どころか、今時のラノベのテンプレにだってなりそうにない設定だ。いや、中二病ならむしろテンプレ設定の方が、今でも受けるのか?
「ゴホン、まあその話はあとでしよう。それより、ここが中世の世界と仮定してだけど、山賊に捕まった人間がどうなるか知ってる?」
これ以上埒のない話を続けても仕方ない。ヤクモは話題を転換することにした。
話題を変えられたコウは、黙ってヤクモを見るだけだ。どうも、何か考え込んでいるようで、ヤクモの話にそこまで乗り気でないようだ。
ならばと、ヤクモはコウの返事を待たずに話を続けた。
「山賊がその場で人を殺さずに、わざわざ牢屋に閉じ込めた場合にすることは、大体限られている。自分たちの手下に加えるか、それとも気まぐれで遊び半分で殺すか、あるいは奴隷としてどこかに売り払うか」
「……」
「コウも見た目はいいけど。俺の見た目なんて、美人にしか見えないから……ヤヴァイ、変なところに売られてしまうのか……!」
気絶する前に山賊の頭にやられそうになったことが、ヤクモの脳裏に蘇った。
売られるなら、つまりああいうことをされる場所なのか。
顔から血の気が引いて、フラリと倒れそうになる。そこを慌ててコウに助けられ、何とか倒れることだけは防げた。
「ヤヴァイなんてもんじゃない。娼婦なのか、いや男娼……男相手なんてヤダ!」
自分の脳裏に浮かんだ結論に、身震いするヤクモ。
冗談じゃない、俺はノーマルだ!
あんなことを二度とされてたまるか!
山賊の頭にされたことを思い出し、ヤクモの中で沸々と怒りが沸き起こってきた。
だが、あの時コウは気絶させられていて、ヤクモの身に何が起きたのかを知らない。
コウには、ヤクモが怒りに震える原因を、理解しきれていないところがある。
「どっちにしても、ここから逃げた方がいいのは確実だよな」
怒りと共にパニックに陥りかけるヤクモに、コウはそれだけ言った。
「そ、そうだな。とにかく何とかして逃げないと……」
コウの言葉に、何とか理性を取り戻すヤクモ。
そう、とにかくあんな目に遭わないためにも、ここから何としても逃げ出さなければならなかった。
あとがき
さあ、本編の読後感とか、いろんなものをぶち壊す時間を始めましょう(そう言うのが嫌な人は、あとがきを読まずにスルーすることを強く推奨します)。
作者は主役であるヤクモくんの為に、常に主役補正をつけています。
まあ、実際は主役補正でなく、ヒロイン補正ですがね~
しかし男の主人公に、主役補正のみならずヒロイン補正まで同居させてしまったせいで、辿り着く先はホモ~しかないという有様。
最近は銀髪で性別は男だけど、見た目は完全に女ってキャラを、書きたい病に侵されていました。
つまりヤクモくんは、作者の病のせいで、犠牲の羊として供されてしまった生贄なのです~