沙耶、お説教される
お怒りラル君のターン
案の定、麦畑に戻ると怒りを滲ませながら笑っているラル君が…。
…間に合わなかった。
「ねぇサーシャ、どこに行ってたのかな?待っていてって俺言ったよね?結構探したんだよ?」
とはちみつを溶かしたような声色で甘く甘く問うラル君。
…ラル君は私を怒るとき、決して怒鳴りつけたりはしない。
甘い声や表情で私を追い詰めるのだ。
…まるで恋人に向ける様に優しく、甘く…溶かすような響きを持たせて。
それが、一番私を叱りつけるのに効くと知っているから…
そう、私がラル君の弱点を知ってるように、ラル君だってこの3カ月で私の弱点を心得ている。
ラル君は自分のこういう声や仕草で、私にどのような効果をもたらすか分かっている。
耳元で甘く囁けば顔を真っ赤にし、艶のある笑顔を見せれば涙目になる事を知っていてやるのだ。
これを説教の時にのみにしか今は使っていないが、いつかこれを違う女の子の前でやると思うと
…末恐ろしい子だと思うよ、マジで…
いつか誰かを泣かせそうだようね…いや、真面目な子なんですけどね普段は…
そんな訳で、普段は子供っぽくであったり優しく穏やかだったり、さわやかだったりと色んな表情のラル君ですが、このここぞ!という時に出される私の苦手な色っぽいラル君の声や仕草。
…正直辛いです。
ラル君の心得の通り、もう限界です。
怖いです、勘弁して下さい。
「えっと…ちょっとだけお散歩に…」とラル君と目線を合わせないように(合わせたら死ぬ)小さく呟く私に、ラル君の手がそっと私の頬に添えられる。
決して強くはない力だが、抵抗を許さないような絶妙な手加減で、ゆっくりと私とラル君の視線が重なった。
そこには、声と同じく甘やかな表情をしたラル君がいた。
あの私の大好きな碧色の瞳も、ゆるく溶け私を見つめている。
…恥ずかしい!辛いよ!!!
「もし、何かあったらどうするつもりだったの?…サーシャがいなかった時の俺の気持ち、分かる?不安で不安でどうにかなるかと思った」
と私の頬を緩やかに撫でる。
ゆっくり優しく、甘く甘く囁きながら私を追い詰めるラル君。
だんだん自分の顔が熱を持つように赤くなるのが分かる。
それを見つめているラル君がふふっと楽しそうに笑う。
「サーシャのほっぺ、リンゴみたいで美味しそう…。ねぇ、食べてもいいかな?」と耳元で囁いてから、頬に向けてゆっくりと口を近づけてくる。
ラル君の息遣いが頬にあたるほど近づき…もうムリ!!!!!!
「ラル君ごめんなさい!!!もうしません!絶対断りもなくいなくなりません!だから許してぇぇぇ!!!」
と羞恥に耐えかねた私は、ラル君の胸に顔をうずめる。
ごめんなさい、ごめんなさいと連呼をしつつ、ぎゅうぎゅうラル君に抱きつく私。
頭上から「ふぅ」というため息が落ち、ラル君が私の髪を優しく撫でる。
「…もう本当にしない?」
若干落ち着いた声でラル君が囁く。それにコクリと頷く私。
「勝手にいなくならない?」コクリ
「何かあるときは必ず俺に声をかける?」コクリ
「…1人で外出しない?」…間が合って頷こうとするが、私は首を横に振った。
「…どうして?」と優しく問うラル君に「だって…」とラル君にぎゅっと抱きついているので少しくぐもった私の声が響く。
「だって…何?」とゆっくり優しく、私に先を促すラル君。
「…だって、絶対ラル君に会いたくなるもん。フィンちゃんやマリアさんとお喋りしたいし…1人は寂しいもん。だから、寂しくってまた外出ちゃうと思う。」とボソボソ喋りつつ、ラル君の胸に顔をグリグリ押し付けるように顔をうずめる。
その胸は暖かくて、お日さまの匂いがして…安心する
それを聞いたラル君は苦笑いするような声音で「仕方ないなぁ」と笑い、私の体をそっと離して再び目を合わせてきた。
そこにはさっきまでの甘さはなく、ただただ穏やかないつものラル君の笑顔があった。
「サーシャがそこで嘘を吐かなかったのは、素直に嬉しいよ。…でも、忘れないでね。サーシャにもしも何かが起こったら、俺が悲しい。…俺だけじゃなくて、ダイさんやマリアさんフィン…いや、この村全員が悲しい思いをするんだよ?そこだけは分かっていてね?」と優しげに囁くラル君に私は大きく頷いた。
それを見たラル君は「じゃあ仲直り」とぎゅっと私を抱きしめた。
…こんなに私を想ってくれている…。
大切にしてくれている。
それなのに、たくさん心配をさせてしまった。
それが申し訳なくてぎゅっとラル君の服を掴み「…ごめんなさい」ともう一度小さく謝った。
いろんな思いを込めて。
そんな私の頭をラル君は優しく優しく撫で「…じゃあご飯食べに行こうか」と私の力のこもっている指を優しく解き解し、手を握った。
「うん」と私もその手を握り返し、歩き出す。




