3 主役に付けてはいけない補正がついてる気がするが、そんなことは気にしない
前書き
今まではプロローグ、今回から本題に入っていきます。
(2015/7/10追記)
高校を義務教育と書いていた部分があったので修正しました。
3 主役に付けてはいけない補正がついてる気がするが、そんなことは気にしない
夜空を流れる流星の尾を一本一本丁寧に束ねたかのような銀色の髪だった。頭上から降り注ぐ陽光を受けると、銀色の髪はまるでそれ自体が光を放っているかのように輝きを持つ。
透ける肌はまるで病弱な深窓の令嬢の如き病気的な色。それは血の気を感じさせないほどに白い。
しかし、それ故にこの世のものとは思えない美貌となる。
ややほっそりとしているものの、体のバランスは取れている。17歳という成長途上にあるため、その背丈は成人のものに比べれば低いものの、女性としての色香に事欠くことは全くない。
むしろ、背が低い分だけ、大人として完成される前の美しさがある。
体に負けることなく、顔立ちもまた大人へと近づく女性の美しさがあった。
切れ長の瞳は、蒼銀色。白い肌とは対照的に、唇は赤い血の色をしていて、それが蠱惑的ですらある。
未だに幼さが完全に抜けきらないが故の可憐さを微小に留めつつも、それ以上に麗しさのある美女。
もし彼女が道を歩けば、それだけで道行く男は年齢を問うことなくほぼ確実に振り返って呆けた顔をするだろう。そして通りすがりの女性も、時として振り向く。だが、その眼にはなぜか険しい険が宿って、彼女を睨むこと間違いなし。
つまり、至高の美しさを備えた美女が、そこにはいた。
……のだが、彼女の蒼銀色には不満が浮かんでいた。顔は不機嫌さを全く隠そうともせず、忌々しい様がありありと浮かんでいる。
素体がいいのに、それを台無しにしてしまう表情だ。
ついでに余談だが、彼女の髪はショートで、肩に届くほどもない。伸ばせば生まれつきの美貌と相まって、さぞや美しいだろうに、実にもったいない。
そんな彼女がなぜ不機嫌であるかの理由だが、学校に登校した際、靴箱の蓋をあけたことが原因だ。
そこからこぼれだしてくる手紙の山。
バザバサと音を立てて、彼女の足元へ手紙の山が出来上がっていった。
「……」
これ全部、ラブレターである。
見なくても分かる。
いつものことだから、見なくてもわかる。
封筒の上に、ハートマークが描かれてるものすらある。
ここは日本のとある県の学校。今日は入学式から数えて3日目の登校日だった。
彼女の髪と瞳が黒でないのは、父方の家系が日本人ではなく、東ヨーロッパの超マイナーな国にあることが理由だ。
そのため、日本では銀色の髪と瞳は物凄く珍しく、おまけに生来の美貌のために、ラブレターの山などいつものこと。
しかも、入学式からそれほど日が立っていないということもあって、彼女宛のラブレターは新入生からのものが大半だった。
彼女の姿を見た男は、一発で彼女に惚れ込み、口説いて来たり、ラブレター攻勢をかけてくることは、ほぼ当たり前。
今だと、時期的に彼女のことを初めて知った新入生が、花に群がる蝶や蜂のように集まってくる。
靴箱から山と出てきたラブレターを、彼女はとりあえず全部手に持ってつかむ。
そのまま、近場にあるゴミ箱に容赦なくすべて放り込んだ。
「クソ野郎ども、滅びろ」
見た目に反して、その声は低かった。
――アホ、間抜け、キチガイ、ド変態ectect...
その日昼の授業までに、彼女が口にした言葉の一部がこれである。
ラブレターに続いて、授業の休み時間や昼休みに、男どもから告られたのだが、そのたびに彼女は男どもをただ振るだけでなく、罵詈雑言まで加えて罵った。
罵られて男どもが意気消沈するかと思いきや、なぜか男どもは全員嬉しそうな顔を浮かべているのだから始末に負えない。
それでも、一応振られたことは理解しているようである。
「ありがとうございました」
「ありがとうじゃねえだろう!」
振ったのに、逆に感謝までされてしまう。そんなド変態男どもに叫び返してやっても、振られた男どもはスキップをしながら去っていくのだ。
「ハー、もうこの学校嫌だ」
男どもを振り続けた後、午後からの授業がもうすぐ始まるので、教室に戻った彼女。
椅子に腰かけて、ため息をついた。
「ハハハ、相変わらず苦労してるね」
そんな彼女の前に、1人の男がいた。
麗しい姿をした彼女にふさわしいというべきなのだろうか?
黒い髪に切れ長のやや青みがかった瞳の青年だ。年は彼女と同じ17で同じクラス。スマートだが均整のとれた体顔つきで、笑えば甘いマスクで女性を魅了する。
身長が低めの彼女とは対照的に、長身。
優男然としたこの男は、クラスどころか、学校中の女子の間で、かなり有名である。
――何が有名だって?
決まってるだろう。見た目だよ、あと顔!
彼女と彼の2人がそろえば、それだけでまるで彼女と彼女のように見えるほど、つり合いが取れてしまう。
だが、笑って見せる彼に、彼女は鋭い視線を飛ばす。
「コウ、お前には俺の苦労が分からないから、そうやってヘラヘラ笑えるんだ」
彼のことをコウと呼ぶ彼女。
優男の名前は志藤光と言い、彼女とはクラスメイトだ。
「お前は女の子からだけちやほやされてるから楽でいいよな。『同性から』もてる俺の苦労など、貴様には分からんだろう!」
目の前の優男を睨みつつ、彼女はそう言った。
……麗しの美女にしか見えない銀髪の彼女……正しくは『彼』だが、その服装は、女生徒のものとは違って、詰襟のある学ランである。つまり男物だ。
胸元はきちんとボタンで閉じられており、見た目を考えればそこにあってもおかしくない胸の膨らみは全く持って皆無。絶望的なまでの絶壁である。
この胸を指さしながら「貧乳はステータスです!ぜひ僕とめくるめく世界のお付き合いを!」などという、わけのわからない告白を同性からされたことまであるのが彼だった。
見た目は、女にしか見えないが、彼は正真正銘の男。胸がないだけでなく、男でなければついてなければならないものが、間違いなくついている。
とはいえ学ランを着ていると、無駄な筋肉がついてない体のラインが強調されてしまう。そのせいで、余計に女っぽく見えてしまうという、恐ろしい現象が起こってしまっている。
「ヤクモは昔から美人だから」
などと、彼の目の前で優男のコウが朗らかに言った。
「あー、ありがたくない。全然嬉しくないぞー」
コウの言葉に、心底感情のない声で彼は返した。
ちなみに、銀髪の美女にしか見えない彼の名前は、コウ・ミスルギ。日本風に姓名の順番で名乗ると、ミスルギ・ヤクモとなる。
その後、授業のチャイムと共に、教師が入ってきて授業の時間となった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
学校の授業が終わった後、ヤクモはコウと共に下校し、家へと帰った。
2人とも同じマンションであるが、これは偶然でなく、ちゃんと理由がある。
そもそもヤクモの母とコウの父親は姉弟だった。
2人は従兄弟と言うことになる。
ただヤクモの父が東ヨーロッパ出身で、ヤクモの一家は昔はヨーロッバに住んでいた。たまに両親と共に日本へやってきたヤクモは、そこで従兄弟のコウとも遊んだりしている。
それが5年前にヤクモの一家は日本へと引っ越してきた。
引っ越し先を選ぶ際、親同士の話し合いで、「それならうちのマンションに部屋が空いてるからちょうどいいじゃない」などと言う話になり、コウが住んでいるマンションと同じマンションに、ヤクモの一家は引っ越してきたというわけだった。
そして親が姉弟なのだから、付き合いは家族ぐるみだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
入学式の日から、1か月半ほど過ぎる。
5月も終わり、もうじき6月になろうとしている。学内は中間テストの時期が近づいていた。
テスト期間になるので、放課後の部活動は中止になって、生徒は勉強に専念させられる。
とはいえ、ヤクモのいるクラスは既に高3。
目の前の中間テストより、これからの進路で頭を悩ませるクラスメイトも多かった。
「なあ、ヤクモは高校卒業したら、どこに行くつもりなんだ?」
コウに尋ねられるヤクモ。
「そうだなー、このまま就職しようかとも考えてるけど」
「えっ?高卒で就職するのか!?」
意外に思うコウ。ヤクモはこの学校では1年の頃から常に学年1位に君臨し続けてきた傑物である。というか、全国模試で満点を叩きだすことまである怪物で、超が付く秀才である。
全国模試満点、当然ながら、全国の高校生の中で、最も優れた学力の持ち主と言うことになる。
そんなヤクモには、家の事情があるわけでもないのに、進学しないのはありえない選択だった。
コウが驚くのも、無理はない。
「それか大学院にいくか迷ってるけど」
「……ハイ、大学院?大学だろう?」
「ノンノン、院の方」
何気ない表情のヤクモ。
だが、その言葉の意味が全く理解できないのはコウの方だ。
そんなコウの表情に気付いたヤクモ。
「言ってなかったっけ?俺、向こう(ヨーロッパ)ではとっくに大学出てるから。」
「……大学出てる?」
「そうそう、向こうだと飛び級があったから」
何事もないように語るヤクモだが、コウはもはや口から言葉が出てこない。
「本当は向こうで大学院に行きたかったんだけど、親から18歳になるまでは1人暮らしはダメだって反対されて。それで親の転勤に合わせて日本にきただけだし」
「なら、なんで高校に通ってるんだ?」
「向こうだとクラスメートが皆俺より年上だったから、母さんが日本の高校で同い年の友達を作ったらいいだろうって」
「あ、あのー、ヤクモさん。あなたどれだけハイスペックなんですか?」
「?」
性別に合っていないが、それでも見た目は眉目秀麗な上に、帰国子女。その上飛び級で大学をすでに出ているとか、もはやハイスペックという次元で語っていい存在でない。
唖然としているコウに、しかしヤクモはあっけらかんとしている。
「あとはアメリカの大学院も考えてるんだけど、大学でよければコウも一緒にアメリカいく?」
「……無理無理。俺、留学できるほど頭よくないぞ」
「そっか、残念だねー」
進学の悩みを、この従兄弟とは共有できない。
この時はっきりと理解したコウだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、その日の学校からの帰り道。
部活は中止で、家が同じマンションなので、帰り道を一緒に歩いているコウとヤクモ。
2人とも美男美女(ヤクモは女にしか見えない)に見えるものだから、一緒に歩いていると、ただの恋人にしか見えない。
手まで握って歩こうものなら、完全にカップル以外の何者でもないが、従兄弟同時だからと言ってそんなことなどしない。
ただ、スマホを片手に道をすれ違った若いサラリーマン風の男が、視線をわずかに2人の方に向けてつぶやいた。
「リア充破ぜろ」
「男だよ、俺は」
見た目の女らしさに対して、睨みながら低音で返すヤクモ、その言葉を聞いた瞬間、サラリーマン男の顔が引きつった。
何も言い返しはしなかったが、その場からそそくさと足早に逃げていく。
「ったく、どいつもこいつも」
あのサラリーマンに限らず、性別を勘違いする男どものことを口の中で罵るヤクモ。
「なあ、ヤクモ。そんなに嫌なら別々に帰るか?」
ヤクモは女に勘違いされるだけでなく、今の状況がカップルにしか見えていない状態が嫌なのだろうと思うコウ。
だが、そんなコウに対して、ヤクモは笑いながら返した。
「いいのいいの。コウが一緒にいてくれるとすごく助かるから」
「そうなのか?」
「もちろん。何しろ1人で歩いてると、たまにキチガイ男から口説かれたり……後ろからいきなり抱きしめられたのは……悪夢だった……」
顔が青ざめるヤクモ。
「た、大変なんだな……」
コクリと頭を縦に動かすだけで返事をするヤクモ。
この従兄弟の見た目は確かに強烈だと思うコウだが、それにしてもそこまでのことがあったのかと、少し気の毒になる。
「近くに男を連れておけば、とりあえずナンパされなくて済むから……」
なんだか凄まじい話である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなことを話しながら家へと戻った後、ヤクモの部屋にコウがやってきた。
試験までの間、ヤクモがコウの勉強を見るのは、テスト期間中のいつもの光景だ。
「ああ、ここはこうやって、こうして解けば簡単」
「なるほど、さすがヤクモ~」
大卒は伊達ではない。数学の難問なんて楽々と解いてしまうヤクモ。
そんな彼に感謝せずにはいられないコウ。教師役としてこれほど頼もしい存在は他にいない。
一方、勉強を教えているヤクモの方は、最初国語の教科書をパラパラとめくり、ブツブツと暗記するように言葉を紡いでいた。
「日本語って、難しいんだよな。特に古典なんてやる意味が分からないし」
「難しいって……この前の全国模試で200点満点中196点取ってただろう」
「だから、難しいんだよ」
難しいの次元が違いすぎて、コウは両手を上げて降参だ。
「まあ、イタリアだと古代ローマ史が必須科目なのと同じかな」
もう、言っている意味が全然分かりません。
コウは黙っているしかなかった。
この後、コウは分からないところがあればヤクモに尋ね、ヤクモはそれに答えてくれる。
それ以外では、ヤクモの方は英字で書かれた本を、辞書もなしで読んでいた。
ヤクモが日本で生活するようになったのは5年前だから、それ以前は英語圏で生活していたので、辞書などなくても読んでいくことができるのだ。
「あ、言っておくけどこれ、英語でなくギリシャ語だから」
訂正、英語以外の言葉でもヤクモはスラスラ読めるほどの頭脳の持ち主だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
最近は雨が続いて寒いので、温かいものでも大丈夫。
白身魚のムニエルに、付け合わせは蒸したニンジンとポテト。
色彩に緑色も欲しいが、葉物野菜はなし。ブロッコリーもアスパラガスもないので、ハーブをパラりと振りかける。
あとはパンが並んで……
テスト勉強をしていたその日は、ヤクモもコウの両親も帰りが遅いということで、ヤクモが台所に立って夕食を料理した。
どうせ食べるだけなのだから、インスタント食品か冷凍食品。それが嫌ならコンビニか総菜屋に行けば済む。なのにヤクモは、わざわざ冷蔵庫の中にあった食材から、その日のメニューを考えだして、手作りで作ってしまった。
「コウはちゃんと勉強に専念してろよー」
「あなたは僕の母ですか?」
そう言いたくなってしまう。
ただ、台所に立つヤクモの手際がいい。
おまけに完成した料理の味は絶品だった。
「ヤクモ、お前本当にいいお嫁さんになれるぞ」
「嫌だねー、女は家で料理していればいいなんて考え方は。男でも料理くらいできて当たり前だろう」
そう言い、フォークとナイフを使ってムニエルを口に運ぶヤクモ。
一方コウの方は箸を使って食べている。
単に生まれ育った国の違いで、食べるときに使いやすい道具が違うだけだが、それでもヤクモのフォークとナイフの手さばきは見事だ。
見た目だけでなく、中身の女子力までも高いときてる。
「お前、絶対生まれてくる性別間違えてるぞ」
「うるせー」
従兄弟にまで言われ、顔を膨らませるヤクモだった。
食事の後、後片付けはコウが担当したが、その横ではコウが洗った皿を布巾で拭いていくヤクモ。
これだけ見ると、完全に新婚夫婦にしか見えない。
……そんな食事の後、彼らは再び勉強の続きに戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
勉強の続きに戻った後、突然周囲が暗くなった。
「停電か?」
「しばらくすればすぐにつくだろう」
突然の停電だが、2人は特に慌てはしなかった。
既に時刻は9時を過ぎようとしている。電気が失われたことで周囲は真っ暗闇で、周りに何があるのかも見て取れない。
だが、しばらく待っても明かりが再びつく様子はない。
「長いな……」
「母さんがアロマで蝋燭を使ってたから、それでも持ってくるかな」
そう言い、その場から立ち上がろうとしたヤクモ。だが、立ち上がった時に膝を何かにぶつけた。
「うわっ」
「おわっ」
倒れるヤクモの声に、コウの悲鳴まで続いた。
あとがき
さあ、本編の読後感とか、いろんなものをぶち壊す時間を始めましょう(そう言うのが嫌な人は、あとがきを読まずにスルーすることを強く推奨します)。
さて、この話ですが、作者がスランプに陥って、いろいろな話を書いてはすぐに没にしていくという、物書きにとっての地獄の期間を過ごしているときに書いた話です。
「もうだめだ。お終いだ。私の書く力は尽きた。……また来年にならないと書けないのか?」
だいたい、1年か2年おきでないと小説を書けない奇病に侵されている作者です。
もはや私の今年書く力は終わってしまったのだとあきらめていました。
ただ、そんな中で破れかぶれになってプロットも設定もすべて考えず、やけくそになってこの話を書きました。
何も考えずに書き出したものだから、好き勝手なことを入れまくって書きました。
するとなぜかスランプから脱出できました。
ワッホ~イ、これでまた新しい話を書いてけるぞ~
(……この前まで書いてたラーベラムの世界はどうなるか知らね~)
そんなわけで、行き当たりばったり・適当・いい加減・その時の思い付きによってこの話は作られていってます。
一体どんな話になっていってしまうのか……とりあえず、このあとがきを書いてる時点で19話まで執筆しているので(推敲作業はこれからだけど~)、それは読んでみてのお楽しみと言うことで~