ラル、出会う
ここから数話は本編のラル君視点です。
しかも、ダイジェスト。
読まなくても支障はありません。
そうして、8年の月日が過ぎた。
フィンに言われた言葉で、自分の中の劣等感と向き合う事が出来るようになった。
ようは自分の心の持ちようなのだ。
率先して街に出ようとは思わないが、必要な時は出れるようになった。
その時も何か言われてる気がするが、特に気にする事もなくなった。
言いたいやつには言わせておく。
それでいいのだ。
そして、俺は成人した。
とうとう成人するまで両親のもとには戻らなかった。
もとより戻るつもりもなかったが、何よりこの村を俺は気に気に入っていた。
だから、成人してもここで暮らそうと思った。
昔みたいな日蔭者の生活を望むのではなく太陽の下、麦を刈りその麦を加工してパンにする。
ダイさんやマリアさんの手助けをしたかった。
俺にとって2人は第2の親になっていた。
その事を2人に伝えると喜んでくれた。
それから、両親の承諾をもらうために王都に行った。
そこは8年前と変わらず、賑やかで噂話に溢れていた。
手早く実家に戻り、両親の承諾を得る。
そうしないと、成人として家を建てられないから。
その事務的な用事だけで戻った自分の家。
…久しぶりに見る両親は思い出の中より、ずっと小さい人たちだった。
ずっと謝って何もしてくれなかった両親。
疲れきって、俺を手放した両親。
色んなことが思い出されたが、不思議と怒りは込み上げてこなかった。
両親が俺を手放したから、俺は自分の居場所を見つけられた。
皮肉な話だが、今はそれが良かったとさえ思えた。
俺を怯えるような眼で見つめる2人に、俺は笑って「ただいま」と言った。
俺は笑えるようになったよ。
複雑な気持ちだけど、決して怒ってないよ。
…強くなれたよ。
いろんな思いで呟いた一言。
2人は、溢れる涙を堪えるように「おかえりなさい」と言ってくれた。
その言葉はとても温かかった。
…事務的に早く済ませてシーガ村にさっさと帰ろうと思ってた。
俺を半ば見放した両親と話など出来ないと思ってた。
…でも、やっぱり家族なのだ。
どんなに王都には辛い思い出しかなくても、確かにこの2人は俺を愛してくれていたのだ。
あの時は分からなかったが、今この瞬間なら分かる。
この人たちは俺をいつでも迎えようと思ってくれてた事を。
とうとう俺は成人まで戻らなかったけど、それでも遅くはない。
これから築いていけばいい。
新しい家族の絆を。
そこから、久しぶりに母さんの料理を食べて、8年間のシーガ村での話をした。
2人は静かにそれを聞いてくれた。
そして、成人後はシーガ村に居を構えて、住みたい事を伝えた。
2人は少し残念そうにしていたが「ここでの暮らしはお前には辛すぎるから」と父さんが言い母さんも頷いた。
昔ならそれすら両親たちの逃げ道と思ったかもしれないが、今はそうは思わない。
純粋にそう思ってくれていると思う。
そうして、俺はシーガ村の一員になった。
年に数回、この家に帰ってくるという約束をして…。
毎日毎日、麦の剪定、刈り入れに追われる毎日。
適齢期に差しかかったフィンの嫁のもらい手も見つからず、嘆き続けるダイさんを苦笑いで見るのも日課だ。
俺としても、言いたくはないが姉代わりだ。
色々フィンには救ってもらったことが多々ある。
早く、幸せになってもらいたい。
…口では絶対に言えないが。
そうして、いつものように麦を刈りいれていたら、広大な麦畑の中で不審な音がした。
ここのエリアには今俺しかいないはず…
空耳か、動物が迷い込んだか…あるいは不審者か…
「誰か、いるのか?」
不審者だった時のために慎重に、ゆっくりと近づく。
すると、明らかに麦が揺れる。
…間違いなく、誰かいる。
揺れる麦をかき分けると、そこには
漆黒の艶やかな黒髪を肩口で揺らし、黒曜石のような黒い瞳が怯えるように俺を映していた。
歳は10前後だろうか。
幼いながらに整った可愛らしい容姿の少女。
「えっと…君、ここで何してるの?」
何故、魔力持ちの子供がここに?と思いつつ声をかける。
そうすると怯えた表情をより硬くし、泣きそうな顔で何か言いたそうにしている。
反射的に、助けなくてはと思った。
物取りとか、不審者とかいう単語は吹っ飛んで、真っ先にそう思った。
そう思ったのは彼女が魔力持ちだったからか、それとも10歳でこの村に来た自分とダブったからだろうか。
なるべく刺激しないように、膝を折り女の子と目線を合わせて「どこから来たの?迷子かな?」と、自分の中で一番柔らかく聞こえる声で話しかける。
すると、多分人と喋る機会がないためだろう。
顔をリンゴのように真っ赤にし、小さな声で「えと…私、東京から…き、来ました。ここ、どこですか?」と答えた。
鈴が鳴るような、綺麗な声音だ。
しかし…とうきょう…どこだ?
この近辺に新しい村や街は出来ていない…はず。
不安そうに俺を見つめる女の子には申し訳ないが、分からないものは分からない。
とりあえず、この子がこの場所を知っているかを聞いてみよう。
「えっと、とうきょうがどこだかは俺はわからない。…ごめんね?ここはエディルガルド南部の村。シーガ村だよ。わかるかな?」
村の名前を言ってもピンとこないらしく、ますます困ったように眉を寄せる女の子。
…そうだよな、この子は魔力持ち。
しかも多分この子、未登録者だ。
未登録者は、外界とは遮断された生活をしていると噂で聞いたことがある。
ただでさえ、貴重な魔力持ちのしかも、髪も目も黒色。
相当貴重な子のはずだ。
…ここにいたら危険だと思った。
この村の人を疑ってる訳ではないけれど、用心に越したことはない。
こんな小さい子が非道な目に遭うのは避けなくてはいけない。
そう思った。
親切心なのか、義務感なのか分からない心情のまま、とりあえず女の子を警戒させないように安全な場所に連れて行こうと思った。
「じゃあ、一回村に行ってみよう?とうきょうのこと分かる人いるかもしれないしね。…はい」
軍手を外した手を女の子の前に持って行く。
キョトンした女の子。その姿が可愛らしくて思わず笑みがこぼれる。
「手、繋ごうか?また迷子になったら大変だから…ね?」
そうして、女の子の手を握る。
男の俺とは違う、小さく柔らかな掌。
しかし、女の子は顔を真っ赤にしながら「あの…1人で歩けますから…」と呟き、手を解こうとする。
「だーめ。この辺の穂は背が高いから、君また迷子になっちゃうよ。」
と、より一層繋ぐ手を指を絡めて強く握る。
この言葉は半分本当。あと、半分はこの小さな手を俺が離したくないから。
まだ、出会って少ししか経っていないのに、俺はこの子を守りたいとそう思ってしまっていた。
小さく、まだ幼いこの子を自分が助けたいと思ってしまった。
この村が俺を守ってくれた事をこの子にしてあげたいと。
この気持ちは何だろう?
義務感?
責任感?
それとも何か違うもの?
そう思いながら、麦畑を後にする。




