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沙耶、気に入られる

しばらくサンドイッチを凝視していたお兄さんだが、思い切ったようにサンドイッチに齧り付いた。

そして、目を見開き「う…うまい!」と感激したように呟く。

ふふふ…そうだろうそうだろう!

挟んであるのはベーコンとレタスというシンプルなものだが、何せ素材が良い。

パンはダイさんとマリアさんの店のものだし(私はこの夫婦のパンが大好きだ!)ベーコンもレタスも上質なものだ。そこにちょっとピリッとする粒マスタードで味付けすれば、シンプルだか、素材の味を最大限に活かしたサンドイッチの出来あがり。

これはラル君の大好物。

そして、お兄さんはもう一つのサンドイッチを口に運ぶ。

これもオーソドックスなタマゴサンド。

新鮮な産みたての卵の甘さと、マヨネーズの相性がすごく良い。

これは私のお気に入り。

この村や街で手に入る食材はすごく質が良いと思う(私の世界で買ったら、相当高いよ、きっと!)

その食材を煮るだけなんて、もったいないのだ。

だからこうして色々料理して(やめて!サンドイッチは挟んだだけだろ、何ていわないで!!)食材の良さを知ってもらえて、美味しいって言ってもらえることが私はすごく嬉しいのだ。

「お口に合いましたか?」とお兄さんに尋ねる。

これだけ、感動してんだからお口に合ってるだろうが一応聞く。

お兄さんは大きく頷くと「めちゃくちゃ美味しかった!こんな美味いものなんて初めて食べたよ!これがお嬢ちゃんの魔力能力なのか?」と笑って聞いてくる。

…ん?魔力…?

「いえ、普通に作りましたけど…?」

それを聞いてさっきまでニコニコ笑っていたお兄さんは、目を丸くする。

「普通に…作った?魔力じゃなくて?」

「…?はい、普通にベーコン切って、レタス千切って、卵茹でたのを、パンに挟んで作りましたけど…」

何で、そんな事を聞く?と思いつつ、私が答えるとお兄さんは数秒停止した後…大笑いをした(2回目)

え…何で?

笑うポイントあった?

ていうか、この人笑い過ぎで死ぬんじゃないか…?

さっきからひぃひぃ言ってて、咳き込み始めてるけど…!

数分そうして、笑い続けた後、お兄さんは再度私を見つめた。

その瞳はさっきまでの人好きしそうな明るい色ではなく、どこか冷たい色彩をしていた。

…なんだか怖いな。

「あんた、面白いな。高そうな魔力持ってそうなのに、自分で手料理とかすんだ。…道楽か何か?というか、そんなの誰か他の奴がやってくれるだろ?大切に育てられてる魔力持ちはそこにいるだけで、その家の宝。誰かに守られて、大切に大切にされる自分じゃ何も出来ない…籠の鳥…だろ?」

そうお兄さんは笑顔で言う。

…笑顔だが、その笑顔はまるで私を馬鹿にするような、嘲笑するような顔だった。

…正直イラっとした。

この世界の魔力持ちがどういう風に生きてるかなんて、知らない。本当にこのお兄さんの言うとおりに生きてるのかもしれない。

でも、私は違う。

知らない世界で必死に役割を見つけようとしている、溶け込もうとしている。

それを何も知らないこの人に、勝手に結論付けられるのは…腹が立つ。

「…他の人の事は知りませんし、分かりません。たしかに貴方の言うとおりに生きている魔力持ちもいるんでしょう。…でも、皆がみんなそうだと言われるのは不愉快です。私は、自分にできる事、やれる事をして大切な人が笑顔になる姿が見たい。それが貴方のいう道楽なのかもしれませんが、私はみんなのそんな姿が見たい。そうなってくれると私も嬉しいし笑顔になれます。守られるだけでは、この気持ちは分かりません。ただ漫然と餌を待つような鳥ではいたくない。みんなが私に対してくれる優しさを私なりに少しでも返していきたい。それが、私をここに置いてくれているみんなへの私からのご恩返しだと思っているから」

と自分の気持ちをお兄さんにぶつける。

お兄さんは目を見開き、そして優しげに目を細めた。

「やっぱりあんた…面白いな。普通の魔力持ちと違うっていうか…守られるだけじゃ嫌…か。」とさっきまでの馬鹿にしたような口調ではなく、共感するように私の言葉を反芻する。

そして「ごめんな、嫌な言い方して」と突然頭を下げるお兄さん。

自分より年上(恐らく)の人にいきなり頭を下げられて混乱する私。

「あ、頭を上げて下さい!!たぶん、お兄さんの感性は正しいです!私がちょっと特殊なんだと思います!いや、他の人の事は知らないんですけどね…!!」

私の困惑した声を聞いたお兄さんは頭を上げてくれる。

お兄さんは複雑そうな顔で笑っていた。

「いや、やっぱり俺が悪いよ。未登録者の魔力持ちは全員そういう生き方をして、それに満足しているって勝手に思い込んでいたんだから。俺、そういう魔力持ちが大嫌いだからさ…あんたみたいな考えの奴らもいるかもしれないのに、全員同じだと決めつけて…。お嬢ちゃんが気分悪くなるのは当たり前だ。本当にごめんな?」

話を聞く限りでこの人は、魔術師名簿に登録している人なのだろう。

きっと生まれてすぐ、親元を離れた登録者。

もしかしたら、親の顔とかも知らないのかもしれない。

色々な苦労があったのかもしれない。

すべて私の憶測だが、未登録者を嫌悪する何か深い理由があるのだろう。

その苦労や辛さはお兄さんにしか分からない。

…でも、お兄さんは私に謝ってくれた。

お兄さんにしてみたら、私だって自己満足で道楽をしている未登録の魔力持ちなのに、私の言葉を聞いてくれて、素直に謝ってくれた。頭を下げてくれた。

きっとこの人も優しい人なのだ。

未登録者の魔力持ちが嫌いで、馬鹿にされるようなことも言われたが、誠意を持って謝れるとても優しくて良い人。

だから私は笑って「気にしてませんよ?私は世間知らずな魔力持ちですから」と冗談ぽく言ってみた。

そうしたら、お兄さんは屈託なく笑ってくれた。

うん…その方が良い。

お日さまみたいにキラキラした笑顔がお兄さんには似合っていると思った。


…でも、この人もやっぱり整った顔してるなぁ…

ラル君は若々しいこれからまだまだ格好良くなりそうな(今でもカッコいいけどね)感じだけど、この人は若さの中にもちょっと落ち着きも出てきて、今が旬って言う感じ?

そんな大人な男の人って感じの中に、こんな子供みたいに笑う隙のある笑顔が、ポイント高そうだ。

モテるんだろうなぁ…

ラル君の笑顔は綺麗すぎてドキドキし過ぎる事も多々だけど、このお兄さんの笑顔はそういうのないって言うか、親しみやすい。凄く仲のいい近所のお兄ちゃんみたい。


そんな事を考えているとお兄さんが、私の頭を撫でてきた。

「そうだな、世間知らずで警戒心のないお嬢ちゃんだな。知らない人に声をかけちゃダメって教わらなかったのか?俺はあんたを売り物にするために掻っ攫うかもしれないぞ?何せ、あんたは俺でも見た事ないような貴重な魔力持ちなんだからな。」とさっきより冗談ぽく笑うお兄さん。

…確かにその可能性も無くはないのだろう。

ラル君もそれを懸念して私を外に出したがらないのだから。

でも、この人はそんなことしないと思った。

「そんなことする人は、こんなところで飢えていたり、私の話を真剣に聞いて頭下げたりしません。…これでも私、人を見る目ってあるんですよ?世間知らずだけど」とちょっと偉そうに言ってみた。

そんな私の言葉におかしそうに笑いながら「違いない」と言ってくれる。

それから頭を撫でる私の頭から手をおろし「お嬢ちゃん、名前は?俺はアルシエル。アルって気安く呼んでくれ」と名乗ってくれた。

「サーシャです。」と私も名乗る。

「サーシャか…」と小さく呟くアルさん。

さて、これからちょっとアルさんと世間話でもという流れになりそうな時に…思いだした。

…ラル君、仕事、終わってるかも…!

結構長い時間ここにいた気がするよ!!

やばいやばい、忘れてたぁぁぁ!

「アルさん、すいません!私、もう戻らないと!」

と慌てる私。

それを見たアルさんは合点がいったのか「そうだな、もう戻った方が良いだろうな。大切な子がどこに行ったか分からないと保護者は血相変えて探すだろうからなぁ」と朗らかに笑う。

うん、間違いなくラル君探すね!

だから、ラル君が私を探す前に戻らないと恐ろしいお説教が…!!!!

怖い!!!!!

「じゃあ、私はこれで!あ、ちゃんとご飯食べないとダメですよ!!!」

とアルさんに声をかけつつ、大急ぎでラル君のいる麦畑に向かおうとすると「サーシャ!」とアルさんに声をかけられた。

「何ですか?」と首だけアルさんに向けて、問う私に「また、時間があったら喋らないか?俺、しばらくこの近くの街に滞在する予定なんだ。あんたの料理、気に入ったからまた食いたいんだけど」と聞いてきた。

特に断る理由もないし、料理を気に入ってもらえたのなら私も嬉しいので「いいですよ!それじゃあまた会いましょう!!」と手を振ってから、麦畑へ急ぐ。

だから私には、ひらひら手を振った後にアルさんが「サーシャか…気に入った」と呟いた一言は届かなかった。


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