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ヴァイル・クライ  作者: 日谷 将也
  第1章  始まりの轟き編
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  第11波  黒き力を手にするものは……

 すぐさま、ジークは分身体の片腕を掴んだ。

 そして、そのまま勢いよく地面へと倒れこむ。

 分身体が地面に背中をつけ、その上に重なるようにしてジークがのしかかっている。


「今です、才和くん!」

 

 俺はその言葉と同時に錫杖を刺すようにして攻撃する。

 ジークの心臓を貫いていき、最終的に分身体の心臓を貫くことに成功した。

 初めから、これが狙いだったのだ。

 ここにいるジークは思念体のようなものだから死んでも問題ない。

 言い方としては酷いのかもしれないが、本人も気にしている様子はないので特にいいだろう。

 錫杖を引き抜くと、分身体もジークも体が白く光っていき、透明になる。


「どうやら、ちゃんと倒せたみたいだな」


 無言で俺は頷く。

 それと同時に自分の体も光りだしていることに気がついた。

 これでようやくみんなの元に帰ることができる。

 とりあえず一安心だ。

 しかし、本当にヴァイルの力を得てしまったのだろうか。

 それは暴走したりして、自分がみんなを傷つけるなんてことないと断言できるのか。

 詳しいことはまだわからない。

 戻ったら、アクトにでも尋ねてみるとしよう。


「そうだ、一つ言い忘れていたことがある。君の能力についてだ」

「俺の能力?」


 分身体が何かを纏っているのはわかったが、一体何を纏っていたかさっぱり不明だった。


「君の能力は『能力の起源』と言われている『テクノ』だ」

「テクノ?」

「黒と緑色で書かれた『0』と『1』で構成されていて、可視化レベルの物質体。う~ん、説明が難しいのだ。まあ、ビームとか手に纏うとか色んな使い道があるから実際に使ってみればいいんじゃないかな」


 その言葉を最後にジークは消えていく。

 「テクノ」……か。

 説明されてもよくわからなかったな。

 とりあえず、電子関連の何かで自由自在に使えるということはわかった。

 しかし、これだけでどう使えばいいのかや、これが一体何を意味するのかについては全くの不明である。

 これに関してもアクトに聞くことが一番か。

 意識が遠のくような感覚の中、一筋の光を見つけた。

 出口だろうか、俺はそこにどんどん吸い込まれていったのだった。

 


 光のまぶしさを感じなくなった頃に目を開けてみると、俺は街中で横に倒れこんでいた。

 ゆっくりと立ち上がって辺りを見回す。


「一体、何があったんだ……」


 建物のほとんどが半壊しており、人の気配がない。

 腐敗した街の光景、そのものだった。

 電線も何本か切れてぶら下がっている。

 また、車も横転しているものが多く、トラックなんかは火を噴いていた。

 状況が全く掴めない。

 確か俺はヴェゾットで気絶させられたはずだ。

 そのままおそらく帰還したのだろう。

 そこまでは何となく、知らなくても想像がつく。

 しかし、余りにも予期せぬ光景を見ているゆえ、戸惑いが生じていた。

 すると、物陰からよく知る人物が出てきた。


「さ……才和なんだよな?」

「そうだけど、逆に誰に見えんだよ」


 和馬はホッとした表情を浮かべる。

 そして、他の物陰からガウスやアイリス、愛も姿を見せた。

 俺も皆に再会できて嬉しくなり、駆けていく。

 しかし、途中で妙な殺気を感じ、歩を止めると俺の首には刀がクロスしている状態になった。

 少しでも遅かったら確実に死んでいる距離である。

 よく見ると、刀を突きつけてきたのは長官と凛堂先輩だった。

 睨みつける目が余りにも怖いのとあと少しで死ぬところだったという緊張感から、思わず唾を飲む。

 数分後くらい経つと、二人で目を合わせ頷き、刀を納めた。


「確かに、戻ったみたいだな」

「どういうことですか?」


 その後、長官から意識を失っている間に何があったか教えてもらった。

 どうやら俺は初めはおとなしく気絶していたのだが、街に着いたあたりから様子がおかしくなったらしい。

 そして、俺の体が段々アクトのようにヴァイルを纏った姿となって、さっきまで暴走していたそうだ。

 すぐさま皆に頭を下げる。

 ここに戻るまであれほど、誰も傷つけないとか考えておきながら、既にダメだった。

 よく見ると、体中がお互いボロボロの状態であったことに気がつく。


「とりあえず、無事でよかったよかった」


 和馬は強く俺の肩を叩いた。

 さっきまでの緊張感はすっかり解けてしまい、安らぎの空間が生まれる。

 まだ、俺がヴァイルの力を手に入れたことは皆に言えない。

 受け入れてはくれるかもしれないが、どうしても怖いのだ。

 長官と執行部にだけ、例の連絡も兼ねて後日にでも伝えておくことにしよう。

 みんなにはその後だ。

 とにかく今はゆっくりベットに潜り込んで休みたい。

 そんな事を思いながら、みんなとともに会話を続けるのだった。



「どうやら、無事のようだね」


 高い塔のてっぺんにジークは立っている。

 目線は明らかに才和をとらえており、笑みを浮かべていた。

風がなびいて、木の葉が舞い上がる。すると、どこからか声がした。


「お主、妾の邪魔をしたであろう」

「いいや、私は私でするべきことをしたまでだが?」

「ふん、この減らず口が。まあよい、あやつはいつでも殺せる」

「それはどうかね。彼の実力は最終的に将軍に匹敵するはずだ」

「なら、余計に早く殺さなくては」


 その後、声は止んだ。

 ジークも最後に才和の笑顔を見ると、そのまま行方をくらますのだった。



 俺は家の入口に立っている。

 自分の家だというのに緊張が高まる。

 仕方ない、前回が前回だからな。

 また家に入ってみたらジークが出現なんてことはごめんだ。

 というか、さっき思念体とはいえ、殺害した相手に同じ日に会うことは避けたい。

 ドアをノックしてみる。

 実際、これで何か変わるかどうかは不明だ。

 しかし、何もやらないよりはマシである。

 ノックに対して帰ってくる返事は当然ない。

 恐る恐るドアを開ける。


「ただいまー」


 いつも通り響き渡るだけ。

 特に人の気配はない。

 少しホッとし、俺はリビングへと足を運んだ。

 何も変わっていない。

 誰も家に呼んでいないから、当然といえば当然である。

 しかし、俺はてっきりヴァイルに部屋を荒されてしまっていることを想定していた。

 心配しすぎだったのだろうか。

 そんな風に考えて辺りを見回していたところ、一つの見覚えのないものを見つけた。


「なんだ……これ?」


 テーブルの上に小包が一つ、何やら手紙付きで置いてある。

 俺は何食わぬ顔で近づいたが、途中で罠ではないかと考えた。

 宅急便が中まで入って置いていくなんてことはおかしい。

 つまり、これは誰かがここに侵入して置いていったということになる。

 ヴァイルの仕業だろうか。

 ここの住所を知っているのは極僅かの人間とジークのみ。

 しかも、俺の住所を知っている人間なんてのは小包を届けることはまずしないだろう。

 消去法的にヴァイルのものになってしまう。

 とりあえず、手紙をそっと取り出す。


『やあ、これを読んでいるということは君はどうやら、ヴェイル細胞に打ち勝つことができたみたいだね。私としてはとても嬉しいことだよ。しかし、打ち勝ったということは君の体内にヴェイルが宿ったことと同義ある。それが意味することは君はもう既に人間じゃないということだ。また、ヴァイルでもないということにもなる。これだけは肝に銘じておくように。最後に、君にヴェイル細胞を打ち込んだヴァイルが、もし君が生きているなんてことを知ったら、間違いなく殺そうと考えると思う。だから充分気をつけて欲しい。私以外に倒されないためにもね。では、これで失礼するよ。おっと、言い忘れていたことが一つ。これと一緒にあった小包のことだ。前回、ご馳走になったお返しだから、そんなに用心しなくても大丈夫ですよ』


 手紙はそこで終わっていた。

 やはり、ジークが忍び込んでいたのか。

 二回目ということもあってか、そんなに驚かない。

 とりあえず、小包の方も丁寧にゆっくりと開けていった。


「ほ……宝石?」


 小包の中から出てきたのは小さな宝石だった。

 いや、宝石かどうかはまだ定かではない。

 濃い緑色だが、光を通すこともでき、通した時は美しい透明さを持った緑色に見える。

 さしずめ、エメラルドだろうか。

 しかし、ただの宝石をジークが渡すはずもない。

 それでは一体これはどうやって使うものなのだろうか。

 疑問がまたどんどん増えていっている。

 明日辺り、報告と一緒に全部尋ねるとしよう。

 そんな事を自分自身の中で決意しながら、夕食の材料を考えていた。

 すると、急にインターホンが鳴る。

 夕方頃に一体誰だろうか。

 まさか、ジークが堂々と出現なんてオチ? いや、流石にそれはないか。

 再び、インターホンが鳴る。

 それと同時に見知った声がした。

 和馬だろう、俺はすぐに玄関まで行き、ドアのロックを解除した。


「ふぅー、よう才和。数時間ぶりだな」

「ああ、ところでどうしたんだ? 俺って和馬にこの家の住所教えったっけ?」

「いや、凛堂先輩から聞いたんだ。長官の命令で、しばらく俺が才和の監視役を務めることになった」


 あれだけのことがあれば当然のことだ。

 俺が気を失っている間にあそこまで被害が出ていた。

 それを考慮すると、間違いなく龍型に近い姿で暴れていたんだろう。

 そのことに負い目を感じ、さっきまでの明るい表情ができなくなっていた。


「そんなに落ち込むなって、凛堂先輩もきっと信じてはいると思うぜ」

「そうかな?」

「ああ、念持ちだって言われて任されたんだから。もし本当に信じていないんだったら、凛堂先輩は自分で監視すると思わないか?」

「それもそうだな」


 和馬にしては恐ろしい程に正論を述べている。

 俺は和馬の額に手を置き、自分の額にももう片方の手を置いた。

 うん、熱はないみたいだな。

 基本的に何も考えずに行動していると思っていたから、意外だ。

 案外、和馬も考えたりするのか。


「才和、まさかお前にしては珍しく冷静なことを言うなって思ってるのか?」

「バレた?」

「当たり前だ! いくらなんでもそれは酷すぎるぜ。俺だって考えることあるわ!」


 ツッコミ口調で言われてしまった。

 数秒間、ただ目を合わせる。

 その後、すぐさま笑い出してしまった。

 こんなに自宅にいることが楽しいと思ったのはいつ以来だろうか。

 おそらく、物心着いた頃はまだ、楽しいと思っていたはずだ。

 麻里が死んでしまったあたりからだろう。

 あの日から、多分俺は自宅でほとんど笑わなくなった。

 そんな気がしてならない。


「そうだ、和馬は夕食どうするんだ?」

「うーん、考えてなかったな」


 いつも通りの和馬だった。

 というか、普通はこっちの方が考慮しておくべき優先事項なのではないだろうか。

 和馬らしいっちゃらしいのだろうが、もう少し考えて欲しいのも事実だ。

 とりあえず、和馬の分も俺が纏めて作ることにした。

 買い物メモを書いてそれを和馬に渡す。

 片手で髪の毛を掻きながら目を通している。

 途中途中顔を近づけてはその都度、これは何? と尋ねてくる。

 一通り目を通したところで和馬は買い物に出かけるのだった。

 さっきまで2人とはいえ、賑やかだった空間が一瞬にして静まる。

 小鳥のさえずりでさえ、しっかり聞こえるほどだ。

 すると、またインターホンの音が鳴った。

 忘れ物でもしたのだろうか。

 俺は再び開くと、そこにいたのは和馬とガウスの二人だった。


「俺も監視役につくことにした」


 同期の3人がここに集結する。

 いつもの面子ではあるのだが、俺の自宅前に集まるなんてのは今までなかった。

 ガウスも先輩から教えてもらったのだろう。

 とりあえず、和馬から買い物メモを取り上げると、分量を少し増やしてから渡した。


「あれ? 3人で行くんじゃないのか?」

「いいや、和馬ひとりに任せた」

「俺もそれに賛成だ」

「何で俺だけ!?」


 和馬の驚いた顔に思わず笑いを抑えられない。

 笑顔のまま、落ち込む素振りを和馬は見せたが、特に気にしている様子もなく、そのまま買い物へと出かけた。


「とりあえず、上がれよ」


 俺はガウスをリビングへと案内し、コーヒーを出した。

 キョロキョロとガウスは部屋を見ている。

 まるで子供を見ているような気分だ。

 普段、冷静で無頓着そうなこいつでも案外、好奇心とか持っているのか。

 自宅へ入れただけだというのに、普段あまり見ることのない二人の素顔を直視できた感じで少し嬉しい。

 いや、今まで慣れ過ぎて気づかなかっただけかもな。

 俺とガウスは和馬が帰ってくるその時まで他愛もない会話を繰り広げていた。

 数時間くらい経った頃だろうか。

 ピンポーンっと音が響いて、和馬が姿を見せた。

 疲れきった表情で買い物袋を俺に渡す。

 じゃがいも、人参、豚肉、玉ねぎ、ナス、林檎……。

 ちなみに俺が2人に振舞おうとしていたのはラーメンだ。

 材料がどれ一つとして噛み合わない。


「いやさー、何か今日はカレーがおすすめですよー何て聞いたもんだからついな」

「つっても和馬、カレー作るんだったらルーはどうした」

「あ……。ちょっと待ってて今からダッシュで買ってくる」


 そう言って、勢いよくドアを開け、走り去っていく。

 相変わらずの衝動的行動が目立つバカだった。

 しかし、そのバカによって俺がどれだけ救われたか。

 若干呆れながらも和馬には感謝しきれないほどの恩がある。

 そして、それはガウスに対しても同様のことが言える。

 麻里が死んで以来、一度も笑わなくなった俺をもう一度笑わせてくれたのはこの2人のおかげだ。

 もし、二人に出会えていなかったら、今頃俺は一人で死んでいただろう。

 とりあえず、俺はガウスと共に、和馬が買ってきてくれた野菜を切り始めた。


「なあ、包丁を二本貸して、俺に野菜を投げ飛ばしてくれないか?」


 俺は言われた通りのことをした。 

 しかし、野菜を投げ飛ばす? そこだけ謎だ。

 とりあえず、じゃがいもを投げ飛ばしてみた。

 すると、ガウスは目にも見えない速さで皮を剥いて、食べやすい大きさに切っていった。

 この光景に思わず俺は面白くなり、今度は人参を投げる。

 それをガウスは華麗な手さばきでこなしていく。

 次に玉ねぎを投げた。

 やはり勢いよく、鮮やかにこなしていく。

 しかし、玉ねぎは切れば切るほどガウスのペースを落としていった。

 それもそのはず、ガウスは滅茶苦茶、目を痛そうにしていた。

 物凄い速さで切るということは玉ねぎ独特の匂いが纏まって鼻に来るということに直結する。

 玉ねぎに慣れている人でさえ、纏まってくる玉ねぎのあの匂いには耐えられない。

 つまり、どんな人でもこれは辛いということだ。

 無論、ガウスも例外じゃなかった。


「ダメだ、玉ねぎはさすがにゆっくり切ろう」


 そう言って、二人で横に並んでペースよく切っていったのだった。

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