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ヴァイル・クライ  作者: 日谷 将也
  第1章  始まりの轟き編
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  第7波  模擬戦 終了!

「もうすぐ、5分経つな」


 ガウスは森の中、刀に手を添えてずっと身構えていた。

 近くには誰ひとりとしていない。

 木漏れ日が差し込み、木々が美しく化粧をする。

 そんな情景に同化するようにして、静かにいた。

 ちょうど、5分が経ち、模擬戦の開始の合図がかかる。


「ハイ・ブレード!!」


 始まった瞬間、ガウスの目の前に凛堂が姿を現すと同時に、刀で斬りつける。

 神速の能力を常に起動していたこともあってか回避することはできたが、急な攻撃を受けたせいでバランスを崩した。


「随分、あっけないな」


 凛堂は地面に伏しているガウスに上から突き刺すように刀を下ろす。

 伏した状態から横に転がって飛び起きることで決め手の一撃をガウスは避ける。

 そのまま地面に手をつきながら、後ろに数回、回転して距離を開けていく。


「先輩の武器は俺と同じ刀だったのか」


 そう言いながら、ガウスは刀を抜いて構える。

 凛堂は口元の端を少し釣り上げるようにした笑った。

 しかし、次の瞬間表情が堅くなり、姿を消した。 

 その直後、ガウスの後ろに姿を現す。


「もらった……っていないだと!?」


 刀を振りおろそうと思った頃にはガウスの姿がどこにも見えない。

 凛堂は攻撃を中断すると、地面に着地し周囲に目を配る。

 風が軽くふいて、木々を揺らす。

 ざわめく音が響くだけで、静かな状態がずっと続いている。

 それでも、凛堂は警戒を解く素振りは全く見せない。

 近くに誰かがいる気配を感じ取っているからだろう。

 草木が少しでも揺れれば、すぐそこに視点を集中させる。


「ハイ・ブレード!」


 ガウスも先ほど凛堂同様、一瞬にして目の前に姿を現すと刀を下ろした。

 付け焼刃による完全に技のコピーでしかない。

 しかもそれを元々使っている人に対して行う。

 それは実力がないものには有効かもしれないが、執行部が使っているということは明らかに敵に流用された時も考えているはずなのである。

 凛堂はまるで待っていたかのような自信に満ちた表情をする。

 罠だったのだ。


「ハイ・ブレード・リヴァイン!」


 その叫びと同時に姿を消し、ガウスの背後に出現。

 すぐさま刀を振り下ろした。

 ガウスが攻撃を中断する隙すら与えない速度の一撃。

 避けることもできないまま、背中に大きな刃の傷をいれられる。

 そこから地面へと血が垂れ出す。

 等間隔的の縦縞状に血はダラダラと流れ出し、ガウスはその傷口を抑えようとする。


「痛っ!」


 傷口に触れると痺れるような激痛が体を通って伝わってくる。

 普段、ヴァイルとの戦闘で無傷で済んでいるが故、この手の傷にガウスは弱い。

 痛みのあまり涙が出そうになるのを抑えながら、ゆっくりと立ち上がる。

 しかし、立ち上がった先に見えたのは凛堂の姿のみ。

 目の前には刀を構えており、それが心臓を貫いていく。

 迷いの感じられない一撃。

 人を殺めたことでもあるのだろうか。

 それともベテランの兵士だから、こんなに冷静に行えるのだろうか。

 貫いた刃を抜き、血を払うと鞘の中に収める。

 ガウスは上の空のような表情のまま地面に倒れ込んだのだった。



「一体、どこにいるのかしら?」


 愛は闇雲に森の中を駆け巡っている。

 途中、何発か銃弾が飛んできてはいるのだが無意識下で避けているのだ。

 辺りを見回してどこから撃っているのかを探す。

 しかし、どこを見ても木ばかりで狙撃者であるフィアの姿はない。

 いつまでも、逃げてばかりはいられない。

 体力にだって限界は当然ある。

 焦りがより判断を鈍らせ、見つけることがどんどん難しくなっていった。


「焦っているみたいね」

 愛がいる場所から1km離れたところで、地に伏せながら銃を構えていた。

 フィアはさっきからずっと標準器(スコープ)を覗いている。

 傍から見れば無防備な状態で誰かが近づいても気づくことは決してないだろう。

 愛はまだ弾丸を避け続けている中、こちらも撃つのをやめない。

 しかし、弾にだって限界がある。

 後、何発かで仕留めなくてはいけない。


「さて、そろそろかしら」


 地面には沢山の薬莢が落ちていた。

 弾切れだろうか。

 でも、フィアはこの事態に動揺はしていない。

 すかさず、「ガジェット・チェーン」を起動するのだった。


雷撃砲(プラズマ・ショット)


 銃から雷の弾丸が発射される。

 空気を勢いよく切り裂きながらものすごい速さで愛の元に飛んでいく。

 それを連続して5発も放った。

 音よりも速く飛ぶ弾丸のため、愛は気づくことができない。

 それどころか、仮に愛がフィアの位置を特定し、この弾丸が飛んでくると分かっていても目視は不可能だろう。

 避けることもできずに5発とも愛の体を貫く。

 両肩、両膝、そして心臓に当たる。

 それぞれの部位に大きな風穴が空いており、痛みを感じるよりも早くその場に倒れ込むのだった。


「なんとか、仕留めたようね」


 標準器から愛の様子を確認すると、構えるのを止めて背中に背負った。

 そしてそのまま何処かへと姿を消した。



「アイリスは防御が専門じゃなかったかしら?」

「はい、だけど私だってちゃんと戦えます」


 姫華はアイリスを真っ直ぐに見ていた。

 桃色の美しい花柄の着物を着て、左胸のあたりには「執行部」の証であるバッジが付いている。

 髪色は鮮やかな黒のロングストレートで柔らかい表情をしていた。

 これから、ここで戦闘が始まるとも思えない空気がそこには広がっている。

 アイリスは既に錫杖を構えており、いつでもいいように「ガジェット・チェーン」は起動しっぱなしだ。


「アイリスが苦しまないように一撃で仕留めて差し上げるわ」


 そう言って、姫華はガジェットチェーンを起動すると、さっきまで持っていた鉄扇が大きくなった。


扇落とし(おうぎおとし)


 閉じた状態で棒状になっている扇子がアイリス目掛けて落ちてくる。

 当然、結界を用いてガードをするが、砕け散ってしまい直撃した。


「はい、これで御終いね」


 そう言い残し、姫華もまた何処かへと姿を消すのだった。



「腕を上げたのは本当のようだな」


 最初の出発地点では、二人の男が金槌をぶん回していた。

 金槌同士がぶつかり合い、その度に鈍い轟音が響く。

 その音は明らかに五月蝿いはずなのに、勝負に夢中になっているのか、気にする様子もなく続けている。

 ただ、一進一退というわけでもなく、状況的には和馬が押されている。


「どうしたどうした! スピードが落ちているぞ」


 和馬は返事をする余裕もない。

 この激しいぶつかり合いは開始からずっと続いている。

 一種の根比べのようなものだが、既に勝負は見えていると言える。

 一歩一歩後ずさりながら、金槌を振るう。

 逼迫した状況のため、笑顔が和馬から消えていた。

 逆に、ラウドの方はさっきから恐怖を感じさせるような笑顔で攻撃を続けている。

 どんどん後ろに下がっていき、和馬は大木にぶつかった。


「やばい!」


 これ以上後ろに下がることができず、慌てて横方向へと回避する。

 金槌のぶつかる音は鳴り止んだが、しゃがんだ状態のガウスとそれに向かう合うようにして君臨するラウドの姿がここにあった。


「さぁ早く立て! まだ私との決着は付いていないぞ!」


 喝を入れるような怒鳴り声を聞いて、和馬は立ち上がる。

 至るところに汚れがあり、また擦り傷のような痕もある。

 そんな中、和馬の瞳にはまだ光があった。

 諦めてなどまだいないといったところだ。

 和馬はガジェットチェーンを起動し、一気にラウドに接近する。

 ラウドも同じく起動して、大技のぶつかりあいとなった。


「行くぜ!! ブレイクハンマー!」

「かかってこい!! クラッシュハンマー!」


 先に和馬が叫び、それに返事をするかのように後からラウドも叫ぶ。

 二つの金槌が今までよりも激しく衝突し衝撃波のようなものが思いっきり広がっていった。

 そして、その衝撃波の後には突風と轟音が鳴り響く。


「今回は私の勝ちみたいだな」


 轟音が鳴り止み、土埃が落ち着いてきた頃、そこにはラウド一人だけが立っていたのだった。



「さて、君はいつまで続けるんだい?」

 

 森の中にある円形状のフィールド。

 そこには無傷で悠々と立っているアクトと既にボロボロになっている俺がいる。

 実力が違いすぎる。

 攻撃は全て避けるか、受け止めるかをされて、逆にあっちの攻撃に対して何もすることができない。

 守ろうとしても、威力が強すぎてそのまま吹っ飛ばされる。

 打開策がこれといってない。

 しかし、諦めたくもない。

 これはわがままなのだろうか。

 地に伏した状態からとりあえず立ち上がる。


「俺が勝つまで諦めない!」

「そう、じゃあ壊れるまで続けようか」


 熊型ヴァイルの左腕ではなく、右腕で俺を殴る。

 そして、続けざまに足で上空に思いっきり蹴り上げ、アクト自身も翼を使って上昇する。

 反撃しようとするも、体力がそこを尽きていて、何もできないままでいる。

 それでも、アクトは容赦なく俺の腹部に左拳を叩き込む。

 そのまま落下していき、地面に直撃する。

 巨大な穴が出来上がり、土埃が大きく舞い上がった。

 その中、俺は諦めないという意志だけで立つ。

 さっきまであった錫杖は何処かに行ってしまった。

 嫌だ、これ以上負けを、失敗を、苦渋を味わいたくない。

 力が、才能が、強靭な心が欲しい。

 俺は頭が真っ白になっていき、立ったまま意識を失った……。


「全く、君は恐ろしいよ」


 地面に降り立ったアクトはやれやれと言った感じで呟きながら、翼を折りたたむ。

 その後、才和の体をそっと地面に寝かせていた。


「お前も勝ったか。まぁ、負けるわけもないか」

「当然、執行部が敗北とか洒落にならないっしょ」


 アクトが戦った場所に他のメンバーが合流する。

 そこで彼らは議論を数時間続けていたのだった。


 目を覚まし隣を見ると、右にはガウス、左には和馬の姿があった。

 俺は意識を完全に取り戻すと、すぐさま飛び起きた。


「勝負は?! 勝負は一体どうなったんだ?!」

「俺たちの完勝。どうだ、執行部は強いだろ?」


 俺の質問に対してアクトが自慢げに言い出す。

 敗北を言い渡されると同時に俺は尻餅を着いた。

 執行部はこれほどまでに強いのか。

 入れるかもしれないと思っていた自分が馬鹿みたいだ。

 表情は段々と暗くなり、俯いてしまう。

 するといつの間にか、皆意識を取り戻していた。


「貴様ら、何故立とうとしないのだ。今から訓練を開始するぞ!」

「訓練……? それってさっきので終わったんじゃ……」

「何を甘ったれたことを言っている!! あれくらいで終わりなわけがなかろう。これから、一人につき一人がついて午後は個別訓練とする。以上だ!」


 俺の訓練の監督にはアクトがついた。

 というか、他の皆の監督を見ると、各々ターゲットとしていた人だ。

 つまり、さっきの模擬戦はこのために行っていたのか。


「半日訓練したところで強くはならないと思うけど、とりあえず今すぐ使えそうな技術的なことと、基礎の向上を目指すとしますか」


 そんなこんなで午後はぶっ通し訓練だった。

 終わった頃には皆ボロボロで立つ体力すら残っていない。

 明日が調査任務だと言うのに、ハードすぎる。

 とりあえず、明日は早朝、プレデター本部前集合ということで解散となった。

 俺はふらつく足取りで自宅へと帰り、倒れこむようにしてベッドに入る。

 そして、そのまま眠ってしまった。


 朝、目が覚めると時計が7時を回っていることに気づく。

 約束の時間に明らか遅刻している。

 俺はすぐさま身支度を始めた。

 まだ、昨日の疲れが残っているのか、体の節々が痛い。

 本当にこのまま任務を執行できるのだろうか。

 やることはやったはずだ。

 自分に言い聞かせながら準備を済ませると走って集合場所に向かう。


「ふぅーやっと着いた…………って誰もいない?」


 行ってみると、まだ誰もいない。

 もしかして、置いていかれたのだろうか。

 俺はつま先の方向を変えて、ヴェゾットへと走り出した。


 二時間後、プレデター本部前に5人の人が集まった。


「あれ? 才和はまだ来ていないのか?」

「ええ、そうみたいですね。どうしましょう」

「遅れたものは置いていくだけだ。残ったメンバーで行くぞ」


 5人は一斉にプレデター本部をあとにし、そのままヴェゾットに向かうのだった。


 

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