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ヴァイル・クライ  作者: 日谷 将也
  第1章  始まりの轟き編
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  第10波  ヴェイル細胞 出現!

 気づくと辺りが暗闇に覆われていた。

 夢が終わったのだろうか。

 しかし、その場合普通目覚めるはずだ。

 俺は出口のようなものがないか模索した。

 真っ暗な世界でそんなものがあればとうに見つけている。

 どこにも、それらしいものは見当たらなかったのだ。

 もしかして、死へと向かっているのかもしれない。

 今思うと、さっきまで見ていた夢は一種の走馬灯で現世との別れの合図だった可能性がある。


「ふうー。ようやく出てくることができましたよ」

「ジーク! 夢にまで現れるなよ! 消えろ! とっとと消えろ!」

「おや、いいのですか。私は貴方を助けに来たというのに」


 現代の科学力をもってしても治せないこの状態の俺を助けに来ただと。

 あまりにも現実味からかけ離れていることを言われたので、俺は疑いの眼差しをジークに向ける。


「しかし、夢とはこういうものでしたか。我々ヴァイルは睡眠を取らない故に知りませんでした」

「話をそらすな」

「助けに来たというのに生意気なことを言いますね。まあいいですけど、私は厳密にはジークの細胞の『一部』です。前に貴方がコーヒーを飲んだ時に侵入させていただきました。目的は私との戦闘以外で死にそうになった時、救済することです」


 なるほど、ジークは自分の手で俺を殺したいのか。

 前にそんな事を言っていたかもしれない。

 だから、俺が死なないようにとあれこれ画策していたのか。

 今まで疑問に思えていたことにやっと納得がいった。

 ただ、唯一まだ疑問なのは、何故そこまでして自身の手で殺したいのかだ。

 別に憎いのであれば、自身で殺す必要はない。

 やはり、ヴァイルの気持ちはよくわからないな。


「それでどうすれば助かるんだ?」

「貴方はアクトを知っているでしょう? 彼はここで自分の分身体の『ヴァイル』を見つけて倒したんですよ」

「自分の分身体?」

「はい、ヴェイル細胞は人間の細胞を破壊するのではなく吸収しています。つまり、そのヴァイルは貴方とそっくりの姿をしているはずです。それさえ倒してしまえばいいのです。しかし、奴らはかなり手ごわい。だから私が戦闘の援助に来たのです」


 いまいち要領が得ない。

 要約すれば、その俺の分身体を見つけ出して倒せばいいってことなんだろう。

 そして、ジークはそれの手助けに来たと。

 とりあえず、分身体を探そうと思い周囲を見るが、そんな人影はどこにもない。

 見つけなければ結局、元も子もない。


「なあ、分身体は一体どこにいるんだ?」

 

 その質問に対してジークは指で下の方を指す。

 俺はその指が示す方向、つまりは足元に目をやった。

 そこにははっきりとわかるように影があるだけでそれ以外は何もない。

 影……? こんな暗闇の中で影がはっきりと見えているだと。

 ジークの足元を見たが、影はなかった。

 俺にだけ出来ていて、静止状態を維持している。

 少し動いてみるが、影はピクリともしない。


「そこか!!」


 俺は思いっきり拳を地面に叩きつける。

 影は勝手に動き出して避けたかと思うと、飛び上がってきた。

 拳の構え方から、隙の伺い方までそっくりだ。

 なるほど、細胞を吸収しているとはこのことを言っているのか。


「はい、これ。今の君には必要だろう? 記憶の断片から作り出しておいたよ」


 ジークが錫杖を投げてくる。

 普段使っているのと全く同じデザイン。

 しかし、「ガジェット・チェーン」のボタンがどこにもなかった。


「ヴェイル細胞に侵食された者たちが生き残れなかった理由はこの戦闘に勝てないからだ。しかし、私と君ならば勝つことは難しくないだろう。分身体の能力にもよるけどね」


 最後の言葉が少し気がかりだったが、そんな事を詳しく聞いている余裕はない。

 俺はすぐさま接近戦へと持ち込んだ。

 錫杖を剣のように右上から左下へ、左上から右下へと四方八方に振る。

 考えが読み取れるのだろうか。

 そう思えるくらい流暢にかわされていく。

 分身体は隙を突いて拳を腹部に打ち込む。

 そして、俺はそのまま吹っ飛ばされた。


「君一人で戦っていては意味がない。私と連携して戦うのです」


 仕方ないこととはいえ、敵の手を借りてしまうとは情けない。

 しかし、勝つためにはそれしかないだろう。

 ジークは先陣を切って分身体へと接近していった。

 ジークの攻撃を分身体はかわせていない。

 おそらく、俺自身ジークとの戦闘自体が僅かしかないため、情報がないのだろう。

 完全に優勢だ。

 この調子で行けば、容易に勝てるかもしれない。

 俺も途中から戦闘に入り混じる。

 ジークの攻撃で怯んだところに攻撃を加え、相手の注意を俺に向けさせたりする。

 そして、相手が俺に夢中になっている隙に今度はジークの重い一撃を当てるのだった。

 意外にも、ジークとの連携はうまくいっていた。

 時々、お互いのフォローもする。

 ジークが敵じゃなければ、いいコンビになれたのかもしれない。


「さて、そろそろだろうな」


 何がそろそろなのだろう。

 俺はジークの呟きに対して、特に考えることもなく攻撃を続けていた。

 すると、後ちょっとというところでジークが俺の首元を引っ張って分身体から距離を取る。


「何で今止めたんだ?! もう少しで倒せたかもしれないだろ!」

「これを見てもまだそれが言えるのですか?」


 ジークの指差す方向、それは分身体が立っている場所だ。

 しかし、そこにいたのは俺そっくりの影ではなかった。

 目が赤く獣のようになっていて、翼、尻尾、爪まで出来ている。

 俺はあまりの光景に絶句した。

 これがさっきまで戦っていた分身の正体だとでも言うのだろうか。


「龍系統か……。よりによって一番強力なのが出てきたな」

「龍系統?」

「ああ、アクトの力に関しては研究員が様々な物を投与した結果、数種類のヴァイルの合成体のようになっているが、普通は一種類のヴァイルの姿に近くなるのだ。つまり、君の場合は龍型ヴァイルに近い姿ということになる。一番の難敵になるだろうな」


 まだ、分身体は完全に成りきってはいない。

 倒すなら今しかないのではないだろうか。

 俺は咄嗟に近づこうとしたが、ジークは強引に止める。


「形態変化中のアレに近づくのは危険だ。わからないかもしれないが、今アレの周りには濃厚で勢いのある空気の層が出来上がっている。もし、近づきでもしたら一瞬で切り刻まれる」


 脳裏で自分がそうなることを想像してしまった。

 すぐさま、分身体から距離を取って様子見に入る。

 そして、俺は錫杖を強く握りしめた。


「今のうちに教えておく。奴は形態変化した後、俺たち上位種や亜種同様何かしらの能力を一つ得ている。それは君の持っている錫杖の『空間』かもしれないし、それ以外かもしれない。これに至っては君の細胞とヴェイル細胞によって生まれてくるものだから、何とも言えない。どんな能力かわかるまでは用心してかかれ」


 俺は生唾を飲み込んだ。

 体中汗だくの状態だ。

 額から出た汗が頬を通り地面へと落ちていく。

 地面は波紋状に振動するだけで、汗水が貯まる様子などない。

 ジークは至って冷静だった。

 寧ろ、早く分身体と戦いたくてウズウズしているようにさえ、見えてしまう。

 そういえば、さっき未判明だった情報を言っていたな。

 上位種や亜種は何かしらの能力を一つ得ている……か。

 こんなこと、どの文献にも載っていなかったはずだ。

 生きて帰れたら、何としても上層部に知らせておこう。


「そろそろ来るぞ」


 ジークの慎重なまでの合図に思わず身構えた。

 さっきまでは苦痛などを伴っていたからなのか、もがいていた分身体が今ではおとなしくなっている。

 形状変化がもう終わったのだろうか。

 部分部分が金属の衣を羽織っているように見える。

 尻尾や翼も綺麗に出来ており、爪は研いだあとの剣みたいに白く輝いていた。

 すると突然滑空しながら物凄い速さで接近してくる。

 俺は錫杖を振るったが、ものの見事に上方へとかわされた。

 さらに、分身体は空中で前方回転をして尻尾を思いっきり俺へと叩きつけてくる。

 刺のように鋭い尻尾が左肩を差さった。

 毒などはなかったが、鋭さ故に激痛が走る。

 その際、左手で持っていた錫杖を落としてしまう。


「君には死んでもらっては困ると言ったでしょう」


 横から入ってきたジークが分身体の脇腹を肘打ちして吹っ飛ばす。

 そのまま分身体は勢いよく転がっていったが、途中で態勢を立て直し、まるで獣のように2本の腕と2本の足を地面につけて構える。

 尻尾は逆立ち、翼は地面と平行になるように傾ける。

 次の瞬間、手前の腕2本を使って低空飛行でこちらに向かってくる。

 俺とジークは顔を見合わせ頷く。

 錫杖を拾い上げてそれを分身体目掛けて投げ飛ばした。

 しかし、翼を使って重心を傾け避けられる。

 同時に俺は分身体に真っ向から近づいていく。

 相手は元の状態に戻ること夢中になっている。

 俺はその隙を狙って拳を振るった。

 相手の背中に綺麗に入り、そのまま地面に叩き落とす。

 連続してもう片方の拳を下ろそうとしたところ、片手で制止させられる。

 力を入れてもビクともしない。

 そして、もう一方の腕もいつの間にか尻尾で動かないようにされていた。

 分身体は何も掴んでいない片方の手を大きく後ろへと引いた。

 その手の爪には何かが纏ってあった。

 おそらく、この一撃をくらったら確実に死ぬだろう。

 しかし、実際これは計算通りの状況だった。

 明らかに分身体は俺しか見えていない。

 つまり、上空から接近してくるジークの姿には気づいていないだろう。

 ジークの両手は岩石を纏っている。

 そして、その両手を地面に対して垂直に突き出し、そのまま落下していった。


「バスター・ロック!」


 叫び声と共に、纏っていた岩石がより頑丈になっていく。

 しかし、さっきまで気づいていなかった分身体もその声には気づいた。

 すぐさま身を守ろうとして、翼で受け止めようとする。

 ジークはその翼を貫通するような勢いで攻撃をした。

 実際、貫通することなど起きなかったが、翼は折れ曲がってその弾みでジークの拳が分身体の背中に直撃する。

 そして、勢いよく地面に叩きつけられた。


「見事な連携だ、才和くん」


 敵の言葉なのに、妙に嬉しかった。

 さっきまで強く掴まれていた力が急に弱くなり、俺は拘束状態からスルリと抜け出す。

 そして、俺たちは間に横たわっている分身体がいる形で向かい合っていた。


「これで終わりなのか?」

「ああ、直にこの世界も消滅し目覚めることができるはずだ。その時にはおそらく君もヴァイルの力を使えるようになっているはずだ」


 力が手に入るのは嬉しいが、これといって喜びを感じない。

 憎きヴァイルの力だからだろうか。

 それとも、己一人の実力で勝ち得たものではないからだろうか。

 理由はどっちにせよわからない。

 ただ、この力があればもっと高みを目指せるような気だけはしていた。


「なあ、いつになったら目覚めることができるんだ?」

「私にもそれはわからないが、普通はそう時間がかからないはずだ」


 あれから、数分経つと言うのに全く情景が変化しない。

 すると、俺たちは一つの可能性に気がついた。


「ま、まさか!」


 そう思った瞬間だった。

 突然、死んだと思っていた分身体が足を引っ掛けるような感じで地面と水平に回転して、尻尾で攻撃してくる。

 ギリギリのタイミングで気づいたこともあり、避けることができた。


「まだ死んでいなかったのか。君と同じでしぶといね」

「余計なことは言わないでいい。とりあえず、もう一度あのコンビネーションで行こう」

「いや、二度も同じ手には引っかからないだろう。ヴェイル細胞とはそういうものだ」


 どうすればいいのだろうか。

 明らかに分身体は隙を与えずに攻撃をしてくる。

 つまり、さっきのように話し合いなしでコンビネーションを決める必要がある。

 あの時の成功を考えると出来そうではあるが、一歩間違えれば死は免れない。

 昔の俺だったら諦めて死を選んでいただろう。

 それはいつでも死んでいいなんていう考えを持っていたからだ。

 しかし、今は違う。

 純粋にみんなと一緒に生きてヴァイルを倒したいと思っている。

 だから俺はこんなところで死ぬわけにはいかないのだ。


「とりあえず、私が惹きつける。その間に君は何か良い手を考えてくれ」


 ジークが怒り狂ったような分身体相手に真っ向から突っ込んでいく。

 俺はその様子を見ながら、何かいい案はないかと考えていた。

 一進一退の攻防戦。

 分身体がジークの攻撃を腕で守り、ジークは基本ガードしていたが、尻尾の攻撃と何かを纏った一撃だけは後ろに退いてかわしていた。

 ジークにだって体力に限りはある。

 いつやられてしまうかだってわからない。

 やられてしまう……、そうか! その手があった。

 ちょうどいいタイミングでこっちの方までジークが近づいてきた。


「さっきぶっ飛ばしてきたから、ちょっとは時間がある。何かいい案は浮かんだか?」


 俺は頷いて、作戦内容を伝える。

 初め聞いたとき、ジークは驚いた表情をするが聞き終わった頃には賛成してくれた。


「しかし、一度きりの賭けだな。大丈夫か?」

「これくらいしなければ勝てない相手だと思う」


 その言葉にジークが頷き、来るであろう分身体に接近しに行く。

 そして、またもや攻防戦が始まるのだった。 

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