沙耶、友達ができる
女の子のみのターン!
「さっきから考えていたんだけど、別にラルじゃなくても良いと思うの。あいつは働き始めたばかりで生活が安定していない。サーシャちゃんにとってもあいつにとっても、色々辛いことがあると思う。それに比べれば私は1人暮らしには慣れているし、それなりに稼ぎもいいの。それにね…同性の方が話しやすいことが、いっぱいあるでしょ?」
フィンさんは穏やかにそう告げる。
…確かに、フィンさんの言っていることはもっともだと思う。
でも、どうして皆そこまで言ってくれるのだろう…?
まだ会ってそんなに経っていないのに。
「どうしてそんなこと言ってくれるんですか…?ラル君もそうでした。こんな得体の知れない迷惑しかかけない私を、どうして皆…優しくしてくれるんですか?」
私の問いにフィンさんは変わらぬ笑顔を向けて言った。
「それは私がサーシャちゃんを気に入ったから。少しの間しか一緒にいないけど、大好きになったから。…たぶんラルも一緒だと思う。あいつは人が良くて責任感が強いけど、ただ自分が見つけたってだけで、一緒に暮らそうなんて言わない。自分の生活能力を把握している奴だから。…でもそんなことを考えられないくらい、短い間でラルはサーシャちゃんの事、大好きになったんだと思う。…自分が守りたいって思ったんだと思う。」
そうしてラル君のことを語るフィンさんは優しくて、さっきまでの言い合いを感じさせないラル君に対する親愛を滲ませていた。
「…フィンさんは、ラル君のことをよく見てるんですね」
私の一言にフィンさんは、苦笑いを浮かべ「まぁ、付き合い長いからね」と呟いた。
…なんとなく2人の関係が見えた気がした。
2人とも会えば喧嘩ばかりしているのかもしれないが、本当はちゃんと想いあっているんだ。
さっき、ラル君はフィンさんが結婚しないのを心配していた。
フィンさんは、何だかんだとラル君にちょっかいは出すが、ラル君の長所を把握し見守っている。
お互いに、心の中で互いの事を心配し、気にかけているのだ。
…それは姉弟のように見えた。
「…ラル君が大切なんですね」
そう言うと一瞬、驚いたような困ったような顔をし「…幸せにはなって欲しい。あいつは弟みたいなものだから」と小さく呟いた。
…分かった気がした。
フィンさんは私の事も、もちろん心配してくれているのだろう。
でも、一番は…ラル君が心配なのだ。
ラル君の人の良さ、優しさを私以上に知っているフィンさんは。
私ですら、ラル君は私を見捨てない彼は自分の幸せより、私の事を優先すると思ったのだ。
フィンさんだって思ったに違いない。いや、私以上に思ったはずだ。
誰が大切な人の不幸を願うのか。そんな人いるわけない。大切な人には幸せになってもらいたいはずだ。
だからフィンさんは私に、同居の話を持ちかけたのだ。
大切なラル君が幸せに、自分の道を正しく歩けるように。
フィンさんの思いを知った私は…ラル君とは一緒に暮さない方がいいのだ。
分かっている。
頭では分かっているのだ。
…でも
ラル君のあの笑顔が頭をかすめる。
あんなに幸せそうに笑ってくれたあの人の顔を。
「俺が守るよ」と言ってくれた言葉を。
…私は、ラル君と暮らしてみたいと思い始めている。
それが彼の為でないと分かっているのに、彼の幸せを摘み取るだけと分かっているのに。
あの人と暮らして、色々な表情を見たいと、知りたいと…思ってしまっている。
「ごめんなさい、フィンさん」
小さく小さく私はフィンさんに謝った。
フィンさんも分かったのだろう。
「…どうしても駄目なの?」と悲しそうに聞いてくる。
「…私もラル君には幸せになってもらいたいです。会ってちょっとしか経ってないけど、ずっとずっと優しくしてもらいました。…私がいない方が良いって分かってるんです。でも、私…ラル君と一緒にいたい。あんなに優しく、一人ぼっちの私を慰めてくれたあの人の役に立ちたい。我儘で本当にごめんなさい。ラル君のこれからの幸せを奪うだけの私だけど、ほんの少し…私がこの村を離れる日が来るまで、ラル君の幸せを私にください」
深く深く頭を下げる私。
…フィンさんには嫌われてしまうかもしれない。でも、私の意思は変わらない。
しかしフィンさんは、私の頭を優しく撫で「顔をあげて、サーシャちゃん」と優しく囁いた。
ゆっくり顔を上げると、声や仕草と同じく優しい表情をしたフィンさんが、私の姿を眩しそうに見つめいていた。
「そんなに謝らないで。サーシャちゃんは何も悪くないもの。…これは私の我儘。ラルの意思を無視した私の我儘。でも、サーシャさんがラルをそこまで想ってくれているんだって分かったら、何か安心した。そこまで強く想ってもらえるラルは幸せよ、絶対に。ラルが幸せなら、私はそれで良いもの。…ラルと一緒に住むのが貴女みたいな優しい子で良かった。」
そうしてフィンさんは優しく優しく微笑んだ。
それは涙が出るほど、綺麗な笑顔だった。
「それにね」とフィンさんは今度はいたずらっぽく笑い「サーシャちゃんが大好きになったって言ったのだって本当よ?もし、ラルに嫌なことされたらすぐに私の所に来てね?ラルにたっぷり仕返ししてあげる。…だから私とも仲良くしてね?」と言ってくれた。
…本当にどうして皆優しいのだろう?
今私は、一生分の優しさを受けている気がする。
涙で滲む視界の中、精一杯の笑顔で「もちろんです!私もフィンさんの事大好きになりました。もっともっと仲良くなりたいです…!」と笑って見せた。
そうしたら、またぎゅうっとフィンさんに抱きしめられて「嬉しい。…私ね、末っ子なの。だから、サーシャちゃんみたいに可愛い妹がずっと欲しかった。だからね、サーシャちゃんの事、妹みたいに思ってもいい?」優しいフィンさんの声が響く。
…同い年だけどね、本当は。
でも、私もこんなお姉さんが欲しいと思った。
時には喧嘩もするけれど、たがいに想い合えるフィンさんとラル君のような関係がほしいと思った。
「はい、私もフィンさんみたいなお姉ちゃんが欲しいです。…あとですね、友達にもなってくれませんか?私、フィンさんの1番の友達にもなりたいです。」
ちょっと恥ずかしかったが言ってみた。
この人とは友達になりたいと思った。
何でも言い合える、姉妹のような友達になりたいと思った。
フィンさんはすごく驚いた顔をしてから、満面の笑みで「もちろん」と言ってくれた。
しばらくそうして、お互いにぎゅうぎゅうしていたが「じゃあ、そろそろ帰ろうか」とフィンさんが腰を上げる。
「はい!」と私もフィンさんに続いて腰を上げる。
…が、そんな私をフィンさんがじっと見ている。ちょっと口を尖らせて…
「…どうしたんですか?」何故そんな目で私を見る…
そう私が怪訝そうな声を出すと「敬語」とボソっとフィンさんは不服そうに呟く。
「…はい?」
「敬語、イヤ。友達なんだから、もっと普通に話して」とフィンさんはプクっと頬を膨らます。
その姿もまた可憐なこと…
「え…でも年上ですし」…一応ね。本当はタメだけど…
「そんなの関係ないわ。私はもっとサーシャちゃんと仲良くなりたいもの。サーシャちゃんだってそう言ってくれたでしょ?だから、普通に話して。あと、フィンさんっていうのも他人行儀でイヤ。ね、いいでしょ?」
と、小首をかしげるフィンさん。
これは…!
ラル君もやっていたが、美人の子首かしげは威力が高いんだよ!!
何なのみんな、狙ってるの!?
いや…ラル君は分からないが、フィンさんは確実に狙っているな!
彼女は自分がどう動けば、一番自分の容姿を最大限に発揮できるか分かってるタイプだ…!(たぶん)
私の中の女の勘がそう訴えてくる…!
…この人絶対にモテるって!うまくおねだりとかもできる人だよ!!
長い沈黙の末(私の心の葛藤の時間とも言う)私は
「…分かった。フィンちゃんって呼ぶ。改めてよろしくね、フィンちゃん」と笑うことしかできなかった。
美人のおねだり…怖い




