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ラル、同居する

そこから、マリアさんの家に女の子を連れていった。

そこで、その子が迷子だと分かる。

最初は気丈に振舞っていたが、「家に帰りたい」と小さく呟きながら泣く、この女の子を見ていたら体が勝手に動き、気がつくと女の子を抱きしめていた。

今までも、自分より弱い者は守ってやりたいと思った事はあった。

自分がしてもらった事を返したいと思ったからだ。

…でもこんなに誰かに優しくしたいと思った事があっただろうか?

慰めたいと思った事はあっただろうか?

衝動的な感覚だった。

何の根拠もない「大丈夫」と囁きながら、指通りの良い髪を撫で続ける。

そうすることで少しでもこの子の気が紛れればいいと思って。

女の子が落ち着いて、皆で食事をした時も、無言でスープやパンをゆっくり食べながら、音もなく泣く姿は見ているこっちの胸が痛む姿だった。

でも、食べ終わると、彼女は笑った。

泣き腫らした顔を懸命に笑顔に変えていた。

歪な笑顔は痛々しいが、とても綺麗だった。

その姿が、懸命に前へ進もうとしているという事が分かった。

…強い子なんだと思った。

そして同時に、脆い子のように思えた。

その強さが、ちょっとした力で崩れてしまいそうな気がした。

…この子に寄り添いたいと思った。


それから、女の子の目に強い意志が灯り、この世界の事を聞きたがった。

未登録者の魔力持ちだ。

ほぼ知識はないと思ったが、彼女は本当に何も知らなかった。

…自分がどのような立場なのかもさえ。

そこから、簡単に彼女の欲しがった情報を教えた。

そして、一番驚いたのは彼女が自分を「21歳」と言ったことだった。

誰にどうそう言われたかは知らないが、あり得ないと思った。

どうみても、まだあどけない少女のこの子が自分より年上とは思えない。

マリアさんやダイさんも同意見だった。

俺はこの子を10歳だと思っていたが、マリアさんは違った。

15歳。

女の子を3人育てたマリアさんの見解だから、まず間違いはないと思った。

それでも、本人は相当ショックのようだったので、俺が10歳だと思って接してたと知ったらかなり大変なことになると思って黙る事にしようとした。

…しかし、彼女は潤んだ俺をじっと見つめてくる。

「…貴方はいくつだと思いますか…?」と小さく呟く。

…やはり気にしていたか…

自分でも分かっている。

あれは、彼女が思い描いてる対応ではなかった事を。

でも、ここで10歳と言っても傷つけるだけだ。

そう思って「15かな?」となるべく目を合わせないように呟く。

考えた分、間が開いてしまったが…

しかし、不服そうな視線を背中にビリビリ感じる。

…仕方がないので最初に想った年齢を呟くと、まるで人生が終わったような顔をした。

…ごめん。と心の中で呟く。

でも、マリアさんもダイさんも納得してるんだよなぁ…

やっぱり顔立ちは幼いのだ。

仕方ない、と勝手に解釈する。

そうして彼女の名前がサーシャだと知った。

…何故か、すごく疲れた顔をし、何かを諦めたように最後はそう名乗っていたが…

…サーシャ。

名前が分かると、何度も呼びたくなった。

可愛らしい彼女らしい名前だと思った。

何度か口の中で呟き、彼女に向かって「よろしく、サーシャ」と名前を呼ぶと、顔を真っ赤にした。

呼ばれ慣れないからだろうか?

というか、俺が何か言うとよく

顔を赤くしている気がする。

…可愛いと単純に思った。

もっともっと、いろんな顔を見たい。そう思った。

そこから、俺達の紹介をし、サーシャが俺を『さん』付けで呼んでダイさんが大笑い。

おろおろ困ったようなサーシャが頬を赤くし意を決したように、「ラル君って呼んでいいですか?」と聞いた時は抱きしめたくなるほど可愛かった。

別に何と呼ばれるのでも良かったので了承すると、ぱぁぁという効果音が響きそうなほど、嬉しそうな顔をした。

…この子は俺のツボをつくな。

抱きつぶしたいという衝動をぐっと堪える。

そうして、なんだか場が和んだ気がした時に、サーシャは緊張したように「仕事がしたい」と言った。

…驚いた。

きっと何か事情があるのだろう。

真剣な眼差しから伝わってくる。

叶えてあげたい。

この子のいう事すべて…

でも、出来ない現実を俺たちは知っていた。

彼女には辛い現実を話さなければならなかった。

“未登録者は働けない”

この事実を。

当然、サーシャは愕然とした様子で下を向いた。

…何とかしてあげたい。

彼女にこんな顔は似合わない。

さっきのように、笑ってほしい。

…守りたい。

そう思ったら口が勝手に動いていた。

彼女を引き取りたいと。

そこにいる皆が驚いた顔をした。

でも、引くつもりはなかった。

誰にも、マリアさんやダイさんにもこの子の面倒はまかせたくなかった。

俺がこの子を守りたい。

俺が出来ることで叶えられる事は叶えてあげたい。

俺の隣で笑ってほしい。

そう思った。

サーシャは躊躇いがちに、「ダイさんの家に…」と言ったが、どうしても嫌だった。

サーシャの真黒な瞳を覗き込んで俺といるのが嫌なのかと聞く。

そうすると「迷惑をかけたくない…」と涙目で小さく小さく呟いた。

…迷惑?

そんなもの感じるわけがない。

一緒に居たいのは俺なんだよ。

俺が君を守りたい。

そう願いを込めて言葉を紡ぐ。

するとサーシャは、涙を堪えるようにゆっくりと頷いてくれた。

…サーシャも俺と一緒に居たいと少しでも思ってくれていたのだろうか…?

そう都合のいい解釈で頭がいっぱいになった。

都合のいい解釈でも何でも良かった。

頷いてくれた。

それだけで、今までで一番の幸せを感じた。

…サーシャを守れる。

その権利をくれた彼女に精一杯の想いをこめて「ありがとう」と囁いた。


そこから、サーシャの買い物をフィンに頼み(不本意だったが助かった)2人の帰りを待つ。

仕事に戻ると、マリアさんとダイさんが、何だか嬉しそうに俺を見ていた。

「何ですか?」と尋ねれば、2人は顔を見合わせ笑みを深くする。

「…ここに来たばかりのあんたの事を思い出してたんだよ。誰にも頼らず、世界は自分しかいないと思っているような目をしていたあんたが…。この村に馴染んで笑うようになって…そうして、今はあんな小さなこの面倒を自分から見たいっていう様になったんだなって。…あたし達にとって、あんたはもう息子みたいなものだから。そんな子が、成長していく様を見るのは嬉しいのさ」とマリアさんは言ってくれた。

「まだまだ子供(ガキ)だと思ってたラル坊も、もう立派に大人なんだなって思ってよ!」とダイさんは笑う。

…そうしてくれたのは、この2人やこの村の人たちだ…

誰かを助けたいと、守りたいと思う気持ちをくれたのは…この村のあたたかさ、優しさ。

だから、俺が教えてあげたい、あの子に。

迷子で一人ぼっちだと思っているサーシャに、『ここ』に君の居場所があるという事を。

俺が教えてもらったように、彼女に教えたい…。

早く、帰ってきて…サーシャ。


そうして日が沈む頃2人は帰ってきて、何故だかものすごく仲が良さそうになっていて正直ムカついた。

同性だから?

フィンの勝ち誇った顔には普通にムカいたが、フィンが「おごり」と称して俺から代金を受け取らなかったのは、あいつなりの優しさなんだと思った。

昔からあいつは俺で遊ぶけど、大切なことは決して踏みにじらず助けてくれた。

これは、たぶんあいつからの同居祝い。

…こういうところがあるから嫌いになれないのだ。

だから、小さな声で「ありがとう」と呟いた。

ちゃんと感謝できるほどまだ、俺は大人にはなれていないから…

でも、フィンには届いたのか軽く手を振るのが見えた。

…早く、結婚すればいい。

あいつなら、きっと幸せにしてくれるパートナーを見つけられるから。

そう思っていると、袖を引っ張られる感覚が…

そこには上目遣いに俺を見つめるサーシャ。

「ラル君のお家早く見たいです。連れて行ってくれますか?」と可愛く子首を傾げる姿がやはり幼くて、可愛いと思った。

…これからはこの子は俺が守る。

期限付きかもしれない、いつまで続くか分からない生活。

でも、精一杯この子に教えたい。

居場所は自分で見つけるものだって…

そう心に思い、サーシャの小さな手を握り「じゃあ、行こうか」と声をかける。

…俺たちの家に。という思いを込めて


そうして始まった俺たちの共同生活。

この家にいる間は笑っていてほしい。

この子には泣いた顔より、笑った顔が似合うから。

ただただ、笑って俺のそばにいてほしい。

そう思うのだ。

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