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沙耶、誘われる

それから、定期的に私はアルさんと話をするようになった。

毎回送り迎えをしてくれてるラル君とアルさんの雰囲気は微妙だったけど、ラル君は一度も「もう会うな」とは言わない。

それが有難かった。

そこで色々な話をした。

アルさんは王都の魔術師で、見聞を広めるために各国をまわっているという事。

歳は26。(もっと上だと思ってたよ…、実年齢の私と5つしか違わない…。)

今、王都で魔術師登録してる人の中でも若い分類の人らしい。

この世界のほとんどの登録者は、王都で魔術師として仕事をするが、違う職種についている人もいるという事。

そして、その話を聞きながら私の作ったお弁当を食べるのが今の私の習慣になっていた。

「ん~!やっぱりあんたの料理、うまいな!これ食った後に、宿屋の飯食うけど、どうにも味気なくてさ~」と言いつつ、アルさんはアスパラのベーコン巻を口に運ぶ。

美味しそうに食べてくれるアルさんを見て私は笑う。

「お口に合ってよかったです。そうやって、人に食べてもらうのが今の私の生きがいなので」と呟く。

そうすると、アルさんは一瞬箸を止め、考える様にお弁当を見つめる。

「どうしたんですか?」

と動きの止まったアルさんを見つめながら、私は聞く。

…変なもの入れてはないはずなんだけど

しばらく無言だったアルさんが「…なぁ」と小さく呟いた。

「何ですか?」

と私は首をかしげて答える。

「この料理を、広めたいと思わないか?」

と唐突に言われた意味が分からず「は?」と間抜けな声が出た。

それも構わず、アルさんは続ける。

真剣な目で。

「この料理を世界に広めたいって思わないか?…働きたいって思わないか?」

『働く』

その言葉が私の頭に響く。

それは、最初にこの世界に来て思った事。

働いて自立して、誰にも迷惑をかけずに生きていきたいと最初に思った願い。

…しかし、その夢はあっけなく崩れた。

私は曖昧に笑いながら「…無理ですよ。私、未成年ですし…未登録者ですし」と小さく呟く。

そう、未登録者。

アルさんの話に聞く未登録者と違っていようとも、私には登録する権利がない。

だから、私はここで趣味のように料理を作り、ラル君やマリアさん達と生きていくのだ。

…何時まで?

ふと思う。

私は…いつまであの人たちに迷惑をかけて生きていくのだろうか?

今まで考えないようにしていたことが、一気に頭を駆け巡る。

そう…私は何時までラル君に甘えているのだ…?

会った頃は、なるべく短い時間にと思っていたはずだ。

でも、居心地が良くて考えないようにしていた。

問題は解決なんかしていないのに…

皆の優しさに甘えていた。

思考が自分の世界に言った私に、そっとアルさんの声が響く。

「…無理じゃない。未登録者が登録することだってできる。遅いって事はないんだ。…ずっとあんたを見てて思ってた。あんたは未登録者って柄じゃない。自分の力で生きていくべき人間だ。それが出来る力もある。…あんたの兄ちゃんもあんたが望めば、了承してくれるだろ?そういう間柄のはずだ。普通の未登録者の家と違って、あんた達は言葉を交わせる、言葉を通じて話し合える信頼がある。大丈夫だ。…本当は働きたいんだろ?」

いつもとは違う、静かで、諭すような声音。

何も無理はないと言うような優しく響く声。

…でも

「無理…です」小さく小さく呟く。

無理なのだ。

「どうして?」優しく、静かに囁くアルさん。

そこで私の境遇を話した。

どうしても無理な理由を。

…だってラル君と私は、本当の保護者と養い子ではないのだから。


私が迷子になった事。

それをラル君が世話してくれることになった事。

マリアさんから、未登録者から登録者になるには、もとの保護者と一緒に行かなくてはならない事を聞いたこと。

私には、本当の保護者はいない事…


一通り説明して、しばらく沈黙が落ちる。

そしてしばらくして、真剣な声で「…じゃあ、サーシャの身元が分からないから登録できないっていうのが、問題なんだな?」と聞いてくる。

そこだけが問題だが、一番の問題だ。

大前提のところなのだから。

私は頷く。

「サーシャは、ずっとこの暮らしを続けたいとは思っていないんだな?養われるだけの人生を」

再度問いかけてくるアルさんに頷く。

「…働きたいって思ってるんだな?」

その言葉を聞いて大きく頷く。

「ここにお世話になった時から、ずっと考えてました。18になったらどうしようかと。ラル君は優しいです。きっと変わらずに私と一緒にいてくれるでしょう。…でも、そうしたら彼の人生は?私のせいでめちゃくちゃです。…働けるならば、働きたい。」

意思のこもった声音で私はまっすぐにアルさんを見つめる。

そうしたら、さっきまで真剣だったアルさんの顔が、にやっと悪人のように笑みに変わる。

…怖いですよ、アルさん。

「じゃあ、何も問題ねーよサーシャ。俺と一緒に来ればいい。そうしたら、18で働けるようにしてやるよ。…一緒に来い。」

まるで悪魔が囁くような、甘い勧誘の声。

…いったい何を考えているの、アルさん?

悪魔のささやき…?

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