ラル、追想する
ここから数話ラル編に入ります。
若干ですが、いじめや差別をにおわす表現が出てきます。
苦手な方は読まないでください。
この話を読まなくても本編に支障はありません。
俺は、王都で生まれた。
賑やかな城下街。
そこが俺の故郷だった。
でも、良い思い出は何もない。
…この髪のせいで。
親はどちらも第2劣性種の青髪、碧眼だった。
でも、俺はその両親から生まれたのに髪は、銀色だった。
普通第2劣性種同士ならば、第2劣性が出るのがほとんどなのに、俺は確率的に天文学的な第2劣性種の中の第1劣性が出た稀なケースだった。
これは、賑やかで噂好きな城下人の格好の話題となった。
街を歩けば、笑われ、コソコソ話し声が聞こえる。
「ほら…あれが…」「まぁ…本当」とくすくす耳障りな笑い声と断片的に聞こえる会話。
俺はこの王都で異質な存在だった。
そして、一番辛かったのは学校だ。
子供は残酷だ。
自分達と違うものは受け入れない。
毎日、毎日辛いだけの生活。
「お前、いつまでここに来るの?」
とかけられた言葉は刃のように俺の胸を抉った。
そんな疲弊するだけの毎日が続き、ある時両親は「少し、静かな所で療養しましょうか」と声をかけた。
両親は優しかった。
…でも、弱い人たちだった。
毎日かけられる影口や、向けられる視線に立ち向かう事が出来ない人たちだった。
「ごめんね、ごめんね。」と泣きながらな謝るような、優しくて脆い人たち。
この療養も、実のところ両親の為でもあるのだろう。
両親も、第1劣性を生んだ親と言う事で疲れていたのだ。
俺のいない静かな生活がしたかったのかもしれない。
そして俺は王都から南部に下った、シーガ村という所に身を置くことになった。
麦を栽培する以外ほとんど何もない、のどかな田舎町。
両親はそこのマリアとダイという人と面識があったらしく、そこに俺を預けた。
俺を少しだけ、王都との距離をあける。
もしかしたら両親は、そう思っていたのかもしれない。
でも、俺は戻る気は無かった。
王都にも…両親のもとにも。
ここで、働ける年齢になるまで置いてもらって、そこから先は人目のつかない仕事でもして、一生を暮そうと思っていた。
…それだけ、俺にとって第1劣性の銀髪は自分の中で疎むべきもの、目障りなものだった。
初めて俺を見たときのマリアさんとダイさんは、驚いた顔をしたがすぐに笑って「よろしくね」と言ってくれた。
…こういう反応の人は初めてだったが、きっと俺のいない所で影口を叩くのだ。
俺はそう思っていた。
そして、2人の家でお世話になる事になり、そこで2人の家族を紹介された。
そこには俺より少し年上の女の子がいた。
本当はあと2人上に姉妹がいるらしいが、もう成人してこの家にはいないという。
それに少しほっとしたが、これからこの子と一緒に過ごすと思うと憂鬱だった。
何せ、俺は一人っ子で兄弟がいない。
今までは、学校が終われば家では1人でいられたが、今度からはそうはいかないのだ。
この子が今度は俺を苛むことになるのだ。
無言でいる俺に話をかけてきたのは女の子だった。
「あんたが、これから一緒に住むっていう子ね。私はフィンティアメル。フィンでいいわ。あんた、名前は?」
快活に喋る子だというのが第一印象だった。
「…ラルフレイドル…です。よろしくお願いします。」
と淡々と喋り、頭を下げる。
「ふ~ん…じゃあラルって呼ぶわ。よろしく、ラル。歳はいくつ?」
「10歳です」
「じゃあ私より3つ下ね。年上は敬いなさい。私が呼んだら私の所に来なさい、いいわね?」
ポンポン会話を進めるフィン。
すごく自分本位な子だ。
姉御肌というか、いじめっ子気質というか…
とにかく、俺が一番好きになれないタイプの子という事が分かった。
無言で頷く俺に、満足そうに笑いフィンは部屋に戻っていく。
フィンが去った後、マリアさんは「ごめんねぇ、あの子末っ子だから、自分より年下の子が来てくれて嬉しいんだよ。根は良い子だから仲良くしてあげておくれね?」とすまなそうに言ってきた。
「…大丈夫です。これからよろしくお願いします。」ともう一度俺は頭を下げる。
仲良くなんかできないと思った。
でも一緒に住む以上、関わらないという事は出来ないだろう。
最低限の接触を心がけようと思った。
…でも、フィンはそうさせてくれなかった。
事あるごとに俺を呼び出し、こき使った。
内心勘弁してくれと思ったが、フィンは俺をこき使っても、俺の髪の事で何かいう事は一度もなかった。
影では何か言っているのだろうが、そういう話をまったくこの家に来てからは聞いていない。
両親から口止めでもされているのだろうか?
ある時黙々とフィンに言われたことをやっていたら不意に「ねぇ」と声をかけられた。
「…何ですか?」
また何か言われるのかと思い、顔を上げると何故か怒ったようなフィンの顔が。
…何か怒らすような事したっけ?
「あんたさ、いつもいつも私のいいなりで何とも思わない訳?」
「は?」
フィンの言った事は何とも意味の分からないものだった。
「…嫌だって言ったら、止めて良いんですか?」
恐る恐る口にすると「ダメに決まってるじゃない」と即答で返ってきた。
…どうしろっていうんだ。
無言になった俺にフィンがため息を吐いた、
「だぁかぁらぁ~嫌だって思ってんでしょ?それを口に出しなさいよ!あんたと一緒にいるのにまるで私1人で遊んでるみたいじゃない!思った事口に出しなさいよ!!」
と怒りだした。
しかし、そんなことより気になるのが…
「これ、遊んでたんですか?」
「それ以外に何があるのよ!!」
と逆ギレ気味のフィンに何だか笑いが込み上げてきた。
思わず笑ってしまうと、さっきまで怒っていたフィンが、嬉しそうにした。
「そういう顔も出来るんじゃない!人形みたいな顔より全然いいわ!良い?これからは私といるときは素直に言葉や感情を出すこと!これは命令よ!」
すごく上から目線だが、これは俺の自主性を促しているらしい。
…思っていたより良い人なのかもしれない。
「…じゃあ、こうやってこき使うの止めて下さい。疲れます」
というと即座に「ダメ!」と言われた。
…やっぱり我儘な人だ。
それから、「敬語は気持ち悪いから嫌」と言われ、フィンと喋るときは敬語は止めになった。
フィンは我儘だし自分本位だし気分屋だし一緒にいて疲れるけど、俺の悪口を言った事は一度もなかった。
(使えないとか、ノロマとかは言われたが、俺が気にしている事は言わないという意味でだ)
それはこの村の人たち全員に言えることだった。
最初は驚いた顔で見ていた人たちも、しばらくすると普通に接してくれる。
王都のような影口も聞かない。
あながち両親の言っていた『療養』も嘘ではなかったらしい。
この村は寛容な人たちばかりのようだった。
だんだんと俺の心も癒されていった。
笑えるようになった。
フィンに口答え出来るようになった。
気軽に散歩に行けるようになった。
ダイさんの手伝いで麦畑の手入れをするために大勢の人の前に出れるようになった。
だから忘れかけていた。
自分の髪の色が異質という事に。
それは、マリアさんに頼まれてフィンと一番近い街のエディルガに行った時の事。
いつものように口論になり、思わず飛び出して1人で街を歩いてる時の事だ。
「ほら…あれ」「まぁ…本当」と、嫌な感じがする声が聞こえた。
振り返ると見られていた。
あの口調、あの声。
「銀色だ」「第1劣性」「どの色にもなれない半端者」
聞こえないような聞こえるような微妙な声で、囁かれる言葉。嘲笑うような笑い声。
…そう、俺はどの色にも交われない。
忘れたわけじゃなかったのに。
あんまりにも、あの村は居心地がよくて薄らいでしまっていた。
この色は、疎むべきものだと。
そんな囁き声の中で茫然としている俺に「ラル!!」という聞きなれた声が。
強く腕を引っ張られ、その場を引きずられるように去る。
顔を上げれば、見慣れた紫の髪が揺れていた。
…フィンだった。
手早く馬車に乗り街を後にする。
馬車は俺達しか乗っておらず、ガラガラとなるタイヤの音がいやに大きく感じた。
「…お前だって思ってるんだろ?」
ポツリと零れる俺の声。
「何が」
つっけんどんなフィンの声。
「俺が、銀髪で異質だって思ってんだろ?第1劣性なんて、確率的にほぼあり得ない色なのにここにいるんだぜ?おかしいって思ってんだろ、本当は。言えよ!そうだって言えよ!!」
ヒステリックに叫ぶようにフィンに言葉を投げかける。
そうだ、皆そう思ってるはずなのだ。
俺はおかしい。
俺だけがおかしい。
すると
「馬鹿じゃないの?」
と鼻で笑うフィン
その言葉に俺のどこかが切れる音がし、気づくとフィンの胸ぐらをつかんでいた。
「お前に何が分かる!中性種のくせに!俺の痛みなんか分からないくせに!!」
思っている事をぶつける俺にフィンは静かにその様子を見ている。
そして「あんた、本当馬鹿。第1劣性とか第1優性とか、それを一番強く気にしてるのはあんたでしょ?私や母さん、父さん、それに村のみんな。あんたの髪の事何か言ったことある?そりゃあ、最初は珍しくて見ちゃった人もいるかもしれないけど、それから何かあんたに言った?言った人いないでしょ?私達はみんな、第1劣性のラルじゃなく、ラル個人を見て相手してんの。髪の色が何よ?それがあんたの何と関係してんの?あんたが、ガキで人が良くて、人一番優しいって事に何の関係があんのよ!今みたいに言われたら、私を呼びなさい。言った奴みんなボコボコにしてやってあんたの前で謝らせてあげる。あんたの髪の色は個性なの。あんたにしかない個性なのよ!その個性を自分自身で否定してどうすんの!胸張って生きなさい!」とまっすぐ真剣な目と力強い言葉でフィンは言った。
その言葉でふっと体の力が抜けた。
…俺が一番、自分の色を嫌っている。
その通りだ。
俺はこの色が疎ましかった。
でも…この色が個性?
そんなこと言われたのは生まれてから初めてだった。
肯定的な言葉は初めてだった。
両親ですら、謝るだけでそんなこと言ってくれなかった。
否定的な事を隠そうとはしても肯定的な事は言ってくれなかった。
それは、両親にとっても負い目だったから。
だから、俺もそう思えなかった。
これは忌むべきものであって、誇るものだとは思えなかった。
でも、フィンは言ってくれた。
多分、村の人もそう持ってくれている。
あの村は優しい。
人も温かで優しい。
その優しさを俺にも分けてくれた。
でも、それを受け取る俺が屈折したままではダメなのだ。
俺も返したい…この優しさを皆に…
そう思ったら、涙が出た。
こんな風に思ってくれる人がいると思ったら、堰を切ったように溢れる涙。
あぁ…俺はそう言ってくれる人に出会いたかったのだ。
嗚咽を零す俺を「仕方ないなぁ」と言いつつ優しく髪を撫でるフィン。
俺が泣きやむまで、そうしていてくれた。
いつもは我儘で自分本位なフィンが、初めてくれた優しい言葉と仕草。
でも、いつもあの自分本位の中に優しさがあったことを知っている。
…ありがとうと胸の中で呟く。
まだ、照れくさくて言葉に出来ないけど、いつかちゃんと言葉にしたい。
フィンの言葉で俺の世界が変わったと。
シーガ村が俺の世界を変えたのだ。
そうして俺はこの髪を嫌うのではなく、これも自分なんだと、この色が揃って自分なんだと思うようになった。
次回から、サーシャとの出会いからお別れまでダイジェストでお送ります!




