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沙耶、旅立つ

そして、朝になった。

私は、手早く道中で食べるお弁当を作り、玄関へ。

そして、ラル君に向き直る。

もちろん、ラル君は丘の上まで着いてきてくれるつもりだろう。

でも、そうすると決心が鈍りそうで怖かった。

私は1人でこの家を出なければならないのだ。

だから、ラル君に「ここでいいよ。ラル君と一緒に行くと泣いちゃいそうだから」とわざと冗談ぽく振舞う。

本当に泣いて、行きたくないと叫んでしまいそうになるから。

それはラル君もアルさんも困らせるだけだから。

だから、ラル君と一緒に行ってはダメなのだ。

一瞬悲しげな顔をしたラル君だったが、すぐに私の身体を引きよせて「いってらっしゃい」と穏やかに囁いた。

まるきりいつもと逆だと、思わず笑って「いつもと逆だね」と言いながら、ラル君の背中に手を回す。

長いようで短い抱擁をし、ラル君の目を見つめ「行ってきます」と笑った。

今できる精一杯の笑顔で。

帰って来れるかなんてわからない。

でも、自分の世界に帰れなかったら、働くとしたら、出来るならシーガ村で働きたいと思った。

そんな気持ちを込めて、行ってきますと言った。

帰ってきたい。

この村に恩返しをしたい…そう思いを込めて。

嘘になったらごめんなさい。そう心で小さく呟く。

そして私は歩き出す。

この世界で生きていくために。

そして、もとの世界に戻る手掛かりを探すために。


丘に上がると、そこにはアルさんの姿が。

「…お別れは済んだか?」と優しく微笑むアルさんに「はい」と頷く。

そして「お別れだけど、また帰ってきたいと思います。ここは…私の第2の故郷ですから」と笑う。

少し、驚いたような顔をしたアルさんだったが、すぐにおかしそうに笑いだす。

「やっぱりあんたは面白い」といつものセリフを呟きながら。

笑うアルさんを見ながら「お弁当作ってきたんです。後で食べましょう」とバスケットを見せる。

途端に嬉しそうな顔をするアルさん。

コロコロ表情が変わるアルさんは見ていて飽きない。

「よし、じゃあ行くかぁ!」とアルさんは私に声をかけ歩き出す。

それに続く様に、歩く私は一瞬歩を止め振り返る。

丘から一望できるシーガ村。

麦を栽培するだけの、のどかな田舎町。

でも、そこに住んでる人は皆優しくて温かい。

こんな私を受け入れてくれた最初の場所。

特別な場所。

特別な人達。

マリアさんダイさん、フィンちゃん…ラル君。

溢れる涙を拭いながら「さようなら」と小さく呟く。

そして、アルさんの歩く方向に向けて歩き出す。

これからは、この人と歩むのだ。

自分の居場所を見つけるために。

…目指すは王都。


王都への道はシーガ村からはかなり離れてるらしく、数日から数週間かかるらしい。

「あんたは、旅に慣れてないからな。ゆっくり行くか」とアルさんが気を使ってくれたので予定よりも長くなりそうだ。

「で、だ。サーシャ、あんたはどんな能力が使えるんだ?」

「は?」

今日目標の街まで行く途中、休憩で私の作ったお弁当を食べながらアルさんが唐突に口を開く。

私は驚いて食べていたハンバーグを落としそうになる。

…危ない危ない。

「能力…とは?」

なんとなくは分かるよ?でも、ほら一応ね?

恐る恐る聞く私に「魔力の能力に決まってんだろ?」とアルさんは真面目に答えた。

…ですよね~。

魔力持ちが持つ不思議な力。

…私が使えるはずないじゃないか。

私は一般人です。(異世界人だが…)

「…何もできないです」と小さく呟く。

アルさんは一瞬目を瞬き、「…何も?」と聞き返す。

無言で頷く私。

アルさんは下を向きつつ、ガシガシと頭を掻く。

頭を掻きながら「いや…でも」とか「箱入りにはこういうタイプもいるのか…?」とか小声でブツブツ言っている。

…ごめんね、迷惑掛けて。

でも、どう頑張っても出来ないです。

ていうか、気になるな魔法。

悩みまくってるアルさんには悪いが、私は自分の欲求に勝てない。

「ねぇねぇアルさん」

未だブツブツ言ってるアルさんに声をかける。

「んー?」と、のろのろと顔を上げるアルさんに「アルさんはどんな能力が使えるんですか?」と聞いてみた。

多分私の目はキラキラと輝いていただろう。

だって魔法だよ!ファンタジーの世界だよ!!

気になるじゃんか!

そんな私の顔を見てアルさんは「…まぁ、見るのも勉強か」と呟く。

「じゃあ簡単なのな」と笑ってくれる。

初!魔法!!

ドキドキする!!

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