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12 こうしてヤクモは、日々日常から外れた危険な世界へと足を踏みいれていく……

前書き



 唐突にファンタジーを捨てて、SFに走り始めた作者がいるんだって。

 ダレノコトダローナー?

 7つのボールを集めて、どんな願い事でも3つの叶えてくれる(ドラゴン)が登場する、国民的な漫画原作のアニメが日本にはある。

 その人気は日本だけにとどまらず、世界のあちこちでも評価されている。

 ただその中で繰り広げられる戦いは、物語が進んでいくことで果てしなくインフレしていき、最終的には惑星の地面が閃光系の技一つで吹き飛び始めるほどだ。


 そして、昭和の時代を中心に、日本で最も人を博した怪獣映画がある。

 こちらは海への核廃棄物の不法投棄が原因で、海底の生物がそれまでにない超進化を遂て、怪獣となってしまう。口から炎というよりは光線を吹き出し、その一撃で日本のビルが次々と破壊されていく。

 恐竜は登場するたびに日本の名所にやってきて、街のシンボルである巨大建造物を片っ端から壊していく。それは昭和の高度経済成長時代の日本の姿を反映していて、とにかく豪勢に破壊し尽していく。




 ヤクモはそんな有名どころの物語を思い出していた。

 そして、目の前で起きている出来事を、『宇宙版ドラゴンゴジー』と名付けることにした。

(なぜ、ドラゴンゴジーかだって?もちろん素の名前を晒したら、著作権的にまずいからに決まっている。もっとも、こんな超ド辺境の小説で、著作権問題が起きるなんてことはありえないが……)



 さて、ヤクモの目の前で起きていることだが、どうせこれは夢の中の出来事だ。

 宇宙空間を舞台にして、2体の怪獣としか表現できない化け物が争っている。だが、その強さのインフレレベルがおかしすぎる。

 怪獣の1体が口から吐き出した閃光弾が、宇宙空間にして存在している惑星に命中した。その一撃は星を貫通してしまう。

 閃光弾の一撃は星の核を貫き、重力の中心である核を失った惑星は、それからほどなくして、崩れるようにして自壊していく。

 たった一撃で、星が滅び去る。


 だが、一つの星の滅亡など、宇宙空間で対峙する2体の怪物にとって、歯牙にかけないことだった。


 星の滅亡をよそにして、怪獣は再度閃光弾を口から放つ。それも今度は何十という数をだ。

 その閃光弾を、もう1体の獣は飛びながら回避していく。

 ただし、回避した閃光弾のいくつかは、そのまま超高速で宇宙空間を飛び、怪物たちが戦っている宇宙空間にある、別の星へ命中していく。

 命中した閃光弾は、またもや星をやすやすと貫通。

 星の核を貫通することはなかったが、惑星の表面は閃光弾が貫通したことでマントルにまで亀裂が生じる。そこから惑星内部の炎が吹き荒れ、それが惑星の成層圏を超えて、宇宙空間にまで飛び上がって盛大に燃え上る。

 まるで星が、血が噴き出しているかのような光景だ。

 これほどの傷を受ければ、惑星がはたして無事で済むのかわからない。


 だが、そんなことも関係なく、怪獣たちの戦いは継続する。

 次々に繰り出される閃光弾に、もう1体の怪獣はただ回避しているだけに見えたが、回避できない一発が怪獣に向かっていった。

 だが、怪獣は笑った。

 閃光弾一撃を、腕を振ることで軌道を逸らして吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた閃光弾は、爆発することなく、あらぬ方向へと飛び去る。

 ただし、飛んで行った先には、赤々と燃え上がる恒星が存在した。

 今までに閃光弾が貫通した惑星などとは、恒星の大きさはけた違いだ。

 しかし、その恒星ですら閃光弾は貫通してしまう。


 ……閃光弾が貫通した恒星は、その後恒星内部の炎の流れが急変し、赤く燃え上がるコロナが恒星の重力圏を超えて、吹き荒れだす。

 恒星内部で重力の力にひずみが生じる。恒星は突如として膨張を始め、体積を増していく。このままではやがて恒星は巨大な力を留めきれずに、爆発してしまう。

 そんな現象が起こりそうになる中、先ほど閃光弾を弾いた怪物は、恒星の中へと突っ込んでいった。


 この恒星は、地球が属している太陽系に存在する太陽と同じものではない。

 ただ、太陽の場合はその表面温度は6000度になり、さらに周囲にあるコロナと呼ばれるガス層の温度は100万度以上になるとされる。

 恒星の本体より、その周辺部分の方がさらに高温になっている原因は今のところ不明で、はっきりとした学説が確立されていない。

 だが、その温度が超高温であり、地球で生きる人間を筆頭とした有機生命体はもちろん、金属であっても一瞬で溶け去り、蒸発し気化してしまう温度だ。


 そんな中に飛び込めば、宇宙怪獣とて生きていられるはずがない。

 だが、怪獣が恒星の中へと飛び込んだ後、それまで膨張をつづけ、爆発しようとしていた恒星の拡張が止まる。

 それどころか、時間の経過と共に恒星が逆に小さく縮小されていく。


 恒星の中で、外へと向かおうとする力が押しとどめられ、逆に恒星を潰そうとする、内側への強大な重力が発生する。

 その力は時間の経過と共に、幾何級数的に増幅される。ひたすら強力になっていく重力の力は、恒星から放たれる光や熱さえも捕えるようになる。

 恒星の外からその光景を見れば、恒星の光は失われ、そこにはただ黒い空間だけが広がっているように見える。

 だが、その暗い空間の中では、恒星が圧縮されていき、やがて巨大な重力が恒星の核すらも押しつぶす。宇宙空間に存在した恒星だったものは、強大な重力の前に圧潰し、一つの点となった。

 ただし、その点は超重力の井戸であり、ブラックホールと呼ばれる存在に成り果てていた。

 ブラックホールの周囲では、傍を通過する星の光が歪曲されてしまうほどの力が加わる。


 このブラックホールは、先ほど恒星の中に飛び込んだ宇宙怪獣の口の前で静止していた。

 怪獣は、口の前にあるブラックホールの力を、一つの方向に向けて解放した。

 圧縮された恒星の重力の力が、ただ1点に解き放たれる。

 それは、先ほどから戦っていたもう1体の怪獣へ向けて放たれた一撃となった。


 光の速度を超える超重力波(グラビティーヴェーブ)が発生する。重力は光さえも歪めて直進し、怪獣を飲み込んだ。

 だが、強力な重力波は怪獣を飲み込んだだけでは収まらず、恒星系の外へと飛び出し、その先に存在している星や恒星にまで襲い掛かる。

 直線上にあった惑星と恒星……宇宙を漂うさまざまな恒星間物質が、重力波によって押し潰されていった。


 宇宙を舞台にした、次元の違いすぎる戦いだった。


 だが、星々を潰してしまう攻撃の直撃を受けながら、攻撃を受けた怪獣はいまだに生存していた。

 先ほどまでに比べれば、明らかにダメージを受けている。

 だが、それでも未だに戦い続けることが可能な生命力を残している。



「ここまで来ると宇宙大怪獣の戦いと言うより、三文SF小説じゃないか?」

 ヤクモは宇宙怪獣たちの戦いの凄さより、その次元の違いをバカバカしく思った。

 ――とはいえ、どうせこれは夢なのだから、いいか。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 夢と言うものははっきりと覚えているものもあれば、おぼろげに断片だけを覚えているもの、中には夢を見たという記憶すら残らないものまで、様々だ。

 今ヤクモたちのいる世界が、日本でも、過去の時代でも、地球でもないことは既にはっきりしている。

 この世界に来てから(正確にはこの世界で最初に出会った少女にキスされてから)、ヤクモは変わった夢をいくつも見ているが、今日の夢は宇宙怪獣同士の夢だった。


 ――とはいえ、所詮夢は夢だ。




 ヤクモは夢のことなど気にせず、その日も仕事先である魔銃の販売店である【ガン・ザ・ロック】に向かう。

「おはようございます、店長」

「おはよう、ヤクモくん」

 仙人のような白髪白鬚の老店主に挨拶。

 自分の定位置である帳簿付けの事務机の椅子に座ろうとした。

 だが、それより早く気配を察した。


 ヤクモの尻めがけて延びきた老店主の手を、視線も向けないで手ではたく。

「爺さん、あんた男の尻を狙って悲しくないのか!」

 雇い主への丁重な態度など瞬時に崩壊、ヤクモは老店主を睨み付ける。

「いや、ワシだって本当は女の子がいいんじゃよ。でも本能には逆らえんでのう」

「ド変態エロ爺」

 男と分かっていて手が伸びるとか、完全にイカレテやがる。

 だが、そういう手合いの男どもを、ヤクモは今までにどれほど相手にしなければならなかっただろう。


「ホッホッホッ」

 この老人を1発殴ってやりたい。だが、さすがに年を取った爺様を殴れば、ただ事で済まないだろうとの理性はある。

 ひょうひょうと笑う店主は、その後ヤクモの前に魔銃の弾をいくつか転がしてきた。

「先に帳簿をつけちゃいたいんですが」

「まあまあ、そう言わず先に弾を片付けて」

 スケベェ爺だが、間違いなくヤクモの雇い主である。

 まっとうでない命令(エロ爺のスケベ丸出しの命令)は受け付けないが、仕事のことであれば指示に従う必要がある。


 ヤクモは帳簿をつけるために握っていたペンを置いて、代わりに転がされた弾の一つを手に持った。

 それから半眼になって弾に睨み、老店主から教えられた魔法の呪文を呟くようにして唱えていく。

 呪文が詠唱されていくにしたがって、弾の表面に書かれている術式が僅かな光を帯びて光りはじめる。

 唱え終わると光は失われたが、代わりに弾には魔弾としての魔力が宿った。

 この弾を魔銃に込めて撃てば、命中したときに宿った魔力が解放されて、魔法の効力を発揮する。


 老店主はヤクモが魔力を宿した弾を手にして、一つ頷く。ヤクモは老店主に促され、さらに転がされた弾に呪文を唱えて魔力を注いでいった。


「はい、ご苦労さん」

 しばらくして、目の前に転がされた弾すべてに魔力を込め終わった。店主は満足そうだ。

「店長、これ結構疲れるんで、あまりやりたくないんですけど」

 弾に魔力を込める作業は、精神的に疲労感が出る。

「そうじゃろう。ワシも歳をとっていて疲れるから、次から弾に魔力を込めるのはヤクモくんが全部してくれよ」

「……給料今の3倍なら考えます」

「それは高すぎる……」

「俺がいないと、客足が遠のくでしょうねー」

「ヤクモくん、従業員なのに強気すぎない?」

「別に帳簿付け以外の仕事もできるんで、仕事なら他の場所でもやっていけますよ~」

 給料の交渉で、従業員の方が遥かに力関係が強いというのも不思議な光景だ。


 老店主は口の中でブツブツと呟く。

「ううむ、男なんて大嫌いだからすぐにクビにしてやりたいが、この見た目が……」

「爺さん、あんたは体目当てかい?」

「当たり前じゃ!」

「堂々としすぎな上に、歳と俺の性別のことを考えろ!」

「お主が本物の女だったら、今の給料の5倍以上払ってでも引き止めるわ!」

「……」

 白い目になって老店主を見るヤクモ。このエロ爺、筋金入りだと思わずにいられない。

「とりあえず、2倍なら考えよう」

「2.7」

「ムムムッ、2.2」

「2.5!」

「クッ、仕方がない」

 老店主はがくりと折れ、給料の値上げ交渉は成立した。

 ヤクモはよしとガッツポーズ。

 対して店主は、「世界は残酷じゃ、なんでワシに本物の美女を恵んでくれんのじゃー」などと、泣き言を言っていた。


 ――この爺さん、本当に女にしか興味がないんだろうなー。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ところで魔銃を撃つ場合、弾に魔力さえこもっていれば、魔力がない人間でも魔法の力を扱うことができる。

 しかし、その弾に魔力を込める作業は、魔法を扱える人間でなければできない事だった。

 この世界に来たばかりの頃、ヤクモはコウから初歩の魔法であるファイボールの呪文を教えてもらったが、結局呪文を詠唱したところで火の玉が起こることはなかった。

 異能の力が自分にもあるわけがない、とヤクモはその時は考えた。


 しかし、その考え方は間違っていた。


 ある日【ガン・ザ・ロック】の老店主に連れられ、人のいない街の外に連れていかれた。そこで魔法の呪文を教えられ、使ってみろと言われたのだ。

 記憶力に関しては、もはや語る必要もないのがヤクモだ。

 老店主の言われた呪文を1回聞いただけで覚え、実際にそれを使ってみた。


 途端、光が掌からほとばしり、それが近くに生えていた木の幹を貫通した。


 ヤクモは異能の力を扱えたことに驚くより、「やっぱりか」という感想を持った。

 この世界に来た頃は考えていなかったのだが、たまに見る夢のことを考えていると、魔法が使える気がしていたのだ。


「……お主、才能はかなりあるようじゃな」

 と、老店主からもお墨付きである。

 ただ、魔法を使うことはできたが、謎もある。

「俺は以前、初歩的な魔法だからってファイアボールを教えてもらったけど、呪文を唱えても何も出なかったぞ?」

「それは当然じゃ。お主には火炎系の能力はない。代わりに光系統と、あとは……」

 老店主はさっきとは違う呪文の羅列を口にしていく。今度もヤクモは一字一句聞き逃すことなく、暗記する。

 言われた呪文を口にすると、今度は指先から雷光が迸った。


「すごい……だけど静電気で髪が持ち上がってる」

「フォッフォッフォッ」

 雷撃系の魔法の能力があるということなのだろう。ただ体が静電気を帯びてしまい、髪が逆立ってしまう。

 両手で髪を撫でつけようとするヤクモ。

 だが、その隙に老店主に、尻をナデナデと触られてしまった。


「爺さん、あんたいい根性してるよな」

 拳をプルプルと震わせ、ヤクモは老人を睨む。

「おお、怖い怖い。せっかくの美人が台無しじゃぞ」

「だから、男だっつってんだろ!」




 ……とまあ、老店主のエロさはおくとして、ヤクモにも系統の制限があるとはいえ、魔法を扱うことができた。


 その後、老店主は店で魔銃の弾に魔力を込める方法まで教えてくれた。

 ただ、その方法を教えた後で、老店主は物騒なことを追加で教える。


「よいか、弾に魔力を込めるのに失敗すると、たまに暴発することがあるから気をつけるのじゃぞ。その顔が台無しになったら、老い先短いワシの楽しみがなくなってしまう」

 ひどい物騒な言葉だ。

 しかし、ヤクモはそれとは別のことを口にする。

「……爺さん男は嫌いなんだろ。俺をクビにして、女の子を雇えばいいんじゃないか?」

「分かっておる。分かっておるのじゃ。……じゃが、ギルドに求人依頼を出しても、ワシがスケベエだって街中の女子(おなご)にばれてるから、誰も女の子が来てくれん!

 一度など、中年のブスなおぼちゃんが来た時は、心臓発作で死にかけたほどじゃ。

 そしてギルドには女性限定で求人を出してたのに、ようやく来てくれたのが美女と思っていたら、敬老精神に乏しい、性別詐称のおかまじゃ」

「俺は女装癖はないし、おかまでないし、性別も偽ってもいない!この見た目は生まれつきだ!」

 力強く言うヤクモ。

「……お主、ワシの店に来たばかりの頃、最初は女のふりで通してたじゃろ」

「ヴッ、あれは、その、せっぱつまってたから、仕方なく……」

 痛いところを突かれて、口ごもってしまうヤクモ。

「はあー、世も末じゃ」

 そう言い、天を仰いで残念がってみせる老店主。


 ただし、その隙にまたしてもヤクモの背後に伸ばしてきた手は払いのけた。

「あんたも、たいがいにしろよ!」

 全く、油断も隙もない変態だ。


「それともう一つ注意があるのじゃが」

「爺さんの手癖の悪さ以外に何かあるのか?」

 多少の間、老店主は沈黙した。だが、ヤクモの言葉は無視することに決めたらしい。

「弾に魔力を込める方法は、魔銃を専門に扱っている組合(ギルド)内だけでの機密になっておる。魔銃ギルドにとっては、他には漏らすことができない独占技術だから、絶対に他人に漏らす出ないぞ。もしも漏らしたりしたら……」

 そこで、老人は自分の首の前に手をもっていき、右から左へと滑らせる。つまり、他人に漏らせば、命はないということだ。

「ちょっと待て、爺さん!そんな物騒な情報を、俺の確認なしにいきなり教えたのか!」

「もう教えてしもうたから、おとなしく魔銃ギルドのルールに従うのじゃ」


 半ば嵌められた感じで、ヤクモは魔銃の弾に魔力を込める方法を習得させられてしまった。

 それに考えてみれば、魔銃は武器なのだ。

 だとすると、これは一種の軍事技術ということになる。地球での現代社会にそのまま置き換えられるとは限らないが、重要な軍事技術を漏洩するようなことがあれば、命に係わることだってあるだろう。

 まして、この世界は山賊などが出没する世界だ。

 現代文明の『人権と生命の保護を尊重している社会』ほど、人の命を尊重していると思うこともできなかった




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 とはいえ、なんだかんだと言いつつもヤクモは、【ガン・ザ・ロック】の老店主とは、それなりにうまくやっている。

 互いに不満に思うことはあるものの、そのこと隠しているわけでなく、互いに口と行動に出して、非難し合い、喧嘩している。

 喧嘩と言うものは赤の他人同士であれば、人間関係が存在しないためにまず起こることがない。喧嘩をしているということは、それだけこの2人は仲がいいということだろう。

 もっとも、この2人に向かって「仲がいいですね」なんて言っても、互いに決して認めようとはしないだろう。


 それでも、老店主からヤクモは信頼されていた。

 帳簿付けから始まった仕事は、店番を任されるようになり、今では魔銃の弾への魔力を込める作業まで任されている。

 ――単に爺さんが歳で働きたくないだけじゃないのか?

 邪推すればそんな風に考えられなくもないが、信用していない人間に仕事をあれこれと任せることは、まずないのだ。

 特に店番は実際の金の取引と共に、店の商品の扱いも分かっていないとできないことだった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 そんなこんなで、ある日のヤクモは店番を任されていた。

 魔銃自体は使ったことがないので、老店主でなければ客と接客できないが、弾に関してはヤクモでも十分に対応できるようになっている。

 【ガン・ザ・ロック】にやってくる客の多くは、魔銃本体よりも弾を欲しているので、ヤクモの店番で大体は事足りてしまう。

 その間、爺さんは店の奥でソファーに腰かけて暢気にくつろいでいる。


 店にやってくる客の多くは、ヤクモがここで働くようになってからは、銃よりもヤクモの見た目に誘われてやってくる馬鹿な客たちだ。

 始めは「ヤクモちゃん、ヤクモちゃん」などと気持ち悪い声で話しかけられていた。

「俺は男だから」

 ヤクモがそう告げると、鼻の下を伸ばしていた男たちの表情は、天国から絶望のどん底へと真っ逆さまに落ちていった。

 とはいえ、それでもなぜか変態な男どもは店に……ヤクモに吸い寄せられるようにして、またやってくるのだから、もはやこれは病気なのだろう。


 そんな男ども相手に、ヤクモは銃弾の販売をしていた。

 もっとも、店に長くいることでヤクモにも分かってきたのだが、老店主は馬鹿な男たちに対しては、いつも性能の低い安価な弾しか売っていない。

 なのに、値段は定価に比べて高く設定され、ぼったくっている。


「爺さん、あくどい商売だな」

「なぜじゃ?粗悪品は売っておらんぞ。それに見る目がない連中には、量産品の弾で十分じゃ」


 しれとした態度で、老店主は答えた。



 ただ、この日はヤクモが店に来る以前からの常連である、ディーヴァもやってきた。

「ハアーイ、ヤクモ~」

 巨乳の美人女だが、老店主と同じで、この女も男嫌いである。

 ただし、爺さんはヤクモに対してもああだこうだと文句を言ってくるのに対し、ディーヴァの方は男嫌いの中で、唯一ヤクモだけは例外という扱いだ。


「ようっ」

 いらっしゃいませ。などと、この女に対して丁重に接客する気がないヤクモ。

「相変わらずつれない態度。まあ、お姉さんはツンツンしている態度も気に入ってるからいいけどね」

 言いいながら、店の販売机越しに体を乗り出すディーヴァ。

 巨大な胸が机に圧迫され、胸の谷間の奥が見える。おまけに、顔を近づけてくるのだから、ヤクモはその場から一歩後退して逃げる。

 ヤクモは変態男どもより、ディーヴァの方が遥かに苦手だ。


「ヤクモとはもっと遊んであげたいけど、残念ながら今日は店長に用があってきたの」

「ホイホイよ」

 ヤクモが呼ぶより早く、店の奥から老店主がやってきていた。歩く速度はいつもより早く、見た目の年齢を全く感じさせない速さだ。


「ようようディーヴァ。相変わらずの美人じゃのう」

 ディーヴァの露出度の高い服から覗く胸の谷間を、遠慮のない目でマジマジと眺める老店主。

 それに対してディーヴァはニッコリと笑う。

「店長、私の胸はただで見せてあげるけど、今度私の体に触ったら、締め落としじゃすまないことは分かってるわよね」

「うっ、うむっ」


 ――この爺さんディーヴァの尻を触ったな。


 普段のセクハラ行為に悩まされているヤクモは、ディーヴァの身に何があったのかをすぐさま理解した。

 とはいえディーヴァの方は、さらにこっぴどい方法で対処したのだろう。

 老店主がうろたえる姿は、ヤクモがこの店に来てから初めて見る。


「爺さん、あんたでも怖い人間がいるんだな」

「川が見えたんじゃ。三途の川の向こうで、死んだ親父殿が手招きしておった」

「ディーヴァ、殺人はまずいぞ」

「大丈夫よ。一歩手前で勘弁してあげたから」


 ――それ、全然大丈夫じゃない。


「でも、次は保証できないから覚悟しておきなさい」

「う、うむっ」

 老店主は体を小さくして頷いた。ここまで怯える姿は、本当に珍しいなと、ヤクモは驚きより、むしろ感心してしまう。

 ただ、体を小さくしつつも、老店主の口から漏れてくる小声が聞こえた。

「あの胸が……胸がじゃな……」

 両手が動いて、妄想の中に存在している柔らかな塊を揉む仕草をする老店主。


 ――爺さん、やめとけ。次は本当に命がなくなるぞ。


 恐怖を感じながらも、それでも男としての欲望を捨てきれてない老店主の姿を、哀れに思うヤクモだった。



「コホン、それより今日は特注品が欲しくてきたの」

 話が変な方向に流れていたが、ようやくディーヴァは客としての話を始める。

「奥の部屋を」

 老店主の方も、ちゃんと店の主らしい態度に切り替わった。




 さて、老店主の案内で店の奥にある部屋にディーヴァは通された。

 この部屋は通常の取引と違って、重要な客相手にしか使われない。しかも警戒がやけに厳重で、部屋の扉は分厚い鉄板でできている。室内には明り取り用の窓すらなく、内部の音が決して外へ漏れない造りになっている。

 まるで殺人鬼を閉じ込めた、厳重警戒下の独房のような物々しさと、威圧感ががある。

 おまけに重要な客相手なのに、部屋自体には飾りけがなく、部屋にある物と言えば客と店主が使う椅子と机以外は、明かりを放つ魔法球だけ。

 ちなみにこの魔法球は、日本にある白熱電球みたいな形をしていて、明るさもそれに近かった。


 重要な取引がされる場合、ヤクモがこの部屋に入ることはない。

 ただ、この日の老店主はヤクモにも部屋の中に残るようにと告げてきた。

「爺さん、俺を引き返せない世界に引きずり込もうとしてないか?」

「魔弾(魔銃の弾のこと)の製法を知ったんじゃから、もう引き返せんところにおるぞい」


 ――なんですと!


 ただの事務仕事だけしていたつもりが、いつの間にかヤヴァイ世界に片足を突っ込んでしまっていたのかと思わされるヤクモ。


「可哀想なヤクモ。でも安心して、あなたに危険が迫っても、私が必ず守ってあげるから」


 ――お断りします。

 ディーヴァに守られるのでは、むしろ違う意味で身の危険を感じてしまうヤクモ。だが、口に出して本気でお断りする気にも、なぜかなれない雰囲気があった。



 そんなヤクモの不安と心配をよそに、ディーヴァは店主との商談を始めた。

「単刀直入に言うは、ドラゴンキラーを2発用意して」

「「!」」


 その言葉を聞いた瞬間、老店主とヤクモの2人は驚いた。


 商品の勉強と言うこともあって、ヤクモはいろいろと魔弾についての資料を読んでいた。だから、その名前は既に知っていた。

 ドラゴンキラーと言うのは、魔弾の中では最高級の価格と破壊力を持っている。

 ただ1発でドラゴンの固い鱗に覆われた体を貫き、体内で炸裂することで、ドラゴンの体を木っ端微塵にすることができるという、トンデモ破壊力の魔弾だ。

 ドラゴンを直接見たことがなく、その鱗がどれほど固いのかもピンとこないヤクモ。とはいえ、ドラゴンなんて言えば、ほとんどの神話や伝説に出てくる、恐ろしさと物騒さを兼ね備えたナンバーワンの生物のひとつだ。

 そんな存在をたった1発で木っ端微塵にするというのだから、その威力が通常の魔弾などと比べ物にならないことは、すぐに分かる。


 だが、ヤクモが驚いたのは、弾の威力より値段の方にあった。

 ドラゴンキラーはたった1発で、ノインの街の一等地にある高級住宅が買えるほどの天井知らずの価格なのだ。

 高級住宅を買えるような魔弾など、使う人間がいるのかとヤクモは思っていた。


 その弾を、ディーヴァは欲しがっているという。

 それも2発も。


「……ドラゴン退治でもするつもりかのう?」

「私はこの町のギルドじゃ、ドラゴンを殺した女として知られているのよ。仕事の内容は言えないけど、こんな弾を使おうってんだから分かるでしょう」

「まあ、余計な詮索はしないでおこうかのう」


 老店主はそう言って、しばし考えるように腕を組む。



 ところで、こんな話がされている中で、ヤクモは気づいた。

 そもそもドラゴンキラーなんて魔弾は法外な値段のせいもあって、そうそう出回っていない。

 それが、この店に存在しているのだろうか?と。

 そんな魔弾があるなら、老店主は店を開いているより、弾を用意する金でさっさと引退して、老後の余生を楽しめばいいではないか。


 だが、見守るヤクモの前で、老店主は椅子から腰を上げた。

「しばらく、待っていろ」

 それだけを口にして、鉄板でできた部屋のドアを開けて出て行く。



 老店主が戻ってくるまでの間、部屋にはヤクモとディーヴァの2人だけが残された。

「ディーヴァ、こんな店にドラゴンキラーなんて超高級品があると思っているのか?」

 さっき思った疑問を、ディーヴァにぶつけるヤクモ。

 だが、ディーヴァはそんなヤクモに対して嫣然と笑った。

「ヤクモはまだ知らないのね。この店が表でやっているのは、道楽のおもちゃ売り。あの爺さん、エロイだけじゃなくて、魔銃ギルドの中ではかなり上の人間なのよ」

 爺さん、何者なんだと思うヤクモ。それに魔銃ギルドって奴もだ。

「爺さんもだが、魔銃ギルドって奴も、随分物騒なギルドみたいだな」

「ええ、この国の軍隊にも直接武器を下ろしてるから、裏ではヤバいことがたくさんあるでしょうね」


 ――俺、そんな危険なギルドのお偉いさんの下で働いてたのかよ。

 ディーヴァから初めて聞かされることに、ヤクモは声も出なくなってしまった。


「だから、あなたが危険な時は、私を直ぐに呼んで頂戴。必ずあなたを守ってあげるから」


 いつの間に椅子から立ち上がっていたディーヴァが、呆然としているヤクモの傍に寄っていた。片手を腰に回し、力を入れてヤクモを自分の方へと引っ張る。

 そして、互いの顔を近づけてキスを……


 ……と、なりかけたところで、ヤクモはディーヴァと自分の唇の間を、手を遮った。

 ディーヴァの唇はヤクモの唇を捉えることが叶わず、代わりに遮った手の平に命中。


「残念、もう少しだったのに」

「油断も隙もないないから、あんたは怖いよ」

 残念そうにするディーヴァに、冷静に返すヤクモ。


 ――ベロッ

 ただし、ディーヴァは遮られたヤクモの手を舌で舐めた。

 その感触のせいで、全身に電気が走るヤクモ。こういう経験をしたことがなくて、掌の感触を妙に感じる。気持ちがいいとも悪いとも言えない、おかしな感覚だ。


「今日はこれで我慢してあげる」

 そう言い、ヤクモの腰に回していた手を放して開放するディーヴァ。

 ヤクモはそれに対して無言で対応した。


 一見、何事もなく冷静そうに振る舞うが、内心はとても冷静でない。

 ――ヒッ、ヒィー

 なんだか泣きたくなった。感じたことのない感触に、少し涙が出そうになった。

 情けないことだが、こんなことをされたのは初めてなのだ。

 だが、ディーヴァにそんな姿を見せたら、もっと危険になる思い直すヤクモ。

 野生動物は怪我をして弱っていたとしても、それを同族を含めた他の動物から悟られないようにするため、平気な素振りをするという。弱肉強食の世界の中では、弱みを見せないことで、強さを装うのだ。

 ――ここで弱さを見せたら、今度こそディーヴァに喰われてしまう。

 しかも、今いる部屋は周囲に声が漏れないように頑強にできている。危険度で言えば、これほど危険な密室もないだろう。


 内心での動揺を隠しつつも、冷汗をかくヤクモ。それでも老店主が戻ってくるまでの時間を、何とか虚勢を張ることで持ちこたえさせた。




 やがて老店主が戻ってきた。


 手には何も持っていないように見えたが、服の中に隠していた銃弾を2発取り出す。

 普通に店で売っている魔弾と、特別違いがあるように見えない。

 だが、これがドラゴンキラーなのだろう。


 最高級の魔弾をいきなり2発そろえて持ってくるとは、本当にこの爺さんは、どういう人間なんだと思うヤクモ。


 そんなヤクモの前で、ディーヴァは小さな石ころを老店主に差し出した。

「代金はこれで」

 魔石だった。

 強い魔族であるほど、その体内には強力な力を持った魔石を持つという。それは魔弾の原料になる物であり、物によってはかなりの額がする。

 高級住宅すら用意できるドラゴンキラー2発に対して、たった一つの魔石ではあまりにも割が合わないのではないか?

 だが、疑問を持つヤクモの前で、老店主は「確かに受け取った」と言った。


 こうして、店の奥での商談は静かに終わりを迎えた。



――でも、俺って確実に引き返せない世界に放り込まれたよな……

 取引の後、自分の立ち位置を不安に思うヤクモだった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ところでそれから数日後、ギルドからディーヴァの姿がしばらくいなくなった時期がある。もっとも討伐系の依頼は、ランクが高くなるほど遠征が必要なものが多くなり、街から何日もいなくなることはよくあることだ。

 だがら、ディーヴァがこの期間も討伐系の依頼をこなしていると、誰もが思っていた。

 そして、ディーヴァは何事もなく、再びギルドへ戻ってきた。


 ただし何事もなくと言っても、彼女の何事もなくは、ギルドの受付の1人であるローザ嬢との濃密なキスを、衆人環境であることを気にもせずにすることを伴っている。


 そしてこのディーヴァの帰還から1週間もしないうちに、北の地を生息地として、町や人に襲い掛かっていた双頭のシルバードラゴンが倒されたという噂がノインの街に届くようになった。

 双頭のシルバードラゴンは、軍隊ですら返り討ちにされたという凶暴さで知られていたが、そんな怪物をたった1人の人間が倒したという。

 とはいえ、倒した人間の正体までは伝わっていないが……


あとがき


 さあ、本編の読後感とか、いろんなものをぶち壊す時間を始めましょう(そう言うのが嫌な人は、あとがきを読まずにスルーすることを強く推奨します)。




 SFなんてもう何年もまともに書いてないので、夢の中のこととはいえ久々に宇宙空間での戦闘シーンを書きました。

 ワッホーイ、宇宙空間大好きーwww


 ちなみに話の中で恒星を潰したのは、PS3のゲーム、シェルノサージュの最後にヒロインのイオンが、星を潰すことになるラシェール・フューザーを歌うところに影響されてしまった部分があったりして……

 あのシーンは鳥肌物ですわ~


 それと宇宙怪獣同士の戦いですが、宇宙怪獣と言ってもアニメのトップをねらえ!に出てくる宇宙怪獣じゃないですぜ。

 SFアニメのヒロイックエイジに出てくる英雄の種族の戦いが、作者の脳内では彷彿とされました。

 ヒロイックエイジ。

 あの話は、リアル系に流れれば艦隊戦のシーンがもっとすごくなったんでしょうが、残念なことに宇宙版ゴジラになっているんですよね……

 艦隊決戦なんて完全に脇にどけられて、宇宙版ゴジラが咆哮するたびに星も艦隊も関係なく壊滅していってますがな……

 私個人としては、怪獣の頂上決戦より、艦隊決戦の方が好きなんですがね~

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