17 戦いはなおも続き、かつての勇者は因縁の時を再び迎える
前書き
超戦闘シーン。
コウが生きていることを信じ、助けに向かうヤクモ。
結局、荷車の中で荷物に潰されている男は無視して、森の中へ入ることを優先した。
「あとで帰ってきたときに助けてあげましょう」
男には悪いが、ディーヴァも先に進むことを優先して、男のことは放置することにした。
道を外れて、森へ入る。
馬に乗ったままでは、木々の枝にぶつかってしまう。ディーヴァは馬に括り付けていた武器を下ろし、それらを携帯して進むことにする。
かなりの重量になるので、戦闘になった際に最も必要になる武器は自身で携帯し、残りはヤクモに背負わせる。
「まったく。バカな男1人連れ戻すはずが、とんでもない大事になったわね」
森の中を歩きながら、ぼやくディーヴァ。
先ほどの殺戮の現場は精神的に堪えるものがあり、おまけにガーゴイルとの戦いで魔弾も消費した。
ただ働きで済ませるには、精神的にも金銭的にもひどい出費だ。
――くたびれた精神を癒すために、ヤクモの唇を奪えばいい。
これだけしているのだから、ここらでご褒美の一つぐらいあっていもいいわよね。
普段であればそう考えないでもないディーヴァだったが、森の中に魔族が潜んでいる可能性が高い。警戒を怠るわけにはいかなかった。
それに今のヤクモは、いつもと違って顔つきが鋭く、そして深刻だった。
(これはこれで、グッとくるものがあるんだけどね)
唇を奪わなくても、下心は全くなくならない女である。
なお、森の探索だが、生き延びた人間が通った場所は、地面と草が踏まれ、木の枝などが折れている。足跡も残っているから、その後を追跡していけばよかった。
とはいえ、あの場に転がっていた死体の全ては確認していない。
もしもコウが既に死んでいるなら、この追跡行は完全に無意味なものとなってしまう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ノインの街周辺に魔族は出没するものの、ゴブリンやディアウルフといった、魔族の中では最下級のものばかりだった。群れで行動されれば厄介な相手だが、単体ではそこまで危険な相手でない。
もちろん危険でないというのは、あくまでも戦闘経験がある人間にとっての話で、武器を持たない一般人にとって危険な相手であることに変わりなかった。
以前、依頼の中でコウが接触したワーウルフは、それらに比べればはるかに危険で強い魔物だった。だが、あれほどの強さを持つ魔物の出没は滅多になく、基本的にノインの街周辺の魔物は、そこまで強くない。
そして山賊討伐に向かう部隊は、ギルド員まで合わせれば80人になる部隊だった。
武装した人間がこれだけ集まれば、魔物でも山賊でも手を出そうなどと思うはずがない。勝てないと分かっている相手に対して、戦闘を仕掛ける馬鹿は、山賊でも魔族でも存在しない。
ゲームと違い、戦いは本物の命をかけている。負けるわけには、絶対に行かないのだ。
だが、その人数が油断につながったのかもしれない。
時間は遡る。
80人からなる山賊討伐部隊は、横に斜面、彼方には森林が見える道を行軍している最中、突如空から攻撃を受けた。
炎と氷、さらに雷撃などの魔法攻撃が降り注ぎ、部隊の各所で悲鳴と叫び声が起った。
「ああああっ、俺の、俺の腕が!」
「誰か助けてくれ!」
「一体、何が起きたんだ!」
山賊討伐に向かう部隊は、誰もが攻撃されるなどと考えていなかった。突如急襲された部隊は、敵に備える前に混乱に陥った。
「指揮官が負傷した。早く回復魔法を」
特に状況が悪化した原因は、最初の攻撃で部隊の指揮官が負傷したこと。
部隊全体に指示を出す人間が負傷したことで、80人の人間を統率できる人間がいなくなった。
「空だ!空にガーゴイルの群がいるぞ!」
そんな混乱の中、部隊の誰かが空を指さしながら叫んだ。
一同は、反射的に空を見た。
空には雲のごとく飛んでいるガーゴイルの群。100はくだらない数はいた。それが翼をはためかせながら、次の魔法攻撃を一斉に仕掛けてきた。
「いかん、散開しろ!」
「陣形を組め!」
「防御だ!」
「物陰に隠れろ!」
「銃兵、今すぐ撃て!」
部隊の指揮官が指示を出せない中、その下で小隊を指揮する小隊長たちがバラバラの命令を下す。
統一を欠いた命令のせいで、80人の人間は余計に混乱し、部隊としてまとまった対応ができないまま、ガーゴイルの攻撃を一方的に受ける羽目になった。
一方的な攻撃にさらされ、誰もが浮足立った。
「森だ!森へ逃げろ。でないと殺されるぞ!」
誰かが叫び、道から外れた斜面の先にある森へ向かって、弾かれたように何人かが駆けはじめる。
「バカ者、残って戦え!」
しかし、逃げようとする者たちに向かって、責任感の強い小隊長の1人のが立ちはだかって逃走を止めようとした。
「やかましい、そこをどけ!」
小隊長に向かって、逃亡しようとした者の1人が叫ぶ。だが、叫んだ者は次の瞬間、小隊長が鞘から抜き放った剣で、切り殺された。
「よいか、敵前逃亡は死罪である。死にたくなければ踏みとどまって……」
小隊長は逃走を許すまじと熱弁を振るおうとしたが、その声は途中で途切れてしまう。
今度は小隊長の方が、逃走を試みようとした兵士の1人によって斬られてしまったのだ。
「へっ、へへっ、へへへ」
小隊長を殺した兵士は、訳の分からない笑いを浮かべていた。
通常でない状況が、兵士の精神をおかしくしたことは確かだ。だが、味方同士の殺し合いは、周囲にいた人間のパニックをより補強する役割しか果たさなかった。
その場に踏みとどまろうとしていた者たちも、既に逃走を決意していた者たちも、これ以上の戦いなど放棄して、この場から森へ向かって敗走した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
森の中であれば、生い茂る木々が空からの視界を遮って遮蔽物となる。
空から遮るものが何もない路上に比べれば、空にいるガーゴイルから隠れるのに都合がよかった。木々は空からのガーゴイルの視界を遮るだけでなく、飛行を妨げる効果もある。
だが、ガーゴイルの群は人間たちを、そのまま逃がすつもりがないらしい。
木々が邪魔になって飛ぶことができないため、わざわざ地上に降り立って、ガーゴイルは人間たちを追跡してきた。
空を飛ぶことができる有利さを捨ててまでの追撃である。
とはいえ、人間の側は最初の奇襲で一方な被害を受けている。おまけに組織だった敗走でなかったため、今では生き残った人間たちが、森の中をバラバラになって逃げている状態だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんな中、ガーゴイルの一体に、鋭くとがった氷の刃が命中する。
頭の真ん中を貫いた氷の一撃は、ガーゴイルに自らが死んだことを悟らせることすらなかった。
魔術による攻撃だ。
「はあっ、はあっ」
だが、氷を放った側の人間は肩で息をつき、ひどく疲弊していた。
――これで何体目だろう。20体は倒したはずだけど……
この世界に来て青くなった髪は、既に魔族の返り血でどす黒い色に染まっていた。
肩で息をし、疲労から背中を木に預けて、なんとか倒れないようにする。
片手に持つ剣で、これまでにガーゴイルを何体も仕留めてきた。だが、4、5体倒した辺りで、刃にかなりの寮の血と油がこびり付いた。油のせいで刃の切れ味は失われ、この状態ではとてもでないが、斬撃武器として使うことはできない。
ナイフやショートソードに比べれば、今の剣は十分に心強い武器だ。それでもかつて手にしていた聖剣のことを思えば、ここまで早く切れ味を失ってしまった剣のことが恨めしい。
……といってもそれは、この人物が直接経験したことでなく、その前世である勇者シリウスと言う人間の記憶だった。
コウは、剣が敵の油で切れ味を失った後も、鈍器として用いることで、急場をなんとかしのいでいた。
鈍器となった剣でガーゴイルの体を攻撃しても、人間より耐久力の勝るガーゴイルには効果が薄い。剣が切れなくなったことを悟った時点で、コウは前世のシリウスの記憶と経験に基づいて、すぐに戦い方を変えた。
切れないのであれば、大回りに剣を振るって威力をつけ、相手の頭に強打させることで脳を直接揺さぶってやる。
うまくいけばそのまま脳震盪。そこまで行かなくても、威力の乗った一撃は、相手をふらつかせるのに十分すぎる効果がある。
あとは、魔法を用いることで、ガーゴイルを確実に仕留めることができる。
そうして、20体以上のガーゴイルを倒し続けてきた。
だが、一方的に戦ってこれたわけでない。
逃げる途中で、依頼でよくパーティーを組んでいた仲間たちとは、すでにはぐれてしまって1人だ。
そして戦いの中で、ガーゴイルの鋭い爪の反撃を受けて、背中を切られている。
直接目で確認できないので、傷の深さは分からないが、まだ自分が死んでいないということは、そこまで深い傷でないのかもしれない。
昔であれば……前世のシリウスであれば、もっとうまく戦うことができたはずだ。
今のコウの体は、ギルドの討伐依頼をこなすことで、いくらか強くなっている。だが、シリウスと比べれば、いまだに大きな実力の差がある。
戦いで体力を消耗する。さらに魔法とて精神への消耗があるために、無尽蔵に打ち続けることはできない。
――グッと唇を噛み締めた。
フィリアの村の住人達への復讐に突き動かれさて、山賊討伐の依頼を受けたはずだった。なのに復讐どころか、突然の魔族の襲撃で、今やこの様である。
「死んでやるものか。まだ、このぐらいでは死なない」
状況が危機的だった。
それでも、コウは木に預けていた体に力を込め、その場から歩く。
まだ足も動く、先へ進むことができる。
ならば、必ず生き残ってみせる。
――そして、魔族どもを一匹残らず倒す。
戦いで消耗したコウは、コウではなくシリウスの記憶と意識によって動かされていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「みーつけた!」
疲弊したコウの背後で、声がした。
いまだにガーゴイルと人間の殺しがされているだろう森の中で、ひどく不釣り合いな幼い少女の声。
その声を聴いた瞬間、コウの意識の中で怒りと、そして恐怖が同時にやってきた。
だが、逡巡はしなかった。
振り向きざま、高速の詠唱によって紡ぎ出した風の刃を指で弾き、背後にいた相手に向けて飛ばす。
――ギャッ!
悲鳴が上がった。
だが、それはコウが狙った相手でなく、ガーゴイルの断末魔の声だった。
風の刃に切られたガーゴイルが、地面に崩れ落ちる。
そしてその向こうに、1人のあどけない少女が立っていた。
黒いゴスロリドレスに、同じ色をした漆黒の髪。それとは対照的に肌は恐ろしく白く、まるで死者に施された死に化粧のよう。
そんな白い色とは、またしても対極的な、血のように赤い真紅の唇。
「おにいちゃん」
少女は真紅の唇を動かし、目の前のガーゴイルの死などまるで関係ないようにしゃべる。
コウとヤクモがこの世界へやってきたとき、目の前にいた少女。
そして人間の姿をした、人間とは異なる魔性の存在。
――シリウスと呼ばた勇者を殺した魔族。
「お前は……」
コウは剣を握る。だが、その手は震え、歯はガチガチと音を立てる。
自分では止めることのできない恐怖に襲われた。
「もしかしてお兄ちゃん、私のことが怖いのかしら?ねえ、皆はどう思う?」
コウの震える様を見て、少女が周囲にいるガーゴイルに尋ねる。
少女の傍には先ほど殺したガーゴイル以外に、まだ3体いた。
――ギシシシシッ
ガーゴイルたちは耳障りな声を立てるが、それが笑い声であることがコウにも分かる。
人間を見下し、家畜以下の存在として扱い、いたぶって殺すためだけの存在として、人間を見ている魔族。
「うおおおおおっ!」
コウは震える自分を無視した。
ただ、目の前にいる魔族どもを倒す。理性ではなく本能と狂気の叫びをあげて、魔族たちに突進した。
「相手をしてあげて」
少女の命令。
ガーゴイルたちは、迫ってくるコウの前に立ちはだかる。
鋭い爪を構えながら、呪文を詠唱し、戦いの体制に移る。
だが、ガーゴイルの行動よりも早く、コウは大ぶりの剣の一撃で、ガーゴイルの頭を殴りつける。
感情に支配された剣の一撃に力の加減など存在せず、グシャリと音を立ててガーゴイルの頭を頭蓋骨ごと歪ませた。
頭蓋骨に守られた脳にまで、鈍器と化した剣は届き、ガーゴイルは崩れ落ちる。
だが、コウに向かって別のガーゴイルの放った火炎魔法が迫った。
それを剣を振るって、コウはかき消そうとした。
だが、今コウが手にしているのは、かつてシリウスが持っていた聖剣ではなかった。
「ぐわああっ!」
聖剣であれば、魔力によって放たれた炎を無力化できた。だが、ただの剣ではそのようなことはできない。コウの全身は炎に包まれた。
全身を巡る灼熱に耐えられず、コウは炎を纏ったまま地面へと転がる。なんとか、火を消そうと地面を転がる。
「あら?勇者様は随分弱くなっちゃったのね」
――パチンッ
少女が指を弾くと、コウの全身を覆っていた炎が掻き消えた。
ガーゴイルなどとは桁違いの魔力による力。
炎が失われても、いまだに体に熱を感じる。だが、それでもコウは、地面を足で踏みしめ、何とか立ち上がる。
今までの戦いの疲労で、満足に戦える余力はない。
それどころか、少女と自分の間にある圧倒的な力の差を、まざまざと今も見せつけられた。
――あの時でさえ、勝つことができなかった。違う、殺された。
フラフラになりながら立ち上がったコウに、再び恐怖が襲ってくる。
噛み合わせることのできない歯が再びカチカチと音を立て鳴り、恐怖を感じて体がすくみそうになる。
それでも、なんとか少女へと視線を向け、睨み付ける。
――絶対に、絶対に負けるわけにはいかない。
「まるで子犬のような瞳」
だが、コウの思いと反して、その目には怒りも戦意もなかった。
「あなた、まるで負け犬みたいに弱々しい目をしている」
「そんな・・・・・・・はずはない」
負ける気などない。なのに、少女に指摘され、全身に震えを感じる。
――ギヒヒヒヒッ
残った2体のガーゴイルは、再び耳障りな声で笑い声を上げる。
「怖いなら逃げてもいいのよ。もっとも、あなたは私のお姉さまと一緒にいた。だから、楽に死なせてあげない」
少女が宣告すると、それを合図と受け取った2体のガーゴイルが進み出た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃、ヤクモとディーヴァの2人は、森の中で時折遭遇するガーゴイルを倒しつつ、コウの探索を続けていた。
と言っても、ガーゴイルと戦うのはディーヴァだけ。ヤクモは魔銃を持っていても、戦闘の素人であり、戦闘に加わったら戦力になるどころか、足を引っ張るだけのお荷物にしかならない。
もっとも、ディーヴァは討伐依頼をこなす際に、基本的に1人で活動しているため、1人での戦闘にそれほど困ることはなかった。
「とはいえ、大赤字ね」
「街へ戻ったら、ちゃんと弾薬分以上の報酬は出すから」
魔弾は値が張る。ヤクモの体だけでは、とても採算が合わない。
――いや、今は戦いの危険が常にある。そういうことを深々と考えている余裕はない。
「当たり前よ。ではないこんな危険なことやってられないわ」
現にガーゴイルは森のどこから出てくるかわからない。
もともと空を飛ぶガーゴイルが、わざわざ地面に降り立ってまで人間を追跡しているのは奇妙なものだ。空からの魔法攻撃で、一方的に地上の人間を攻撃できるのが、ガーゴイルの持つ最大の強み(アドバンテージ)だというのに、それを捨て去っている。
路上に転がっていた死体は人間のものだけだったが、森の中に入ってからは、人間だけでなく、ガーゴイルの死体も所々に転がっている。
地上に降り立ったがゆえに、ガーゴイル側も被害が出ている証拠だ。
ここまで人間を執拗に追跡するからには、何か不気味な意図を感じてしまう。
そんな中、たまに生き残った人間に遭遇することがある。もっとも彼らは、魔物から必死で逃げてきたのであり、現在も敗走の途上である。
コウの行き先を知っている人間などいない。
「ヤクモ、もうしばらくは付き合うけど、これ以上探してもコウを見つけられないときは、分かってるわよね」
「……うん」
ディーヴァの言葉に、ヤクモは静かに頷いた。
それからしばらくして、彼らは生きている人間を2人見つけた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヤクモと、ディーヴァが発見したとき、生き残っている人間2人の周囲には、4体のガーゴイルの死体が転がっていた。
そして1人は長身だが、全身がどす黒い血に塗れている。これまでの戦闘で、ガーゴイルの返り血を浴び、そうなっているのだろう。
それにしても、全身が黒く染まりきっていて不気味だ。
ただ、背丈がちょうどコウと同じぐらいの高さをしている。
しかし、それ以上に不気味なのは、もう1人の方。
たった5、6歳にしか見えない、あどけない姿の少女だった。
ディーヴァは、無言でライフル型の魔銃を少女へと向ける。本能が、そうさせることを命じていた。
一方、ヤクモとディーヴァの視線の先では、全身返り血に染まったコウと、魔族の少女がいた。
あの後コウは全身に恐怖を感じながらも、それでも2体のガーゴイルをなんとか倒すことに成功していた。もっとも、コウが死にそうになるたびに、少女が何かしらの手を使って紙一重で生き残らせる。
そうされたことで、ガーゴイルをかろうじて倒すことができただけだ。
とはいえ、戦いの中でガーゴイルの鋭い爪を受け、左腕を刺された。そのせいで腕は動かなくなり、深い傷口からは、血が流れ出している。もっとも、全身が魔族の血で染まっているため、自分の血がどの程度流れ出しているのかなど分からない。
そしてこれまでの戦いで、もう立っているのも限界だった。
グラリと体が揺れ、コウは地面に倒れそうになった。
なんとか手を突き出して、顔面から地面へ倒れるのは阻止する。だが、片膝をついて、跪いた格好となってしまう。なんとか、目の前にいる少女の魔族を視界にとらえようと、顔を上げた。
目の前には、ちょうどコウの顔のある高さと同じ位置に、少女の顔があった。
至近距離に迫られていることさえ、気付かなかった。
だが、体を支えるのでやっとのコウには、少女に対してそれ以上反応することができない。
少女は無感動な表情で、目の前にいるコウの首に手を伸ばした。
「ぐうっ」
コウの首を締め上げる。
「あの時もこうしてあげたのを覚えてる。あの時みたいに、また私に殺されるのね」
「くたばれ……うぐっ」
コウの抵抗に、少女はさらに首を絞める力を強くする。
気道を塞がれ、言葉さえ出せなくなるコウ。前世での最後の記憶と同じ状態に叩き込まれた。それでも、こんなところで死ぬわけにはいかない。
だが、死を抗おうとするコウの意識に反して、体は動いてくれない。
次の瞬間、銃声がとどろくと共に、少女の傍で光の粒子が散乱した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少女に向けて、ディーヴァは魔弾を撃った。
「ちょっと対魔弾が全く効いてないわよ」
魔族に対して非常に高い殺傷能力を持つ特別な魔弾。
命中すれば光の槍が相手を貫くはずなのに、槍ができるどころか、光が散乱しただけで終わってしまった。
つまり、完全に無力化されてしまった。
通常の魔弾に比べてさらに値が張るため、普段使うことのない。そんな魔弾を使ったというのにだ。
ディーヴァは、忌々しげに思いながらも、相手に見つかるまいとすぐに隠れている場所を動こうとした。
「きゃあっ!」
直後、ディーヴァは体の全身が痺れ、悲鳴を上げた。
体が言うことをきかなくなり、地面に倒れて身動きが取れなくなる。視界がまともに定まらなくなり、周囲の景色がぼんやりとしか見えなくなった。
「ディーヴァ!」
雷撃だ。
ディーヴァのいる場所から離れた場所で、戦いの様子を見守るだけだったヤクモは、ディーヴァの体が雷撃によって痺れているのを見て取った。
そのまま動けなくなったディーヴァを、見捨てていられない。
ヤクモはハンドガンを向け、照準を少女の方へ向けようとした。
「お姉さま!」
だが、照準が定まるよりも早く、少女の声がした。
この世界に来た時に、目の前にいた少女。
そのことにヤクモは気づいたが、気付くと同時に、ハンドガンの照準を少女に向けるのをやめた。
――あれ相手には、こんなおもちゃでは意味がない。
彼の中にあるが、ヤクモという個人の記憶ではない、前世の記憶がそれを告げた。
ヤクモはハンドガンを捨てて、少女の前に全身を表す。
そして、少女の方へ向かって歩き始める。
「ヤクモ、やめなさい……」
途中、地面に倒れているディーヴァが警告した。
全身が感電しているために、舌が回りきらないようで、言葉は所々不明瞭になっている。
「ディーヴァ、いいんだよ」
しかし、ヤクモはそれだけ返して、少女の方へと進んでいった。
進みながら、分かる。
少女が首を絞めている相手が、コウなのだと。
まだ胸は動いているから、生きている。
――よかった。
そう思うが、顔にその感情を浮かべないようにする。
「お姉さま、会いたかったです」
「そう」
やがて少女とヤクモの2人は、わずか3歩のほどの距離で対面した。
首を絞められているコウは、薄目を開けて、ヤクモに向けて僅かに首を横に振っている。
――逃げろ
と、言っている。
だが、ヤクモはコウの意思にも、ディーヴァの意思にも従わなかった。
ヤクモは、目の前にいる少女と同じ視線になるため、その前で膝を折った。
「久しぶりだ、俺の僕」
ヤクモは自分の唇を、少女の唇と重ね合わせた。
あとがき
さあ、本編の読後感とか、いろんなものをぶち壊す時間を始めましょう(そう言うのが嫌な人は、あとがきを読まずにスルーすることを強く推奨します)。
いやー、戦闘シーンはドキドキワクワク、ワクテカが止まりませんね。
書いてるときは、ただ、ただ、辛かったです……(涙)
場がシリアスすぎて、書いてる私の精神的余裕は0ですよ~
とはいえ読み返す段階になると、書いていた時の苦労をきれいさっぱり忘れてたので、すごい楽でした。
それにしてもピンチな状況は、ワクワクしますね。
SMみたいで。(をぃ!)




