沙耶、気づく
なかなか、進まない~
第2、3村人登場です~
王子に手を引かれて辿り着いたのは、のどかな田舎の村という感じのところだった。
水車が揺れ、村のあちこちから小麦の香ばしい香りが漂う。
…なんだか、癒される空間だな~
老後過ごしたい場所というか、長い休みを取って休暇を楽しみたい場所と言うか…。
キョロキョロと辺りを見回しながら、王子の後をついて行く。
そして王子は、一軒の店の中に「戻りました」と軽く声をかけて入って行った。
そこは、カントリー調の可愛いお店。
おぉ、なんてメルヘンと場違いであろうことを思う私。
「おや、早かったね」と中から、40代中盤くらいの人の良さそうなおばさんが顔を出す。
続いて、「サボってんじゃねーだろうな」とやはり40代中盤から後半くらいの体格の良い、それでも人好きする笑顔をしたおじさんが出てくる。
私は2人を見てギョッとした。
…2人とも髪が紫なんですが…
どこの国の方ですか…?
そんな風にジロジロ見ていたからだろうか、おばさんとばっちりと目があった。
急いでお辞儀をすると「あらあら~!」と妙に明るいおばさんの声が響く。
「可愛い子!この子、どうしたんだいラル坊。」
「何だ、あまりの可愛さに街から誘拐してきたか!?」
可愛い可愛いと私を嬉々として見るおばさんと、明らかに冗談口調で豪快に笑うおじさん。
「麦畑で1人でいて…。どうやら迷子みたいです。一応どこから来たのか訪ねたんですが、俺には分からない地名で…。魔力持ちの子を1人にする訳にも行きませんし、一度村に連れてきました。」
おじさんの冗談をスルーしつつ、王子は(ラル坊って呼ばれてたな。王子の名前かな?)おばさんの質問に丁寧に返答する。
ん?…今、魔力持ちとか聞こえたような…?気のせいかな?そうだよな!
「おやおや、迷子かい?そりゃあ心細いだろうね~。お譲ちゃん、どこから来たんだい?あたしらならこの辺の地名にラル坊より詳しいからね!言ってみな」
私の目線に合わせるように微笑みかける。
優しそうな青色の瞳…というか、おばさんも170センチ近くあるな~。おじさんなんか、王子よりでかい!!180後半から190センチありそう…
そして、2人とも若いころはモテたであろう美形!!
いや、需要によっては今でもモテそうな…
なんなんだ、この美形率…!
無言でおばさんやおじさんの顔を観察していたら、緊張して喋れないと思ったのか、王子が突然「大丈夫、怖くないよ?ゆっくりで良いから、俺に言ったみたいに話してみてごらん」と優しく頭を撫で始めた。
いや、違うよ!
緊張とかじゃないの!!
ただ、美形だな~って感心して観察してただけなの!
お願いだから、その妙な子供扱い止めて!
(多分)貴方と同年代の女子よ!
恥ずかし過ぎるから!!
辛すぎるから!!!!
あまりの恥ずかしさに、頬が熱くなるのが分かる。
あぁ、それさえも優しげな瞳で見ないで王子…!
おばさんも「あらあら、可愛いわね~」なんて暢気に笑わないで…!
おじさんに至っては「こんな子が、うちの子供か孫だったらな~」とか和まないで!!!
ちょっと、私21なんですけど!!何なの、この子供扱いのオンパレードは…!
「…私、東京から来ました。帰り道が分からないので、教えていただけませんか?」
この雰囲気に軽くイラついて、若干声のトーンが下がってしまった私は悪くない…!
だって流石にひどくない?
確かに、外国人から見たら日本人なんてまだまだ子供だと思うけどさ…!
私、成人してるの!!
しかし、2人はムスッとしている私を特に気にするでもなく、キョトンと顔を見合わせていた。
口々に「とーきょー?」と小さく呟きながら、必死に東京という地名を思い出そうとしているようだ。
そして、「あんた…とーきょーって知ってるかい?」「いや、わからねぇ…。出来たばかりの小国か?」
と互いに困惑気味に話しあっている。
そして、おばさんが一度奥の部屋に引っ込み、しばらくすると手に地図と思われる紙を持ってきた。
その地図を私の前に持ってきて「お譲ちゃん、自分がどこの大陸から来たか分かるかい?」と聞いてきた。
私は、地図を覗き込む。
でも、私は答えられなかった…
だってその地図は
私の知ってる大陸は、何一つ載っていなかったのだから
…本当はね、穴に落ちた時に薄々分かってた。
だって、玄関に落とし穴なんてあり得ないでしょ?
しかも穴の先が麦畑なんて…
信じられないよ
そんなファンタジーあるはず無いって思うでしょ?
でも、信じられなくても
…現実なんだ…
ここは
私の知ってる世界じゃない
やっと、認めました。
ここは異世界です。