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沙耶、意識する

アルさんに着いていき、どんどん王都を進んでいく。

王都というだけあってこの街は広い。

華やかな城下の街を越え、少し路地を曲がると先ほどとは比べ物にならないほど静かな住宅地のような場所に出た。

大通りとなる道はお城に向かって一直線に伸びているが、複数の路地があり一歩足を踏み入れたら、私は完全に迷子になる自信がある。

…絶対もといた場所に出れないよ、これ。複雑すぎ…

その複雑に入り組む道をアルさんは何ともないように進んでいく。

私は絶対置いて行かれないようにと気を引き締めて着いていく。

迷子、絶対いや。

しばらくそうして、歩いているとアルさんは一軒の家の前で立ち止まった。

そこはアパートのような部屋が沢山ある様相の家だった。

今まで泊まっていた宿は、可愛らしいコテージ風の暖かい外観が多かったが、ここは機能性重視のような無駄な様相がないシンプルで部屋数の多い家だ。

(…こんな家とかあるんだ。今までは可愛い風の家しかなったのに)

そう心の中で言葉を零す。

シーガ村の街並みは、田舎というか素朴なカントリー調だったし、今まで通ってきた街の様相とも違ったので思わず、まじまじと見つめてしまう。

でも、こういう外観ってもとの世界の家に近い気がして、少し胸が痛んだ。

もう3カ月以上経った。

…もう、戻れないのかな…

そう考えてはっとする。

ダメダメ!

ネガティブはダメ!!

今は仕事!!

ここで、仕事できるようになるんでしょ、私!!

そう自分の心を叱咤(しった)し、自分の頬を何度かパンパンと軽く叩く。

よし、気合注入完了!

「と、まぁ家に着いたわけだが、あんた何してんだ?」

気合を入れ終わり、胸の位置で小さくガッツポーズをしていたら、いつの間にか正面を向いていたはずのアルさんが私の方を見て、何してんだこいつ?という表情でこちらを見ていた。

…恥ずかしい!!!

「い、いえ、これからの生活のために気合を…少々いれておりました」

恥ずかしいので、若干しどろもどろで硬くなった言葉を返す。

そんな私の言葉に「へぇ~」と相槌を打ちながら、アルさんは私をじっと見つめる。

その顔は、面白がっているようにも見えるし、何かを確認してるようにも見えた。

まるで、私の心を覗いて楽しんでるような…

気のせい…だよね?

私が一歩後ずさりをしそうになった時、ぱっとアルさんが私の方から視線をそらせ、いつもの口調で「ここが、これからあんたが住む家だ」と口にした。

やっぱり、と心の中で思いながらもう一度その外観を眺める。

「魔術名簿に登録してから、成人するまではここで過ごしてもらう事になる。それ以降はあんたの自由は。まぁ、詳しい話は中でするか。」

そうして、アルさんはアパート(私の中ではもうアパート確定)の階段を上っていく。

アパートは5階建てで、アルさんは3階のある一室の前でとまる。

そして鍵を開け「どうぞ」と笑って私を促す。

私は恐る恐る「お邪魔します…」と言葉を発し、中に足を踏み入れる。

いや、自分の家になるとしてもやっぱり日本人の性というか、こういう言葉出ちゃうよね…



中は、ガランとした印象だった。

生活に必要最低限のものしかない、なんの個性もない部屋。

…まぁ、空き家なわけだしこんなもんかと思っていると「あ~、久しぶりの我が家だ」と後ろでアルさんが呟いた。

その言葉で、私は体をアルさんに向け「…今、何と言いました…?」と言ってしまったのは、仕方がない事だ。

「だから、俺の家。ほとんど、旅してるから戻らないんだけどな。でも、あんたが成人するまではここで暮らすよ。」

とにっこり笑って答える。

なんでぇぇぇ!と叫ぶ自分と、あぁでも18までは誰かと一緒に住まなくちゃいけないのかと、ここでの常識を思い出す自分が問答している。

いや、今まで一緒に旅で一緒に寝泊まりしたけどね!でも、それ期間があったからだし!でもさ!これから成人するまで一緒って…!

そんな事を考えながらすっとアルさんを見る。

鮮やかな赤色の髪に深い紫と漆黒の瞳。

身長はスラっと高くて、バランスが良い。

顔のパーツも綺麗に顔に収まり、無駄がない。

いつもは、言動が子供っぽくフランクなのであまり意識しないが、さっきみたいにきちんとした喋り方や所作をするといつもの雰囲気が崩れ、一気に落ち着いた大人になる。

この人が『男』の人だと意識してしまう。

…そう『男』なのだ。

この人は。

私の実年齢よりも年上の…格好いい『異性』

そこまで考えて、私は自分の体が熱くなるのを感じた。

顔とかいう問題じゃなく、体のすべて。

そう、忘れかけていたがこの人も美形。(旅してる間に慣れたと思ったのに!)

しかも綺麗系じゃなく、普通に男としての魅力を持っているカッコいい男性なのだ!!

3か月もお前、ラル君と同居してただろと心の私が囁く。

だが、ラル君はこういうタイプじゃなかった。

どちらかというと中性的で、綺麗な子だった。

これから、どんどん色香を増し(その辺の事がお姉さん心配だ)男の人になっていくのだろうが、私にとっては『弟』。

この世界の家族なのだ。

安心できる存在だった。

でも…アルさんは違う。

家族でもなんでもない『異性』なのだ。

そんな人と…これから一緒に…住む!!?

意識をするともうダメだ。

さっきまでどうやって、話してた?

どうやって、一緒にいた?

どうやって、どうやってと私の中でぐるぐる思考が回る。


私の様子の変化にアルさんが気づき「おい、どうした?」と心配そうに声をかけ私の肩に触れようとした。

それに気づき

「嫌!!」

と声を上げ、手を払いのけてしまった。


しばらくの沈黙が私たちを襲う



…やってしまった。

勝手に意識し、勝手に自意識過剰になり、アルさんの好意を…!!!

ごめんなさいごめんなさい!

と心では土下座なのだが、口は動かず言葉が出ない。

何か、喋らなくちゃと今度は焦る。


そうしたら、アルさんが笑った。

いつものように堪えられずに、噴き出したような笑い声。

こんな私の心情など露知らぬような、いつも通りの笑い声。

『男』ではなくアルさんの声。

そう思ったら、今まで心にあった葛藤はあっという間に吹っ飛んだ。

「手、払ってごめんなさい」と今度はスルリと言葉が出た。

「…っ、いや、こっちもっ…悪かったよ」とまだ若干笑ってるアルさんが面白そうに眼を細める。

それから息を整えるように何度が、深呼吸をするアルさん。

「だって、あれだろ?これから、一緒に住むって聞いて意識したんだろ?…可愛いねぇ」

そう言いながら、グリグリ私の髪を混ぜるように撫でる。

…図星だ。

さすが、大人。

…なんかあれだな。

思春期の女の子が、近くのお兄さんを意識するけど、そのお兄さんは「あぁ、こいつもそんな事意識するようになったのかぁ。大きくなったなぁ」とかしか思ってないパターンの奴だ!

まったくの対象外。

これだけいうと女として寂しいものがあるが、確かに15の小娘に26の男に人が興味を持つの方がちょっと危ないよな。と私の思考は落ち着き、常識的な事を考え始める。

そう思ったら、なんだか同居生活出来る気がしてきた!

その私の思考を読みとる様に「でも俺子供に興味ないから、そこは気にしなくて平気だぜ?ごめんなぁ」とそれはそれは楽しそうに言葉を落とす。

ごめんといってるわりに、まったく謝罪する気がない言葉。

いつものアルさんの言葉。

性の違いなんか感じさせない、優しいお兄さん。

平気でセクハラまがいの事をするし、自分の楽しい事優先だけど、大人で、ちゃんと私のことを考えてくれる人。

…大丈夫。

この人との生活もきっと楽しい。

そう思ったら自然に

「はい。私も11も年上のお兄さんはちょっと無理なので平気です。これからよろしくお願いします。」

と言葉が出て、笑顔で手を差し出す。

そしてアルさんは「ひでぇ言い草」と笑って、自分の手を私の髪から私の手に持っていき、握手を交わした。

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