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ヴァイル・クライ  作者: 日谷 将也
  第1章  始まりの轟き編
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  第1波  蟷螂型ヴァイル 出現!

 俺はインカムに手を添え、仲間の合図を待った。

 コンクリートの大地の至るところに地割れ跡のようなものも出来ていて、車や建物は半壊で済んでいればいい方である。

 路上を歩く人など一人としていない。

 なぜなら、そこには人を喰らう化け物「ヴァイル」が存在するからである。


【作戦の指示を伝える。一度しか言わないから頭に直接叩き込め】


 仲間からの連絡が入った途端、武器を出し始める。

 俺が今居る場所はヴァイルから見て北前方400メートルというところか。

 そして、ヴァイルは北に向かって前進しているため、距離は段々と近くなっている。

 今現在俺の周りには隠れ蓑となる場所が沢山存在するが、ヴァイルはあたりを破壊しながら来るので戦闘となれば隠れ場所など一瞬にしてなくなる。


【今回、ターゲットは2体。一体は北に、もう一体は南に向かっている。我々は北を担当するが、こちらのヴァイルの型には『雷式』が内蔵されているもよう。よって、近距離の戦闘員は注意して攻撃されたし。ただちにインカムを切り戦闘準備をしろ。10秒後、一斉に戦闘に入る】


 俺は指示通りインカムを切り、10秒間待っていた。

 ヴァイルとの戦闘でおいて最も厄介な技「ジェネレーション・ノイズ」。

 これはどのヴァイルでも使うことができる技で咆哮を周囲に轟かせることである。

 それを聞いたとき、電源が入っている電子機器にはウィルスを流し込まれ、それを持っている人の脳細胞を死滅させるという。

 我々がインカムを切るのはその技の対策であることはもう言うまでもない。


「よし、行くぞ!」


 俺は隠れ蓑にしていた車を飛び越え全力でヴァイルの元へ走っていった。

 今回のヴァイルは蟷螂(かまきり)に近い姿で巨大な鎌を4本、足は6本生やしていて、背中には甲羅があり、長い尻尾までついているという不気味な姿をしていた。

 俺は接近するやいなや、上空へ飛んだ。

 そして錫杖(しゃくじょう)を構え、ヴァイルの頭部に思いっきり叩きつけた。

 周りの皆も俺に続くようにして銃を持つ者は足、金槌を持つものは甲羅、剣を持つものは尻尾、盾を持つものは鎌からの攻撃を守っていた。

 ヴァイルは感覚神経が鈍く、ダメージを感じるまで時間がかかる。

 とは言っても、そのラグはたったの数十秒ほどであった。

 しかし、その数十秒が勝敗の分かれ目になると言えるほど重要な時間でもある。

 すると、劈くような咆哮が辺り一帯に響き渡った。

 ついにヴァイルは俺たちの攻撃に気づいたらしい。

 そして、同時に「ジェネレーション・ノイズ」を発生させる。

 ものすごい轟音ではあるのだが、インカムの電源オフ時の効果「アンチ・ジェネレーション」によって、俺たちには轟音は聞こえない。

 ただし、「ジェネレーション・ノイズ」によって発生する重力変化と衝撃波は遮断することはできないのである。


「くっ……」


 俺はヴァイルの近くにいたせいで、重力変化の影響をもろに受け、地面に這い(つくば)るように寝ていた。

 俺は錫杖の力をなんとか解放しようと思い、錫杖の上部にあるスイッチ「ガジェット・チェーン」にこの重力場の中、必死に触れようともがいていた。


『のああああああ!!』


 盾を持っていた兵士の声がした。

 その方向に目をやると、どうやら別の小隊が担当していた鎌が襲ったので彼らは気づくことができず、ものの見事に攻撃をくらっていた。

 かなりの出血の中、生きている者もいたが、胴体が真っ二つに引き裂かれて死んでいる者もいる。

 この光景を目の当たりにした新人兵士の何人かは恐怖で逃げ出した。


(全く、大体強がっている新人ほど、こういうのですぐ怖気づくんだよな)


 俺はそんなことを思いながらスイッチを押すことに孤軍奮闘していた。

 すると、さっき小隊を切り刻み赤く染まった刃が俺目がけて吹っ飛んできた。


 ――ギィン!!


 間一髪であった。

 俺はスイッチを入れることにギリギリのタイミングで成功した。

 彼の持つ錫杖こと「御神楽式呪術仙杖(みかぐらしきじゅじゅつせんじょう)」の「ガジェット・チェーン」に備わっていた能力、「重力解放(スペース・ホール)」。

 俺はその力によって行動の自由を取り戻し、ヴァイルの攻撃を受け止めることにできた。

 そして、俺はそれを思いっきり弾き飛ばし、相手の頭上へ行ってまた錫杖で頭部を思いっきり叩いた。

 周りの攻撃によってかなり弱っていたためか、俺の攻撃を受けるとヴァイルは地面にくっつくように地に付した。


「ここからは俺に任せろ!!!」


 背後から怒鳴り声が戦場に鳴り響く。

 次の瞬間、俺の肩を足場にして飛んでいく男の姿が視界に映ったかと思うと、俺はそのまま地面に落ちた。

 そして、男は「ガジェット・チェーン」を起動すると持っていた金槌が紫色の眩い光を放ち出した。


「岩を砕き、大地を砕き、星を砕く破壊の力『プロメテウス』! 百鬼夜行を打ち砕く力を今ここに示さん! 奥義! 惑星破壊(ブレイク・バースト)!!」


 そのまま勢いよく男はヴァイルへと向かっていき、金槌を甲羅に叩きつけた。

 甲羅はものの見事に破壊されヴァイルは地面に叩きつけられると、数分後動きが止まった。


「和馬、最後わざわざ俺を土台にする必要はなかったろ」


 さっき、金槌でヴァイルの甲羅を破壊した男「和馬」は俺と同期だ。

 実はかなり昔っからの付き合いで共に競い合ってきたライバルでもある。

 性格は目立ちたがり屋で楽観的思考を持っている。

 だた、戦闘に関するセンスはいいようで彼の実力に渡り合える人は同期の中では俺とあともう一人くらいである。


「才和を土台にしなければ、あの技は決められなかったぜ」


 才和、つまりは俺のことだ。

 実際、彼の使った「惑星破壊」は力を溜めるのに長く時間を要するため、空中のみで溜める場合には俺を土台にして飛んだ高さまで行かない限り、まあ無理だろう。

 しかし、別に溜めるのは空中でなくてもいいことを考えれば当然、俺を土台にする必要など全くなかった。


「そろそろ、限界か」


 俺も和馬も「ガジェット・チェーン」をオフにした。

「ガジェット・チェーン」は一時的に強力な技を使用することができる代わりに体力の消耗が半端なく多い。

 そのため、この力を持つことができるのはある程度の実力と相当な体力を持ち合わせていなければならないのである。

 俺たちはその場に倒れこむ感じに勢いよく座った。

 それくらいに疲労しきっていたのである。

 理由は予想よりも死者と戦線離脱者の多さにあった。

 普段は一体のヴァイルを討伐するのにさく人員は8小隊32人、その内予想戦線離脱者の数は8人、死者は8人と予想されている。

 しかし今回、死者は5人と少なかったのだが、戦線離脱者は21人。

 残って戦っていたのはわずか11人でその内8人はスナイパーであった。


「全く、ラウド教官の訓練をしっかり受けてないから、ああなるんだよ」

「まあ誰も好き好んであの人から教わろうなんて思う人はいないさ」


 和馬が言ったラウド教官とは、俺と和馬の訓練生時代の教官である。

 ちなみに、教官は訓練初日の前日に各自自由に選ぶことができる。

 では何故、俺たちがそんな誰も好き好まない人を教官になんか選んだかというと、単なる俺と和馬の根比べである。

 ラウド教官の訓練はかなり厳しくて脱落者が多いことで有名だった。

 早い人だと、開始15分で脱落したらしい。

 そんな怖い教官の下で何日耐えられるかという遊び心で俺たちは選んだ。

 勿論、ラウド教官はそんな事は知らないし、俺たちはラウド教官のことをすごい教官と今では尊敬している。

 数分間、俺たちは赤く染まった大地で休憩していると何やら静止したヴァイルが動いたような気がした。


[こちらのヴァイルの型には『雷式』が内蔵されているもよう]


 俺は重要なことを今思い出した。

 俺は後ろにいたスナイパーたちの方に振り返り、切羽詰った剣幕ですぐさま身を隠すように叫んだ。

 スナイパーたちは唖然とした表情のまま、最初のポジションへと戻っていった。


「すごい剣幕で言っていたがどうかしたのか?」

「和馬、今回のヴァイルには『雷式』が組み込まれていることを忘れたのか」


 和馬は『雷式』という単語を聞いた瞬間、緩んでいた表情が一気にこわばり、またしまっていた武器を再び取り出した。

 おそらく、スナイパーたちはインカムを切っていたに違いない。

 基本スナイパーは死ぬことがほとんどなく、また一斉攻撃を開始するタイミングは俺たち近接戦闘型の人が飛び出してから撃つので彼らはインカムを入れる意味がほとんどないのである。

 そのせいで、スナイパーにだけ連絡が遅れることは過去に多々あったが、よりよって今回それは最悪なことに他ならない。通常のヴァイルは静止を確認したと同時に討伐完了とみなされる。

 しかし、『雷式』を内蔵するヴァイルは再生能力を持つため、基本バラバラになるまで壊すことで討伐完了なのである。そして、それを思い出しときは既に遅く、ヴァイルは再び立ち上がった。

 そして、最初のときよりも物凄い轟音が戦場に轟く。

 さっきは壊れることなどなかった建物も、この轟音には耐え切れず破壊された。


「う、うぁぁ!」


 スナイパーたちはまさか自分たちの方にまで咆哮は届かないと思っていたのか、この惨状に対する驚きのあまり彼らの足は小刻みで左右交互に動いていた。

 また、鉄筋コンクリートの建物の近くいた数人は既に死んでいた。

 彼らの姿はとても酷い姿で体の何箇所かは鉄筋に貫かれており、全員仰向けになってへそが灰色の空を見ているようだった。

 視界が完全に赤色に染まるような光景だった。

 さっきまで転がっていた死体も轟音で散り散りになり、腕や足の一部が吹っ飛んでくる。

 俺や和馬はこういう光景にはもう慣れていたが新人たちは一回一回悲鳴をあげたり、中には吐いている人まで出てきた。


「状況は最悪としかいいようがないな、戦えるのは俺と才和だけか」

「だったら、俺が惹きつけるから和馬はタイミングを見計らって一撃で決めて欲しい」

「わかった」


 俺たちは作戦が纏まると、武器を構えてヴァイルに近づいた。

 さっきまでと違いヴァイルに隙などなく、序盤のように盾の守りがあるわけでもない。

 また、俺たちはどっちも「ガジェット・チェーン」を起動する体力は残ってなどないし、一度でも当たれば、おそらく戦闘に参加することは不可能だろう。

 俺たちの足取りはいつもより重かった。

 それは今までよりも強くなった重力変化のせいなのか、それとも別の何かによってなのかはわからない。

 それでも、俺たちは前に前にと進んでいく。

 赤い水たまりがはね、俺たちにプレッシャーを与える。


(よし! ここだ!)


 俺は下部を狙ってサイドから襲ってきた鎌を避けると同時にその刃の上に乗った。

 和馬は鎌の攻撃範囲に入らないスレスレのところで、隙が生じるのをじっと待っていた。

 そして、俺はそこからヴァイルの頭より高めの位置に飛んだ。


「いっけーーーーーー!!!!」


 俺は精一杯力を込めて錫杖を思いっきりヴァイルの頭部に叩きつけた。

 しかし、頭部に当たったと思われていた錫杖は頭部ではなく、ヴァイルの巨大な二本の鎌に当たっていた。

 そして、俺は鎌を二つ共破壊しヴァイルの頭部に錫杖を当てたが、その時には既に勢いがなかったためヴァイルにダメージはなかった。

 すると、アスファルトを揺るがしてしまうような大きな咆哮と共に残り二本の鎌が挟みうちをするかのように襲ってきた。

 俺はヴァイルの頭部を足蹴りしその反作用の力で鎌を避けて距離を取った。

 しかし、ダイヤモンドのように硬い装甲を持つヴァイルを足蹴りすることは同時に俺の足の骨に負担がかかった。

 そして、今度こそ倒そうと立ち上がった時、悲劇は起きた。


「くそっ!こんな時に限って……」


 普段なら耐えられるはずの足がよりにもよって今回は折れた。

 俺は片足でなんとか立とうとしているとき、ヴァイルが俺をターゲットに振り絞って近づいてくる。

 和馬も不意を取られたせいでヴァイルの背後にいる。

 ヴァイルの尻尾が健在である今、金槌使いである和馬は背後からの攻撃は危険であるため、前方に回る必要があり、そのせいで才和を助けることが不可能な状況であった。


「ったく。見てらんねぇな、おい。助けてやるよ」


 いつの間にかヴァイルの甲羅の部分に乗っていた男は、そう言うと一瞬にしてヴァイルの尻尾を腰にさしていた日本刀で切断した。

 それはものの見事に斬れており、ヴァイル自体もまるで呆気を取られているようだ。

 次の瞬間、ヴァイルは悲鳴のような咆哮を叫ぶと、自分の甲羅めがけて鎌を振り下ろす。

 しかし、男は一瞬にして消え、すぐさまヴァイルと相対するような位置に出現した。

 鎌はそのまま勢いよく貫き、甲羅部分に穴があいたような傷を作る。

 そして、男は刀の持ち手を自分の顔の横あたりの位置まで上げ、刃の部分が上を向くように構えると「ガジェット・チェーン」を起動した。


「轟くは(いかずち)の如し、荒ぶる力は土の如し、迫り来る脅威は水の如し、切り裂く刃は鋼の如し。百鬼夜行を斬り裂く力を今ここに示さん! 奥義! 神速一斬(ソニック・ソード)!!」


 目にも止まらぬ速さで男はヴァイルの前方から後方に移動する。

 そして、ヴァイルが後ろへと振り向こうとした時、男は既に刀を鞘に納めていた。

 その瞬間、ヴァイルの胴体は真っ二つに斬れる。

 さらには地面にそれが着くなり、首と胴は離れ、足も全て抜け落ち、鎌の腕も切り落とされていた。

 あまりの早さ故、ヴァイルは痛覚によって叫ぶ前に討伐されたのだ。


「ガウス、最初からお前も手伝えよ! なんでピンチ時だけ来んの?! あと、どう見ても複数回斬ったろ今!」


 和馬が一人で叫ぶようにして文句を言っている。

 ガウス、彼も俺たちの同期で、ラウド教官の下で一緒に訓練した仲だ。

 また、俺たちと並び立つ実力を持ち合わせている。


「ふん! さっきお前たちが闘っている時にちょくちょく神速で傷口を作っといたんだよ! 俺が戦いで求めるのは美しい勝利だからな。おかげでラストは綺麗に決まったぜ」


 満足げに語るガウスがここにいた。

 そして、ガウスと和馬は二人で俺に近づき、それぞれ片手を差し出してきた。


「ほら、担いでやるよ」


 笑顔で言って俺の片腕を取り自分の肩にかける和馬。


「特別だ」


 目を逸らして指で頬をポリポリしながら、もう片方の手で俺の腕をとってそっと自分の肩にかけるガウス。


「ありがとう」


 そして、そんな二人に支えられてゆっくり立ち上がる俺がここにいた。

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