沙耶、同居する
それから、フィンちゃんは上機嫌で私の手を取り村へ戻っていく。
村に帰る頃には辺りは薄暗くなっていた。
ラル君達が待っているあの家を目指すと、家の前で3人が待っていてくれた。
私の姿を見つけると、3人とも「おかえり」と笑って言ってくれる。
だから私も手を振って「ただいま!」と笑顔で返事をした。
それからすぐにラル君が駆け寄って来てくれて「楽しかった?フィンに変なことされなかった?」と私の心配をするように声をかけてくる。
そしてジロリとフィンちゃんを睨み「…遅すぎ。もっと早く帰って来れただろ?」と少し低めの声で言う。
フィンちゃんは対して気にした風もなく「そんなことないわよ?サーシャちゃんに似合う服を見ていたら、こんな時間になっただけ。楽しかったね、サーシャちゃん」さらりとラル君の抗議を流し、私に笑顔で話しかける。
もちろん私は楽しかったので「うん!」と元気よく頷く。
…なんか子供扱いされすぎて、この短時間で子供っぽくなった気がするよ私…
もういいんだ、私はサーシャ(15)…。いや、それ以下に見られているんだから(遠い目)
「ありがとね、フィン。助かったよ」「今日は家で飯食ってくか?」とマリアさんとダイさんも話に加わる。
「ううん、今日はもう帰るわ。じゃあね、サーシャちゃん。また一緒にお出かけしようね!」
フィンちゃんに頭を撫でられて、笑顔で頷く私。
そうして、私の頭から手を離し、自分の家に帰ろうとするフィンちゃんをラル君が「おいっフィン!」と呼び止める。
「何よ?」と煩わしそうに顔だけこちらに向けて返事をするフィンちゃん。
「まだ金払ってないんだよ。いくら?」と機嫌の悪そうなラル君がフィンちゃんに近づく。
それに気づいたフィンちゃんは「いいわよ。今日は私のおごり。」とにぃっと笑う。
「はぁ!?何言ってんだよ!?」
フィンちゃんの申し出に驚くラル君。
「いいでしょ?私も何かサーシャちゃんに買ってあげたかったんだもん。あんたはこれからいっぱい色々買ってあげなさい。お姉様からのプレゼント。有難く受け取りなさい。」
そう言いながら、フィンちゃんはスタスタと歩きだす。
「フィン!」そんなフィンちゃんの背中に一際大きな声で叫ぶラル君。
そしてその後に、「…ありがと、助かった」と小さく小さく呟いた。
フィンちゃんはこっちを見ることなく、手だけを振って家に帰って行った。
…うん、やっぱりこの2人は仲良しだ。
フィンちゃんは、弟を苛めながらも可愛がるお姉さん。
ラル君は、反抗期でなかなか素直な気持ちを伝えられないけど、ちゃんとお姉さんを心配する優しい弟。
そんな姉弟のような関係で育ってきたんだろうと思った。
フィンちゃんの去った方向を、何とも言えない顔で見つめいているラル君の服をチョイっと引っ張りラル君の意識を私に向ける。
バツが悪そうに私を見て笑うラル君に「ラル君のお家早く見たいです。連れて行ってくれますか?」とコトリと首をかしげてみせる。
…ほら、今日だけで2人にやられて、ノックアウトされたじゃない?
私もやってみたくなったっていうかさ…。
分かってるよ!この仕草は綺麗な人しか許されないって!!
でもさ、子供ならギリ、許される…かもじゃん?(もう私は本当に自分の年齢詐称気にしなくなってきたな…)
そんな私を見て、さっきまでの悔しそうな、居た堪れないような顔はなりを潜め私の良く知っているラル君の笑顔で「そうだね、行こうか」と手を繋いできた。私もその手をぎゅっと握る。
マリアさんとダイさんにお礼を言って、私はこれから自分の家になるラル君の家に向かった。
ラル君の家はフィンちゃんの家よりもっとシンプルな外観をしていた。
「どうぞ」と言われて入った部屋は、私が思っていたよりずっと綺麗に片付いていた。
…やっぱり、あの言葉は私のために言ってくれたんだ。
ラル君が家の事を出来ないなんて嘘。
ラル君はちゃんと、自分の身の回りの事は出来る人なのだ。
でも、私に仕事をくれるために、居場所をくれるために言ってくれたのだ。
本当に、優しい人だと思った。
こんな優しい彼の重荷にだけはなりたくないと、強く思った。
そこから簡単に家の間取りを説明してもらった。
トイレもお風呂も、私の世界とほぼ変わらない作りで安心した。
キッチンには何故か鍋が1つだけあるだけだったが、まぁなんとかなるだろう。(男の子だからあんまり料理しないのか?)
ラル君の部屋は、トイレとお風呂以外は区切りがない1ルームの部屋。
あとはロフトがあるだけ。
そんなに大きくはないが、1人暮らしには問題ない広さだろう。
…何だか私の部屋にちょっと似ている。
あの1ルームで過ごしていたのが、ずっと前の事のように思える。
まだ1日も経っていないのに…
ちょっと、もとの世界の思い出に浸っていたら「サーシャ?」と心配そうなラル君の声が響いた。
私は慌てて「えへへ、ちょっと住んでいた家に似ていて思い出しちゃいました」と明るく冗談っぽく答える。
ラル君はそんな私を見て、少し困ったような寂しそうな顔をして私の頭を撫でる。
…この人の迷惑にはなりたくない。
笑っていてほしい。
それが何も返せない私が、この人にできる唯一の事だと思う。
私と一緒にいることで、この人が少しでも笑えますように。
…一緒に笑っていられますように。
私の進むべき道が見えるその時まで…。
「狭い部屋でプライベートスペースがとれなくて申し訳ないけど…」と気を取り直すようなラル君の声。
そんな前置きをした後に、ラル君は私にロフトを自由に使って良いと言ってくれた。
ロフトは高い位置にあるから、少しラル君と私の距離を離してくれる。
ラル君なりに、私との距離を考えてくれている。
…まぁ15といえ、私女だしね。
ラル君なら、私と間違いはないだろうと確信しているから同居の話に頷いたが、やはり気を遣わせてしまっていたのだろう。
そんな些細な優しさが嬉しかった。
「それじゃあ、これからよろしくお願いします。」
改めてラル君に向かってお辞儀をする。
そんな私の仕草にラル君はおかしそうに笑って「…はい、よろしくお願いします。じゃあ一緒に住むにあたって、最初の約束をするね」と私に言う。
私は真剣に頷く。
家主の言うことは素直に聞かなくては…!
同居をするにはそういうルールは必須だしね!
「じゃあ、俺に対して敬語は禁止」
…は?敬語??
「えっとそれが約束事ですか…?やっちゃいけないこととかそういう事ではなく…?」
困惑気味の私に、今度はラル君が大きく頷く。
「そうだよ、敬語はダメ。一緒に暮らすんだから、そういう堅苦しいのは無しにするの」
…なんか、ちょっと前にも同じような会話をしたような…
私が記憶を手繰り寄せようとしていると「それに…」とちょっと拗ねるような声でラル君が呟く。
その声に引き寄せられるようにラル君の方を見る。
「それに…さっきフィンとは普通に喋ってた。…フィンばっかりズルイ。」と少し眉間にしわを寄せ口を尖らせたラル君と目が合う。
フィンちゃんに先を越されたと顔に書いてあるようなそんな子供っぽい表情。
その表情がなんだかとっても可愛くて…
「うん、分かった。ラル君にも敬語使わない。これからよろしくね、ラル君。」
と私は満面の笑みでラル君に微笑んだ。
その返答に満足したようにラル君も、ゆるりと優しく笑う。
これから、私の新しい生活が幕を開けるのだ。
やっと一緒に住みます~!
長かった!!




